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決戦イベント前夜

〈モニュメント:《闇の側室》へワープしますか?〉


 私はYES、と書かれたボタンを押して{十二の鍵}の在り処が示されているらしい場所へと移動する。

というかなんでモニュメントの名前が闇の側室とかいう不穏な名前なんだ……。

そう考えている内に、パシュン、というSEと共に私達は闇の側室へワープした。


「おぉう、中々雰囲気のある……」


 私達が移動した場所は16畳ほどの大きさの、まあまあ広い密閉された部屋だった。

一応窓はあるのだが、窓から外は真っ暗で何も見ることができない。


 目の前の壁に、12個の石版に何やら文字が書き込まれているのが見える。

多分そこに在り処が記されているのだろうことはなんとなく分かるが、悲しいことに明かりが天井からぶらさがっているシャンデリア一つしか無い為かなり読みにくかった。


「頑張ってっス!」


「いや、アイナさん知ってますよね?教えてください」


「…………」


「え、何で黙るの?」


 私とメルクはあれこれ議論しながら、どうにかこうにかその石版を読み進めていった。


――――



「やっと……やっと読み終えられた……」


 とりあえず私とメルクは12個全ての石版を読み解こうとしたのだけれど、どういう訳か12個中5個は書いてある文字が謎の文字列だったが為に読むことができなかった。

メルクが【解読】スキルで解読できないか試したのだが、〈この文字列の辞書を作る必要があります〉という通知が出てきただけで読み解くことはできなかったらしい。いや何のための【解読】スキルだよ。


 まあとにかく、私達が読めた範囲での{十二の鍵}の在り処を示す文字列はこうだ。


『最初の鍵、宴の中に。

永久に続きし、彼らの湖に』


『第二の鍵、虹の元に。

決意の揺らぎし、最後の都市に』


『第三の鍵、記憶の中に。

希望の潰えし、絶望郷に』


『第四の鍵、終わりの中に。

彷徨い続けし、巨人の中心に』


『第六の鍵、始まりの底に。

世界を生みし、足元の地に』


『第七の鍵、(ここから後は読めなかった)』


『第八の鍵、(ここから後は読めなかった)』


『第九の鍵、(ここから後は読めない)』


『第十の鍵、(読めない)』


『第十一の鍵、(読めない)』


『最後の鍵、夢の都に。

我らの創りし、全ての源に』


『鍵を探せ。鍵は巨大、堅牢、そして無限。汝、そこへ訪れば現れる』


 以上。


「これさ、意味分かる?」


「分からないです……」


 多分、ここに書かれている場所に行けば“鍵”を手に入れられる、というものなんだろう……ということは分かる。そして多分小さくはなくて、ある程度大きい――それこそ見ればすぐ分かるレベルのもの、というのも分かる。

でも、肝心の位置の情報が抽象的すぎてどこへ行けば良いのか全く分からない。

というか{第五の鍵}についての説明一切ないし。バグか何か?


「……あー、アイナさんが虹の一端に滅茶苦茶行きたがってた理由って、もしかしてこれ?」


 実はヌシスルー計画を立案した段階において、私とイグニスさんは『虹の一端』へ行くことはあまり乗り気ではなかった。だが、アイナさんの強烈な勧めを受けてその計画に乗ることにしたのだ。


 なるほど、今になればアイナさんがどうしてそこまでヌシスルー計画を推していたかが分かる。アイナさんは私達より先にこの場所へ来ることができるようになっていたはずだ。つまりこの文を先に読んでいた、ということで。


 この文に記された{第二の鍵}、そこに書かれた『虹の元』という部分はどう考えても『虹の一端』を指しているだろう。

だから{第二の鍵}があるであろうそこへ行きたかった、それがアイナさんがヌシスルー計画を激推しした理由になる筈。


「そうです。あの時言わなかったのは申し訳ないんスけど、楽しみを奪うのもどうかなって思って」


 ……それ言われたら私賛成派に回ったんだけどな。

ま、それはアイナさんの粋な計らいとしてありがたく受け取っておこう。


「でも『虹の一端』のどこにあるかとか分かるんですか?多分かなり広大なワールドだと思うんですが」


「あ、それなら大丈夫っス。位置のアテはあるっスから」


 アイナさんは指を立てて続けた。


「夏の海底探査イベント。あれ、舞台は海底都市っスよね?」


「なるほど、そういうことですか」


「あのイベントの概要、後からヒストリアのメンバーに聞いたんですが……その都市に度重なるモンスターの襲撃があったせいで生きている人が中央に住んでいた老人ただ一人になって、次のモンスターが襲撃してくる時期にどうしようもなくなったらしいんス」


 え、夏の海底探査イベントってそんな重い話だったの。

私普通に他で用事ができたからって帰ってきちゃったんだけど。


「で、そこでその老人は別の場所から人間を呼び出すことを思いついたみたいなんです。そうしてできたのが《アリア》に出てきたポータルっスね。で、まあなんだかんだでモンスターの襲撃をプレイヤー達が退けることに成功して、なんとかその都市は無事のままだった――っていうのがイベントのストーリーらしいっス」


 そんなストーリーだったんだあのイベント……。

いや、なんか老人に申し訳ないなそれ。


「それで、実は他にも海底都市はあったけれどその場所が一番最後の“生きている”海底都市……つまり『最後の都市』ってことですか?」


「その通りっス!だから“鍵”があるならその場所しかないって思ったんスよ!」


 なるほど、確かにそれはありえる。

……でも。私はその計画に一つだけ気になる部分があった。


「……だけど、虹の一端に向かってすぐその都市に行けるとは限らないんじゃ?それに、虹の一端がモニュメントを登録できる場所かも分からないし……最悪行くだけ損になるかも……」


「あ、そこ!そこっス!言い忘れてました!」


 アイナさんが手を叩いて立ち上がる。

そのまま虚空から何かを取り出し、アイナさんは私達にこう言った。


「じゃじゃん!『集光器』っス!なんと最新の研究で、これがあればモニュメントが登録できない地点でも登録できる、ってことが分かったんですよ!……一回限りですけど」


 え、それかなり凄いアイテムじゃないの?

ってことはこれまであんまり探索の進んでなかった『真なる原風景(インサイドザイン)』も探索できるようになるし。


「それ、誰が見つけたんですか?」


「ウチのギルドマスターっス!実は門外不出の道具なんですけど、最近錬金術方面で活躍してるからってことで貰いました!」


「……あれ?アイナさんって、ギルド内でまあまあ下っ端とか自称してなかったっけ?」


 結構失礼なことかもしれないが、少し気になったので私はそのことを軽く聞いてみる。

すると、返ってきたのは結構嬉しい返事だった。


「それがっスね~、ほとんどアリスさん達のおかげでギルド内でも結構上の立場に昇進できたんスよ!ありがたいことっス」


 一瞬私何かしたっけ……?と思ったけれど、(私が明かしていいよと言ったものだけでも)錬金術関連ではかなりアイナさんと色々やってるし、それ以外でも『霊園リュミエール』で色々発見したり等、考察に影響しそうなことはよく考えればまあまあやっていた。


 うんうん、知ってる人がどんどん出世していくのは良い事だ。嬉しくなるし。


「よし、じゃあこれから計画を詰めていきましょうか」


「オッケー!」


 さあ、これから忙しくなりそうだ。


――――


「アイテムは良いか!」


「大丈夫です!」


「装備は良いか!」


「大丈夫です!」


「船の状態は!」


「問題ありません!」


 私達の船で点検を行うオグロとその信者達の所属するギルド、「オプティマス理想協会」を尻目に私達も荷物の最終チェックを行う。

あれから三週間ほどが経った。

夏休みイベントももう終盤。今日が“ヌシ”とのラストバトルが行われる日だ。


 何故オプティマス理想協会が私達の船に居るかだが、それは私が助けを頼んだからだ。

オプティマス理想協会側も船を作ることができていなかったらしく、またイベントにそんなガチガチに参加する訳でもなく「最終決戦を見届けたい」程度の参加理由だったらしいので双方ウィンウィンに交渉をすることができた。


 また、それ以外にイグニスさんがギルドマスターを務めるイグニスさんのリア友が集まってできた小規模ギルド、「もふもふ王国」にも助けを頼んだところオッケーを貰った。

最初私はイグニスさんの独断でそう決まったのかと思っていたのだが、実際はギルド内で「面白そう」との声が高まったかららしい。有難いことだ。


 あ、ダメ元で「ホロスコープ」にも助けを要請してみたけど、返ってきたのは委員長の「無理ですね」という返答だった。向こうトップギルドだもんね。そりゃそうだ。


 ちなみに、「ヒストリア」所属のアイナさんはこちらに居て大丈夫なのか……という問題だけれど。アイナさん曰く「本部から許可を取ったので大丈夫っぽいっス。というかヒストリアからも半分くらいの人が来るっスね」言っていたので問題ないんだろう。


 そして当然、我らがメルクがギルドマスターを務める「錬金術師の研究日誌」も参加している。

ちなみに、途中から船に収容できる人数足りないんじゃ?ってなったので船を有り余る財力でもう一隻追加した。


「アリスちゃん、これ船の仕様書だから確認しといてね」


「あ、装飾屋さん。ありがとうございます……」


 船の装備を担当したのは回復薬ポーション作りの時にも色々としてもらった装飾屋さんとメルクだ。

そして、「錬金術師の研究日誌」のサブリーダーとして私に任されたのは錬金術の研究、だったのだけど。


 残念なことに、三週間もあったにも関わらず――何一つとして錬金術の新情報を発見することはできなかった。

色々なワールドを巡ったりして錬金術師を探したりもして、ある程度成果は得たが……どれも微妙なものばかりだったのだ。


 結局のところ、プラハに関する手がかりは見つかっていないし二度目にヘルメスと会った時に言われた「ただ金を作る為に生まれてきた学問ではない」という言葉や「錬金術は一人では完成しない術でもある」という言葉の真意を理解することもできなかった。


 うぅ、私の無能さを思い返すだけでどんどん申し訳なくなってくる。


「ごめん皆。皆頑張ってくれてるのに、私何もできなかった」


 私は唐突に謝りたくなって、とりあえず近くにいるメルクにそう言った。

周りが何があったのかと若干騒然としている。


「どうしたんですか?……あぁ、なるほど。――アリスさん、謝らなくても良いですよ。ヘルメスの言っていたように、「錬金術は一人では完成しない術」です。たまには自分以外に任せる、そんな経験も必要です」


 かなり突拍子もない謝罪だったにも関わらず、メルクは理解し、慰めてくれた。そしてその言葉に周りに居た何人かのプレイヤーもうんうんと頷いてくれる。


「……ありがとう、メルク。皆」


 なんだか無性に嬉しくなる。思えば、今ここに居る人たちと出会えたのはほとんど偶然だ。だけど、今になって思えばそれは必然のようにも思える。

そう感傷に浸っていた時だった。水平線に朝日が昇ってくるのが見える。他に海岸に待機していた私達とは無関係なギルドも、船の錨を上げて帆を貼り始めた。

どうやらそろそろ、ヌシとの最終決戦の時間らしい。


「ほら、アリスさん。そろそろ時間ですよ」


 メルクが私を小突いて押してくる。私はあれよあれよという内に、デッキにあるお立ち台らしきものに上がらされた。


「アリスさん。貴方がリーダーなんですから。ぜひとも何か一言」


 えっ私リーダーなの。

……いや、そうか。まあ確かに、何か流れ的にそうなるか。メルクがリーダーでも良い気がしたけれど、メルクそういうの嫌いだからね。「錬金術師の研究日誌」ギルドは私がマジで嫌がったから嫌々なってもらった感じだし。


 よし。

私は覚悟を決めてお立ち台っぽいところに上がる。

デッキに居るプレイヤー達の視線が一身に注がれているのが分かる。少しだけれど、私はそれに高揚感を覚えた。


「皆さん!今日がイベント最終日です!」


 私は声を張り上げる。


「私達は今から、他プレイヤーとは少し変わったことをする予定です!ですが、こうして集まってくれたこと、本当に嬉しく思っています!」


 私は続けた。


「私から言いたいことは二つです!まず一つ目、ありがとうございます!そして二つ目!」


 少しだけ私は言葉を溜める。

私に視線が集まる。私は心を込めて、全身全霊でこう言った。


「皆さん、楽しいイベントにしましょう!」

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