第百二回 一心同体
広間を出てからは一本道で、時折上下の階段がある程度だった。
ただ、術者っぽいボロのローブを着た骸骨――ボーンスタッフ――が周囲から同時に複数出てきて、様々な属性の魔法を一斉に仕掛けてきたので、みんなで一か所に固まってラズエルに結界を出してもらいつつ《カウンターボール》で仕留めるようにしていた。
中には結界を張るのもいて、何度か反撃しないと倒せないレベルだった。今までに出てきた魔物もいて、これだけ敵が豊富にいると守り切れない可能性もあるので、バラバラになった状態で攻撃されないよう、慎重に進んでいく。
――いよいよ女王の間に近付いているらしく、通路の壁には凝ったレリーフが目立つようになってきた。そこを超えれば薬草のある王の間なのだそうだ。
「兄貴、あっしも出番が欲しいっす……」
「そうか、じゃあアトリ、ミイラをソースケ用に一匹残してやってくれ」
「はい」
「……へ……?」
というわけで、アトリがミイラの群れに突っ込むと一匹だけ残して殲滅し、ソースケにプレゼントしてやった。包帯グルグルの魔物は執拗に獲物を掴もうとしているが、要求を果たせなくて苛立ってるのか呻いている。
「た、確かに出番は欲しいけど、こういうのはもう勘弁っす。臭いし怖いしミイラ苦手なんすよ……」
「じゃあ、ソースケもミイラになっちゃえばいいのにっ」
「そしたら、わたくしがソースケ様を成敗――いえ、浄化してさしあげますわ……オーッホッホッホ!」
「とどめはあたいが刺すのだー!」
「反撃してきた場合、結界は我に任せるがいい」
「……みんなひでえっす……」
ソースケ人気あるな……。
「ソースケさん、自分はそんなことしませんよ!」
「……おおっ、ターニャちゃんはやっさしいなあ。是非あっしの嫁に――うああっ!」
『……アァァ……』
ソースケがとうとう5%の壁を破られてミイラに抱き付かれてしまった……。
「――あー、ひでえ目に遭ったっす。折角いいところでミイラに抱擁されるなんて、あっしって一体どんなキャラなんすかね……」
「ソースケ、もう少しでミイラを嫁にするところだったな」
「……というか、あれじゃ性別不明っす……」
「そりゃそうだが、もうこの際ミイラでいいじゃないか。楽だぞ」
「兄貴ぃ、そりゃないすよ……」
「あはは……」
正直、俺もミイラを嫁にしたほうが楽な気もする。それくらい今は精神的にきつい状況なんだ……。
「――……コーゾー様」
「あ、ああ、ど、どうした?」
アトリに言われて肩がびくっとなった。こんなときに声をかけてくるから心臓に悪い……。
「女王の間が近いです。……それと、います……」
「……リュカがか?」
「はい。それも凄まじい敵意を放って……」
「……」
俺たちが来るのを待ってたというより、薬草を採取しに行ってそのまま狂ってしまったというわけか……。
それでも向こうから来る気配がないのは、俺たちを傷つけたくないからだろう。唯一残った理性がそうさせているんだ。とはいえ、このまま放置すればいずれは完全に狂ってしまうだろう。
「ここからは俺一人で行かせてくれ」
「ダメです」
「アトリ……」
「言ったじゃないですか。死ぬときは一緒だって。何度も……」
「……ああ。みんなも同じ気持ちか?」
「そりゃそうっすよ、兄貴……」
「自分も最後までコーゾーさんについていきますよ!」
「コーゾーどの、我も同じ気持ちだ」
「あたちだって、マスターと心は一つだもんっ」
「わたくしもですわ、ご主人様……」
「コーゾー、あたいもなのだ!」
俺の問いに、全員がうなずいてくれた。
「……わかった。でも、近すぎたら戦い辛いから、距離は置いてくれ」
みんなこれにも同意してくれた。なんせ暴走した魔女が相手だし、味方まで守れる保証はないからな。女王の間が近いだけあって、どこまでも続きそうな長い階段を上がっていく。さすがに俺を含めて、誰もが緊張してるのか一様に無言で、足音と呼吸の音だけが聞こえてきた。




