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ビバ!夏休み!

 はい。

課題が終わりません。

うーん、二週間はかかるねこれは。


 家族から課題が終わるまでNHOにログイン禁止令を貰ったのはちょっと前に言ったから周知のことだとは思うけど、思ったより課題の量が多かった。

何やらNHOでは夏休みイベントが開催されているらしいが、勿論私はそれに関わることはできない。関わることができるとしても後半からだろう。


 NHOやりたい欲が死ぬほど酷いが、どうであれ今は課題を終わらせないとNHOにインすることはできない。私は諦めて勉強机に向かった。

一応知り合いには相当な期間インできない、ってことを伝えておいてあるからNHO内でのいざこざは特に何もない……筈だ。


 ……アイナさん達が『迷妄機関ビジョン・ダヴァーニ』を見つけた、ってことが一番の不安の種だけども。まあ大丈夫でしょう。


 っと、よそ事を考えている場合じゃない。課題に集中しないと。

……うわ、ワーク100ページ超えてんじゃん。というかこれワーク一冊丸々じゃないの?嘘でしょ?


――――


「……あの量を一週間で?答えも見ずに?」


「死ぬかと思った」


 一週間後。私は二週間という見立てをどうにか一週間前倒しすることに成功した。

で、今は課題終了の慰安旅行ということで家族を何人か巻き込んで温泉地に遊びに来ていて、何故か鉢合わせた委員長と一緒に公衆浴場でお湯に浸かって話をしているところである。


「……その集中力を普段から発揮できれば良いのですが」


「それは私もよく思う……」


 呆れる委員長。事実、私になんかよく分からない集中力は備わっている。私は今回の課題を終わらせるために、一日食事を忘れる程の物凄い集中力を見せた。まあその力の引き出し方が分からないっていうのが一番の問題なんだけど。


「ところで、何かNHOで変わったことってある?一週間インしてなかったからさ」


 本来のMMORPGならそんな短期間で色々変わることはないのだが、相手はNHOである。色々変わっていてもおかしくはない。


「『称号システム』がアップデートで追加されましたね。何やら追加の時のおしらせが意味深だったためヒストリア辺りが出張っています」


「称号ね。そういえばそんなシステム追加するとか言ってた気がする。……で、意味深なおしらせって?」


「ネタバレは嫌いでしたよね?是非自分で確かめてみてください」


「むー……」


 委員長は笑っている。

でもこれは普通にありがたいかな。多分聞いたら聞いたで後悔しそうだし。サンキュー委員長。


「で、他には?」


「…………特には」


「え、何今の間」


 凄い不穏なんだけど。え、何?何かあったの?


「いえ。それより上がりましょうか」


 委員長がお風呂から立ち上がる。

割とのぼせ気味だった私はそれに急いで追従した。

良いように話題を逸らされた感じはあるが……まあ深く聞かない方が良いことなんでしょう、多分。


――――


「よーっす。実は俺も来てたわ」


「あ、栄水じゃん。……というかさ、これ誰が来てるの?」


 私は脱衣所から戻ったところの廊下で栄水と鉢合わせた。私はすぐさま察する。これあれでしょ、私がこの温泉地に居るって知って学校の皆が殴り込んできたパターンのやつでしょ。


「流石に気づくかー。黙ってようと思ったんだがな」


 脱衣所から委員長が戻ってくる。そして私の見立てではこいつが主犯格だ。お風呂の中でもちょくちょくクラスメイトがこそこそしてるのを見かけたし、大方私が温泉地に行くって情報を入手した委員長がクラスの皆を誘って乗り込んできたんだろう。理由は分からないが委員長は時々そういうことをやる。というか過去に何回かされた。


「おや、流石にバレてましたか。今回は温泉地、ということもあって人数が膨れ上がりすぎたのが敗因でしょうか……」


 いやほんと何人連れてきてるんだよ委員長。

半分ツアー旅行みたいな感じになってないそれ?

……とと。栄水に会えたんだしお礼言っとかないとね。


「あ、そうだ。栄水――いやオグロ、霊園リュミエールで助けてくれてありがとね」


「いいってことよ。タンクはそれが役目だからな」


 いぇーいと私達はハイタッチをかます。

そして私と栄水は委員長に肩を叩かれた。


「ここ、公衆の場ですから。そういうことやるのはもうちょっと別の場所でお願いします」


 あ、はい。


――――


 私達は今いる銭湯の宴会場に移動した。

周りを見ればクラスメイト達が集まっている席が結構ある。一体委員長は何人連れてきたんだ。

……やば、不良グループが集まってる席あるじゃん。あいつらも呼んだのかー……。ちょっと近寄らないようにしないとな。


 ……なんか、グループのトップっぽい女の人に睨まれたのは気のせいだよね?


 私はそそくさとその場を立ち去り、栄水と委員長が待っている席まで歩く。


「というかさ、流石に私の旅館まで殴り込みはしないよね?」


「流石にそこまでは……。私達は日帰りなので」


「あぁ、そっか」


 ……うん、結構迷惑がってたけど居ないのはそれはそれで寂しい。せめて委員長だけでも泊まりで来てくれたら嬉しいんだけど。まあ無理か。

そう考えていた時、委員長が「あぁそうです」と話を切り出した。


「ん、どったの委員長?」


「いえ、栄水が何か話があるらしいので。まあ当の本人が忘れてそうだったので私が切り出したんですけど」


「えぇ、栄水が?」


 栄水から話か。珍しい。

私は栄水の目を見る。ピンと来た。これはあれだな、NHO関連の話か。

闘技大会の一件以降、なんか私と栄水の間で無言の意思疎通が成立するようになった。何故なんだろうか。


「NHOで何かあったの?」


「人の心を読むな。まあ半分くらい間違ってるけども」


「ん、どういうこと?」


 オグロは辺りを軽く見回して、それから口を開いた。


「NHOの秘密が分かった。殆ど間違いない情報だ」


「NHO……の秘密……?」


 確かに結構不穏な話だ。

というかそれ周りを軽く見回した程度で話しちゃって良いことなの?


「……うーん、まあ大丈夫だろ」


 そうですか。


「つー訳でNHOについての話だが、まあ割と簡単な話だ」


 栄水は前置きをする。委員長もこの話は知らないのか、割と前のめりになって栄水の話を聞いていた。


「俺とかあたりめが囲いやってるヴィーラってバーチャルアイドル居るだろ?そいつがNHOができたそもそもの元凶だ」


「は?どういう事?」


 バーチャルアイドルのヴィーラ。闘技大会の時に結構ガッツリ利用しちゃった人だ。栄水の言い様からするにNHOができたのはそのヴィーラが絡んでるんだろうけど――。


「そもそもNHOってゲームは殆ど一人の天才の手によって作られてる。そしてそいつがNHOを作ろうとした理由がヴィーラにある」


「……あれ。NHOが作られた時、ヴィーラ居ませんでしたよね?」


 委員長が栄水に突っ込む。確かに言われてみれば、NHOが作られた時にヴィーラは活動していなかった。


「ああ。その当時ヴィーラはプロトタイプだったからな」


「……へ?プロトタイプ?」


 どういうことだ。栄水の言い方じゃあヴィーラがまるで人間じゃないみたいな言い方だけど――。


「あれ、知らなかったのか?ヴィーラは人間じゃない。AIだ。というかバーチャルアイドルは半分くらいAIだぞ」


「そうなの!?」


 ちょっと待って。それ普通に初耳なんだけど。

えーっと?ってことはつまり?


「ここまで言えば後は簡単だ。まあ察せられるとは思うが、そのNHOを作った一人の天才がヴィーラにガチ恋した。でそいつがヴィーラの為に仮想世界を作った。それがNHOの始まり――ってされてる」


「そうなんだ……全然知らなかった」


「そりゃ俺達が調べ上げたからな」


 栄水はさらりと言う。

……ちょっと待って?栄水、何者なの?というか“俺達”って誰?


「……あれ、お前気づいてなかったのか。俺あれだ――」


 続きを話そうとした栄水の口が委員長に塞がれる。


「はいはい。それ以上をここで言うのは駄目ですよ」


 栄水はそのまま委員長に連行されていった。

……ちょっと待って。割と私の周りって結構謎な人多くない?


――――


「それで、言わなくても良いんですか?ここを逃せば機会はそう多くなさそうですが」


「…………」


「ほらほら、そろそろ帰りの時間になりますよ?」


「…………」


――――


 ハロー世界。

なんか私、かなりヤバ気なことに巻き込まれてます。


「…………」


「あ、あの…………」


 私の周りにはかなり柄の悪そうな奴ら。

そして目の前には私をガチで睨んでくるクラスの不良グループのリーダー。


 さて、ここで少しだけ解説すると私のクラスの不良グループには本当に危険な噂しかないのだ。

何故か良くも悪くも物凄い人材ばかりが揃っている私の学校では、当然後ろ暗い物事が結構起こる。


 そしてその良くない出来事を殆ど片付けている、とされているのが私のクラスの不良リーダーだ。

表の委員長、裏の不良……と学校内では扱われている。何故か教師達もそこまで不良に関わっていかないし。


 それらに加え実は殺人をしてるとか、関わったら裏の世界で生きるか死ぬかしかないとかいう噂も大量にある。まあ関わったらヤバい、というのは確定していることだ。


 というかその辺除いても、私は今目の前に立っている女不良と因縁がある。

ざっくり言えば、委員長と結構デカいいざこざがあったのだ。なので私はもうこの人と関わりたくない。


 そんな人達に囲まれているのだ。とはいえ過去の因縁以外で何かした覚えはない。とりあえず私は顔面蒼白で冷や汗をダラダラと垂らしていた。


「…………」


「な、何か用ですか……?」


 そう質問してすぐ、私は横に居た柄の悪そうな奴に肩を小突かれた。

え、どういうこと?何か悪い態度でも取っちゃった私?


 相変わらず不良のトップは私を睨んでいる。


 ……。

……え、これどうしたらいいの?


「――――あたしだよ」


「……えっ?」


 私は不良のトップに襟首を掴まれて、顔をぐっと近づけさせられる。

……えっと、どちら様ですか?


「だからあたしだよ、あたし。……もしかして分からないか?あたしのこと」


「わ、分からないです……」


 だ、誰なんだ一体……。

金輪際、私がこんな不良のトップの人と顔見知りになるようなことをした覚えはない。

となれば――またNHO関連のゴタゴタだろうか。でも今回はNHOで何かした覚えはないんだけど……。


「……ったく。ほんと鈍感だよな、お前。――これなら分かるか?」


 私の目の前に居た女不良はポニーテールをほどき、まとめられていた長い髪をバサっと広げた。

そしてこれまで額が見えるように左右に分けていた前髪をまっすぐに戻し、その結果前髪が目に掛かって表情がちょっと分かりにくくなる。


 ……いや、まさか。

私はこの髪型……というかこの雰囲気を纏ったプレイヤーを知っている。


 ……嘘、でしょ?


 目の前に立っていた元女不良は、ニヒルに笑って口を開いた。


「――お久しぶりです、アリスさん。こんなところで会うなんて、奇遇ですね」

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