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第五五回 反魔師


「さあ、これからジョブ授与の儀式を行う。勇者コーゾーよ、準備はできておるか?」


「……はい、リットン神父……」


 翌朝六時の鐘が盛大に響き渡る中、俺は教会の祭壇前でリットン神父に対して力強くうなずいてみせた。


「うむ……実に良い表情をしておる。皆よ、この者の門出を祝うのじゃ!」


 神父の一声で、周りから鐘に負けないほどの拍手が巻き起こった。それもそのはずで、アトリ、ターニャ、シャイル、リーゼ、ヤファだけでなく、厳しいシスターや村人、憲兵、教会関係者たちまで集まっていた。神父の人望の大きさをうかがわせる。


 そんな彼の病気を治したからこそ、見ず知らずの人間でも俺のジョブチェンジのためにここまで来てくれたわけだが、さらにタダで儀式を執り行ってくれるということでもう感謝しかなかった。


「では……ジョブ授与を行いたいが、その前に祝いの口上を述べようと思う。えー、わしはこれから偉大なる神、そして全ての精霊たちに誓う。ミヤシタコーゾー、この者の心中に眠りし力を呼び覚まし、迷える子羊たちの道筋を明るく照らし出さんことを……っと、まだ続きはあるが、堅苦しいことはこの際なしじゃ!《職能付与アスペルシオ》!」


「……なっ……」


 神父の最後の台詞によって、俺の体は内側から溢れ出てくる力で異様に熱くなり、視界が埋め尽くされるほどの光とどよめきに包まれた。これがジョブチェンジというものなのか……。


「今日からコーゾーのジョブは、魔法に反する術師と書いて反魔師じゃ!」


「「「「「――……おおおおおっ!」」」」」


 一瞬の静寂を挟んでの拍手と歓声の波は、しばしの間自分が何者かすら忘れてしまうほどの迫力があった。


 反魔師、か……。前代未聞のジョブだと鑑定師クオルが言っていただけあって不思議な響きだった。


「……さあ、コーゾーよ、これを着るがよい」


 まだ光の粒が俺の周囲を蝶のように舞う中、神父が紫色のローブを手渡してきた。


「貰っていいんですか?」


「もちろんじゃ。ところで、何故紫のローブか、わかるか?」


「……い、いえ……」


「では特別に教えてしんぜよう。みな適当に白や黒のローブを着ておるわけではなく、どんな色が自分のジョブの力を一番引き出してくれるかで決めておるのじゃ。反魔師に合うものはこの色しかないと全ての精霊が仰っていた。だから特別に用意させたのじゃ。受け取りなさい」


「なるほど……。では、ありがたく頂戴いたします……」


 照れ臭さもあるが、それ以上に誇らしい気持ちだ。これも自分の力というより仲間たちがいたからこその結果だろう。俺はローブを着ると、来てくれた人も含めてみんなにお辞儀することで礼を示した。


「うむ、良い心がけじゃ。わしは正直そのジョブについて詳しいことは何もわからん。名前だって精霊にこうだと教えてもらった。……じゃがな、このジョブにはとんでもない可能性が秘められておることだけはわかる。精霊たちの声もいつもよりずっと弾んでおったからじゃ……」


「そうなんですね……」


 神父のとても嬉しそうな顔に引き摺られてこっちもつい笑顔になる。当然プレッシャーもあるが楽しみのほうが強かった。これからは《術》が使えるわけだからな。それも、反魔師という誰もなったことがないジョブで覚えるものだ……。


「今思い出したが、こういう古い言い伝えもある。五色の強大な魔法職にもう一色が加わることにより、いずれ世界は大きく動くであろう、と……」


「……」


 一旦静まり返っていた聖堂内が俄かに騒がしくなってきた。縁起が悪いんじゃないかという声もちらほら聞こえてきて、一気に不穏なムードになってきた。


「これこれ、静粛に! この話にはまだ続きがある! 世界が変動するとき、救世主となるのがこの六色目の魔法使いだろうと言われておるのじゃ!」


「「「「「おおおっ……」」」」」


 一転して雰囲気が良くなってほっとした。このままじゃ肩身の狭いジョブチェンジになってしまいそうだったからな……。




「――……あー、疲れた……」


 ルコカ村の宿の一室、言うつもりはなかった言葉がつい出てしまう。確かにそれを言う程度には疲れていたが、それでも心地よい疲れだった。


「お疲れ様です、コーゾー様。それと、とても恰好良かったですよ。ジョブチェンジ、おめでとうございます……」


「あ、ありがとう、アトリ」


 多分、今の俺は目が泳いでるはずだ。シャイルたちからくすくすと笑い声が聞こえてくることからも容易に想像できる。


「コーゾーさん、いかにも魔法使いって感じですよねぇ! 自分も鑑定師じゃなくて、もっと無魔法のレベルを上げて結界術師を目指してもよかったのかなって思いましたっ。おめでとうございます!」


「ああ、ありがとうターニャ。その気持ちはわかるが、鑑定の修行、頑張ってくれよ」


「は、はいっ!」


 今後このジョブについて色々わからないことも出てくるだろうし、鑑定師クオルが重傷でまともに鑑定することができない今、彼女が頼りなんだ。


「マスター、おめでとー」


「おめでとうございますわ、ご主人様……」


「おめでとなのだー!」


「シャイル、リーゼ、ヤファ、ありがとう……」


 今日は何度ありがとうを言ったことか。それでも全然苦にならないどころか、逆に気分がよくなっている。もしかすると感謝の言葉っていうのは、実は自分に向けられた光魔法なのかもしれない。今夜はぐっすり眠れそうだ……。

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