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第二六回 絶対的優位


「見つけた!」


「見つけましたわ!」


「見つけたのだー!」


 またシャイルたちが激しく取り合ってる。よく見えないが、あれは三種類目のキノコだろうか。そうでなければまた探すまでだが……。


「こらこら、そんな風に乱暴に扱ったらキノコが千切れちゃうでしょ! 私がコーゾー様に見せますからよこしなさい!」


「「「はーい……」」」


 アトリも宥める余裕が出てきた。俺たちはああいう危機的状況を乗り越えたことで、精神的に少しだけ強くなれた気がする……。


「コーゾー様、見てください」


「……これは……」


 アトリが見せてきたキノコは全体的に赤っぽくて小さく、紛れもなく今ある青みがかった長細いものや黄色くて幅の大きいものとは別種類のものだった。この洞窟に生えるキノコは三種類しかないというから確定だ。これで依頼されている薬草二種類、キノコ三種類が揃った。このまま持ち帰れば3000グラードもの大金が手に入るというわけだ……。


「アトリ、シャイル、リーゼ、ヤファ、ありがとう。みんなのおかげで揃えることができた……」


 まずい。涙が込み上げそうになって、みんなから顔を背けてしまった……。


「……コーゾー様、安心するのはまだ早いですよ?」


「うん。マスター、あたちもアトリの言う通りだと思う。洞窟を抜けて、ギルドに戻って、報酬を受け取るまで油断は禁物なんだからっ」


「わたくしも同意しますわ。生意気を言ってしまいますが、ご主人様の涙を見るとこっちまで感動して泣いてしまうので自粛してほしいのです……」


「あ、ああ、すまない……」


 そこで誰かのお腹が盛大になった。座り込んでお腹抱えてるし、多分ヤファだな。


「うー、お腹空いたのだあ……」


「……ヤファのお腹が一番油断してたな」


 俺の台詞で笑い声が上がる。自分の涙も乾いていい感じだ。


「報酬でいっぱいご馳走してやるから、それまでの我慢だ」


「「「「わーい!」」」」


「……」


 アトリまでシャイルたちに交じって喜んでる。でも体が小さいせいかあまり違和感がない。本当に、洞窟で魔女と対面するまでのアトリと今の彼女は別人だった……。




 ようやく洞窟の出入り口が見えてきた。全てが報われるときも近い。


「……マスター、待って。この方角、凶って出てる……」


「え……」


 シャイルの発言で、俺を含めてみんなの足が止まる。


「どういうことだ? まさか、また魔女……?」


 アトリのほうを向くも、彼女は首を横に振った。


「いえ、コーゾー様。魔女の気配は感じません」


「じゃあ、一体……」


 とはいえ、このままいつまでも洞窟に留まるわけにもいかない。魔女がいなくなったとわかれば、たちまちほかの冒険者が高額な報酬に釣られて集まってくるだろうからだ。


「シャイル、その凶ってのはどれくらいの規模なんだ?」


「……うーん。あたち、そういうのは区別がつかなくて。わかるのは、悪いことが起きる可能性が高い方角ってだけだから……」


「……そうか」


「コーゾー様、どうされますか?」


「……行こう。注意だけは怠らないように」


「はい……」


 この先が凶だとわかっていても、行くしかない。気を引き締めていけば、悪いことが起きる確率も減るかもしれない。不安はあるが、魔女に殺されかけたときの恐怖に比べれば全然大したことはない。


 ――徐々に出入り口は近くなっていって、もはや灯りはいらないレベルになってきた。


「……誰かいます」


 アトリの声で緊張が走る。出入り口寸前で俺たちは再び立ち往生する羽目になってしまった。


「……敵か?」


「わかりません。いるのは結界術師と法術師みたいです。今のところ敵意は感じませんが……」


「……あ……」


 一体どんなやつがなんの目的で待ち伏せしているのかと警戒していた矢先、向こうのほうから現れてきた。青いローブを着た髭面の太った男と、白いローブ姿の華奢な青年だ。どっちも先端にドクロがついた不気味な杖を握っている。武器屋で見かけたものと同じだ。確か、魔法の威力が3%上がるスカルロッドってやつだったかな。


「「うわ!」」


 二人とも俺たちを見た途端、動揺した表情で後退りするも、まもなく顔を見合わせて会釈してきた。


「どうも……」


「へへっ……」


 ん……彼らの顔、なんか見覚えがあるな。ギルドで俺たちのことをちらちらと見てきた二人組だったような……。


「あ、あなたたちは何者ですか……?」


 アトリが厳しい顔で剣を構えても、彼らに怯えた様子は一切見られない。それどころか、二人ともにたにたと薄気味悪い笑みを浮かべている。最初にあんな反応を見せたのは、魔女を怖がってたからっぽいな……。


「ま、別にそんな大した用事じゃなくてね、ちょっと俺たちについてきてくれるだけでいいの。拒否はさせないから」


「そうそう。怪我したくねえなら大人しくしてろよ……」


 白いローブの青年が悠然と話し、同伴の男がにんまりとした顔でうなずく。彼らが敵だと判明した瞬間だった。ギルドで俺たちを見ていたのは、珍しいからじゃなくて狙っていたからなのか……。


「……くっ……」


 そこまで強そうな二人には見えないのに、あのアトリが手を出せずにいる。それが魔法使いの絶対的優位を物語っていた。


「ほーら、マスター。あたちの言った通りだったでしょ……」


「シャイル、自慢げに語る状況ではないですわ……」


「そーなのだ。ピンチなのだ……」


 シャイルたちの会話を呆然と聞く。凶と出ていたのはこういうことだったのか。この二人の目的はなんなんだ。一体、俺たちをどこに連れていこうっていうんだ……。

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