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第七六回 雁字搦め


「おい、とっとと出ろ! 少しでも抵抗すれば仲間の血を浴びることになるぞ!」


 何者かに腕を引っ張られ、無理矢理馬車から引き摺り出される。


「……あ……」


 外で羽交い絞めにされた状態で見た先には、仰向けに倒れたターニャがいた。顔の下半分が真っ黒になった髭まみれの男から首元にナイフをあてがわれている。


「ターニャ!」


「……ぐうぅ……」


 しかも、こんなときでも眠ってるし。悪夢でも見てるのか、若干苦しそうではあるが……。


「動くな。少しでも抵抗したら殺すぞ!」


「くっ……」


 どうする?《ダークフォレスト》を使うか……?


「おい、こっちも見なよ!」


「……え……」 


 後ろからも声が聞こえてきて振り返ると、アトリたちも気絶してしまっている様子で、みんな同じように切り傷だらけの顔の男や半面が装飾品だらけのヤバそうな男から急所にナイフを向けられていた。


「へへへ。少しでも怪しい真似をすれば、そのたびに誰かが一人ずつ死ぬことになる。それでもいいならやってみろ!」


「……」


 固まって人形の振りをしてるリーゼと、影に隠れてるシャイルだけ無事だ。ターニャやヤファはともかく、アトリとラズエルもいたのになんでこんなことに……。


「不思議か? 勇者様……」


 俺の目の前に出てきた赤い短髪の男が笑う。結界術師のようで青いローブを纏っていて、周囲に半透明な無色のバリアが張られていた。雰囲気的に、襲ってきたやつらのボスっぽいな……。


「おいパル、勇者様にネタバラシしてやれ」


「あいよ」


 男の隣に、灰色のローブを纏った薄紫色の長髪の女が歩いてきて、俺に妖艶な笑みを向けてきた。


「あたしが密かに御者として紛れ込んでいたのさ。お前たちが眠った隙に、色んな呪術をかけておいたよ。高レベルの《束縛の刻印》《忠心の刻印》……それに加えて、あたしらに逆らえば仲間にも危害が及ぶ《因縁の刻印》もかけておいたから、いくらあんたに耐性があろうと無駄なんだよ」


「そうそう。それゆえ、人質にナイフを当てるのはこちらの優しさでもあるってわけさ。でなければ、襲おうとしていたはずだろう? その結果、勇者様の仲間がどうなってただろうね……?」


「……」


 つまり、俺が逆らえば味方にも《忠心の刻印》による被害が出るのか……。もしかしたら、仲間の誰かが逆らおうとした結果、みんなが気絶してしまった可能性がある。


 それにしても、俺の能力を知っているだと……。もしかしたら、セリアたちを通じて裏の世界のやつらに広まってる可能性があるな。


「随分応えたようだよ、ローガン。ほら、今にも死にそうな面してる。アハハッ」


「あんまりいじめるな、パル。この勇者様は特に大事な商品なんだから、心まで壊れてしまうと困るだろう」


「……商品……? 一体何をするつもりなんだ……」


「すぐにわかる。お前たち、連れていけ!」


「「「はっ!」」」


「うっ……」


 男たちに縛られて、どでかい幌馬車へと歩かされる。多分、御者に扮したパルってやつが馬車の速度を落として降りたあと、これでぶつけられて転倒したっぽいな。そりゃひとたまりもない……。




「申し訳ありません、コーゾー様……。せめて私が《ハーフスリーピング》をしていればこんなことには……」


 揺れる馬車の荷台でアトリの泣きそうな声が耳を突く。武器や金を残さず奪われた挙句、影に隠れてるシャイルや人形の振りをしてるリーゼを除いて、全員ロープで縛られた状態になっていた。


「アトリ、しょうがない。相手も上手く紛れ込んでいたわけだしな。あの狭い馬車の中じゃ逃げられないし、どっちにしろ同じ結果になってたんじゃないか」


「でも……」


「それより、ラズエルの《オートマティックバリア》が突破されたのが不思議でしょうがないんだが……」


 あれは自動的かつ無意識に発動する結界術だし、眠っていたとしても呪術を受け付けないはず……。


「……コーゾーどの、それは致し方ない。おそらく七秒後を狙われたのだと思う。たった一秒ほどだが、切れたときに反動で術が途絶えてしまうのである……」


「そうなんだな……」


 だから間髪入れず立て続けに攻撃されると厳しいわけだ。


「うがー!」


 あ、ヤファがロープを自力で解いてしまった。


「ヤファ、ダメだぞ、どうせ逃げられないし、お仕置きされるかもしれないからつけとこうか」


「うぅ。わかったのだ……」


「「ププッ……」」


 自分で自分を縛るヤファが面白かったのか、リーゼとシャイルが噴き出す。


「……ひっく……」


 意外にもターニャが涙を浮かべて悲壮感を漂わせている。


「自分が人質になったばかりにこんなことにっ……。しかも寝ていたなんて……! 師匠やグレッグ兄さんに知られたら、一日中ずっとお説教されちゃいそうです……!」


「……」


 悲壮感といっても、やっぱりそこはターニャだった。


「そんなことより、あたちたちどうなっちゃうのっ?」


「どうなりますの……?」


「どうなっちゃうのだ!?」


 深刻ではないにせよ、ターニャまで悲しそうにしてることでシャイルたちもさすがに不安になってきたらしい。


「……まだなんとも言えない。でも、ローガンってやつが俺のことを商品とか言ってたし殺すつもりじゃないんだろう。今は我慢だ。打開する機会は必ず来るはずだから、そのときを待とう」


 みんな不安の色は隠せないものの一様にうなずいていた。


 なんせ、パルとかいう呪術師に《因縁の刻印》ってのを押されてるから迂闊に動けない。俺が抵抗すれば仲間にも累が及ぶわけで、多分あれは術者だけじゃなくその味方に抵抗しても効果が発動するものなんだろう。おまけに、《束縛の刻印》はダメージを与えるものではないので、俺の耐性があっても厳しいように思う。


 ……どう考えても突破する方法が見えてこないが、とにかくこのままでは終われない。これも真の勇者になるための試練だと思って越えていかねば……。

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