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第二三回 気配


「あ……」


 突然視界が真っ暗になった。どうやら燃料の雑草が燃え尽きたようだ。あまり休憩できなかった気もするが、そろそろ潮時だな。


「「ひー……」」


 小さな悲鳴が起こっている。多分リーゼとヤファだな。声が重なっていてもわかるようになってきた。それだけ一緒にいるからだが……。


「やれやれっ。リーゼもヤファも臆病ねえ。あたちは全然平気。むしろこのほうが落ち着くくらいよっ……」


「そ、それはシャイルが闇の妖精だからですわ……」


「あ、あたいもリーゼに同意なのだ……」


「へへーん。リーゼとヤファは怖がりっ、お尻ぺんぺんっ」


「「わーわー!」」


「お前たち、もう休憩は終わりだからそろそろ行くぞ」


「「「はーい……」」」


 シャイルが調子づいてるところ悪いが、このままだと暗くて歩けないので火を点ける。


「うぁっ……」


 異常に火の勢いが強かったので驚きつつ、すぐに小さくする。もしかしたら少し火魔法のレベルが上がってるのかもしれない。あとで精神鏡を覗いてみるか……。




 ――それからしばらく歩いたが、洞窟は大きくて歩きやすい分、とても広くて薬草とキノコを見つけるのにてこずっていた。魔物はアトリが瞬時に倒してくれるからその分楽ではあるんだが、時折疲れからか彼女の足がふらついているのがわかるので、なるべく早く見つけて終わらせたいという気持ちが強かった。


「リーゼ、ヤファ。いい? あたしが先に見つけてマスターに報告する運命なんだからねっ」


「シャイル……大した自信ですが、それが仇となる可能性もありますわね。灯台下暗しって言葉をご存知? オホホッ……」


「リーゼに同意なのだ。でも先に見つけるのはあたいなのだ!」


「「「めらめら……」」」


 シャイルたち、どっちが先に薬草とキノコを見つけるか勝負してるらしく激しく火花を散らしていた。


「ま、せいぜい頑張りなさいよねっ。最後にはあたちが勝つんだもん」


「わたくしです」


「あたいなのだ!」


 これだけシャイルが自信満々なのも、いつからか魔女らしき恐ろしい気配を感じなくなったからだそうだ。そのため、吉の方角がわかるということで今じゃ先頭を歩いていて、俺たちもそのあとに続いていた。アトリもシャイルのすぐ後ろで索敵に集中しているため、無言状態が続く。


「……」


 しかし、魔女はなんでこの洞窟に入ったんだろう。


 もしかして、マッチポンプ的に自分が存在することで洞窟の依頼の難易度を上げて、別人に成りすますとかで報酬を受け取る気だったんだろうか。でも、魔女ほどの力があるならそんな面倒臭いことをせずに直接ギルドを襲えばいいだけな気もする。こればっかりは考えてもわかりそうにないな……。


 ただ言えることは、あの魔女はそんなに悪いやつには見えないってことだ。俺がお人よしなだけかもしれないが……。




「――見つけたー!」


「お……」


 シャイルが何かを見つけたらしく、右側の壁に向かって一目散に走っていく。


「あ、それわたくしが先に見つけたものですわよ!」


「あたいだって!」


 リーゼとヤファがシャイルのすぐあとを追いかけて、三人で薬草を奪い合う形になった。というかすぐ近くに同じものが幾つも生えてるのに気付いたようで、みんなそれぞれ薬草を手にダッシュして戻ってくる。


「はい、マスター!」


「はい、ご主人様!」


「はい、コーゾー!」


「……」


 三人がほぼ同時に渡してきた薬草は、既に採取しているものとは別の種類だった。よし、これで薬草の採取は終了で、あとはもう一種類のキノコを見つけるだけだな。


「みんな、ありがとうな……」


「もうっ、あたちが先に見つけたのに!」


「わたくしです!」


「あたいなのだ!」


「……こらこら、そんなに騒いでると魔女が出るぞ」


「魔女なんて怖くないもん」


「怖くありませんわ」


「怖くないのだ」


「……」


 参ったな。魔女なんて出てこないほうがいいんだが、シャイルが気配を感じなくなったことが影響してか、みんなビビらなくなってしまった。ただ、油断は禁物だ。洞窟に誰か来たことを察知して、魔女が気配を隠した可能性もある……。


「――左側の通路にいます」


「……え?」


 唐突だった。道が左右に分かれた突き当たりのすぐ前、アトリが立ち止まり、鋭い声を発したのだ。


「……いるって……まさか……」


「……はい。相手が気配を隠しても、《マインドウォーク》で読むことができます。この気配は間違いなく魔女です。こっちのほうに向かってきます……」


「「「ううぅ……」」」


 シャイルたちが青い顔で抱き合ってる。


「……逃げられないのか?」


「もう、無理です。相手も気付いています……」


「……」


「でも、諦めません。絶対……」


 アトリが俺たちに向かって優しく微笑んできた。彼女はどんなときでも他人を気遣うことができる人だ。彼女が一番怖いだろうに……安心させたいんだろう。


「最後までみんなとここから出られると信じたいです……。でも、もしものときのために、コーゾー様、私のお側に。シャイルたちも……」


「……ああ」


 約束だったな。最後までずっと彼女の側にいると……。


「あたちも諦めないもん……」


「わたくしだって……」


「あたいも……」


「もー、あたちの真似しないでよねっ」


「シャイルだってアトリ様の真似してますわ!」


「そーだそーだ!」


「「「わーわー……」」」


 シャイルたちの騒乱は長続きしなかった。俺たちの近くに迫ったことで、魔女は恐ろしい気配を隠す気もなくなったらしい。それは気配なんてものがよくわからない俺でさえ、身の毛がよだつほど圧倒的なものだった……。

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