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虹の先へ

――――


委員長▽


――――


 小舟から放たれた一筋の眩い光が、もう一つの煌く光へぶつかっていきます。

そして煌く光から撃たれるはずだったレーザーは大きくずれ、「セブンクライム」の船を襲っていたヌシを断ちました。


 そして、私達にシステムからの通知が訪れます。


〈ワールドクエスト「海祭り最終決戦」の達成条件、「海の守護者の装備を破壊する」を達成しました〉


〈偉業「海祭り最終決戦をクリア」を達成しました。参戦者を年表に登録します……〉


〈偉業「海の守護者を解放」を達成しました。参戦者を年表に登録します……〉


 ……これ、アリス達だけしか登録されないってことはないでしょうね。

あったらまた火消しとかが面倒になるからやめて欲しいんですが……っと、良かった。この海域に居るプレイヤー全員が載ってます。


「おい委員長!アリス達を助けに行けねぇのか!?」


「ええ。勿論そのつもりです……!」


 舵を取っている「ホロスコープ」のメンバーに呼びかけ、私達はアリス達の乗っている小舟へ急行します。

まだプリンセスは倒せていません。多分、このまま放っておいてはアリスらはプリンセスによって海の藻屑にされてしまうことでしょう。


 そう思った時でした。

突然、目の前の海がプリンセスを中心とした巨大な円形に切り出され(・・・・・)、窪み始めます。私達はそれに巻き込まれないギリギリで船を止めることができましたが、アリス達の乗っている船は当然巻き込まれてしまいました。


「これは……」


 突然のことに驚いた私はそう呟きます。

……多分、これは渦潮。どうして起こったかは分かりませんが……とにかく何かしらのフラグを踏んでしまったと考えるのが妥当でしょうか。


「……っ。どうやらこれ以上進むのは無理そうですね」


「はぁ!?どういうこったよ、渦潮くらいどうってことないだろ!?」


「いえ、この船では渦潮に巻き込まれたが最後、中心へ引きずり込まれて終わり。私達ホロスコープはまだすべきことがあります……」


 イベントの後処理、無事に皆が帰還できるよう誘導、攻略情報の掲載、その後のイベント情報の収集。トップギルドとして、まだまだやるべきことは多い。まだ渦潮が起こる前の状態であれば、アリス達の船を回収して即離脱という芸当ができたけれど。

そう軽く唇を噛む私へ、オグロが独り語り始めました。


「……だったらホロスコープじゃない奴なら問題ないんだな。小舟一つ借りてくぜ」


「ちょっとオグロ!?」


 オグロはそう言って船の中へと降りていきました。どうやら、小舟を使って渦潮に突っ込むつもりのようです。

かなり危険ですし、どうしようもない行為な気はしますが……私にそれを止めることはできませんでした。

そのままオグロは渦潮を突っ切ってアリス達の小舟へ向かって行きます。


「行ってしまったな」


「ええ、そうですね……」


 呆然とする私へ、ピンク髪のドワーフ族プレイヤー――イグニスが話しかけてきます。


「……見たか、アレを」


 そして、イグニスは私へそう話してきました。

“アレ”。心当たりは、ありました。

きっと、アレとはアリスのあのギフトのことでしょう。そして、あのギフトは――。


「……もしかして、やっぱりそうなんですか?」


「ああ。このままだと、アリスが不味いことになる」


「まあ、でしょうね……」


 私は軽くため息を付きます。

……とはいえ、この問題にアリス達を巻き込む訳にはいきません。我が妹であるメルクがアリスをゲーム内で守ったように、私はリアルでアリスを守らなければ。


「とりあえず、新庄高校に集合しよう。あたりめも来るか?」


「……ま、アレを見ちまった以上仕方ねぇな。行くぜ」


 そして私達はひっそりとNHOを落ちました。


――――


アリス▽


――――


〈『銃弾ティル』の運命選択がアンロックされました〉


〈偉業「銃弾ティルの運命選択をアンロック」を達成しました。年表に登録しますか?〉


 最初に、私達の元へやってきたシステムの通知はそれだった。

いや、それも気になるけど!このレイド戦はどうなったの……?

そう思った瞬間、ファンファーレ音と共にまた別のシステムの通知が訪れる。


〈ワールドクエスト「海祭り最終決戦」の達成条件、「海の守護者の装備を破壊する」を達成しました〉


〈偉業「海祭り最終決戦をクリア」を達成しました。参戦者を年表に登録します……〉


〈偉業「海の守護者を解放」を達成しました。参戦者を年表に登録します……〉


 その通知を見る限り、どうやらヌシを倒すことはできたらしい。

……でも、プリンセスを倒したって感じの通知は来てないよね?ってことは。


 私は小舟に乗ったまま前を見る。

そこには、これまでよりも触手を興奮気味に動かすプリンセスの姿があった。

……まあ、あの銃弾ティルだけで倒せはしないよね。


 そのままプリンセスは怒り心頭、といった雰囲気を纏わせてこちらを向いた。円盤上部にある砲塔が完全に私達の小舟をロックオンしている。

……やばい。


「アイナ!さっきの「愚者の錬金」とかいう奴の『グロースシルト』無いの!?」


「あー、あれ一点ものっスね」


「そっかー……」


 どうやら対抗策はないらしい。実は最後の切り札とか持ってないかと思ってロンリを見るが、ロンリは無言で首を横に振った。

ここで死ぬ覚悟を固め、私はプリンセスを見据える。ロンリが後ろから「何故協力なんてしてしまったんでしょう……」とか言ってるけど無視。


 そんな時だった。突如、小舟が大きく揺れる。


「わわっ!?」


 プリンセスも体勢を崩す。どうやらこれはプリンセスが起こしたものではないらしい。

じゃあ一体何が……?


「アリスさん!あれ!」


「あれは……」


 メルクが指を指す。私は揺れる小舟の上でなんとか焦点をそちらへ合わせた。するとそこに居たのは――ヌシだ。

それを認識してか、アイナさんがまた何か意味深なことを唱え始める。


「……そうか。呪いが破壊されたからヌシは自由。プリンセスは名前からしてあそこの姫だから……ってことは!」


 一体アイナさんの頭の中では何が起こっているのかさっぱり分からないけれど、アイナさんなりの答えは出たようだ。早速どういうことなのか、アイナさんの推測を聞いてみることにする。


「つまりどういうこと!?」


「多分っスけど……ヌシが味方になるっス!」


 アイナさんはどんどんと加速していく小舟にしがみつきながら言った。

いやでもさ、なんかプリンセス中心に物凄い規模の渦潮できてるんだけど。私達それに巻き込まれてない?これ本当に味方してくれてる?


「ほら!なんかヌシがプリンセスに噛み付いたっスよ!」


「あ、本当ですね」


 ヌシが自慢の巨体でプリンセスの触手を何本か噛みちぎる。

それに我慢ならなかったのか、プリンセスは砲塔をヌシの方へ向け、何発かレーザー弾を打ち込むと同時に触手でヌシを叩きつけた。


 ……というか、どんどん私達の小舟の速度が上がってるんですけど。これ普通に危険じゃない?下手したら海水ですり下ろされそうな気さえするんだけど。

そんな時だ。誰かの叫び声が聞こえてくる。


「アリスゥゥゥゥ!」


 この声は……オグロ!

生きてたんだ!いや知ってたけど!


「オグロ!」


「俺一人が来ただけでどうにかなるか分からんが助けに来たぜぇぇぇ!」


 オグロはそう叫ぶ。確かにそうだよね。まあ……三人寄れば文殊の知恵って言うし。人増やせばなんとかなるかもしれないか。私達はオグロと同行することに決めた、が。

結構オグロの小舟に近づくことは難しかった。この海域の嵐は若干止んできたけど。

まあなんてったって渦潮の中に居るしね……。


 ……よし!後一歩だ、後ちょっとでオグロと――!


「……!?」


 瞬間、私とオグロの間へプリンセスの触手が叩きつけられた。

一瞬プリンセスが狙ってやったのかと思ったけれど、よく見ればその触手は切れている。

……多分、ヌシが噛みちぎった触手がここに落ちてきたんだろうな。


 巨大な物質が近くへ落ちてきたこともあって、私とオグロの小舟は空へ打ち上げられた。そして当然、それに乗っていた私達は散り散りになる。


「っ……皆!」


 私はどうにか皆と手を繋ごうと手を伸ばす。


「アリスさんっ!」


 メルクの手が伸びる。指先同士が触れ合って――私達は海へ落ちた。


 皆っ!

そう叫ぼうとしたけれど、海の中では声が出てこない。

そしてそのまま、オグロやアイナさん、そしてメルクとロンリは渦潮の流れに乗って私から離れていった。


「……!?」


 瞬間、謎の影が現れて颯爽と私の手を取る。

渦潮の中だというのに、その影はまあまあその影響を受けるだけで済んでいるかのような泳ぎを見せていた。


 その影とは――団長だ。

団長、行く前に完全に海で動くことしか考えてない装備してたもんね……そりゃ動けるか。

というか海に落としたロンリをこっそり小舟に上がってくるよう誘導してもらったのも団長だし。それくらいはできるか。


 団長はそのまま渦潮に流された四人を追う。

けれど、結局団長が私の元へ引き寄せられたのはロンリだけだった。

私は団長へダイレクトメッセージを送る。


『団長!もうちょっと無理できる!?』


 団長は首を振り、六文字のメッセージを返してきた。


『正直もう限界』


 えっ。

団長の動きの勢いがみるみる内に弱まっていく。反面渦潮の流れはどんどんと強くなっていった為に、私達は結局為すすべなく流されることになった。

そして。私の視界からオグロ、アイナさん、メルクの三人は――消え去った。


 どんどんと私達の元へ届く光が少なくなってくる。それは、私達が海のより深いところへ落ちていっていることを意味していた。


 どんどんと暗くなる。深くなる。そして――。



――――



 私の視界に何やら一筋の光が見えた。

その光は妙に緑黄色系統のものだ。背中には、何か草の柔らかい感触がある。

……うーん?私、これ寝転んでるのかな?


 あ、この光って普通に景色の光か。私が目を閉じてるだけ……だね。

その事実に気づいた瞬間、スムーズに私の瞼が開き始める。


「わぁ……」


 私は、目に飛び込んできた景色に感嘆の声を漏らした。

ざっくり言うとここは円形の壺の中に居るような感じだ。多少の凹凸は勿論あるが。

中央には巨大な滝――きっと『渡津海島ブルーホール』から流れてきたものだろう、が流れていて、その中央には大きな虹が真っ直ぐ下へと差し込んでいた。


 上を見れば海の屋根がある。そして辺りの壁にはとても大きな化石がずらりと見え、実際に滝の中を化石型のモンスターらしきものが泳いでいた。


 とりあえず、私の居場所を円形の壺の内部で例えるなら多分中腹の辺りに居る……と思う。さて、ここから上がっていくのが正解なのか、それとも下がっていくのが正解なのか。それは全くと言って良いほど分からない。


 そして、私の両隣には同じく渡津海島ブルーホールからやってきたプレイヤー――団長とロンリが寝転んでいた。

……どうやら、他にここに来ているであろう私のフレンドを見つけるまでは、この二人と一緒に行動しなくてはいけないらしい。


 そして、その事実に若干嫌気が差している私へ、またシステムの通知が訪れた。


〈偉業「『渡津海島ブルーホール』→『虹の一端』のルートを発見」を達成しました。年表に登録しますか?〉


 ……なるほど。ここが私達の目指していた『虹の一端』で間違いはなさそうだ。

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