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『霊園リュミエール』その3

「えっと、ってことは……これがヘルメスさんの墓――ってことっスかね」


「そうだと思う」


 まあ、普通の人をこんな巨大な十字架に埋葬するなんておかしいとは思うけど。

するとアイナさんが突然独り言をつぶやきながら考え込み始めた。


「ヘルメスの墓……周りの安全地帯の水晶は32個……モンスターを寄せ付けない?いや違うっスか……」


「おい。登録できないって出るが、どういうことだ?」


「ん?」


 アイナさんの呟きに耳を傾けていた私は、団長の声で不意にゲーム世界に呼び戻された。

登録できない、とは一体なんのことなんだろう。私は団長に尋ねる。


「登録できないってどういうこと?」


 団長は十字架を叩きながら言う。


「これだ。システム的にはこいつがモニュメントで間違いない筈なんだが――〈登録できません〉って出てくる」


「えぇ?」


 というかそれモニュメントだったんだ。

私もそのモニュメントに触ってみる。


〈このモニュメントを登録できません〉


「わ、ほんとだ」


「だろ?どういうことなんだか」


 団長は肩をすくめた。私もすくめたい気分だ。

……うーん、本当にどういうことなんだろうか。モニュメントに登録しすぎとか?

私達は「バグじゃねこれ」という結論を出し、運営に報告しようとしたのだが――そこにアイナさんが割り込んできた。


「あぁ、多分それはバグじゃないっス。何故かモニュメントに登録できない場所、他にもあるっスから」


「え、それどこ?」


 そんな場所あったんだ。

割とNHOやってるつもりなんだけど、全然知らなかった。


「『真なる原風景(インサイドザイン)』っス。あそこも何故か登録できません」


 また君か。

真なる原風景(インサイドザイン)』さぁ、なんか他にも色々謎多くない?というかそこだけ異質っていうか。どういうことなんだろう。


「……あー、これは仮説なんスけど」


 その時だった。私達の後方で爆音が上がったのだ。

確か、今はイグニスさんやとらんぱさん、バーチャルアイドルの方々がこの景色に感動してスクショを撮りまくっている筈だ。

モンスターか?……いや、この安全地帯の水晶が大量にある区域にモンスターは近づけない筈だ。となると……何だ?


「プレイヤーキラーだ!皆気をつけろ!」


 イグニスさんの声が辺りに響く。

こんなとこまでプレイヤーキラー?どういうこと……。

というかイグニスさん、ボロボロっていうかHPがやばいけど大丈夫ですか!?


「寸でのところで未来が見えた。私はなんとか回避行動を取れたが、他の皆は……っ」


「おいマジかよ……」


 団長は苦虫を噛み潰したような顔をする。よく見れば怒りの表情を浮かべていた。

後ろを見れば、もうもうと土煙が立ち込めていた。

そして土煙の中に浮かび上がる、何人かのシルエット。イグニスさんは躊躇いなくそこに向かって銃を撃ったが。


「そんな貧相な弾が効くとお思いで?」


 弾はシルエットに直撃したが――弾かれた(・・・・)。シルエットが何かをした素振りはない。ただ効かなかった、ということだろう。

土煙が晴れる。そしてそこに居たのは……。


「アリス。お礼参りに来ましたよ」


 ……誰だ?

いや、待て。このメルクに似た髪の感じ――そうだ、思い出したぞ。

あの現実でなんか絡んできた人か。


「……ロンリ?」


「ええ、そうです。皆!アリス以外は殺して構いません!」


 ロンリの脇に控えていた何人かがこちらに突撃してきた。

このゲームには連行というシステムがある。闘技大会の前の時に私が黒服に「ホロスコープ」のギルドまで連れ去られたことがあったと思う。あれだ。

正直なんで用意されてるのか分からないシステムだが……私以外を殺して構わない、ということは少なくとも相手はそれを狙っているんだろう。どこへ連れてかれるのかは分からないが、良いことにはならないのは確かだ。

団長が舌打ちする。


「セブンクライムの奴らかよ。おいアリス、お前ほんとに何したんだ?」


「いや、何も――!?」


 瞬間、私の体が急に後ろに引っ張られる。

団長が【一陣の風(ヴィンドボルト)】で加速したのだ。


 見れば、先ほど団長が居たところには何かゴテゴテに装飾の付けられた槍っぽいものが突き刺さっている。

どうやら、団長は高速移動できるスキルを持っていたため初撃を回避することができたみたいだ。

だけど、機動力を持っていないイグニスさんとアイナさんは。


「イグニスさん!アイナさん!」


「ほっとけアホ!今回の敵の標的はお前だけだ!」


 二人はセブンクライムにリンチされていた。痛覚とか遮断されているらしいから大丈夫だとは思うが、それでも心にくるものはある。


 悲しむ私をよそに、団長は私の服を掴んだまま更に【一陣の風(ヴィンドボルト)】を使い、ヘルメスの墓がある空間から逃げ出した。


――――


 ロンリと一緒にいた面子はイグニスさんとアイナさんの処理に時間を取られたからか巻くことができたが、初志貫徹して私を追ってきているロンリだけは巻くことができていない。

何かしらのスキルを使って高速移動しているロンリの速度は大体団長と同じくらい。そして、そろそろ団長のMPが切れかけ始めていた。


「おい、何かてめぇは動けるもん持ってねぇのか!?」


 【一陣の風(ヴィンドボルト)】を連発している団長が声を荒げる。


「……〈機械〉の『ミステル』で足を機械化するくらいしか――」


 〈機械〉の『ミステル』は色々と便利だから持ってきてはいる。

勿論機械になるのに若干時間こそかかるが、まあ大丈夫だろう。


「サイボーグか。ってもそれで逃げきれんのか?」


「……多分、無理だと思う」


 メルクが居たころ。足を機械化したらどれだけ早くなるのか、前に少しだけ検証してみたことがあった。

その結果【一陣の風(ヴィンドボルト)】には劣るということが分かった。そしてロンリの速度は団長と同じくらいだ。つまり。


「チッ……」


 団長がまた舌打ちする。表情が暗い。どうやらそろそろMP切れのようだ。私はミステルで両足を機械化し、単身どうにか逃走する準備を整える。


「アリス、逃げろ!」


 私は団長に投げ出された。MPが完全に尽きたんだろう。

私は一心不乱に逃げる。


「おいロンリ!そいつに向かうのは俺を倒してからにしな!」


 団長がロンリに斬りかかる音が聞こえる。


「誰がそんな見え見えの挑発に構うとでも?」


 金属の弾かれる音が聞こえた。どうやらロンリは団長をスルーして私の方に向かってくるらしい。


「――じゃあ、ゲームシステムの挑発なら構うんだよな?」


 その時だ。こちらへ向かってくるロンリの動きを妨げる何かが、私とロンリの間に躍り出た。

そのシルエットは私のよく見知ったもので――。


「オグロ!?」


 オグロはニッと笑う。


「【フルタウント】!」


 オグロは挑発スキルを使った。挑発の状態異常、即ちロンリの動き、視線、攻撃――全てがオグロに向けられるもの。


「オグロ、お前かよ。どうしてここが?」


 後ろの方で行われているらしき団長とオグロの会話が聞こえてくる。


「爆発音を聞いてな。駆けつけてみたらなんかよく分からん奴がアリスを狙ってた。それが誰かは知らんが――俺はアリスを守らなくちゃいけねぇからな」


「くっさ」


「んだとぉ!?」


 後ろの方で金属がぶつかり合っている音が耳に入ってくる。多分二人がそう会話しながらロンリと戦っているんだろう。

私は心の中で二人に感謝しながらその場を後に――あれ?誰?

見知らぬプレイヤーが私の近くに立っていた。まさか……敵!?


「違います。フォルシェンです。オグロ様の付き人――」


 フォルシェン?なんか聞いたことあるな……。

あ、そうか。『霊園リュミエール』見つけた人か。え、もしかしてフォルシェンさんってオグロのギルメンだったの?


「行きましょう。危険です」


「あ、うん」


 私はフォルシェンさん――いや、ちゃん?に連れられて逃げ出した。


――――


 私は木造の十字架をぶち破って道っぽいところに飛び出した。


 あの後、オグロと団長がどうなったかは分からない。

ダイレクトメッセージを飛ばしても良かったが、迷惑になりそうなのでやめておいた。


 ……そろそろログアウトしても大丈夫かな?


 ログアウトには結構時間がかかる。そしてその間に何か攻撃とかを受けるとログアウトはキャンセルされる。その為に非常事態になったらログアウトして逃走!ということは中々難しいのだ。まあ最初のころ看板団に襲われた時はメルクが注意引いてくれてたからできたんだけども。


 ……でもなぁ。ログアウトしてもどうしよう。

このゲーム、デスルーラで戻れるっけ?

イベントの時はイベントマップだったから戻れたけど、通常エリアで死んでもそのエリアのモニュメントに戻されるだけじゃなかったっけ。

うーん?でも私このエリアでモニュメント登録してないしなぁ……。


 きっとこのワールド中をセブンクライムのギルドは探し回ってる筈だ。

だからもしデスルーラで戻ることができなかった場合、結構やばいことになる。


どうしようどうしよう……。


「……人、居ます」


「え、本当?」


 私は近くの十字架に身を隠した。

ここ、結構隠れられる場所あっていいね。


 そして道を歩いてきたのは――。


「あ、ホロスコープじゃん」


 私は十字架から飛び出した。


「うわっ!?」


 あたりめさんが驚く。

意外とホラー苦手なのかなこの人。


「アリス!逃げろと言った筈ですよ!」


 あたりめさんの声よりワンテンポ遅れて私の姿を認めた委員長に私は怒られた。


「ごめんなさい……」


「全く。それで?何ですか?これですか?しょうがないですね……」


 委員長は弓を構えた。

……委員長さ、割と私に甘いよね。なんでなんだろう。


「いや、要件はそれじゃなくて。委員長あれ持ってない?『定点転移石』。」


「え、なんですかそれ?」


 委員長はそれについて全く知らないようだった。いや、でも知らないってことはないでしょ。私は委員長に『定点転移石』について説明する。

『定点転移石』は闘技大会生産部門の報酬で手に入ったアイテムだ。キメラの翼みたく、これまで行ったことのある街にワープできるアイテム。私も一応持ってはいたのだが、こんなことになるとは思わず持ってきていなかった。いやだってさ、昨日見つかったばっかりのワールドだよ?まさかそんなところでこんな被害に遭うとは思わないじゃん。


「……あぁ、そういえば一応持っていた気がします」


「後で倍にして返すから!ちょっと貰っていい?今割と緊急なの!」


「だから逃げろと言ったのに……。全く、今回だけですよ?」


「本当!?ありがと委員長!」


 よし。委員長って確か生産部門で結構上位にランクインしてた記憶があったけど、予想通りそれは合ってた。

私はトレードで『定点転移石』を貰い、すぐさまそれを使って《アリア》の街へ逃げ帰った。


――――


アイナ▽


――――


「うわ暗っ。どこっスかここ……」


 私、アイナは何かよく分からないところで目を覚ました。真っ暗だ。何も見えない。

ここでモニュメントは登録してなかった筈だし、私はきっと元いた街――『名画テネーブル』に戻されるのだろうと思っていたのだけど。


「あ痛っ」


 私は横になっていた体を起こそうとして、自分の上にある何かに頭をぶつけた。

いや、痛覚とかはないんだけど……こういうのついつい言っちゃうんだよね。


 手で私の上にある何かに触ってみる。ちょっと重い。というか、私の周りも何か壁っぽいものに囲まれていた。

……これ、なんていうか――凄い柩の中っぽいんだけど。え、もしかして埋葬されちゃった私?


「……お?」


 ちょっと力を込めると、上の何かは簡単に動いた。

私はそのまま力を込めて上にある何かをずらす。


「――眩しっ」


 するとすぐさま私の目に青白い光が飛び込んできた。

私は突然の光に驚く視界と格闘しながら蓋らしきものをずらす。そして視界が光に慣れきった時、目の前に広がっていたのは――。


「!?」


 大量のパイプ、それに取り付けられた何かしらの計測器、周りに沢山あるポンプ。

そこは工場だった。それもいかにも空想の近未来的なもの。

――いや、私はここを知っている。というか昔、一度だけアリスさんとメルクさんから聞いた覚えがある。


 ……ここは、もしかして――。


 私は体を起こした。瞬間、画面にシステムからの通知が訪れる。


〈「迷妄機関ビジョン・ダヴァーニ3Fを発見」偉業を達成しました。年表に登録しますか?〉

新しい小説の投稿を始めました。

1部分時点では、【6分で分かる】バーチャル美少女イドラ【公式】というタイトルです。

もし良ければ、こちらの小説もよろしくお願いします。

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