第百一回 慕情
広間にいるのが魔女でないと判明し、ソースケに参加したいと言われたが、5%の壁を破られ続けて不吉ということで、全会一致で不参加となった。
相手が人間とはいえ召喚師は威力が高いし、もし当たったら即死する可能性もあるからな。魔物も出るしラズエルには味方を守らせるとして、結局俺が一人でやることになった。
「それじゃ、行ってくる。《マジックキャンセル》――」
小声で呟き、短い階段を駆け上がって広間に入る。
人影が目の前まできたと思ったときには、杖に重い感触が伝わってきた。
「こ、これは……」
間違いない。闇の精霊シャドウだ。ってことは……。俺は杖の輝きが消えかかってることに気付いて、《ダークフォレスト》で周囲を暗い森に変えると、素の風魔法を自分にかけて後退した。
「……あ、あるぇ、どこぉ?」
「……」
案の定、召喚師とシャドウは俺を見失ってる様子。
「お前……ヒカリじゃないか」
「あ、その声、コーゾー君!?」
「……何をしてるんだ?」
「何って、冒険者殺しだよっ」
「……」
やっぱりヒカリは真っ黒だった……。
「なんてことしてるんだ……。選定の儀式に間に合わなくなったらどうする気なんだ……?」
「大丈夫、まだギリギリ間に合うよ! それにね、もう少し遊びたいの……。だからお願い。死んでっ!」
「……」
わかってはいたが知り合いでも容赦なしか。彼女の策略のおかげでリュカに会えたとはいえ、お仕置きが必要だな……。
「見えたっ! 食べちゃって!」
《ダークフォレスト》が解けて猛然と向かってきたシャドウに対し、《カウンターボール》で弾き返す。精霊なためか《エレメンタルチェンジ》はできなかったが、巨大な闇の塊にして、ヒカリごと壁にぶつけてやった。
「ぎゃふっ!」
……って、あれ? 悲鳴とともに消えた……と思ったら、潰れた闇の塊が壁を横に移動していて、そこからヒカリが顔だけを出してきた。まさか、素魔法に変えたはずのシャドウが元に戻ったというのか。やはり精霊というだけあって変換できなかったし、すぐに復元するのかもしれない……。
「……いたた。コーゾー君、変な術を使ってきたねっ。今の効いたよぉ。僕、君のこと好きになっちゃったかも……。次に会うときまでに対策考えておくから、覚悟しててっ!」
「……」
ヒカリが再び影と一体化して、笑い声とともにどこかに行ってしまった。一応警戒して待つも、出てくる気配はない。アトリたちもこっちに来たし、もう安心してもよさそうだな……。
「コーゾー様……終わったのですね」
「ああ、アトリ、もう大丈夫だ……」
「……兄貴、お疲れっす。召喚師って聞いて、もしやと思ってたら……」
下で待ってるようには言ったが、さすがにソースケは声でわかるか……。
「勇者だけ狙うかと思ったけど、冒険者までやるとはな……」
「ありゃ完全なサイコパスってやつで、殺しが好きでしょうがないんすよ。今度見つけたらただじゃおかねえっすから……」
サイコパスか……。確かに遊び感覚で殺してるっぽいしな。悪意を感じないところが逆に怖い。
「サイコパスといえば、シャイルのことですわね」
「リーゼのことでしょ」
「二人ともなのだー」
「「ガオッ!」」
「ひー!」
広間はすっかりシャイルたちの遊び場になってしまった……。
「さあ、先に進もうか」
「……あの、コーゾー様……」
「ん、どうした? アトリ――」
「――好きです、コーゾー様、お慕いしております……」
「……え?」
一瞬、時間が止まるかと思う。シャイルたちまで黙り込んでしまった。
「……もうわかっているとは思いましたが、この先どうなるかもわかりませんので言わなければと……」
「アトリ……俺……」
「大丈夫です。私の片思いで構いません。ただ思いを伝えられただけでも……」
暴走した魔女相手に全滅なんてことも考えられるわけだから、アトリの言ってることもよくわかる。王の間にあるという薬草を採取し、調合して飲む前に狂ってしまえば、俺たちはとんでもない相手と戦うことになるんだ……。
「こんな俺を好きになってもらって、こっちが悪いくらいだ」
「え……それじゃ……」
アトリの顔がパッと明るくなるのが逆に辛い。
「でも、まだ自分の気持ちがよくわからないから……」
「……ですよね。リュカのこともありますし……」
「ごめん……」
「いえ、謝らないでください。誰を選ぶかはコーゾー様の自由ですから……」
「……」
アトリ、顔は笑ってるがまた目が死んでしまった。こういうとき、アトリを選べない自分が悔しい……。
「……兄貴、さっさと行きやしょう……」
「……ん……って!」
少し離れたところにいるソースケの周りに人だかりができてると思いきや、ミイラに囲まれていた。これだけの数に襲われてるのに当たらないなんて、さすが95%も回避するだけある。それにしても、一様に恨めしそうな顔をしていてまるで配下のようだ……。




