第三四回 学び舎
「それでは、五大魔法職のうち、まず魔術師の特徴からお話します」
「「「わー!」」」
「そこっ、騒いじゃダメですよ!」
「「「はーい……」」」
まるで先生と生徒だ。アトリとシャイルたちのやり取りを見て俺は気が付けば笑っていた。宿の一室は決して広いとはいえない空間だったが、みんなで休憩して一晩過ごす場所としては充分だった。
「アトリ先生、頼むよ」
「コーゾー様……」
「そんな困った顔するなって。先生なんだろ」
「ではコーゾー君、心して聞くように」
「ああ……」
「ああ、じゃありません。はいでしょ!」
「……」
なかなかノリがいい。緊張からか声は震えてるが……。
「はい、アトリ先生」
「よろしいっ……それじゃ、始めます。まず魔術師から。光属性を除く、いずれかの属性を7まで上げると転職することができます。六つの属性のうち、どれか一つでも魔法の才能があればなれる職なので数は多いです。でもその分洗練されていて、実力者と初心者ではかなりの差があります。攻撃、防御、補助……バランス面で一番優れているのは魔術師です」
なるほど。俺は色んな属性魔法が使えるし、普通に考えたら魔術師になるのが一番な気もする。あの魔女も魔術師のようだったしその分インパクトが強い。ただ、なんのジョブにするか決めるのはまだ早い。アトリの話を全部聞いてからだ。
「次は法術師について説明いたします。これは光属性の魔法を5まで上げればなることができます。治癒や補助的な色が強い職で、かつては治癒師とも呼ばれていましたが、攻撃面でもかなり強いことがわかってから法術師に名称が変わったという経緯があります。特に闇属性の魔物に対してはほかの魔法職の追随を許さないほどの威力を発揮することができます」
へえ、攻撃面もそこそこみたいだな。法術師なら味方の回復もできそうだし良さそうだ。正直こっちのほうに少し気持ちが傾いたが、まだ魔術師のほうに思いは寄っている。
「三つめは召喚師です。七つの属性のうち、いずれかの属性魔法を8まで上げるとなることができます。勇者や精霊を召喚できる上、精霊――妖精の集合体――の力を直接借りることができるために魔法の威力では一番ですが、その分ほかの分野では劣ることになります。精霊の召喚に成功すれば強いですが、成功率はレベル10でも50%ほどで、立ち上がりもかなり遅いです……」
んー……これ結構いいかもしれないな。威力では一番ってところに興味をそそられるし、デメリットもはっきりしている。成功率は杖で上げればいいだろうし、多少魔法の発動が遅れたとしても俺の固有能力なら耐えられそうだし、このジョブにするのもありだと思える。今のところ魔術師と召喚師、半々ってところだ。
「四つ目は呪術師です。闇属性の魔法を4まで上げればなることができます。呪術は直接的な攻撃はできませんが、相手に制約を加えて、それを相手が破ると呪いが発動し、強力なものでは即死させることもできます。呪いは特殊で詠唱の必要がなく、術者が術を解くか上書き、あるいは死亡しない限り効果が持続します」
……これは、多分《束縛の刻印》とかああいうのだろうな。興味はあるが、自分には合わない気もする。人を呪わば穴二つというし……。
「最後は結界術師です。無属性魔法を6まで上げることでなることができます。攻撃面では頼りないですが、防御面ではこれに勝るジョブはないでしょう。ただし、どれも一時的なものです。また、ほかと比べても精神力の消耗が激しく、術の使いどころが難しい職だと言えるでしょう」
つまり、特に経験がものを言う職ってわけか。あと一カ月ほどでそこまで辿り着けそうにもないしこれは除外してよさそうだな。そもそも結界術自体、俺の耐性能力と被るし……。
「コーゾー様、私の説明どうでしたか?」
「わかりやすくてよかったよ、アトリ先生」
「もー、終わったんですから先生はやめてください……」
「あはは……って……」
どうにも静かだと思ったら、シャイルたちは寝てしまっていた。
「あらあら。いけない生徒たちですねぇ……」
「だなぁ……」
俺はしばらくアトリと笑い合った。
「……」
みんなの寝息を聞きながら、俺は真っ暗な天井を眺めていた。
あれから色々考えたが、まだなんのジョブにするかという結論は出ていない。ただ、候補を魔術師と召喚師に絞ってきてはいる。俺は火魔法のレベルが8だから、法術師も含めて三つの職になれる権利を既に得ているんだ。どれも捨てがたいが、待たせるわけにもいかないので朝までには結論を出そう思う。
そういえばあの鑑定師、どのジョブにすればいいかとかのアドバイスはしてこなかったな。俺の固有能力を視てからかなり興奮した様子だったし、単に舞い上がってて忘れてたのかもしれない。
昨日熱が出たとかでこっちも遠慮してた面はあるが、今思えば気付いた時点で聞いておけばよかったな……。
さらに俺を迷わせていたのが、アトリが説明の捕捉と言って話したことだ。それは傾向といって、術者の性格や思考、使う術の頻度等によって覚える術が変化していくというものだった。同じジョブでも大雑把に分けて戦闘型、バランス型、防御型があり、攻撃的にいくか、守備的にいくか、どれを選択するかによって覚える術も変わっていくという。
つまり、自分の魔法耐性が高いのを利用して、魔術師を選択して攻撃的にいくという選択肢もあるわけだ。魔法の立ち上がりも早いというし、発動までイライラすることも少ないだろう。ただ、そこはぐっと我慢してでも召喚師になって、さらに攻撃面に特化するというのも面白そうだしな……。
……ダメだ。結論を出してから眠ろうと思ってたのに、段々と意識が薄れてきた……。




