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第六回 懐具合


「すー、はー……。もう大丈夫です、コーゾー様。お見苦しいところをお見せしました……」


 アトリが深呼吸してようやく泣き止んでくれた。それに比例するように空もどんどん明るくなってきている。


「見苦しくなんてないよ。アトリ」


「コーゾー様……」


「……アトリ……」


 一瞬アトリと見つめ合ったが、すぐ目をそらしてしまった。さすがにおっさんの俺と少女じゃ恋愛沙汰に発展するわけないし、そこまで過剰に意識する必要もないと思うが、こういうのは苦手なんだ……。


「……こ、これからどこ行こうか」


「あ、はいっ。本当はコーゾー様の能力を本物の鑑定師様に見せたいのですが、所持金的に今は難しいので、後回しにします」


「ああ、じゃあ金を稼がないとな」


「はい。稼ぐために冒険者ギルドに行きましょうと言いたいところですが……その前にやることがあるのです」


「その前にやること?」


「はい。報酬のためにギルドの依頼を受けるにしても、魔法とか武器とかが必要なんです。薬草やキノコ採取のために草原や洞窟に行くとしても、魔物や盗賊に襲われる可能性は充分にありますから」


「なるほど……って、俺魔法なんて使えないよ……」


「大丈夫です。買えます」


「……魔法を、買う?」


「はいっ」


「……」


 覚えるのかと思ったが、買えるんだな。実に手っ取り早い。異世界も現実世界と同様、地獄の沙汰も金次第なのかもしれない……。


 というわけで俺とアトリは今、商店街に向かっている。彼女の所持金は1000グラードあるそうだが、鑑定師に頼むには最低でも2000グラード必要だとか。


 その話を聞いたことで、ああいう詐欺師っぽい鑑定師が便乗してくるのもわかる気がしてくる。早朝なのは寝ぼけているところを狙うためだろうし、鑑定料が安いのも無理して捕まえようという気を起こさせないようにするためだろう。よく考えたら、当たりか外れって言うだけの鑑定なんて誰でもできるんだけどな……。


「――もうすぐ商店街ですよ、コーゾー様」


「おおっ……」


 狭い路地裏をしばらく歩いていくと、左右に分かれた大きな通りに出たわけだが、右側の奥に見える広場は、それまでとは別世界かと思うほどに賑わっていた。近くにある高い建物の上から見下ろせば、石畳に敷かれた人の絨毯を目にすることができるだろう。


 ……あれ? 急にアトリが手をつないできた。


「あ、アトリ?」


「ここからは人が多くなりますし、はぐれるといけないので手をつなぎましょう」


「あ、ああ……」


 なんだ、はぐれないためか。それでも結構ドギマギするが、落ち着け。アトリを自分の娘だと思えばいいんだ。独身だけど……。


「……」


 それでも緊張で額から汗が噴き出て、喉がカラカラになってしまう。ここは何か話題を振るか……。


「あ、あのさ、アトリ」


「なんでしょう、コーゾー様」


「ここの商店街、凄く賑わってるみたいだけどさ、どこの町もこんな感じ?」


「いえ、このリンデンネルクの町は商都と呼ばれるくらい色んな店があるんですよ。王都につながる大陸中部の玄関口として、各地から人が集まってきますから」


「そうなのか……」


 この町、リンデンネルクっていうんだな。初めて町の名前を知った……。


「それこそ、王都では扱えないような代物でもここでは見かけることができます」


「……まさか、奴隷?」


「はい。よくご存知ですね」


「……ほら、読書してると色々頭に入ってくるから……異世界ものとかも多いからな」


「なるほど……こっちに似た世界なんでしょうね。コーゾー様は色んな知識を持ってて、さすがは小説家の卵ですねっ」


「……」


 アトリからなんだか好奇の視線を感じる。余計に緊張するじゃないか……。


「……あ……」


 今すれ違った女の人の肩に小人みたいなのが乗っているのに気付いて振り返るも、見失ってしまった。


「あれはノームさんですね」


「ノームってことは、地の妖精なのか……」


「はい」


 そういやあの小人、白い鬚をたっぷり蓄えたお爺さんっぽい容姿だった気もする。


「ショップで購入しましょうか? 妖精の属性は四大属性から闇、光までいて、性別も選べますよ」


「へえー。凄いな。奴隷だけじゃなく妖精まで売ってるなんて……」


「はい。妖精は幸運を呼ぶとも言われてますから……」


「……縁起物か。いいなあ。言葉は通じる?」


「もちろん通じますよ。無口な子もいますけどね」


「性格も様々ってわけか」


「はい。中には言うことを聞かない子もいますけど、お仕置きすればちゃんと聞いてくれます」


「……お仕置きって、そんなことしたら逃げられちゃうんじゃ?」


「いえ、売られている子たちはみんな印を押されているはずですから」


「印?」


「《束縛の刻印》という呪術があって、そのレベル1のものが封じられたハンコの印です。それを施された妖精は、同じ刻印を施した主から十メートル以上離れることができないんです。買った人は、店主側から呪縛の刻印を継承する形になります」


「……刻印って、なんか痛そうだな」


「ふふっ、大丈夫ですよ。魔法の刻印なので痛みもなく、痕も残らないです」


「……そ、そうか」


「どうします?」


「うーん……。興味はあるけど、お金が余ったら考えるってことで……」


「はーい。さー、コーゾー様。早く店に行きましょうっ」


「ちょ、ちょっと……」


 アトリはにこりと笑うと、俺を引っ張って足早に歩き始めた。周りに人が多いのもあって転びそうで不安になるが、彼女がなんだかとても楽しそうだったから、しばらくこのペースでもいいような気がしていた……。

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