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第二七回 檻


「どこに連れて行くおつもりなんですか?」


 アトリの発言で、目の前にいる二人がぽかんとした顔になる。何か変なことを言ったようには聞こえなかったが……。


「お、おい、今の聞いたかよ」


「聞いた聞いた。どこに連れて行くおつもりなんですか? ご主人様」


「プククッ……」


 アトリの台詞が丁寧だったことがよっぽど面白かったのか、白いローブの華奢な青年がおどけた顔で真似をしたことで、隣にいる太った男が噴き出した。


「もう一度言います。私たちをどうするおつもりですか?」


「……ヒー、笑い殺す気かよ。とりあえず自己紹介させてもらうぜ。おいらはエルガドっていう結界術師でな、そこにいる痩せっぽちの相方はロニーっていう法術師だ。よろしくな、アトリ、コーゾー」


 腹の出た青いローブ姿の男が、所々欠けた黄色い歯を見せて笑う。


「な、何故私たちの名前を……」


「あ、俺が説明するよ。ご主人様」


「ククッ……おいロニー、いちいち笑わせにくるんじゃねえ」


 またしてもロニーという鶏がらのようなやつがおどけて、エルガドが大きな腹を揺らして笑い始める。なんとも不快な連中だ。


「つまり俺とエルガドは、あんたらに懸賞金がかかってたからそれに乗っかったってだけ。行先はセリア邸でございます、ご主人様」


「ククッ……」


「……」


 なんだって? セリアだと……? あいつら、俺たちを追い出したも同然のくせに、今更捕まえてどうする気なんだ……。


「多分、行けば殺されます……」


 アトリの台詞に打ちのめされる。


「アトリ、俺たちが何をしたっていうんだ……」


「おそらく、勝手に出て行ったことを理由にして、拷問してそのまま殺すつもりでしょうね。気に入らないという理由だけで殺されてもおかしくありません。この世界では……」


「……よくわかんないけど、酷い」


「酷いですわ」


「酷いのだ! ガルルッ……」


「おいおい、盛り上がってるところ悪いけどよ、さっさとついてきてもらわねえとこっちが困るんだよ」


「言うことを聞かないなら、多少怪我させてもいいって言われててね。ま、そういうわけだから大人しくついてきたほうがいいかと……ご主人様」


「ククッ……」


 また笑ってる。


「《スラッシュクイッケン》!」


「《ファイアーケージ》!」


「うっ……」


 アトリが攻撃できずにいる。それもそのはずだ。彼女の目の前には炎で形作られた檻ができていて、ロニーとエルガドがその中に入っていたからだ。これも結界の一種なのか……。


「どうしたあ? その剣でおいらたちをやっつけるつもりだったんだろうがよ。やれよ。ご主人様」


「ププッ……。そんな命令口調の召使いはいないって、エルガド……」


「ロニー、てめーが散々笑わせてきやがったからやり返しただけだってんだよ。さあ、来いよ。アトリとやら。ちょっとでも炎の檻に触れたら、勢いよく燃え上がっちまうけどよぉ……」


「《ウィンドブレード》!」


 アトリが振り下ろした剣から鋭い風が発生する。……だが、炎の檻の一部が少し揺らめいただけで、なんの変化もなかった。


「……うぅ……」


 アトリの肩と足が小刻みに震えている。実際に目の当たりにするとよくわかるな。魔法職と物理職の圧倒的な差が……。


「ん? 今なんかしたか? この炎の檻はよぉ、火じゃなくて強靭な魔力が骨格だ。この魔力を超えるものでない限り、そう簡単に打ち消せやしないぜ。おめーの攻撃なんて、鉄格子に浴びせる豚の鼻息みてえなもんだ。納得したかな、ご主人様」


「ブフッ……。だから無理矢理ご主人様をねじこむなって、エルガド……っと、俺も仕事しなくては。《マジカルフェター》!」


「……な、なんだ……」


 法術師ロニーが発した言葉から少し遅れて、光球が杖の先から幾つも発生したと思ったときには肩に当たってしまっていた。……あれ? 痛みはないが、そのせいか体が重くなった。みんなもそうらしくてぎこちない動きをしている。まるで見えない足枷でもつけられたかのようだ……。


「ロニー、ナイスだ。これでお前らは足枷をつけられた罪人みてえにしばらくのろのろとしか動けないぜ。おいらの魔法を浴びないとまだ現状が理解できねえっていうなら逃げてもいいが……どうする? ご主人様」


「早くお逃げください、ご主人様」


「「プププッ……」」


「……」


 この状態で逃げても逃げきれないし、やられるのは目に見えている。戦うことも逃げることもできないなら、一体どうすりゃいいんだ。このままセリア邸まで連行されていくしかないっていうのか。シャイルたちもこの絶望的な状況がわかるのか、一様に塞ぎ込んでいる様子だった……。


 心を動かすようなことを考えているんだが、彼らはならず者だ。下手をすれば怒らせてしまう可能性さえある。彼らに通じるのは、おそらく……あれしかない。


「ちょっといいかな」


「ん? なんだ、おめーもやんのか?」


「やるなら来いよご主人様」


「君たちの報酬はどれくらいなんだ?」


「「あ……?」」


 俺の発言でやつらがまたきょとんとした顔になる。


「俺たちを連れて行くように依頼されたんだろう? その成功報酬はどれくらいかって聞いてるんだ」


「……なんでおめーにそんなこと教えなきゃいけねえんだよ!」


「まったくだ。教えたって、あんたの懐に入るわけじゃないんだよ?」


「いいから教えてくれ。それくらいいいだろう。それとも凄く安い報酬だから恥ずかしいのか?」


「アホ! 聞いて驚くな。500グラードだ!」


「ん? どうした? ぐうの音も出ないのです? ご主人様」


「少ないな……」


「「……何?」」


 呆れるように言うと、明らかに男たちの目の色が変わった。


「おいら、頭に来ちまったぜ。少しなら怪我させたって平気だよな、ロニー……」


「ま、ちょっとくらいならいいと思うよ、エルガド……」


「こ、コーゾー様……?」


「アトリ、今は俺に任せてくれ」


「はい……」


 言葉は魔法だ。人の心を傷つける闇魔法もあれば、癒す光魔法もある。そして惑わせる風の魔法も……。まだ40年しか生きてない浅はかな自分だが、なんとか話術によってこの状況を打開してみせるつもりだ……。

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