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第五四回 お返し


「なんだこのおっさん……」


「ほら、例の……」


 割れた窓の向こう、月明かりに照らされた二人組がひそひそ話し合ってる。やっぱり俺のことを知ってるみたいだな。


「……面白い。ラドック、試してみろ」


「オッケー。《ブラストエッジ》!」


「うっ……」


「こ、コーゾー様……!」


 アトリの悲鳴のような声が響く中、息苦しいほどの強風が吹いてきて飛ばされそうになるが体勢を低くして耐える。……あれ、終わったのか……? 服は所々少し破れているが、傷は見当たらなかった。呪術師と魔術師がぽかんとした顔でこっちを見ている。


「……耐えたというのか。ラドックお得意の風魔法を……。お前、まさか手加減したのか……?」


「い、いや、ハヴィル。ちゃんとレベル8でやったんだけど……?」


「し、信じられん……。普通は全身刻まれて即死するレベルだし、服もボロボロだろうに……化け物か、このおっさん……」


「……」


 化け物呼ばわりされてしまった。どうやら俺の耐性のおかげで服も無事だったようだ。


「ならば俺の呪術はどうだ……」


「……え……」


 気が付いたときには、ハヴィルという呪術師の男の杖から煙のようなものが出てこっちに向かってきていて、避けようとしても既に遅かった。


「フフフッ。逃げないということはよほど自信があるようだが……それが仇にならなければよいがな……」


「……」


 自信があったというより、気が付けば当たってたってだけなんだがな。速すぎてアトリでも避けられないくらいだし、詠唱の必要もない呪術師の魔法を避けるのは特に難しいだろう……。


「ほら、どうした……おっさん、攻撃してみろ……」


「ほらほら、どうしたの? 遠慮せず来なよ、おっちゃんっ」


「……」


 舐めやがって。言われなくても攻撃してやる……。


「そらっ!」


 俺は呪術師じゃないが詠唱もいらないので、掛け声とともにレベル6の風魔法でお返ししてやった。やつらに向かって緑色の風が飛んでいく。


「《ウィンドカッター》!」


「……」


 あれ? 相手がまた風魔法を唱えてきた結果、何も起きなかった。


「……ラドック。今おっさん、何かしたのか……?」


「それが……ハヴィル、僕と同じ風魔法をこっちのほうにしてきたみたいだけど、初歩風魔術の《ウィンドカッター》で簡単に打ち消せたよ。ま、素魔法の割には強いほうなんじゃないかな。ププッ……」


「……」


 やはり、耐性はあっても攻撃は通用しないのか……。っていうか素魔法っていうんだな。それは魔法職にとっては話にならないものみたいだ。なのに、ラドックという魔術師の説明を聞いた呪術師ハヴィルの顔が冴えない。どうしたんだ……?


「……俺の呪術がまったく効いていないだと……」


「……」


 そうか、なんで浮かない顔をしていたのかわかった。アトリにしたように、攻撃したら痛みを覚える呪術《忠心の刻印》、それも高レベルのものをやったのに俺に効いてないからだ……。よくよく考えると、少し首に違和感があった程度だ。これが全ての魔法に対する耐性80%の力なんだな……。


「凄いです、コーゾー様……」


 アトリは実際に呪術の制約を破ることの苦しみを経験してるだけに、余計に俺の能力の有用さが伝わるようだ。ただ、耐えるのはいいが攻撃面がな……。無職だから仕方がないとはいえ、これじゃ厳しい……。


「――とうっ!」


 考え込んでる振りをしつつ、いきなりレベル6の地の魔法で大きな石を飛ばしてみたが、二人組が窓の下で伏せたことであっさりかわされてしまった。同レベルの水魔法と闇魔法はもちろん、レベル8の火魔法でさえあっさり初歩の風魔法で消し飛ばされてしまう有様だった……。


「こうなったら……物理で殴る」


「「え……?」」


 立ち上がって唖然とするやつらにレベル6の光魔法をぶつけてから、割れた窓に飛び込んで呪術師の胸に飛び蹴りを食らわせる。少し遅れて有言実行だ。


「ぐおっ……!」


 倒れ込む呪術師に馬乗りになり、杖で頭をポカポカ殴る。その間何か魔法を出そうかと思ったが、既に精神力をかなり消耗しているのか、出そうとして意識が飛びそうになったので止めた。


「や、やめてくれ……! 俺が悪かった……!」


「ハヴィル、今助ける!」


「うっ!」


 横から魔術師ラドックに蹴り飛ばされた。俺が倒れたところで、やつはさらに馬乗りになって杖で殴ってくる。魔法が効かないからって俺の真似しやがって……。


「死ねよ、おっちゃん……ぐおっ……?」


 ラドックが杖を振り上げた途端、白目を剥いて倒れる。後ろにはショートソードを構えたアトリが立っていた。そうか、あくまでも呪術師ハヴィルを倒そうとしなければ呪いの制約は受けないのか……。


「お、おのれ……」


 ハヴィルが立ち上がったが、既にフラフラの状態で頭を抱えている。


「……コーゾー様、あの人をお願いします……」


「ああ……」


 アトリもかなり苦しそうだ。それで力を使い果たしたのか、すぐにしゃがみこんだかと思うとそのまま倒れてしまった……。


「あとはお前だけだ!」


 俺は呪術師に駆け寄り、杖で何度も殴るが、やつは頭を両手で抱えつつ何故か笑っていた。


「ヒヒヒッ、アヒヒッ……」


「……」


 気味が悪い。なんだこの男は……。効いてないわけがない。既に防戦一方で、立つ気力もない。何かおかしいぞ。……まさか……。後ろに気配を感じて振り返ると、ロングソードを持ったあの男が割れた窓から外に出てきたところだった。


 まずい……。だが落ち着け。やつは気絶から回復したとはいえ、明らかに弱っている……。


「フフフッ……」


「あ……」


 後ろからハヴィルに羽交い絞めにされる。う、動けない……。


「マーディ、お前の出番だ……」


「おう、任せろハヴィル……。これまでの借り、たっぷり返させてもらうぜ……」


 魔法に対する耐性はあっても、物理……それも大男の剣術に対する耐性なんてあるわけない。魔法も弱いレベルしか出せそうにない。詰んだ……。


「死ねええぇぇっ!」


「……」


 男が俺の目の前まで来て大きく剣を振りかぶった。嫌だ。諦めきれない……。最後の最後に風魔法で弾こうとしたが、打ち止めなのか微風しか出なかった。万事休すだが、せめて最後の景色を見届けよう……。


「《エル・マジックスラッシュ》」


 ……この声は……。まもなく男の胴体部分は斜めに切断され、徐々にずれていった。


「……あ?」


 男はそれにようやく気付いた様子で、自分の血まみれの体を見てぎょっとしている。


「そ、そんな、嫌だ……」


 悲痛の声もむなしく、まもなく胴体部分は切り離されて地面を転がった。誰がやったのかはもう明白だった。


「……ば、ばばば、バカな……」


 呪術師の震え声を聞きながら周りを見渡すと、いつの間にかすぐ近くに魔女が立っていた。


「借りを返しにきたわ、勇者」


「……あ、ありがとう。これで勇者さんから勇者にランクアップだな……」


 咄嗟にこんな台詞を吐いてしまうなんて、自分が恐ろしくなる。俺は魔女が出てくるとどうもハイテンションになるっぽいな。恐怖心がいい具合に高まるからなんだろう。後ろにいる呪術師なんて、しゃがみこんで両手で帽子を押さえて可哀想なくらいガタガタ震えてるのに……。


「……ランクアップ? そんなつもりはないのに、バカね」


「……酷いな」


「酷いのはあなたでしょ。魔女の涙を見て生きていられるのはあなたくらいよ」


「……そりゃ光栄だな、魔女よ」


「リュカって呼んで」


「……え?」


「また会えたら、ね。コーゾー……」


「あ、ああ。また……」


 見送ろうとしたときには、魔女は既に姿を消していた……。

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