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第五八回 お試し


「……うーん……」


 俺の右手を握り、難しい顔でしばらく唸っていたターニャだったが、急に顔色がぱっと明るくなった。


「見えてきましたっ!」


「おおっ。大体五分くらいか。思ってたより早かったな……」


「えへへ……実はコーゾーさんが四色の花火を打ち上げた頃、《解読》のレベルが1から2になったんです! それのおかげだと思います!」


「へえ……」


 ターニャも相当に努力してるってことだな。鑑定できたことがよほど嬉しかったのか目を輝かせている。


「それで、どんな術なんだ?」


「……えっと、《ダークフォレスト》という名称だそうです!」


「ほお……」


 なんだか強そうな名前だが、どんな術なのかさっぱりわからない。地と闇の魔法のレベルを3にしたことで覚えたってことくらいしか見えてこないな。


「どんな効果?」


「……」


 なんだ? ターニャの顔色がどんよりと暗くなった。もしかしてペナルティの重い術なんだろうか。滅茶苦茶燃費が悪い、とか。それだと使いどころが難しそうだな……。


「あの……効果は……」


「あ、ああ。ターニャ、多少使い辛くても大丈夫だから正直に言ってくれ」


「うー……」


 それでもターニャは浮かない顔で言うのをためらってる様子。んー、こりゃあれだな。ペナルティっていうより、それ以前に大したことのない効果なので言うのをためらってる可能性のほうが高そうだ。それでも、使いようによっては役に立つことだってありそうだけどな。


「えっと……もう言います! 実は、効果はわからないんです!」


「……へ……」


 満面の笑顔で言われて、俺は馬車の中で転びそうな感覚に襲われた。みんなもそうなのか若干前方に傾いてしまっている。《解読》のレベルが2だとこんなものなのか……。


「ごめんなさい!」


「いや、いいよ。ありがとう」


「もっと役に立てるよう、精進します!」


「ああ、頼むよ」


 名称がわかっただけでもよしとしなきゃな。まだ見習いの彼女にしては頑張ったほうなんだろうし……。術の効果については、実際にやってみたらいいんだ。




 ……というわけで、御者に馬車を停めてもらうことにして、付近に生息する魔物相手に術を使うことになった。


 この辺はテイナ山の麓から大分離れたところにあるということもあって、木々が疎らで視界が良好なため、魔物の姿も見つけやすい。実際、ルコカ村に向かう途中でシャイルたちが発見し、指差して騒いでいた記憶がある。そのときに見た魔物で《ダークフォレスト》を試そうというわけだ。どんな効果なのか今から楽しみだ……。


「――います」


「お……」


 しばらく歩くと、アトリが剣を向けた先、三十メートルほど前方に魔物の姿が見えた。緑色の人間サイズの竜巻で、顔らしきものは見当たらない。ゆっくりと木々の間を縫うようにして進んでいて、シャリシャリという音とともに葉っぱが舞い上がっていた。


 アトリによればこの魔物はウィンドギフトといって、普段はノンアクティブだが魔法攻撃によってアクティブ化し、一直線に向かってくるので注意が必要だという。普段は遅いが、アクティブになるとかなりのスピードで迫ってくるのだそうだ。


 もし衝突すれば、重装備の大男でも十メートルは飛ばされてしまうらしい。さらに物理攻撃に滅法強く、地属性の武器ですらダメージをろくに与えられないのだそうだ。グラスゴーレムとかもそうだが、物理職には厳しい世界だと改めて思い知らされる。


「コーゾー様、そういうわけなので、私にはどうしようもできません。危なくなったら地の魔法をお願いします」


「ああ、わかった」


 幸いにして、素魔法とはいえ自分の魔法の立ち上がりは早いほうだし、うまく立ち回ってみせるつもりだ。


「頑張ってください。私は《マインドウォーク》で周囲を索敵しています」


 そう言いつつ、アトリの足がよろめいている。大丈夫か?


「アトリ……あっ……」


 アトリがうつろな表情で倒れそうになったので慌てて受け止める。案の定だ。


「おいおい、そんな調子なら少し休んでてくれ。どうしてもっていうなら《ハーフスリーピング》でもいいんだし」


「……いえ、私なら大丈夫です」


「……」


 弱々しい笑顔と声なのに、妙にアトリから力強さを感じた。それだけ今が大事な時期ということだろう。とはいえ、あんまり精神を消耗されたら困る。


「気持ちはわかるが、アトリに何かあったら困るし無理だけはしないでくれ……」


「……ありがとうございます、コーゾー様……」


「……」


 アトリがとても嬉しそうに見上げてきて、その表情に吸い込まれそうになる。な、なんだか知らないが体が熱くなってきたんだが……。


「「「ヒューヒュー!」」」


「……」


 いつの間にか、シャイルたちがかなり離れたところから俺たちを冷やかしてる。


「コーゾーさん、アトリさん! お二人ともとっても熱くて羨ましいです!」


 ターニャまで参加してからかってるし……。


「まったく、気の早い話だ。大体、俺たちそんな関係じゃないのにな?」


「……わ、私は構いませんけど……」


「……え?」


 何を構わないんだ。アトリは俺に受け止められている状況で一向に離れようとしないし、嫌ではないがなんともむず痒くて仕方なかった……。

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