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第四六回 本心


 空気が一変してしまっていた。


 俺たちはルコカ村のレストランで夕食を取っていたわけだが、みんな一言も話さなかった。味は良かったが結構高くて、一番安い山菜セットで100グラードだった。これで残り300グラードになったわけだが、火の車になってるのが気にならないくらい暗い雰囲気に包まれていた。


 まあそりゃそうだろう。山賊の長が魔女という話が本当なら、薬草を取りに行くことなんてできるわけがないんだ。もう二度とみんなに辛い思いはさせないと誓ったしな。


 例の幼女の姿をした魔女とはどう考えても別人なだけに、一週間もリットン神父の回復を待つしかないという苦しい状況だった。さすがにそれだけ待つと、王都で行われる真の勇者選定の儀式に間に合わないんじゃないかと思える。アトリも王都までは三週間くらいかかるから、今から五日以内には向かいたいって馬車の中で言ってたからな……。


「――コーゾーさん、ごめんなさいっ! 自分がルコカ村に行こうなんて言ったせいでこんなことに……」


 店を出たところで、最初に口を開いたのはターニャだった。


「ターニャは悪くないって……」


「そうですよ。ターニャ、神父様の回復を待ちましょう……」


「でも、あんまり待たされたらあたちのマスターが間に合わなくなっちゃう……」


「確かにシャイルの言う通りですけれど、このまま出発したあとで、もし神父様に何かあったら……なんだか見殺しにしたみたいで後悔しそうですわ……」


「難しいのだ……」


 シャイルたちもよく考えてくれている。


「ヤファは余計なこと考えずにあたちたちにお手してたらいいのっ」


「そうですわ。はいお手っ」


「わんわんっ……じゃないのだ。ガルルッ!」


「「ひー!」」


 やっとみんな調子が出てきたな。これで俺も喋りやすくなった。


「五日待とう。俺たちが待てるのはそれくらいだ。それでダメなら仕方ない……」


 俺の台詞にみんなうなずいていた。


「ターニャ、それまでずっと神父の側にいてやってくれ。俺たちもたまに姿を見せるつもりだ」


「はいっ……!」


 非情かもしれないが仕方ない。もうアトリたちを危険な目に遭わせるわけにはいかないからな……。




 俺たちは村の頂上付近にある宿に泊まっていた。部屋の窓からは薄暗くなった村の様子や森林、さらに商都リンデンネルクのほうまで見渡せる。


 ただ、景色にばかり気を取られているわけにもいかない。一泊100グラードだからさらに減って200グラードでいよいよ底が見えてきた。このままじゃさすがに五日どころか三日ももたないので、明日の朝になったら冒険者ギルドに行って依頼をこなすつもりだ。


「コーゾー様、少しお話があります……」


「……ああ」


 アトリの表情から察するに、多分薬草のことだな。俺が取りにいかないか心配なんだろう。


「ねえ、どんなお話なの?」


「重要なお話ですの?」


「凄い話なのだ?」


「みんなはここに残っててくださいね」


「「「はーい……」」」


 みんなアトリに返事はしたものの、とても気になってそうだ……。




 廊下に出てアトリと向かい合う。ほかには誰もいる様子はないのでちょうどよかった。


「コーゾー様の本当のお気持ちを聞かせてください」


「……」


「大丈夫です。私の命はコーゾー様のものですから、どんなことでも受け入れます」


「アトリ、俺は……」


「はい……」


「正直、神父を助けたいという気持ちはある。でも、もし俺が死んでしまえばアトリを悲しませるから抑えている」


「……」


 アトリはじっと無表情で俺の言葉を聞いていた。本当になんでも受け入れようっていう相当な覚悟があるんだろう。


「アトリ……一つ聞きたいんだが、俺の固有能力の魔法耐性80%っていうのは、魔女の魔法も耐えられるのか……?」


「……無理です。普通の魔術師相手なら、痛みはあってもコーゾー様の能力なら簡単に耐えられると思います。でも……魔女は違います。実際に見ましたよね。魔女は詠唱の初めにエルという古代言語を加えることで、とんでもない威力を出せるのです……」


「……俺でも即死か?」


「初歩の魔法なら生き残れると思いますが、それ以上だと……」


 アトリは言葉を濁した。声も震えてるし、想像もしたくないことなんだろう。


「……そうか」


「あの、大丈夫です。私、コーゾー様がいなくてもちゃんとやれますっ……」


 アトリは口元は笑っていたが、目は違っていた。まるで死人のように生気を感じなかった。


「アトリ、俺は行かないよ」


「……コーゾー様……?」


「今の話を聞いて、もしかしたら行けるかもしれないっていう思いは前より強くなった。……けど、アトリを悲しませたくないっていう思いのほうがずっと強いんだ……」


「……コーゾー様……」


 アトリの頬に涙が零れ落ちる。


「ごめんなさい……私、もう自分の気持ちを抑えられそうにないです……」


「アトリ……?」


「……私……コーゾー様のことが……」


「……」


 おいおい、何を言い出すつもりなんだ。まさか……。


「「「わっ!」」」


 急にシャイルたちが廊下に飛び出してきた。


 ……ドアがちょっと開いてたし、みんなで覗いてたらヤファに押されてこうなったみたいだな……。

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