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第五二回 監視


「……」


 俺がルコカ村の頂上に位置する教会を出て、そこから少し下ったところにある宿に入ろうとしたときだった。


 つけられている気配がして振り返ると、納屋の横に樽が幾つか置いてあるだけ……ではなかった。上手く隠れたつもりみたいだが、樽の陰からヤファの尻尾がはみ出ていてバレバレだ。シャイルとリーゼが必死に尻尾を隠そうとしてるものの、もう遅い……。


「お前たち、来てたのか……」


「……うん、来ちゃった」


「来ちゃいましたわ……」


「来ちゃったのだー」


「……んもうっ、来ちゃったのだーじゃないわよ。ヤファのせいでバレたのよ。あんたの尻尾、どうにかならないの?」


「……この尻尾が邪魔なのですわ……!」


「い、痛いのだ、シャイル、リーゼ、引っ張るのはやめるのだー!」


「「「わーわー!」」」


 相変わらず騒々しい。シャイルたちにも教会で待つように言ったんだが、こっそり抜け出してきたらしい。《マインドウォーク》が使えるアトリの目を掻い潜れるんだから大したもんだ。ただ、彼女はかなり俺のことを心配してるようだったし、様子を確認させるためにあえて見逃された可能性はあるが……。


「ついてくるのはいいが、廊下で待っててもらうぞ」


「「「はーい!」」」




「魔女よ、入るぞ……?」


 魔女のいる廊下奥の部屋の前、まず声をかけてさらに何度かノックまでしたが、しばらく待ってもまったく反応はなかった。


「……」


 まさか、もうとっくに目覚めてて村を出てしまったんじゃないだろうな……。


「魔女、いるのか……!?」


 慌てて扉を開けると、魔女は普通にベッドにいて、まだ寝ている様子だった。……よかった。相手が相手とはいえ、お礼も言えずにお別れするのはさすがに後味悪いからな。


「お邪魔するぞ」


 魔女を刺激しないようにそっと近付き、ベッドの横にある椅子に腰を下ろした。それから顔を覗き込んでみたが、大分痛みも和らいでいる様子で血色も良いし表情も安らかだ。倒れる前は赤みも強くてかなり苦しそうだったからな。風土病なのかとも思ったが、彼女は以前から薬草を多く集めてたみたいだし、なんらかの症状がここにきて悪化したっていう可能性のほうが高そうだ。


「魔女よ、もう大丈夫だからな」


 言葉は言霊になる。たとえ対象になった本人が聞いてなくても、それは小さな木霊となり、いつか様々な形になって自分に返ってくる。昔祖母からそう聞いたことがある。だからこの祈りのような言葉も効果があるのかもしれない。相手にも、そして自分にも……。


 このまま静かに魔女が起きるのを待つとしよう。アトリたちに何かあってもここは近いし、すぐに駆けつけてくれるはずだ。


「……」


 それにしても、魔女もこうして見るとただの可愛い幼女にしか見えないな。帽子をそっと被せてるからぱっと見ただけじゃわからないが、近くから外部の人間が見たら飛び上がって逃げ出すだろう……。


「――……何故殺さなかった……」


「……あっ……」


 ちょうど眠くなってきて、うとうとしていたときだ。はっとして見るも、魔女の状態はそのままだった。まだ寝てるようにしか見えないが、起きていたのか……。


「殺すチャンスはいくらでもあったはずなのに、何故……うぐっ……」


「……」


 魔女が両手で顔を覆った。泣いてるのか……。


「悔しい……。人間、それもよりにもよって勇者に助けられてしまうなんて……ひくっ……えぐっ……」


「……悪かったな、助けたのが大嫌いな勇者で……」


「……謝らないで。余計惨めになる……うくっ……」


「……嫌いなのは知ってたが、放っておけなかったんだ。……それに、謝るつもりもなかった。ここにはお礼を言うためにきたんだ」


「……お礼……?」


「ああ、魔女のおかげもあって薬草を取ることができたからな。ありがとう……」


 俺は魔女の反応を見ることなく、出入り口の扉に手をかけた。これ以上嫌いな勇者の前で魔女に恥をかかせるわけにもいかない。


「「「わっ……!」」」


「……」


 扉を開けると、シャイルたちが部屋に倒れ込んできた。まーた覗いてたんだな……。


「――コーゾー様!」


 アトリの声がすると思ったら、奥から姿を見せてこっちに駆け寄ってきた。あの様子は、何かあったっぽいな……。


「どうしたんだ、アトリ?」


「……あの教会、確かに何者かに監視されています。それに加えてただならぬ気配も感じました。これは殺気だと思います。こちらを警戒してかすぐ消えたので詳しいことまではわかりませんでしたが、相手は魔法職でかなりの強敵のようなので、私とターニャだけでは……」


 こうしちゃいられないな。すぐ戻らないと……。


「よし、戻ろう。アトリ、俺は魔女の魔法じゃなきゃ耐えられるんだろ?」


「……それはそうですが、なるべく受けないほうが……」


 アトリは複雑そうだが、痛みがあっても命に別条がないなら問題ない。


「大丈夫だ。さ、早く行こう。ターニャにだけ任しておくわけにはいかない」


「は、はい!」


「あ、待ってよマスター、あたちも行く!」


「わたくしも行きますわ!」


「あたいも行くのだー!」


 シャイルたちの声や不安を引き摺りつつ宿の廊下を走る。この状態でどれだけやれるかわからないが、やるしかない。相手が魔女じゃない限り、勝てる見込みはあるはずだ……。

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