第四四回 花火
御者に頼んで一時的に孤児院付近に停めてもらうことにして、俺たちは作りかけの城壁を潜った。
「――あ、ターニャ!」
「ターニャだー!」
「「「わー!」」」
子供たちが一斉に駆け寄ってきた。大体百人くらいだろうか。人間だけじゃなくて、亜人、獣人、それにハーフエルフっぽい子までいる。とにかく人種といい髪の色といい多種多様で、見るだけでも飽きないほどだった。
「今日はお友達とルコカ村に行く途中で、そのついでに遊びにきたんですよー!」
「すぐ帰っちゃうの?」
「つまんなーい!」
「えーん!」
泣き出す子供まで現れた。ターニャは元気がいいし子供たちに人気がありそうだな。とはいえ、人任せで呑気に傍観するだけというわけにもいかなそうだ。このままだと小さな暴動が起きてしまいそうな気配で、シャイルたちでさえ恐れを感じたのか俺の後ろに隠れちゃってるし……。よし、ここは俺が一肌脱ぐとしよう。
「みんな、注目!」
「何々?」
「このおっちゃん誰ー?」
「もしかしてターニャの恋人ー?」
「違うもん! ターニャは僕のだもん!」
「私のよ!」
「俺のだー!」
「「「わー!」」」
「……」
いかんいかん、子供たちの元気さに呆然としてるうちにまたターニャのほうに注目が集まってしまった。
「ほら見ろ! これから面白いことをやるぞー!」
俺は大きく後ろに下がってから、透明な無だけ省いて様々な属性の魔法を空に放ってみせた。火の赤、水の青、地の黄、風の緑、闇の黒、光の白……様々な色の魔法が塊となって舞い上がり、徐々に消えていく。
「わー!」
「綺麗!」
「すげー!」
「こらこら、あんまり俺の近くに寄ったらダメだ!」
「危険ですよー」
「危ないですから下がってくださーい!」
アトリとターニャがすかさず子供たちを安全な場所に誘導してくれた。こういうときは男は女性にかなわないな……。
「どんどんいくぞー!」
「「「わーい!」」」
なるべく花火っぽく見えるようになるべく高く、そしてゆっくり散らすイメージを大事にした。一番上手くいったのはやはりレベル8の火魔法で、みんな惚けたように見上げていた。子供たちだけでなく、アトリたちも。
「これって花火っていうんですよね、コーゾー様」
「ああ、アトリ、知ってたのか……」
「はい。私がいた山岳都市ロズベルトの司教様が元勇者様で、病床に臥せる中、いつかまた空に咲く花火を見てみたいとよく仰られてました。魔女が侵攻してくる一年前に136歳で他界されましたが……」
「……136歳……」
召喚された勇者でさえそうなら、異世界の平均寿命、凄く高そうだな。空気や食べ物がいいんだろうか……。
「とっても綺麗ですねー!」
ターニャも子供みたいにはしゃいでいる。ただ、本物の花火はこんなもんじゃないからな。もっと高く優雅に咲き、儚く散っていく感じだ。さすがにあんな風にやるのは無理だが、それに少しでも近付けるようにするつもりだ。
子供たちからのアンコールは続いたが、しばらくして一旦休憩することになった。さすがに色んなレベル5以上の魔法を出し過ぎて疲れた……。
レベル1の魔法を持続していたときとはまるで違うんだ。レベル自体が10までしかないだけあって、1レベル違うだけでも消費量や威力に大きな差があるように感じた。
ずっと維持していたときと比べるとなんか情けないように思えるが、それでもアトリによれば並の魔法使いならとっくに気絶してるレベルだから物凄いことらしい……。
「よ、妖精さんどこ!?」
「「「どこー!?」」」
「ふふっ……」
シャイルが子供たちとかくれんぼしてる。影の中に隠れられるし得意そうだ。
「わ、わたくしは生きてますから! もっと丁重に扱ってくださいまし! ぬ、脱がすなんてもってのほかですわー!」
「私のー!」
「あたしのだもん!」
「ひー!」
リーゼは生きた人形として女の子に大人気だ。取り合いになってて、髪はボサボサ、服も乱れて肩や胸元が見えてしまっていた。
「捕まえるのだー!」
「「「逃げろー!」」」
ヤファは鬼ごっこの鬼役になって子供たちを追いかけてる。さすがにスピード抜群で、捕まってないのは亜人や獣人の子だけになった。
「コーゾー様、お疲れです。みんな楽しそうですね……」
子供たちとじゃれ合うシャイルたちを、アトリが微笑ましそうに見ていた。
「子供は子供と遊ぶのが一番だな」
「はい……」
「あなたも遊ぼー!」
「え? え?」
アトリ、チビのせいか子供と間違われたっぽい。あっという間に連れていかれてしまった。ターニャは木陰で子供たちに囲まれつつ異世界言語の辞書を読んで聞かせてるみたいだし、やることがないのは俺くらいだな……。
「コーゾー! もう一回花火見せてー!」
「「「花火―!」」」
とか思ってたら早速お客さんが集まってきた。
「ちょっとだけだぞー!」
「「「わーい!」」」
子供たちとの忙しくも楽しい時間はあっという間に過ぎていった……。
正直、もっとここにいたいという気持ちも自分の中に生まれていたが、あまり御者を待たせるわけにもいかないのでそろそろ出発することにした。
「……」
見送りに来た子供たちはみんなにこやかにしていたものの、発ってまもなく悲しそうな顔になるのを見て、俺はなんともいえない気分になった。
アトリもターニャもシャイルたちもみんな涙ぐんでるし、俺まで貰い泣きしそうになる。歳を取った証拠かもしれないが俺もこういうの弱いんだよ……。




