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第十六回 称賛


「……アトリ、公園は?」


 教会の近くまで来たっていうのに、公園らしき空間はまだ見当たらない。ただ同じような住宅街が延々と続いているだけだ。


「実はもう着いてるんですよ、コーゾー様」


「……え?」


 冗談を言ってるのかと思ったが、アトリは真顔だった。


「なので、今は空いているところを探し中です」


「じゃあ、この辺一帯にある家は全部魔法の家だったのか……」


 いつ本物の住宅街と魔法の家々の境目が来たのかわからなかった。それくらい自然なんだ。


「魔法の家は、高さやは面積はどれも同じなんですが、見た目や中身はランダムに変わるんですよ」


「へえぇ。面白いな、さすが魔法の家……」


 最早ホームレスの住宅街には見えない。一定の間隔ごとに整然と並んでいる様は圧巻だった。


「早くコーゾー様やみんなに家が建つところを見せたいです。でも、空いてる場所がなかなか見つからないですね……」


 周囲はどんどん暗くなってきている。アトリの言うように、早く魔法の家が建てられる場所を確保したいところだ。


「マスター、こっちの方向が吉って出てるよ」


「お、シャイルの得意技がやっと出たか」


「うん。お腹空いて力が出ないけど、なんとか振り絞ったんだからっ」


「偉いぞ、シャイル」


「偉いですよ、シャイル」


「マスター、アトリ。もっとあたちを褒めてっ」


「シャイル、妖精のくせにやりますわね」


「妖精のくせにやるのだっ」


「ありがと……って、あんたたちに褒められたって、ちっとも嬉しくなんかないんだからっ」


「「わーわー!」」


 怒るリーゼとヤファを宥めて、早速俺たちはシャイルの指差す方向に向かって歩き始めたわけだが、空いてる場所を誰かに取られかねないと思っていつしか早足になった。


「コーゾー様? どうしてそんなに急いでるんですか?」


「場所取りのため!」


「それならあたいに任せるのだ!」


 ヤファが凄い勢いで走り始めた。結構重い荷物を抱えてるのに凄い力だな。さすが亜人……。ただ、主から十メートル以上離れられない《束縛の刻印》の影響で途中から足が空回りしてたが……。




「――先客かよ。ちっ……」


 むっとした顔で白髪だらけの男が歩いてくる。ボロを纏ったホームレスらしき痩せた中年の男だ。その向こうには空き地があり、その前でヤファが得意げにピースサインと笑顔を俺たちに向かって披露していた。


 よかった、間に合った……。ちょっと遅れてたらまた歩き回らなきゃいけなくなるところだった。アトリが言うには、充分なスペースと安定した土台がないと使っても何も起こらないそうで、適当にその辺に建てようとしても上手くいかないのだそうだ。また、公園以外に建てると憲兵に撤去される上に罰金も支払わされるらしい。


「お手柄ですわ、ヤファ」


「ヤファ、なかなかやるわね」


「えへへっ」


 ヤファがリーゼとシャイルに褒められて嬉しそうだ。


「はい、お手っ」


「お手ですわっ」


「あ、あたいは犬じゃないのだ! ガルルッ……」


「やっぱり犬じゃないの」


「確かに犬に見えますわ……」


「むー、もう怒ったから噛むのだー!」


「「きゃー!」」


「……」


 シャイルたちは本当によく騒ぐな……。どこにそんな力が残ってたのかと不思議に思うほどだ。


「みんな元気ですね、コーゾー様」


「だな……」


 アトリと笑い合う。さ、そろそろ飯の支度をするか。


「アトリ、家を建ててから中で準備するか?」


「んー……今建てちゃうと夜中に家が消えちゃうので、あとにしましょう」


「そういや、六時間くらいしかもたないんだったか……」


 なのにこれだけもう魔法の家が建ってるってことは、おそらくここに定住しているホームレスがそれだけいて、一日二回魔法の家を建ててるからなんだろうな。場所取りの意味合いも大きそうだ。


 ――空き地で夕ご飯の支度が始まった。まずはテーブルを作ろうということになり、ヤファが近くの街路樹を倒そうとしたが、さすがにそれはまずいということでなんとか寸前で止めさせた。


 地の魔法で出てきた粘土のようなものを集めてテーブルや椅子、食器等を作り、火の魔法で焼いた。アトリによると気持ちで魔法の質は変わるらしく、たとえば地魔法では攻撃的だと石のようになり、柔らかい気持ちだと土に近くなるという。風の魔法で程よく煽ったおかげか、十分もかからずに出来上がった。異世界の土が固まりやすいというのもあるのかもしれない。


 調理の下準備として、例の木から枝だけ幾つか調達して火を点け、その左右に石を積み、手作りの鍋を置いた。俺の水魔法で出した水を加熱しておこうってわけだ。


「コーゾー様凄いです……。なんでも出来ちゃうんですね……」


「い、いや、全部魔法のおかげだよ」


「魔法の力だけじゃないです。コーゾー様には、それを生かせるだけの知識や技術があると思います」


「……うん。マスター凄いよ」


「ご主人様、凄いですわっ」


「コーゾー、凄いのだ!」


「……」


 照れ臭くてついそっぽを向いてしまったんだが、それが受けたのかみんなくすくす笑ってる様子だった。褒め殺しは結構効くなあ……。


「では、私はこれで食材を切ってきます!」


 俺が作った陶製のナイフを手に、アトリがテーブル上に置かれた食材に向かい合った。彼女のショートソードはナイフにするには大きいし、切るよりは叩くほうが向いてそうだからな。


「――……アトリ様、それでは折角の食材が台無しですわ」


「うぅ……」


 テーブル上でアトリが皮を切ったじゃがいも、かなり小さくなってしまっている……。


「わたくしにお任せあれ……」


「……わ、わあ……」


 アトリが呆然とするほどリーゼは巧みに皮を剥いていて、しかもあっという間に終わらせてしまった。なんて器用なんだ、この人形……。魔人形と呼ばれるのもわかる気がする。


「凄いじゃないか、リーゼ」


「ホホホッ。ご主人様……お褒めの言葉、ありがたき幸せなのです。わたくしの得意分野ですから、当然ですわ。でも少々肩が凝ってきたので、役立たずの妖精さんにも手伝っていただけるとよいのですけれど……」


 ちらちらっと得意げにシャイルを見やるリーゼ。口が悪くないならもっといいんだが……。


「ふーん、あんた人形のくせに肩が凝るのね。どうせマスターに心配させるための嘘でしょ」


「な、なんですって……失礼なっ。嘘じゃないですわ!」


 毒舌じゃシャイルも負けてないな……。


「あっそう。そんなに凝ってるなら、やってあげるわよ」


「あら、じゃあお願いしますわ。具合が良ければ、特別にわたくしの子分にしてあげてもよろしくてよ。オーッホッホッホ!」


「ヤファ、あたちの代わりに頼むわね。あんたの怪力で、うーんと強くリーゼの肩を揉んであげて」


「え、ちょっと、話が違いますのよ……?」


「わかったのだ!」


「ひー!」


「「待てー!」」


「……やれやれ」


「ふふ……」


 アトリと笑い合う。みんな元気だなあ。


 ……お、食材を入れた鍋からいい匂いがしてきた。もうすぐだな……。

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