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第十三回 奴隷の家


 奴隷専門店『レッド・カーペット』という、軒先のテントに堂々と書かれた文字に驚く。ある意味清々しい。多分、絨毯カーペット=底辺=奴隷って意味合いだろうな。赤は犠牲的サクリファイスなことを意味しているのかもしれない。


 ただ、奴隷が心を開かずとも血が出るほど乱暴に扱うつもりはないし、シャイルやリーゼのように従順になるまで穏やかに接する気ではいる。もちろん、叱る必要性を感じたときはちゃんと叱るが……。


「コーゾー様、入りましょう」


「マスター、早く入ろうよ!」


「ご主人様、入るのですわっ」


「あ、ああ……」


 アトリたちに促されて恐る恐る店内に入る。


「……あれ……」


 どんな魔境かと思いきや、店内はそれまでイメージしていたものとはまったく違っていた。まず、天窓から光りが射し込んできて明るいし、とても広い。中央に大きな通路があり、左右に小窓つきの扉があって、それが奥まで続いているのがわかる。多分、奴隷たちの住む部屋なんだろう。


 それまでイメージしていたのは、異臭の漂う薄暗い空間に汚い檻が幾つも積まれていて、中で窮屈そうにうずくまる奴隷たちの姿だったんだが、良い意味で期待を裏切られた恰好だ。


「マスターのために、あたちが良い奴隷を見つけてあげる!」


「シャイル、それはわたくしの仕事ですわ。ご主人様、お任せください……」


「リーゼには負けないもん!」


「それはわたくしの台詞ですわっ」


 シャイルとリーゼ、いつの間にか名前で呼び合ってる。元気いいなあ。特にリーゼは菓子屋にいたときより生き生きとしていて、しかも普通に歩けるもんだから、人形というよりかなり小さめな子供みたいに見えた。


「シャイル、リーゼ、あんまり騒いだらダメですよっ」


「「はーい」」


 アトリの声に同時に反応するし、二人の息は既にぴったりだ。


「……いらっしゃいませ……」


 お、店主らしき青いエプロン姿の男が笑みを浮かべながら近付いてきた。鼻がやたらと大きい、白髪交じりの黒い長髪を後ろで軽く縛った中年の男だ。ん、アトリが笑顔で会釈している。知り合いっぽいな。


「これはどうも、アトリ様……。初めての方もおられるようですから、店主のわたくしめが軽く説明いたします。この店では数多くの奴隷を取り揃えております。普通の人間、亜人、獣人……よりどりみどりでございます……」


「そ、そうか……」


 近くで見ると肌が病的に青白いし、常に不気味な笑みを浮かべてるしで、この男だけは奴隷商のイメージぴったりだ……。


「では店内を案内いたします。さあ、ご一緒に……」


「あ、ああ。お願いするよ……」


 ゆっくり歩く男の背中を追いかけつつ、左右にある奴隷の部屋を覗き込むと、みんな興味深そうに顔を出してきた。今のところ、みんな人懐っこい感じで隠れたり怯えたりする者はいない。悲鳴とか泣き声もしないし、あっちこっちから聞こえてくるのは笑い声くらいだ。


「どうですか、コーゾー様、イメージされているものとは少し違ったでしょう」


「……そうだな。奴隷に対するイメージが変わったよ」


「ふふっ。私も、最初は奴隷なんて酷いって思ってたんですけど、ここに来て考えが変わりました。ここの店主様は、身寄りのない子を集めて、少しでも良い人に買わせようと考えているそうです」


「なるほど……」


 人は見かけによらないという言葉があるが、その典型例ってわけか。それくらい、男はすこぶる不気味だった。


「あまり褒められると痒いですな。アトリ様なら、良い奴隷になれますぞ……」


「もー、からかわないでくださいっ」


「ヒヒヒッ。既に飼い主様がおられるようですしな……」


「……」


 俺のことか……。アトリは頬を膨らませてるがまんざらでもなさそうだ。


「みんな楽しそうねっ」


「そうですわね。わたくしも可哀想だと思っていましたが、奴隷も楽しそうです……」


「ほほう、では奴隷になってみてはいかがかな? とても小さなお嬢ちゃん……」


「……え、遠慮しておきますわっ」


 店主に凄みのある笑顔を向けられて、リーゼが俺の後ろに隠れてしまった。


「奴隷になればいいのに。リーゼにお似合いよ」


「はあ? 野蛮な妖精であるシャイルこそお似合いですのよ。オーホッホッホ!」


「このー!」


「いたた! わたくしの髪を引っ張らないで!」


「……」


 騒々しさに釣られたのか、窓から奴隷たちが顔を出してきた。みんな好奇の眼差しで俺たちを見ているのがわかる。おっさんに少女に人形に妖精という面子だから、珍しいのかもしれない……。


 ――店の中央に差し掛かったんだが、そこだけ左右に空間が広がっていて、大きなテーブルやキッチンが置かれていた。


「ここでは、奴隷たちが家族のように協力しあって食事を作り、みんなで食べるという習慣がございます。素材ももちろん、みんなで捕りに行くのです」


「なるほど……」


 奴隷たちは一様に表情が明るかったし、ここは小さな学校のようなものなんだな。


「どうですか、今まで見た中でお気に入りとかは……」


「……んー、というか予算が100グラードしかないんだけど、それで買えそうなのいるかな?」


「……100グラードでございますか。ううむ……」


 さすがに少なすぎたんだろうか。店主は難しい顔で考え事をしてる様子だった。……お、なんかすっきりした顔になったと思ったら、また例の不気味な笑顔に戻った。


「……ヒヒッ。お気に召すかはわかりませんが、どうぞこちらへ……」


 店主が奥に向かって歩き始めた。たった100グラードで買えるのがいるのか……。もしかしたら訳アリな奴隷なのかもしれないが、よほどのことがなければ購入するつもりだ。

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