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第三八回 晴れ時々曇り


「……では、ユージとやら、鑑定するから右手を出しなさい」


「ええっ? もしかしておじさん、僕の手に直接触れちゃう? 手袋つけないの……?」


「な、なんだお主は。わしの手が汚いとでも言うのか……」


 雄士の台詞に唖然とする鑑定師。


「あ、鑑定師様、この子、潔癖症で……」


 セリアが慌てて説明すると、少し間を置いて鑑定師は困惑した顔でうなずいた。


「ふむ。ではカウンターの上に右手を置きなさい」


「は、はい……」


 鑑定師が雄士の右手に顔を近付ける。


「おじさん、なるべく息は当てないでほしいかなって……」


「もうすぐ終わるから我慢せい!」


「うう……」


「……終了だ」


「え、もうっ?」


 安堵の表情ですかさず手を引っ込める雄士。


「うむ……」


「鑑定師様、結果はどうでした!?」


「どうだったんだ?」


「どうでしたあ?」


「……光属性を除く、攻撃魔法を60%無効化できるとある……」


「……す、凄いわ。ユージ様ぁっ!」


「すげーな、ユージ……」


「やりますねえ……」


「……僕よくわからないけど、これってそんなに凄いの?」


「うむ。無効化自体、魔法への耐久能力の種類では上位に位置するのに、それが60%もあるわけだからの……」


「……ふう。これで便所掃除係とか使用人にならなくて済みそう……」


「ん? なんのことだ?」


「か、鑑定師様、今この子が言ったことは気にしないでください!」


「……ふむ」


「身内の話をわざわざ晒すなよユージ……。でも、見直したぜ」


「ミリムも見直しましたよお」


「ど、どうも……」


「もー、みんな調子いいんだからぁ! どう、あたしの見る目、確かでしょー」


「そうだな。一回外れ引いたからって疑っちまった。ごめんな」


「ごめんなさいですう」


「いいのよ……。でもこれで完全に証明できたと思う。見た目こそ正義ってねっ」


 雄士の能力が大当たりだったこともあり、セリアたちの表情はいずれも晴れ晴れとしていた。


「この固有能力ならさ、使える魔法の種類も多そうだよな。なあ、実際そうだろ、鑑定師さん」


「うむ。光だけは無理だが」


「やっぱりなあ……」


「素晴らしいですねえ……」


「はあぁ……これってもう、最高の固有能力を持った勇者の誕生じゃない? 超大物の予感だわ……」


 うっとりとした顔で雄士の横顔を見つめるセリア。


「うーむ……確かに良い能力ではあるが、最高ではないのう……」


「……へ? 鑑定師様、まだ上があるってことですか?」


「うむ。昨日鑑定したコーゾーとかいう勇者の固有能力が最高だったのお。というか、あれは別格だ。あの者こそ、勇者の中で五本の指に入るどころか、伝説の勇者になれる素質がある……」


 鑑定師の台詞により、その場に暗雲が漂い始めたのだった……。




 ◆ ◆ ◆




「コーゾー様、こっちですっ」


 アトリに手を引っ張られて草原を走る。闇魔法がレベル5になったのであとは水魔法を5にするだけだが、それをすぐ上げるための良い場所があるのだそうだ。


 ――しばらくして草原はなだらかになってきたが、その代わりのように周囲にはコケや草を生やした岩が多く見られるようになった。


「ここです」


「アトリ、ここにはどんな魔物が出るんだ?」


 あれだけいたブルーワームがまったくいないし、おそらく別の魔物に水魔法を当てることになるんだろうが、今のところ魔物らしき姿は見当たらない。


「あれを見てください」


「あれ……?」


 アトリが指差す方向には、緑に覆われた大きめの岩があった。


「コケまみれの岩だな。あれがどうかした?」


「よく見てください」


「ん? ……あっ」


 岩が動いたかと思うと、人の姿になってゆっくりと歩き始めた。二メートルくらいだろうか。目も鼻も口もなく、大雑把な人の姿をしている。よく見るとちらほらいるのがわかるが、襲ってくる気配は微塵もなかった。


「グラスゴーレムっていう、地属性の魔物です。物理攻撃はまったく通じなくて、魔法を当てるとアクティブ化します。とてもタフなので火魔法が有効ですが、水魔法でも根気よく当て続ければ倒せると思います」


「なるほど……当てたら向かってくるってことは、魔法を出すだけなら問題ないのか」


「もちろんです」


 それを聞いて安心した。動きが鈍いとはいえ物理が効かないってことはアトリでも倒せないってことだし、あんなのがワームみたいに魔法に反応していっぱい近付いてきたら肝を冷やしそうだ。


 試しに遠くにいるグラスゴーレムにレベル1の水魔法を当ててみようしたが、まったく届かなかった。とはいえ近付くのは危険ってことで、レベル8の火魔法を当てて誘き寄せることにする。お、来た来た……。


 迫ってきたところで水魔法に切り替えて当て逃げする。ゴーレムの足は遅くても結構な迫力があって緊張したが、出し続けたことでレベル2になったらしく射程も伸びて大分楽になってきた。


 ん? シャイルが肩にいないなと思ったら、近くにある草の生えた岩の上でリーゼ、ヤファと並んで座っていた。


「なんだか平和ね、ここ……」


「ですわね。天気もよろしいですし紅茶でもいただきたい気分ですわ……」


「眠くなるのだ。ふわあ……」


「……」


 珍しく仲良くしてる……。って、よく見るとあの岩、ゴーレムだな……。


「「「わっ!?」」」


 岩が突然動いたので、みんな慌てて逃げてる。ゴーレムはまったく気にしてない様子で明後日の方向に歩き始めたが……。


「――コーゾー様!」


「……はっ……」


 アトリに言われてはっとした。すぐ近くに水魔法を当て続けていたゴーレムが迫ってきていたからだ。しかもごつごつした手を勢いよく伸ばしてきて、アトリが間に入ってきたのでまずいと思った矢先、バラバラに崩れていった。……どうやら倒したらしい。危なかった……。


「ごめんなさい、コーゾー様、私余所見しちゃってました……」


「いや、俺のほうこそ心配かけて悪かった……」


「……なんだか私たち、謝ってばかりですね……」


「……そうだな」


「ふふっ」


「ははっ」


 アトリと笑い合う。……っと、どれくらい上がったのかと思って精神鏡を見てみたら、水魔法のレベルは既に5になっていた。これで全ての属性魔法が5以上だ。いつの間にかみんなも覗き込んでるし、気になってたんだろうな……。空は曇ってきたが、気分は上々だった。


「おめでとうございます、コーゾー様っ」


「マスター、おめでとー」


「おめでとうですわ、ご主人様……」


「おめでとうなのだー!」


「ああ、みんなのおかげだ。ありがとう……。さあ、いよいよジョブチェンジだ!」


「「「「おー!」」」」

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