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第二二回 休憩所


 洞窟に入ってわかったこと。それはアトリが思っている以上に強いということだ。


 天井のほうから一斉に襲い掛かってきた、一回り大きな赤い蝙蝠たち――ブラッディバット――を殲滅する際に使った《スラッシュクイッケン》はもちろん、一切振り返ることなく彼女の背後に迫ったスケルトンをバラバラにしてしまった《マインドウォーク》という剣術にも驚かされた。


 使用すると約五分間持続し、その間精神力が徐々に失われるが、広い範囲で敵の種類や気配を瞬時に感じ取り、攻撃された際にはその軌道さえも感知し、即座に反撃することができるという。


 それを使った状態で彼女が見せた《ウィンドブレード》という剣術は、己の気力を刃に乗せるというもので、遠くから弓を構えていたオークに対して、一撃目で放ってきた矢を弾き飛ばし、さらに手首ごと弓を吹っ飛ばすという結果になった。それらも魔法のようにレベルがあり、どれも達人クラスのレベル10だというから驚いた。


「凄いな、アトリは……」


「……ありがとうございます。でも、剣術には弱点も多いんです。《マインドウォーク》であっても魔法をかわすことは難しいですからね。正直、コーゾー様のやってることのほうが凄いと思います」


「……ん? 俺、何かしたっけ……」


 思い当たることといえば、光の魔法で呑気に洞窟を照らし出す行為くらいだが、これが凄いことだとは到底思えない……。


「洞窟に入ってから結構経つのに、ずっと光の魔法を出されてますよね。正直、考えられないことです。きつくならないんですか……?」


「……え、いや、全然きつくないよ」


「……凄いです……」


「マスター、凄い!」


「凄いですわ、ご主人様……」


「コーゾー、凄いのだー」


「……」


 思ったより維持できてるとは思うが、これってそんなに凄いことなんだろうか……。


「でもあたち、それまぶしくて苦手。火のほうがいい……」


 そういやシャイルは闇の妖精だったか。光の魔法は相性が悪いだろうし火に替えたほうがいいかな。俺もちょっとまぶしいと思ってたし……。


「火に替えたぞ、シャイル」


 水晶の杖の先から出た小さな火が揺らめく。こっちのほうが、ちょっと薄暗くなったがなんか重厚な雰囲気が出る。どこか、温かみもあるし……。


「ありがとー。マスター、大好き。ちゅっ……」


 シャイルに頬にキスされる。とても小さな感触だが照れてしまうな……。


「あー! バカ妖精、わたくしのご主人様になんてことするんですの!」


「ふふーん」


「シャイルだけずるい! あたいもしたいのだー!」


「べろべろべー」


「「わーわー!」」


「こらこら、そんなに騒いでると魔女に気付かれちゃいますよー」


「「「……」」」


 アトリの台詞で途端に静まり返った。みんな魔女が怖いんだな……。




 洞窟内をしばらく歩いた結果、依頼されている薬草が一種類、キノコが二種類生えた空間を見つけることができた。どうなることかと思ったが、今のところ怖いくらい順調にきている。ここは淀んだ水溜まりに定期的に雫が落ちる、そこそこ広い空間だった。周囲には雑草もちらほら生えているのがわかる。


「マスター、あたち暑いー」


「わたくしも暑いですわ……」


「あたいも暑いのだ……」


 シャイル、リーゼ、ヤファの三人は早くもグロッキーな様子で地面に這いつくばっている。みんな体力には自信ありそうなのに、暑さには勝てなかったか……。


「私も暑いですね。コーゾー様は大丈夫ですか? 凄い汗ですよ……」


「ああ、俺もずっと火を出してたから暑い……。風魔法でも出して少し休むか」


「わー。いいですね、それ」


 ここは広いし、入口が狭くて一つしかないし安心感があるから休憩所にはもってこいなんだよな。魔物が集団で入ってくることはできないわけで、一匹程度来たところですぐに対処できるからだ。


「「「わー……」」」


 アトリの返事から少し遅れて、伸びていたシャイルたちからも弱々しい歓声が上がる。とはいえ、このままだと真っ暗になるので雑草をかき集めて火を点ける。あまり長くはもたないだろうけど……。


 適当な場所にみんなで腰を下ろしたが、アトリは入り口付近で立ったままだった。


「アトリは休まなくていいのか?」


「この状態でも少しくらいなら休めますよ。《マインドウォーク》を使って、敵を察知したときだけ攻撃するので大丈夫です」


「そ、そうか……」


 振り返ることなく語ったアトリの小さな背中から並々ならぬ覚悟を感じる。


 ……っと、そうだ。風魔法を出すんだった。水溜まりが小さく波打つ程度のそよ風だが、それでもないよりは全然マシだった。


「――あー、涼しいー」


「快適ですわね……」


「最高なのだ。こんこんっ」


 お、ヤファが上機嫌なのか狐っぽい鳴き声を発した。珍しいな……。


「何よ、狐の真似のつもり? 大体狐ってそんな鳴き声発さないし……」


「……」


 まあよく考えるとシャイルの言う通りだな。


「うぐぅ……喜ばれると思ったのだ……」


 あ、ヤファが白状した。少々あざといけど、いいと思うけどなあ……。


「ほーら見なさい。それに、あんたはどう見ても犬だからわんわんって言ってればいいのっ」


「あら。珍しくシャイルと意見が一致しましたわね」


「あたいは犬じゃないのだー! ガルルッ……!」


「「はい、お手っ!」」


「手を食べてやるのだー!」


「「ひー!」」


「……」


 あんなに駆け回ったら休憩する意味が……。まあ楽しそうだからいいか……。いつもならアトリがみんなを宥めてくれるんだが、このときばかりは集中しているのか微動だにしなかった。なんというか、騎士としての凄みを改めて感じるな。そんなのを子供扱いできる魔法使いはどれだけ化け物なんだか……。

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