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海戦、開始中!

――――


委員長▽


――――


「大丈夫でしょうか……」


「どうしたんだ?委員長」


 「ホロスコープ」の三番手であるあたりめが私に話しかけてくる。

どうやら私の呟きを聞かれていたらしい。……まあ、あたりめなら大丈夫でしょう。私は正直に胸の内を打ち明けた。


「この最終決戦、トップギルドの幾つかが参加を拒否しました。それに結構な数の弱体化クエストが未消化のままです。果たして勝てるのか、と」


「そうか。確かに俺も心配だが、ここまで来たんだ。やるしかねぇよ。――それに、トップギルドなら俺達が参加してる」


「……ええ、そうですね」


 あたりめの励ましの言葉のおかげで、少しだけ私の気分は晴れる。

何かよく分からない胸騒ぎは拭えなかったけれど、あたりめの楽観的な考え方に感染したのか、大丈夫だろうという気持ちが強くなっていました。


「にしても、本当にこの辺で合ってるのか?凄い晴れてるが……」


 私達ホロスコープのギルドメンバーが乗り込んでいる船には、頭上から燦々と真夏の太陽光が降り注いでいる。できるだけ薄着で来ましたが、それでも暑い。

これからヌシとの最終決戦が始まると言われても、信用する人は一人もいなさそうな天気。風も心地よい。


 とはいえ、ホロスコープのナンバーツーであるあの人が言ったのだから間違いはないでしょう。

そもそも、『渡津海島ブルーホール』はまだまだ未開拓なワールド。船を呼び出して出航できる位置はある程度限られています。

そして、ある程度最初のモニュメントから離れた場所の湖には海の中に強いモンスターが生息しています。

これらを踏まえると、プレイヤーが現在丸い湖の中で移動可能な範囲は小さい扇形のようになっていて、その中央でヌシとの最終決戦が起こる可能性が高い――でしたか。


 果たして本当にそうなんでしょうか。聞いた時は感心していたけれど、ここまで平穏な雰囲気だと逆に不安になってきます。


「……いや、合ってたみたいだな。どんどん暗くなってくる」


 空があっという間にどす黒い暗雲に包まれます。

そのまま猛烈な勢いで雨が降り出してきます。どこかで雷の落ちている音もしました。

ここまでの悪天候に急になることは、これまで渡津海島ブルーホールでクエストをこなしてきていて始めて出会ったことです。どうやらヌシも本気を出してきたようですね。


「あたりめ!」


「おうよ!」


 あたりめさんが踵を返して船のデッキへ登っていきます。

そこには声を拡大させるマイクがありました。レイドバトルの時にだけ使うことを許されるアイテムです。


「そろそろヌシとの最終決戦だ!配置に付け!」


 あたりめの声が海の一帯に響き渡る。それを妨害する荒らしが居ないことを確認すると、私は砲弾を抱えるのをやめてヌシがどの位置に現れるか慎重に見回します。

その時でした。声が頭の中に直接伝わってきます。


『性懲りもなく現れたか、人間風情が』


 ……この声は、ヘルメスの声ですか。

海の中から、何かよく分からない黒いものに乗ってヘルメスがその姿を現しました。


『どうやら色々と手は尽くしたようだが、この崩壊は止められない』


 ヘルメスが手をかざす。それと同時に、海面がグルグルと渦巻き始めます。私は衝撃に備える姿勢を取りました。


『お前達に絶望を乗り越えられるか。試練の時だ』


 ヘルメスの姿が掻き消える。瞬間、海面からヌシが飛び出してきました。

そして、システム音が私達を襲います。


〈凶暴なる海。終わりなき夢。偽なる世界の守護者〉


〈レイドボス:海の守護者 LV:125〉


 レベル125……。

私達トップギルドの平均レベルが30ですから、相当な強敵ですね。

……いずれにせよ、負けるつもりはありませんが。


〈制限時間:5時間〉


 その圧倒的な巨躯にHPゲージが表示される。そして、ヌシは事前に私達が得ていた情報とは全く違った姿をしていました。


「なんだあの砲台!?」


 ヌシは魚型のモンスターです。最初に戦うであろうエリアボスのバハムートをそのまま巨大にしたような感じ、と言われていたモンスター。

ですが、今私達が対峙しているものは全く違いました。身体には大量に機械の巨大な砲台が取り付けられていて、口の部分にはキャノン砲のようなものまで取り付けられています。

その砲台一つ一つからはまるでヌシを縛り付けるかのように装甲が伸びていました。


 そして、私達は一つのクエストを受注します。


〈ワールドクエスト「海祭り最終決戦」を受注しました〉


〈クエスト達成条件「海の守護者を倒す」「海の守護者を退却させる」「海の守護者の装備を破壊する」「?????」〉


〈このクエストは破棄できません〉


〈このクエストの結果により、ワールドに多大な影響が与えられます〉


〈クエスト達成条件を一つでも達成した瞬間、このクエストは終了します〉


〈このクエストは誰も再受注できません〉


「本当にこれで最後ってことですね……面白い」


 私は弓をつがえる。

他のホロスコープのメンバーもそれぞれ配置につきました。


「総員、攻撃開始!」


 あたりめの声が辺りに響き渡る。

各地の船が一斉に火を噴き、ヌシが遠吠えを上げました。

――このイベントも、これで終わりですか。


――――


「クソ……んだよこのボス」


 どこからか、そんな呟きが聞こえてくる。

ですが、その言葉を誰が発したかを頭で照合する余裕はありませんでした。


 ヌシは巨大な魚です。

そして、私達の乗っている船の方が遥かに小さい。それほど巨大な魚です。

私達が苦戦しているのはその巨大さにありました。

ダメージが通らない、ということはないのですが――。問題なのは、その巨躯を余すところなく使いこなして泳ぎ回っているというところにあります。


 ただ上半身を海から出して泳ぐだけならまだ良いのですが、時折海に潜った後に飛び上がったりもします。とはいえ、それだけなら攻略に支障はありません。

一番の問題は、ヌシのヘイトの稼ぎ方が全く分からない、というところにありました。


 ヘイト、即ち狙われるプレイヤー(この場合は船だが)。

基本的にはヘイト奪取スキルやダメージによってヘイトは手に入りますが、ヌシ相手にはどちらも通用しません。

で、あればヌシは一つの船を狙い続けるのではと誰しもが考えるでしょう。ですが、何故か実際はそうでもない。


 狙われる船の法則性が全く分からないのです。

基本的に、今回のレイドバトルはヌシにどれだけの方向から攻撃を仕掛けられるかに掛かっています。できるだけ船のまとまりを無くし、多方面から攻めるのが重要なのは明らかです。

が、ヘイトの関係でヌシが不意にあっちに行ったりこっちに行ったりするためヌシ包囲網を敷くのが非常に難しい。と、いうよりは包囲網を敷いている間にヌシのターゲットが変わってしまう。


「だったらまとまって戦えば良いんじゃないか?」


 先程の臨時作戦会議でそう発言したプレイヤーが居るのを覚えています。

ですが、実際はそうにもいきません。


 ヌシの攻撃方法に問題があるのです。

それは大きく分けて二つ。


 一つ、体の各部に付けられている大砲らしき装備による砲撃。

その攻撃を総称するなら、迫撃砲。現実に存在する迫撃砲とほとんど同じような挙動を見せて私達に襲いかかってきます。唯一の違いは、ヌシの砲撃は海面に着弾しても爆発する、というところですか。


 二つ、口内にあるレーザー砲から放たれるレーザー。

一度海中に潜った後、海面に顔を出してレーザーをチャージします。そしてその後一定時間反動か何かで動けなくなった後にまた海中へ潜っていく。


 ……そう、固まっていると一網打尽にされる攻撃ばかりなんですよね……。

そのため、下手に固まることも許されません。


「本当に制限時間内で倒せるのか?」


 そんな消極的な意見が出たのも覚えている。

確かに、それは私も一瞬だけ思った。だけど、ゲーマーたるものこのくらいで諦めるわけにはいきません。


 とはいえ、それは私の意見。作戦会議でその意見は一蹴されたが、実際に士気の低下は問題です。

既にレイドバトルが始まって二時間が経過しています。

あたりめが必死に士気を上げるよう努めているが、その効果はあまり芳しくは……。

何隻か船が消えていったのを覚えています。勿論後から参戦してきた船でその穴は埋められましたが、その光景――つまり“萎え落ちした奴がいる”という事実はやる気をそぎ落とすには十分でした。


「クソ……指揮と鼓舞がしづれぇ」


 あたりめはマイクを切ってそうぼやく。

私は周囲を警戒しながらあたりめに話しかけました。


「やはり指揮を務めるギルドが二つだけだと厳しいですか?」


「ああ。後一つでも良いから来てもらえれば助かったんだがな」


 このゲームに存在する、ゲームの最前線に位置するギルド――所謂トップギルド。

トップギルドと呼称されているギルドは十個あります。

だが、この戦闘において重要なのはその内四つ。

その理由だが、他の六つは戦闘方面では最前線に立っていないからです。例えばトップギルドの一つである「ヒストリア」は知識面においてはトップだが、戦闘面においては全然ですからね。


 そして、肝心のその四つのギルドの参加状況ですが――。


 一つ、私達十二人が所属している「ホロスコープ」。勿論参加中。

二つ、あまり関わりたくはないが腕の立つプレイヤーばかりの所属する「ヴィーラすこスコティッシュフォールド」。名前を変えたいと現ギルドマスターがぼやいていました。参加中。

三つ、ロンリら七人が所属している「セブンクライム」。不参加。

四つ、このギルドのおかげで他三つのギルドが血なまぐさいと言われる。「極楽鳥花」不参加。


 ……と、半分しか参加していません。

指揮と鼓舞のできる範囲を広げる為に船を多くしても良いのですが、ホロスコープは十二人しか居ないギルドです。船の各部に人手が必要になるために船は一つしか持てません。


 そしてこの戦いに参加してくれている「ヴィーラすこスコティッシュフォールド」……略して「ヴィスコ」はそう人数が多くないにも関わらず船を二隻持ち出して指揮と鼓舞に全力で当たっています。ですが、それでも戦闘のリーダーが足りない。

そもそもマイクは声を大きくするだけなんです。音が嵐や雷の音でかき消されてしまう為に、それらが聞こえないプレイヤーが多くなってしまっています。


 前述したヌシが動き回る問題に加え、指揮が通りにくいとなればヌシへダメージを与えるペースは大きく落ちます。更に鼓舞が通らないとなれば萎え落ちするプレイヤーはもっと増えていくでしょう。

その為、レイドバトル開始から二時間経ったにも関わらずヌシのHPはまだ二割ほどしか削ることができていません。

せめてどちらかの問題が解決さえしてくれれば勝機が見えるのですが――。


「おいそこの船!そっちは危険だ!」


 そう思考に沈んでいた時です。あたりめがマイクでどこかの船へ呼びかけているのが聞こえました。

見れば、その船は今まさにヌシの迫撃砲が降らんとしていた海域を突き進んでいこうとしていました。


 ……何でしょう。何か胸騒ぎがします。

まるで――。


――――


アリス▽


――――


「ちょっ、これ本当に大丈夫なんですか!?」

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