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第五七回 術


「リットンさーん! どうかお元気でー!」


 翌朝、六時の鐘が鳴り響く中、俺たちは早速王都グラッセルへ向けて出発することにした。見送りにきた神父たちが見えなくなるまで、ターニャが手を振り返してるのが印象的だった。もうここに来ることはしばらくないだろうしな……。


 俺たちはまず商都リンデンネルクへ戻り、鑑定師クオルに湯薬を飲ませたあと、休憩がてら昼食を取る予定だ。


 このルコカ村周辺でレベル上げしてからでもと思ったが、よく考えたらそれは馬車の中でもできるからな。途中で何が起こるかわからないし、なるべく急いだほうがいいという結論に至ったんだ。


 アトリはセリアたちの動向が気になるってことで、馬車の中でも索敵できる《マインドウォーク》を使ってるし、シャイルたちも周囲の様子を競うようにして知らせてくれている。ターニャも欠伸しながらも異世界言語の辞書と向かい合ってるし、俺も負けじと頑張らねば……。




 ルコカ村を発ってしばらくして、俺は四大元素――地水火風――の属性魔法を全て3レベルまで上げてしまった。今までと比べると若干上がりにくいように感じるが、威力はその分増しているように思う。無職じゃなくて術者、それも前人未到の反魔師というジョブの素魔法なんだから当然か。


 ただ、肝心の術は今のところまだ発現してない。そういうのを覚えるには意識も大事というアトリの言葉を思い出して、攻撃的、あるいは守備的な気持ちも織り交ぜたが、素魔法の強度や質が変化するだけでまったく効果はなかった。無意識のうちにそれが顔に出てしまったのか、シャイルたちに笑われた程度だ。


 まもなく山の麓にある子供たちの楽園が見えてくる。というわけで、馬車の中から空に向かって四大元素の花火を打ち上げてやった。レベル3でも、無職の頃のレベル6に相当するものを打ち上げることができたし、気付いたならきっと喜んでくれるはずだ。


「……コーゾーさん、子供たちのためにありがとうございます! 先に四大元素を上げていたのはこれをやるためなんですね!」


 ターニャが自分のことのように喜んでいる。立ち寄ろうかとも思ったが、今は急がないといけないからな。


「ああ。無は論外として、闇魔法だと暗い気持ちにさせそうだし、光は明るい場所じゃ映えないだろ?」


「なるほどっ!」


 それと、個人的に闇魔法はどっちかっていえば苦手だし、短時間で上げられるか疑問だった。というわけでまず無魔法から取り掛かり、次に闇魔法を3まで上げることにした。光魔法は得意だし、余力があるうちに闇魔法を上げておきたかったんだ。


 ――さて、そろそろ闇魔法が3まで到達する頃だろう。ってなわけで精神鏡で確認してみる。




 名前:宮下光蔵


 種族:人間


 称号:勇者


 ジョブ:反魔師


 所持属性魔法:地レベル3 火レベル3 水レベル3 風レベル3 無レベル3 闇レベル3 光レベル1


 習得術:《???》レベル1


 固有能力:全ての魔法に対する耐性80%




 よし、ほとんど3レベルになってるな。あとは光魔法だけ……ん? 習得術のところに《???》という文字が浮かんでいた。これって、覚えたけど自分じゃまだどんなものかはわからないってことだよな……。


「ターニャ!」


「は、はい! ごめんなさい! もうしません!」


「……え?」


「あ……」


 ターニャが我に返った様子。この反応から察するに、いつの間にか眠ってて夢でも見てたっぽいな……。


「ターニャ、術を覚えたみたいだから鑑定してくれ」


「あ、はいっ!」


 慌てた様子で俺の右手を触るターニャ。その一方で、みんな興味深そうに俺の持った鏡を覗き込んでいた。


「コーゾー様、とうとう覚えたんですね……」


「ああ、アトリ……って、大丈夫か? 顔が青いぞ……」


「……だ、大丈夫です。でも、ちょっと無理をしてしまいました……」


「気持ちはありがたいけど、警戒しすぎだよ。疲れてるなら休んでてくれ。どうしても気になるっていうなら《ハーフスリーピング》を使えばいい」


「……はい」


「……」


 アトリの笑顔には力がなかった。こんな感じで無理をしてしまう子なんだ。自分を追い詰めるタイプだから少し心配になる。


「もう覚えちゃうなんて、さすがはあたちのマスターねっ」


「わたくしのです……」


「あたいのなのだ!」


「「「ぐぬぬ」」」


 シャイルたちの火花が熱い……。


「……こらこら……コーゾー様は私のです……」


「「「……」」」


 それまで騒いでいたシャイルたちがみんな静まり返って、アトリが見る見る顔を赤くする。


「……な、なんでみんな黙っちゃうんですか……」


 その理由はなんとなくわかるな。アトリは冗談を言うタイプじゃないから……って、それだと俺のことを……? いや、これ以上は考えるな。おっさんと美少女じゃバランスが悪い上に犯罪に近い……。


「却下します! コーゾーさんは自分のものです!」


「「「キャハハッ」」」


「……うう……」


 笑われるターニャも別の意味できついな……って、何か忘れてるような……。


「……あ……」


 そうだ、思い出した。ターニャに術の鑑定をしてもらってるところだった……。

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