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第六四回 餌食


「ひ……ひぎゃああああああぁぁぁっ!」


 飢えたアンデッドの海に飲み込まれる冒険者。あっという間に食べられて骨と化し、彼らの仲間入りを果たした。


『……ノウミソ、クレエェ……』


 フェノウスの洞窟内、そんなおぞましい魔物たちの群れを先導するように歩くのは、召喚師セリアを初めとする四人の者たちだった。


「ね、ねえ、今誰か飲み込まれちゃったみたいだけど……」


 雄士にも冒険者の痛々しい悲鳴は聞こえていて、恐る恐る振り返った。


「大丈夫よ。ユージ様のレベル上げの協力者が一人増えただけだし……」


 松明を持ったセリアが、先頭にいる困惑顔の雄士に向かってウィンクしてみせた。


「……そ、そうだよね。僕のために犠牲になってくれてありがとう……」


「礼なんていらねえって。むしろ死んだやつが役に立てて嬉しいって思ってんだから気にすんなよ」


「そうですよお。よくあることですう」


 ロエルとミリムの笑い声が響く。


 彼らは魔術師になった雄士のレベルを上げるために洞窟に来ていたわけだが、当然のように魔物をかき集めて連れ歩き、ほかの冒険者を轢き殺してはアンデッドの仲間に加えていた。


「充分集まったし、もうこれくらいでいいんじゃね?《マジカルフェター》」


 ロエルの杖から大きな光球が出てアンデッドたちを包み込むと、ただでさえスピードのない彼らは一層のろのろと歩き始めた。レベル7の魔法の足枷は、獲物との距離を絶望的に広げた格好だ。


 これから倒すため、もう連れ歩く必要もないとロエルが判断したのだ。彼らの捕獲を諦めて別方向へと歩き始める魔物もいたが、遠ざかることはできなかった。ミリムがレベル2の《束縛の刻印》をかけているため、八メートル以上離れることができないのだ。つまり、彼らは進むことも引くこともほぼできない状態だった。


「さあユージ様、一気にゴミを片付けちゃって!」


「う、うん!」


 雄士が固い唾をゴクリと飲み込み、先端が開いた本の形になっているワードスタッフを掲げた。これはセリアによって彼にプレゼントされた、術の反動を20%抑制する高級な杖なのだ。


「《ブレイズ》――」


 雄士の杖から火球が次々と発生し、アンデッドの塊に放たれていく。


「凄い、凄いわ!」


「「……」」


 大喜びで飛び跳ねるセリアだったが、ロエルとミリムは冷ややかな反応だった。


「確かに反動を抑えて上手く連発できてるけどよ……威力が足りなすぎなんだよ」


「ロエルさんに同意しますう」


 ロエルの言う通り、雄士は術の反動を抑えるのに長けていて、武器の効果もあって立て続けに魔法攻撃をすることができてはいたが、火球は小さい上、ひょろひょろと飛んでいくという情けないものだった。そのため、一匹を仕留めるのに最低でも五発を要していたのだ。


「よ、弱いのは最初のうちだけよ。威力なんていずれ上がるわ!」


「そりゃそうだけど、こいつの威力じゃそれが遠すぎだって言ってんだよ」


「ですですう」


「……はぁ、はぁ……」


 とうとう疲れ果てて座り込む雄士。彼が魔物を二匹倒す頃にはアンデッドの群れに新たな仲間が三匹加わっているという状況で、骸骨たちの集団は削れるどころか逆に少しずつ増えつつあった。


「おい、どうすんだよこれ……」


「これじゃきりがないですよお」


「……仕方ないわね。ユージ様、お疲れっ。あとはあたしに任せて!《精霊召喚サモン・サラマンダー》――」


「「「……」」」


 何度目かの挑戦により、セリアの目前に浮かんだ魔法陣の中心からサラマンダーが出現する。見た目は赤いトカゲのような姿だが、レベル5ともなると体長は三メートルにも達するのだ。


「あのブサイクな骸骨どもを残さず焼き払って!」


 セリアが杖で指し示す方向にサラマンダーが炎の息を吐き出すと、アンデッドたちは一瞬にして激しく燃え上がり、たちまち灰と化した。


「……す、凄いよ、セリア……」


「ふふっ……」


「……んー。僕、やっぱりセリアみたいに召喚師になろっかなあ。サラマンダー、威力もあって見た目もまあまあ良かったし、ほかの精霊も見てみたいなーって……」


「おいユージ、お前ふざけるなよ……」


「いい加減にしろですう……」


「ひっ……」


 ロエルとミリムに詰め寄られてすぐさまセリアの後ろに隠れる雄士。色んな意味でここが一番安全だということはわかっていたのだ。


「二人とも、お願いだから落ち着いて。この子はまだジョブチェンジしたばかりで弱いんだし、ほかの職に目移りくらいするわよ。あたしだって最初の頃は召喚師辞めたくてしょうがなかったもん。でも、辞めなかったからこうして強くなれたし、ユージ様とも出会えた。だから、もうちょっと頑張ってみて。ね……?」


「あ、ありがとう、セリア。……うん。魔術師、もう少し頑張ってみるよ……」


「……ユ、ユージ様、その調子よ……(トロンッ」


「――ひっ!」


 前後に危険を感じ、咄嗟にしゃがみ込んだ雄士の機転が幸いして、セリアは新たに発生したスケルトンに抱き付く形になった。


「……い、嫌っ! 何このブサイク、死ね!」


 セリアは齧ろうとしてきたスケルトンの口に杖を差し込むと、頭を掴んで壁に何度も叩きつけた。


「オラッ、オラアアアッ! あたしの邪魔をするブサイクはみんなこうなる運命なのよおぉぉぉっ!」


「「はあ……」」


 ロエルとミリムの溜息が洞窟内に虚しく響き渡った……。

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