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第三一回 鑑定屋


 鑑定屋『ディープ・フォレスト』は、教会のすぐ隣にある納屋のような質素な木造の建物で、森林模様のアイアン看板が目印の店だった。


 ただ、そこに行けるのはまだ先になりそうだ。夕陽に照らされながら鐘の音を聞く頃、俺たちはその前に出来上がった大行列に加わっていた。


「アトリ、ここはいつもこんなに多いのか?」


「確かに人気のある鑑定屋なんですが、今日は特に多いです……」


「そうか……」


「もー。あたちだったら割り込むのに……」


「シャイル、はしたないですわよ」


「はしたないのだ!」


「ふんっ。お人形なだけあって、リーゼは綺麗事が好きみたいね。それにヤファ、あんたにだけは言われたくないわよ……」


「お人形は余計ですわ!」


「失礼なのだ! ガルルッ……」


「こらこら、騒いじゃダメですよ」


「「「はーい……」」」


 アトリが宥めてくれたおかげで、周囲から集まる視線を抑えることができた。探しにきたセリアたちに見つかる可能性もあるし、なるべく目立ちたくないんだよな。


 最初は一体どれくらいかかるのかとぎょっとしたが、今じゃ結構人が減ってるから鑑定までの時間はそうはかからないように思えた。それにしても、これだけ人気があるなら鑑定師は儲かりそうだが、商都にある鑑定屋はここを含めて三件ほどしかないという。


「アトリ、鑑定師になるのってどれくらい難しいんだ?」


「一応魔法職の一つで、無魔法さえ覚えることができれば鑑定師になれる可能性はあるんですが、なってからのほうが大変だそうです」


「へえ……詳しく教えてくれないか?」


「はい」


 ――順番を待つ間、俺はアトリに色んなことを教わった。


 無魔法レベルを5まで上げるとなれるという鑑定師は、さらに無魔法を鍛える過程で覚える鑑定術の一つ、《解読》《精霊言語》《読心》をそれぞれ5まで上げればようやく二流の鑑定師として認められ、店を開ける許可証を商人ギルドで貰えるのだという。


 ちなみにこれらの術のレベルを上げるには、それによってひたすら難解な古代言語――異世界言語――で書かれた書物等を読み解く必要があるのだそうだ。術レベルが上がれば上がるほど、鑑定のスピードと確実性も上昇していくという。


 ここの鑑定師はそれらのレベルが最高の10ということで一流の中でも人気が高く、召喚された各地の勇者だけでなく、一般人も頻繁に訪ねて来ることで有名らしい。


 上級の鑑定師は勇者の固有能力についてその奥深くまで詳しく教えてくれるだけでなく、あらゆるステータスを掘り出すことができ、将来的にどれが伸びやすいかまで判断できるそうだ。それで自分に適したものが何か掴めるわけだし、勇者だけでなく一般人に人気が出るのもわかる気がする。




 ――しばらくしてようやく俺たちに順番が回ってきた。午後六時を過ぎたら、行列がなくなり次第閉店するということもあり、一番後ろのほうだったので急いで中に入る。


 ここが鑑定屋の中……。外観もそうだったが内装も絨毯さえない簡素な部屋で、緑色のローブに四角い帽子姿の白髭の爺さんが、中央奥にあるカウンター上の分厚い書類に目を通しているところだった。あの人が鑑定師っぽいな。一人で全部こなしてるんだろうか? 大変そうだが、それだけ職人気質的なものを感じる。


「鑑定師様、お久しぶりです」


「おお、アトリか。元気にしておったか?」


「はいっ」


「……」


 知り合いか。そういや奴隷の店の主もそうだったな。


「今日は、勇者様を鑑定してほしくてやってきました」


「そうかそうか、そりゃ待たせてしまったな。昨日熱を出して寝込んだせいで、今日はお客さんが特別多かったのだ……」


「そうなんですね……」


「っと、悪いが閉店も近いし、早速鑑定に入らせてもらうよ」


「はーい。コーゾー様、カウンター前に……」


「ああ。鑑定師さん、よろしくお願いします」


「うむ。わしのほうこそよろしく。お主、今まで視てきた勇者と比べて、大分貫録があるのお」


「そ、そりゃどうも。歳だけ重ねてるタイプですが……」


「年齢は気にするな。歳を取ると気力が衰えるとか抜かすやつがおるが、逆だ。見識を深めることでやりたいことが多くなるがゆえに体力が追い付かなくなる。それで気力がないように感じてしまうのだ。精進せい」


「はい……!」


 この人の目、近くでよく見ると凄い迫力を感じる。なるほど、俺は年齢に甘えていただけなのかもしれない。これからはアトリが言ってた通り、もっとよく食べないとな……。


「さあ勇者よ、まず右手の手相を見せてもらうぞ」


「あ、はい」


 右手を出すと、鑑定師は何やらぶつぶつと呟き出した。ようやく聞き取れるくらいの声だが、明らかに俺の知ってる言語じゃないな。かなり集中しているらしく、その額には汗が滲んでいた。


「――……終了だ」


「え、もうですか?」


 手相を見始めてから一分くらいで終わった。早い……。


「ど、どうでした、鑑定師様……」


「マスター、どうだったの?」


「ご主人様はどうでしたの……?」


「コーゾーはどうだったのだ!?」


「……」


 アトリたちのほうが結果が気になる様子で、一様にカウンターに身を乗り出していた。ちらっと鑑定師のほうを見ると、呆然としているのがわかった。


 みんな一斉に訊ねてきたからなのか、それとも俺の固有能力に対しての反応なのか……。結果がもうすぐ出てしまうと思うと、魔女と対峙しているときに近い緊張感に包まれた。どうか、みんなが喜ぶような良い能力であってほしい……。

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