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第百八回 自然体


 王都グラッセルを目指している俺たちは、道中にて洞窟の村ザムステリアというところへ食事のために立ち寄ったわけだが、料理も出すという酒場が目の前ってところでとんでもないやつらと出くわしてしまった。


 カルファーンとかいう、ルコカ村近くの沼地で遭遇した偽魔女を筆頭とする山賊たちだが、予想外の出来事が続いてアトリが追い払う格好になった。


「まさかあいつらがこんなところまで来てるなんてなあ……」


「コーちゃん、あの子たち逃げちゃったみたい。今からでも追いかければ殺せるけど、どうする? あの様子だとこれからも懲りずに悪巧みを働きそうだけど……」


「もういいや。あいつらはそこまで悪いやつらには見えないし、それに……」


「それに?」


「これ以上、リュカに人殺しをさせたくないしな」


「……今更よ。もう何人も殺してるのに」


「あのな、リュカ。そういう投げやりな考え方がダメなんだよ。あとで後悔しないようにするためにも、いつだってこれからが大事なんだ」


「はいはい、わかりました。私の旦那様」


「う……」


「ふふっ、うるさいコーちゃんを黙らせるならこれが一番みたいね?」


「まったく……」


 それにしても、洞窟が丸ごと村になってるなんて面白いな。少ないが天然の窓もあってそこまで薄暗さは感じない。夜は所々に置かれた蝋燭に火が灯されるらしい。


「こういうあなぐらは陰気な妖精にぴったりですことよ! オホホッ!」


「むきい……青白いお人形さんこそお似合いでしょ!」


「なんですってえ?」


「「ムキー!」」


「……あ、でもでも、ケダモノのほうがぴったりだってあたちは思うの!」


「た、確かに言われてみればそうですわねえ……」


「ガルルッ!」


「「キャー!」」


「おいおい、シャイル、リーゼ、ヤファ、洞窟内は響くんだから静かに――」


「「「――キャッキャッ!」」」


「……」


 シャイルたちは相変わらず元気いっぱいで、見てたら目が回りそうだ。


 ……ん? 彼女たちを目で追っていて気付いたんだが、魔女のレリーフがあっちこっちに見られるな。まるで魔女を崇めてるみたいだ。幾つか古代文字らしきものも刻まれてるが読めない。


「なあターニャ、これなんて読むんだ?」


「ふわあぁぁ……あ、失礼しましたっ! えっと……ですね……英雄であり、村の創始者でもある魔女は偉大なる存在、とか……」


「へえ……じゃあこの村、魔女が作ったのか」


「みたいですねえ」


「それにしても、すぐ解読したし随分上達したな、ターニャ」


「ありがとうです! それはもう、猛勉強しましたからっ!」


 喜ぶターニャだったが、シャイルたちがひそひそと話し合ってニヤニヤしてる。さては、また何か企んでるな?


「ふーん……ターニャってそんなに勉強してたんだ。あたちには寝てばっかりのように見えたけどっ」


「うっ……」


「きっと、ターニャは夢の中で勉強していらしたのですわ。ホホホッ……」


「ううっ……」


「でも、ターニャの寝言は古代語とはまったく関係なさそうだったのだ!」


「うううっ……」


「こらこら、お前たち……」


「「「へへーんだっ!」」」


「うぐうぅ……」


 さすがの明るいターニャもシャイルたちの野次には凹んでいる様子。こういうときにアトリが正気だと宥めてくれるんだが、大体は今のようにぼんやりとしてることが多いんだ。なのでいつもの三人組は調子に乗りっぱなしというわけだった。


「俺だとどうにもダメだ。ソースケ、いっちょガツンと頼むよ」


「兄貴、あっしのほうが舐められてる気が……」


「いやいや、ソースケは見た目が俺より迫力あるし……顎鬚とか」


「そ、そんなもんっすかねえ? とにかくやるだけやってみるっす。コホンッ……シャイルちゃん、リーゼちゃん、ヤファちゃん、ターニャさんが傷ついてるっす! これ以上言ったらあっしがお仕置きするっすよ!?」


「「「むうぅ……」」」


 お、意外と効いてるっぽいぞ。ソースケが結構気合入れて叱ってくれたのがよかったのか。


「ふわあ……あー、また我慢できずに欠伸が出ちゃいましたあ……」


「……」


 なんだ、ターニャのやつ欠伸を我慢してただけなのか。


「トホホ……これじゃあっしの立場は一体……」


「「「キャッキャ!」」」


 呆気に取られるソースケをシャイルたちが小馬鹿にする落ちまでついてしまった。ますます舐められそうだな、これじゃ……。


「ククッ、気にすることはないぞ、ソースケ。誰もが通る道なのだからなっ」


「ちぇっ……」


 ソースケが来るまで弄られ役だったラズエルが言うと説得力があるな……。


「てか、こんだけ崇められてるならリュカは帽子を取ってもいいんじゃないか?」


「どうして? コーちゃん」


「いや、だって崇められてるんだし……」


「私、舐められるのも崇められるのも好きじゃないの」


「な、なるほど……」


 あくまで自然体で接してほしいってわけか。彼女の正体を知ってると、それができるやつは限られそうだが……って、いつまでもぐだぐだ会話してる場合じゃなかったな。ただでさえ遅れてるんだし。


「すぐ出発しないといけないしとっとと飯にするか」


「そうね、それがいいわ」


「「「わーいっ!」」」


 シャイルたちが小躍りしてはしゃいでる。俺も今から何か食べられると思うと心が浮つきそうだった。昨日光を出し続けたせいか、疲労だけでなく腹は洞窟のように空いてしまってるからな。今ならどんなゲテモノ料理でも美味しく頂けそうだ。


「あっしもむっちゃ食べたい気分っす!」


「自分もですっ!」


「我もっ」


 ソースケ、ターニャ、ラズエルもかなり空腹だったらしい。アトリだけぼんやりとしてるからよくわからないが、涎を少し垂らしてるところを見ると同じ気持ちなんだろう。


「……っ」


「……ん、リュカ?」


「な、なんでもないわ……」


「そ、そうか……」


 なんだろう、今リュカがはっとした顔になったような。気のせいならいいが……。

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