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第五九回 暗い森


「……」


 木陰に入り込んだ魔物にそっと近付く。


 アクティブではないものの、ウィンドギフトは警戒心が高く、大きな物音や激しく動くものに反応して逃走することもあり、そうなると捕まえるのはもう厳しいそうだ。なので、だるまさんが転んだの要領で逃げ出さないよう、少しずつ近付いていく。ちなみにどれだけ接近しても、大声を出したり極端に動いたりしなければ大丈夫だという。


 ――よし、これくらいでいいか。五メートルくらいまで距離を縮めたところでやつが木陰から出てきた。なんせ《ダークフォレスト》の範囲がどれくらいかもわからないので、なるべく詰めておきたかった。近付きすぎはダメだが。


「わっ……!」


 ヤファが勢い余って転んで緊張が走る。……だが、竜巻は反応しなかった。助かった……。


「もー、大人しくしなさいよね、犬っ」


「そうですわ。けだものさん……」


「……申し訳ないのだ。でも、犬でもけだものでもないのだ……」


 こればっかりは反省するしかないのか、悔しそうに尻尾と狐耳を伏せて項垂れるヤファ。


「いよいよですね、コーゾー様」


「ああ……」


「いよいよですっ! ……あ……」


 ターニャがはっとした顔で口を塞ぐ。ウィンドギフトはぴたっと動きを止めたが、まもなく何事もなかったように土や葉っぱを巻き込みながら動き始めた。多分、もうちょっとで逃げられてたな。危ない危ない……。


「《ダークフォレスト》」


 杖を掲げつつ唱えてからまもなく、周囲がたちまち暗くなった。な、なんだ? しかも俺がいるのは鬱蒼とした森の中だ。微かに仲間や魔物の姿が見える程度だった。


「コーゾー様……?」


「あるぇ、マスター?」


「ご主人様、どこですの?」


「コーゾー、どこなのだー?」


「不気味です! コーゾーさんも、みなさんもどこに行っちゃったんですか……?」


「……」


 みんなも見える景色自体は同じみたいだが、薄らとは見える俺と違ってどこに誰がいるかわからないっぽいな。


「俺はここだ。みんな、俺の姿が見えるか?」


「コーゾー様? 気配はわかるのですが、声しか聞こえません……」


「……そうか……」


 アトリを初めとして、みんな一様に同じような反応だった。どうやらこれがこの術の特徴らしい。こっちには相手の姿が見えるが、相手にはこっちの姿が見えなくなるんだ。試しに火と光の魔法を使ってみたが、周囲の暗さはまったく変わらなかった。照らすことができない上、目印にさえなってないっぽいな……。


「……う……」


 眩暈がして倒れそうになった。まだそんなに時間は経ってないはずだが、消耗が大きいのかガリガリ精神力が削られてるのがわかる。耐性の高い俺ですらきついんだし、こりゃ維持するのがかなり大変そうな術だな……。


 いかん、このままじゃ術が解けてしまう。こうなったら……攻撃だ。かといってそういう術はまだないので、地の属性魔法をぶつけてみる。


 ……お、飛び上がった。こっちに風が吹くくらい怒った様子で、素早くぐるぐると周囲を回るも、敵が見えないためにどうしていいかわからないのか同じことを繰り返すだけだった。よし、こりゃ好都合だ。その間に地魔法を何度もぶつけてやる。そのたびに悲鳴の代わりのように風が吹いてきた。


「――あっ……」


 気が付くと既に《ダークフォレスト》が解けてしまっていて、竜巻が目の前に迫っていた。


「ぐわあっ!」


 しまったと思ったときには体が宙に浮いていたが、大した高さじゃなかった。どうやら敵も相当弱ってたらしい。背中に痛みが走ってまもなく、目前まで来たウィンドギフトに地魔法をプレゼントして倒すことができた。よし……って、あれ? 体に力が入らない。アトリたちの声が遠く感じる。どうやら相打ちみたいな形になってしまったようだ……。




「……コーゾー様……!」


「……」


 目を開けたとき、俺が目にしたのは青い空と対照的なアトリたちの心配そうな顔だった。……どうやら気絶してたみたいだな……。


「……みんな、心配かけたな。あれからどれくらい経った?」


「五分ほどですよ」


「五分か……」


 思ったより経過してなくて驚く。その場で上体を起こしてみたがまったく問題なかった。むしろ、何時間も寝たあとのように頭がすっきりしている。


「コーゾー様、大丈夫ですか……?」


「ああ、アトリ、なんともないよ」


「さすがはあたちだけのマスター。回復力も凄いのね。ちゅっ」


 シャイルの唇が頬に当たるのがわかる。回復力、か……。今回、燃費が悪いためか《ダークフォレスト》を維持するのは難しかったが、耐性の器が大きい分、少しの時間で回復する量も多いのかもしれない。


「もし自分だったら半日は寝てますよ!」


 自慢げに言うターニャ。寝る子は育つというし期待しとくか……。


「ターニャ様はスタミナありそうですものね」


「でもターニャはね、おバカだから精神的なスタミナは全然ないと思うの。辞書と向かい合ってもすぐにウトウトしちゃってるもん」


「ううっ……!」


 シャイル先輩の毒舌にターニャが涙目だ。


「それでも、狐の皮を被った犬よりマシだけどねっ」


「ですわね。あんなけだものよりは……」


「ガオォン!」


「「ひー!」」


 落ちがついたところで戻るか……。


「……あ……」


「アトリ、どうした?」


「……誰か来ます……」


「……え……」


 アトリの一言で空気が一変する。一体誰が来るっていうんだ……。

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