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第六十回 氷の女


「まさか、セリアたちじゃ……?」


 あの三人はギルドに依頼してまで俺たちを探し出そうとしてたわけだし、充分にありうることだ。


「……それが、わからないんです」


「……え? アトリでもわからないっていうのか?」


「はい。《マインドウォーク》でも、気配が近付いていることくらいしかわかりませんでした。なんだかぼんやりしてて判別不明なんです……」


「……」


「マスター、なんだか怖いよぉ」


「怖いですわ、ご主人様……」


「コーゾー、怖いのだあ」


 シャイルたちが怯えた表情で俺の後ろに隠れる。背負っているものの重さを再認識させられるな……。


「……大丈夫、大丈夫だ」


 根拠のない言葉だが、何も言わないよりはマシだ。


「コーゾー様、どうしましょう……」


「……アトリの術を回避できるくらいだし、今更逃げるのは難しい。相手が誰か、目的が何かわかってからでも遅くない」


「……はい」


 何者かはわからないが、こっちのことを事前に調べている可能性が高い。リュカ以外の魔女、あるいはセリアたちじゃないことを祈るだけだ。


 もし敵なら、気絶から回復したばかりで不安はあるが《ダークフォレスト》を使って逃げるという選択肢もある。ただ、味方も巻き込むからお互いに手をつなぐ必要があるし、燃費の悪さを考えても遠くまでは逃げられないだろう。難しい判断を迫られたわけだ……。


「――ここにいたか」


「……あ……」


 聞き慣れない声とともに俺たちの前に現れたのは、とにかく青い少女だった。髪も服も杖も全部青で統一されている。その涼し気な笑みさえも……。


「誰だ……?」


「我か? 我はラズエルと申す者だ……」


「……ブルーオーガ……」


 俺の横でアトリが声を震わせる。


「ブルーオーガ……?」


「はい。結界術師の中でも五本の指に入るという、リンデンネルクの治安維持部隊隊長です……」


「……なるほど。警察みたいなもんかな……って、それが俺たちになんの用事で……?」


「ふん。こちらのことを知っているなら話は早い。これから貴様らは我々の監視下に入る。好き勝手な行動はもうできないと思え」


「……え……」


 ラズエルという少女の発言からまもなく、周囲から槍を持った男たちが出てきてあっという間に取り囲まれてしまった。


「抵抗はしないほうがいい。我の結界であらゆるものが無効化され、その間に憲兵たちによって心臓を貫かれるだろう……」


「……おいおい、俺たちが一体何をしたって――」


「――コーゾー様、ここは私が対応します」


「アトリ……」


 アトリが強い表情で俺たちの先頭に立つ。まだ足元がふらついてるってのに、俺が気絶から回復したばかりだから気を遣ってるんだろう……。


「あの、ラズエル様、私たち何もしてませんし、これから王都へ向けて急がないといけないんです。なのにどうして……」


「……たわけ、しらばっくれるつもりか」


「……え?」


「魔女とつながりがあるそうだな」


「……」


 アトリがはっとした顔で黙り込む。ラズエルという少女は痛いところを突いてきたから、彼女も俺と同じ気持ちなんだろう。


「し、知り合いというか、偶然居合わせたようなものです……」


「では何故、魔女と会話を交わしていた? しかも名前で呼び合っていたそうではないか。さらに、魔女と遭遇したのに犠牲者はそっちには一人も出なかったそうだな。貴様たちが魔女の仲間であることの証明だろう!」


「そ、それは……」


「アトリ、あとは俺に任せてくれ」


「……はい。お力になれず申し訳ありません……」


「心配するな。俺がなんとかするから」


 アトリの肩を軽く叩き、今度は俺がみんなの前に立った。


「確かに魔女とは知り合いだが、そんなに悪い子じゃない。ルコカ村で一人しか犠牲者が出なかったのがいい証拠だ。頼むから俺たちを先に行かせてほしい」


「……ふっ、笑わせる。貴様が魔女の知り合いだからそんなことが言えるのだ。昔から悪党の仲間は悪党だと相場は決まっている。残念ながら王都行きは諦めることだな。貴様たちをリンデンネルクより先に行かせることは、我が絶対に認めん」


「……」


 頑固で話が通じないタイプだな、この子は……。


「コーゾー様は悪人ではありません。それだけは撤回してください」


「……何?」


 アトリの台詞に、苦虫を噛み潰したような表情になるラズエル。


「そうですよ! コーゾーさんはとっても格好いい、イケイケおじさんですよ!」


 ターニャの台詞であっちこっちから笑い声が上がる。イケイケおじさん、か。大人しいほうなんだけどな……。


「マスターは悪人じゃないもん」


「そうですわ。悪人はむしろあなたです」


「そうなのだ。お前が悪党なのだー」


「「「わーわー!」」」


 シャイルたちも騒ぎ始めて、憲兵たちにも動揺が広がっている様子だった。子供は正直だからな……。


「……ふっ。いくら外野が騒ごうが結論は変わらん」


「……」


 だが、肝心のラズエルの牙城を切り崩せそうにない。どうすりゃいいんだ……。頭が固いタイプに強硬手段は禁物に思える。押してダメなら引いてみろってやつで、柔らかい物言いで徐々に解していくやり方がいいんじゃないかな。相手が自ずと心を開くように我慢強く接するしかないだろう。


「じゃあ、俺についてきてくれ、ラズエル」


「……何?」


 ラズエルがぽかんとしている。


「懐柔でもするつもりか? 貴様……」


「どう思われても構わない。でも、俺がどういう人間かは側で見てくれたらわかるはずだ」


「……面白い。男にまったく興味のない我をその気にさせてみるか?」


 憲兵たちから笑い声が上がる。なるほど、ブルーオーガと呼ばれるだけあってお色気からは遠い存在らしい。


「まあ、いいだろう。我の美貌に欲情して手を出してきた時点で、貴様は墓の中にいるだろうが……」


 不敵な笑みを浮かべるラズエル。自分で言うかと別の意味で突っ込みたくなるが我慢だ……。

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