第三七回 呪ひ言
「おいセリア起きろ! もうすぐお前の王子様の出番だぞ!」
「……え、え?」
ロエルに肩を揺さぶられて起きるセリア。欠伸しながら周囲を見渡すと、自分たちの後ろにはまだ多くの人が並んでいたが、前にいる人はもう十人だけだった。
「もうこんなに減ってたのね……」
「ったく、呑気なもんだ。こっちは散々待たされてくたびれてるってのにスヤスヤ寝やがって……」
「……ごめん、ロエル。だって、眠かったし……」
「うふふ……。セリアさんは珍しく召喚を頑張っていたのでえ、今になって疲れがどっと出たんですよお……」
「……うん。ミリム、あたし本当に死ぬほど頑張ったのよ。あの汚いおっさんを召喚しちゃった過去を消したくて……」
セリアは雄士の召喚に成功した瞬間を思い出して感涙する。その間にも前に並んでいた人はどんどん減り、三人だけになっていた。
「お、いよいよだな」
「ですねえ」
「ついに、あたしのユージ様の能力が秘密のベールを脱ぐのね……。きっと凄い能力のはずよ。なんせ見た目がいいんだもの……」
セリアは目を潤ませてプルプルと震えた。
「外れだったらまた召喚しなくちゃいけない羽目になるってのに……」
「そうですよお。あまり期待しないほうがあ、あとで落ち込まなくていいかもですよお……」
「怖いこと言わないでよ、ロエル、ミリム。よっぽどの外れ能力じゃなきゃ、もう召喚なんてするつもりはないし……」
「あー、僕も緊張してきた……」
「大丈夫よ、ユージ様。万が一ダメダメだったとしても、あたし専用の使用人にするだけだし……」
「ひい……。なんかもっとドキドキしてきたんだけど……?」
「もー……素直じゃないんだからっ」
「ひっ!」
雄士に抱き付こうとするセリアだったが、あっさりかわされて後ろに並んでいる禿げた小太りの勇者に抱き付いてしまった。
「ぐふふっ、大胆だね、お嬢ちゃんっ……」
「……う、うぇっ。汗臭っ! 気持ち悪っ!」
「……な、なんなんだよ。自分から抱き付いておいて……。本当はボキュみたいなのが好きなくせに……」
「んなわけないでしょ不細工! 死ねハゲ!」
「怖っ!」
「「はあ……」」
順番はもう回ってくる寸前だったが、ロエルとミリムの溜息はまだ終わる気配がなかった……。
◆ ◆ ◆
「……死ね、死ね……」
アトリに言われた通り、弱っているブルーワームにレベル3の闇魔法を重ねて呪うも、なかなか死なない。それもそのはずで、闇の面積が小さくなっているのがわかる。疲れからか、維持力が大分下がっていた。
「コーゾー様、闇魔法の維持力がほかのと比べて弱いです。もっと心の中のドス黒い部分を出していきましょう」
「ああ……」
アトリが言いたいのは、維持力が下がっている分、気持ちを出していけということだろう。
しかし、ドス黒い部分かあ……。正直あまり出したくないが、自分にもそういう暗い部分があるのは事実だし、維持力が下がっている分仕方ない。思い切っていくか。俺は悪人、悪人だ……。
「……くたばれ、くたばれ……」
「いいですっ、その調子です!」
闇が広がり、アトリの顔がぱっと明るくなった。今回の呪いはワームにはかなり効いている様子で、死ぬのは時間の問題に思えた。俺が呪ってる対象は、実は親に迷惑ばかりかけていた昔の自堕落な自分だから複雑な心境だが……。
――お……ワームがやっとくたばってくれた。ようやくだ……。でも精神鏡で確認するとまだレベル3のままで落ち込む。維持力が下がってるのが影響してるっぽい。これじゃ先は長いな……。
「負のパワーが足りないみたいですね」
「どうすりゃいいんだろうな……」
「……こ、こうなったらみんなでコーゾー様を……その……」
「ん?」
「貶すしか……」
「……」
気まずいムードだ。でもアトリの気持ちはなんとなくわかる。
「……コーゾー様、初めに言っておきますが……」
「いや、いいよ。言い訳なんかしたら、負のパワーが薄まってしまうかもしれないしな」
「……はい。みんなも負のパワーをコーゾー様に集めましょう」
「「「……はーい……」」」
応援とは逆だからな。シャイルたちの声が沈むのも仕方ないか。
――いつものようにアトリがブルーワームを弱らせて、俺が闇魔法を重ねる。ここからが本番だ。
「……コーゾー様、頑張らないでください……。あなたなんかに期待してないです……」
「……」
「マスターってホント頼りないね……」
「ご主人様、最低ですわ……」
「コーゾー、負けてほしいのだ!」
「……」
みんな無理してる感じはあるが、割と効くなこれ……。でも闇魔法はしっかり維持できてる。しかも、もう倒したしレベルも4になってた。これならすぐいけそうだな。
「コーゾー様、ごめんなさい」
「マスター、ごめん……」
「ごめんなさいですわ、ご主人様……」
「コーゾー、ごめんなのだ……」
「いや、いいよ。もっと貶してくれ」
「「「「はい……」」」」
アトリたちの目が怪しく光った。正直なところ、ちょっとは楽しんでそうだな……。




