光明
『何かの破片』→『核心の粉末』▽
〈粉末〉
『ヘクトビッグスライムの核』が圧力不足により内部から崩れた残りカス。
形相過多の危うさを教えてくれる存在でもある。
使用用途は全く存在しない。
生成条件▽
所有者の最大MPがあるしきい値以下
――よし!ついに分かった。
その代わりに今回の遠征で得たスキルポイントを全部失ってしまったけれど……。
でも、これの存在についてはやはりまだ疑問符が浮かぶものだった。知らない用語が多すぎる。多分、核が“形相過多”という現象で内部から崩壊したという事……なのかな?
となると、この謎の核になるのは「形相過多」という言葉になる。
形相と言えば、《錬金術》系統のスキル、【大いなる叡智】で表記されていたもののはず。
確か、鑑定を行った際に形相が分かる。というものだろう。形相とは多分、アイテム名の下に表示されている〈〉で囲まれているものだ。
だからなんだ、という話ではあるのだけれど。
――そういえば、“核”繋がりで普通のスライムの核も手に入れていた筈だ。それも調べてみる。
『スライムの核』▽
〈魔法〉〈核心〉〈宝石〉
スライム族をスライムたらしめる核。
これがなければスライムの形になることができない。
精製法は小さい宝石を中央に周りを何かしらの素材で覆い、魔法陣を描くこと。
これにより液体がまとまり、意識を持ち、動く基礎となる。
アイテム変化▽
所有者の最大MPがあるしきい値を下回る
なるほど。全然分かんない。
アイテム変化という欄に、先ほどの『核心の粉末』の生成条件と同じようなことが書いてあるから、これも多分“形相過多”とやらで崩壊する可能性があるのだろう。
しかし形相は三つしか表示されていない。これだけで形相過多となり破壊されるのだろうか――いや、どうであれこれはただの憶測にしかならない。
やっぱり鑑定にポイントを全部注ぎ込むのは失敗だったかな、そう思っていると、ポーンという機械音ではない、いつもより派手……というより騒々しい音と共に、システムメッセージが現れ、システムウィンドウが開かれた。
〈クエスト「賢者の記憶Ⅲ」の発生条件を満たしました〉
〈エメラルド・タブレット前にて受注可能です〉
……は?
――――
「メルクさんいるかな……」
早速、この情報をメルクさんに伝えることにした。一番この情報を欲しがるのは多分メルクさんだろう。
リアルの方の時刻は休日の昼間。オンラインでもオフラインでもおかしくない時間帯だ。大急ぎでフレンドリストを開くと、そこには――。
「よし、オンライン……!」
バッチリとオンラインと表記されていた。早速メッセージを飛ばす。
その返信はすぐに訪れた。それも、通話という形で。
『アリスさん、「賢者の記憶」系統のクエストが派生したとは本当ですか……!?』
前会った時は大人しい人だなと思っていたが、やはり研究の対象である錬金術関連の新情報が訪れたからだろうか。声は荒く、息も乱れている。
『本当ですよ!今どちらでしょうか』
『い、今はスロウス学院の錬金棟に……!場所を、すぐ行きます……!』
『じゃあエメラルド・タブレット前で良いですか?』
『了解で――』
よほど興奮していたのか、最後の言葉を言い切るのを待たずしてドタドタとした足音と共に通話が切れる。
幸いにして今いる場所はモニュメントにかなり近い場所だ。私も急いでモニュメントまで行き、エメラルド・タブレット前に飛んだ。
――
着くと同時に、先ほどと同じように私に通知が届いた。
〈「賢者の記憶Ⅲ」を受注しました〉
〈エメラルド・タブレットが一部読めるようになりました〉
なるほど、ここに来れば読めるようになると。……あれ?そういえば、エメラルド・タブレットが解放された、って通知は来ていない。なんでだろ?前はそんなのがあった気が……。
「アリスさん!」
聞き覚えのある声に突然呼び止められる。
いやちょっと待って……私一分もかからずここに来たのになんでもういるの……?
どうやら相当無理をしたのか、肩で息をしていて、彼女の美しいロングヘアもボサボサになっている。
そう眺めていると、急にメルクが目の前に走りより、胸ぐらを軽くつかんで問い詰めてきた。
「どうやったんですか!?掲示板にも攻略サイトにも載っていなかったのに」
「あー、えーっと、とりあえず胸ぐらをつかむのをやめてくれる……?ちょっと苦しい」
それを聞いたメルクは掴んでいた手を急いで離し、頭を下げつつ口早に言う。
「あぁすいません!そ、それで一体どんな方法で……」
「ありがとう。えっと――」
――
「なるほど。“形相過多”という言葉を考えている最中にこのクエストが……」
顎に手を当てて深く考え込むメルク。集中力が高いのか、考えている間微動だにすることはなかった。
「……いえ、ここで考えていても何にもなりません。早速、エメラルド・タブレットを確認しましょう!」
そうして早速エメラルド・タブレットの目の前まで移動した。すると、前の時と同じく中央よりやや上辺りの文字列が爆ぜ、そして再生する。そこには――。
『かくして汝、世界を明確に観る栄誉を受け取るであろう。すべて曖昧なるものは、汝から消え去るであろう。
それはすべての力の中でもっとも力強い力動因であり、すべて精妙なるものよりきたり、すべてを決める因子であり、すべての固体を貫き通す。
それは鬩ぎ合い、反発するであろう。それを溶かし出す奥義を成就させよ』
「うーん、全然分かんない」
「どんな内容でした?私は見れないもので」
「あー、えっと……」
――
発生条件「賢者の記憶Ⅲ」▽
???
――
「それは……確かに全く分かりませんね……」
私とメルクの考えは一致していた。
全くと言って良いほど意味が分からない。本当に。
多分、形相の事を言っているというのは分かる。だけどそれ以外はさっぱり。
私がお手上げ状態になっていると、何か気づいたのかメルクが声を掛けてきた。
帽子を被っていてもギリギリ見える口元は、固く、しっかりと結ばれていた。
多分、これから話す事が大事な事なんだろう。
「……すみません、アリスさんは「形相が三つしかない」と言っていましたよね」
「えっと……確か、スライムの核には三つしかなかったけど」
それを聞くとメルクは口元をほころばせる。何かその事が良い情報だったのだろうか。
「やっぱりです。核の形相は“三つしかない”のではなくて、“三つもある”んですよ」
「どういう事?」
「私、色々とアイテムについて鑑定で調べていた時があって……それで気づいたんですけど、形相って一個、二個の方が多くて、三個以上あるアイテムは殆どないんです。
そして、タブレットの「反発する」という言葉。きっと、形相が多すぎると内部で反発の様な事をして、アリスさんの塵みたくなってしまうのでは」
確かに、その考えの筋は通っていると思えば通っている。というか、他のアイテムを全然鑑定していなかった。錬金術について真面目に研究していたメルクだからこそ、この事に気づけたのだろう。
「そういえば、どうしてそんな事が【鑑定】スキルで分かったんですか?」
「《鑑定》の方のレベル最大にしたからだけど」
さも当然かのように答える。
すると、メルクさんはそれがおかしいかのように口を開けてポカーンとしていた。
「えっ……《鑑定》なんて上げて……いや、だからわかったんですね……」
「……どういう事?なんでそこまで驚かれるの……?」
「だって――《鑑定》はレベルを上げるだけ無駄、なんて言われるスキルですから」