第三九回 衝撃
「……こ、コーゾーって……そんなはずないわ……。名前が被ってるだけで別人に決まってるわよ……」
見る見る顔が青くなるセリア。鑑定師の言う最高の勇者が、よりにもよって自分たちが追放した光蔵だということは絶対に認めたくなかったのだ。
「なあ鑑定師さん、そいつもしかしておっさんだった?」
「おっさんでしたあ?」
ロエルとミリムが血相を変えて鑑定師に詰め寄る。
「な、なんだ? お主らの知り合いだったのか? 鑑定では40歳と出たが、わしからしてみればまだまだ若造だよ」
「……やっぱり、あいつだわ……」
「マジかよ……」
「……何かの間違いですうぅ……」
「……んー?」
呆然とする三人を前に、雄士はわけがわからずきょとんとしていた。
「コーゾーってさ、みんながバカにしてた外れ勇者のおっさんのことだよね? そんなに凄いやつだったの?」
「うむ……。話は少し逸れるが、魔法への耐久能力というのは基本的に反射、無効化、防御、回避、耐性の5種類で、その順に良いとされてきた。反射は無効化するだけでなく、その分跳ね返す。無効化はそのまま打ち消す。防御は受け止める分、その衝撃で自身が体勢を崩す恐れがある。回避は割合が高いと強いが、かわせなかった場合もろにダメージを受けるのでリスクが高い。耐性は防御とほぼ同じだが、さらに痛みも感じやすい」
「……え、鑑定師様、それって、コーゾーの能力が一番下ってことですよね?」
「なんだよ鑑定師さん、最低なのに最高って、ギャグだったのか?」
「やっぱりお雑魚さんでしたねえ……」
「ププッ……おじさん、僕たちを驚かせないでよ……」
セリアたちの顔色がぱっと明るくなる。
「そう思うだろう。だが、耐性を侮るなかれ、だ」
「「「「へ……?」」」」
「耐性というものは耐久能力だけにとどまらんのだ。何故ならそれだけ魔法も維持できるということだからだ。魔法レベルの上がりやすさもダントツだろう。コーゾーは全種の魔法が使える上に80%も耐性があるのだ。ここまで耐性が高い者を見るのは初めてで、興奮のあまり我を忘れてしまうほどだったよ。良くて30%がいいところだったからの。彼こそ、魔王を討伐できる選ばれし五人、すなわち真の勇者の中でもトップになれる素質がある……」
「……はー、気分悪……」
セリアが両手で頭を掻きむしる。
「……ん? どうした?」
「どうしたもこうしたもあるかボケがっ!」
鑑定師の四角い帽子を荒っぽく掴んで威嚇するロエル。
「……な、な、失礼な……」
「失礼ですう? んー……ミリムの考えは少し違いますう。失礼なのはあ、散々待たせた挙句う、コーゾーのようなお雑魚さんを持ち上げたキチガイのあなたですう。あうあう……」
「……お、お主たち、まさか……」
鑑定師の顔が徐々に青ざめていく。
「割と歳食ってそうだしもう手遅れかもだけど、ちゃんとあたしたちが教育してあげなきゃね。ユージ様の鑑定も終わったんだし……」
「だな」
「ですねえ」
「よ、よくわかんないけど、おじさんが悪いんだよ? わけのわからないことばかり言うから……」
「……なんという、愚かな……」
「愚かなのはどう見てもあんたでしょ。変な屁理屈を偉そうにこねくり回して、うだうだうだうだ……。要するにあんたが盲目的にコーゾーを気に入ってるってだけの話でしょうが。あんなおっさんごときにユージ様が負けてるところなんて何一つないわよ!」
「覚悟しろよ、イカサマ鑑定師……」
「覚悟してくださいねえ……」
「や……やめろおおぉぉぉっ!」
◆ ◆ ◆
名前:宮下光蔵
種族:人間
称号:勇者
ジョブ:なし
所持属性魔法:地レベル5 火レベル8 水レベル5 風レベル5 無レベル5 闇レベル5 光レベル5
習得術:なし
固有能力:全ての魔法に対する耐性80%
「……」
精神鏡で自分の魔法レベルを見るのは誇らしい反面、寂しさもある。ジョブチェンジしたら魔法レベルは全部リセットされてしまうみたいだからな。とはいえ、俺には魔法耐性80%、すなわち魔法持久力という強い武器があるからまた上げればいい。ジョブチェンジすることで《術》という楽しみもある。
「――マスター、待って」
商都リンデンネルクの教会に到着し、早速中に入ろうとしたときだ。シャイルから待ったがかかった。
「どうした、シャイル?」
「この方角、凶って出てる……」
「……」
それって、どう考えても教会の中のことなんだが……。まさか、セリアたちが中にいるのか? もしそうならジョブチェンジは後回しにしたほうが良さそうだな……。
「コーゾー様、どうしましょう……」
「んー……まだ時間はあるし、あとにするか」
「……そうですね。もうすぐお昼なので、何か食べてからでも……」
「うん、あたちもそれがいいと思うっ」
「わたくしもですわっ」
「あたいもなのだ!」
昼飯ってことでシャイルたちがはしゃいでるし、暗くなりがちなところで救われた感じはある。
「――お待ちくださいっ!」
「……」
この声は、まさか……。振り返ると、薄水色の長髪の少女がこっちに駆け寄ってくる姿があった。確か、あの子は鑑定師見習いのターニャだ。
「……はぁっ……はぁっ……」
「ターニャ、一体どうしたんだ? そんなに急いで……」
「……し、師匠がお客さんに襲われて意識不明の重体にっ!」
「……な、なんだって……?」
「そ、そんな。鑑定師様が……」
あの鑑定師は恨まれるような人には見えない。なんでこんなことに……。




