表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/76

『霊園リュミエール』その2

「……ギフト?何っスかそれ?」


 ギフト……ね。アイナさんは何も知らないようだけど、私はギフトが何なのかを漠然とだが知っている。親から聞かされたことがあったからだ。


「……やっぱり知らないか。アイナ、アリス。デザイナーベビーという言葉は知っているだろう?」


「あぁ、それなら知ってるっス」


 デザイナーベビーのことは当時物凄い問題になったらしいからね。

というか今では道徳とか歴史の教科書にデザイナーベビー関連の問題とか載ってるし。知らない人間はほとんどいないだろう。


「ギフトとは、デザイナーベビーに備わった――いや備えられた特異な能力のことだ。どういう訳かデザイナーベビー全てにギフトは備えられている」


「なるほど……」


 ……デザイナーベビー全員にギフトって備えられてるんだ。それは知らなかった。


「まあ特異な能力と言っても、電撃が出せるとか水を操るとかそういうものではない。基本的には基礎能力の底上げが主だ」


 あ、そうなんだ。私ずっとギフトって何か物凄い異能扱えるとかそういうものだと思ってた。

……あれ?でもイグニスさんのギフトってなんか凄い異能っぽいけど……。

私はとりあえずその疑問を口に出してみた。


「あれ、でもイグニスさんのギフトは“未来推量”ですよね?それって字面だけ取ったら未来予知みたいなものじゃ……」


「……まあ、それは確かにそうだ。私は自分のギフトを演算能力の底上げだと思ってはいるんだが――正直言って、私のギフトはどう考えても予測不能な未来すらも教えてくれる」


 イグニスさんは一拍置いて続ける。


「私にもデザイナーベビー関連のことは分からないことが多い。隠蔽された、とも言うが――少なくとも、そういうものだと無理矢理自分を納得させるしかない……と思って私は生きているよ」


「そうなんっスね……」


 しんみりとした空気が辺りに流れる。

その空気を壊したのは私宛てに委員長から飛んできたボイスチャットの申請だった。


「ごめん、ちょっと出てくるね」


「了解」


 私はその場から少し離れてボイスチャット申請を受理する。

聞こえてきたのはかなり切羽詰まった様子の委員長の声だった。


『アリス!なるべく早くこのワールドから離れてください!』


『いや話が早い早い。どうしたの』


『ロンリがこのワールドに来ました!』


『ロンリって誰?』


『……。ロンリはあの人ですよ、昨日貴方にリア凸してきた人』


『あぁ、それは危険だね』


 うん、完全に忘れてた。

そういえばそんな人も居たね。というかあの人はどうやって私がこのワールドに居るって察知してきたんだ。

なんだろ、このワールドに来たらたまたま鉢合わせちゃったとかそういうやつなのかな?


『とにかく。このワールドは危険です。貴方だけでも良いので逃げてください』


 それだけ言われてボイスチャットは切れた。


 うーん、でも逃げろって言われても……。

そもそも一つのワールドってまだ全てのワールドで誰も端にたどり着けてないくらい相当広いし、そう簡単に出くわすかな?


 いや、別に逃げてもいいんだけどね。

このワールドから逃げたくても逃げられない理由が実は他にあって。


 実は今日を逃すと、私は割と真面目にNHOにインできなくなる。

明日辺りに夏休みの課題が配布される予定なんだけど、前回の夏休みで課題を溜め込みすぎて家を巻き込んで酷いことになったから家族に課題を終わらせるまではゲーム禁止令を食らったのだ。

そして課題は私の見込みだと結構ありそうな予感がする。大体終わらせるのに一週間くらいかかりそうなレベルで。


 まあそういうことなのでここで逃げてしまうと一週間くらいはNHOにインできなくなるのだ。

せっかく『霊園リュミエール』の情報を買ったというのに、それでは生殺しも良いところである。


 それにオンラインゲームで相手にできる嫌がらせって言ってもたかが知れてるでしょ。いやちょっと前――それこそ海底探査イベントがあった時辺りのNHOには結構色々あったらしいけど、今のNHOはアップデートでそういうのはかなり減らされたらしいし。大丈夫大丈夫。


「ん、終わったよ」


 私は三人が待っている場所まで戻る。


「どうだった~?」


 そう話しかけてきたのはとらんぱさんだ。


「うーん、何か私が恨みを買っちゃった人がこのマップに来てるから気をつけて、っていう委員長からの警告だった」


「……また面倒事か?」


 イグニスさんは浮かない顔をしている。まあ海底探査の時もえらいことになったもんね……。

だが、それを体験していない他の二人の表情は特に変わってはいなかった。


「まあ別に大丈夫じゃないっスか?マップは広いっス。そう簡単には会わないっスよ」


 とらんぱさんもその言葉にうんうんと頷いている。

正直私も全く同じことを考えている。ちょっと楽観的過ぎるかもしれないけど……。


「……はぁ。本当に会わなければ良いんだが」


「あ、そうだ。イグニスさんのギフトって未来推量だよね?その辺何か分からない?」


 イグニスさん、ちょっと前に何か「見えた」とか「これは言っておかなくてはいけない」とかそういう滅茶苦茶意味深なこと言ってたよね。

何か未来が分かったとかそういうのじゃないか、私はそう思ってたんだけど。


「分からない。私が見たのはアイナと連携がうまく取れずに私達が全滅しかける未来だけだ」


「そっかぁ……」


 まあ不確定要素が大きすぎるしね。

というかなんでそういう未来は見えるんだろう。

……ギフト、謎が多い。


――――


「それにしても……」


「モニュメント見つからないね~」


 私ととらんぱさんの声が見事にマッチする。

あれから10分ほど辺りを探し回ったが、全くモニュメントが見つかっていない。


 敵も入ってきた場所から離れているためだろうか、どんどんと強くなってきている。そろそろ避けゲーが始まる辺りだ。

安全地帯も見つからなく、全くと言っていいほど気が休まらない状態が続いていた。


「……何か見えないか?」


「え、どれ?」


 そんな時にイグニスさんがそう言った。

……イグニスさん、何故か視力が滅茶苦茶良いからね。私には特に何も見えなかったが、多分イグニスさんには何か見えてるんだろう。


「……こっちに来る。もしかしたらそのロンリとかいうプレイヤーかもしれない。隠れろ」


「分かった」


 どうであれ、見つからないことに越したことはない。

私達はイグニスさんの言うとおり隠れた。


 それから暫くして。私達にようやく見える距離にプレイヤーっぽい影が現れた。

……いや、待て。私はあの人達を知ってるぞ。


 私は男性プレイヤー一人と女性プレイヤー二人の集団の前に飛び出した。


「団長!?何やってんのここで!?」


「きゃああああああああ!?ひいっ、お化け!」


 が、私の言葉は女性プレイヤーの片方の叫び声によって遮られる。

団長は叫び声を上げて逃げ出した女性を引き戻しながら口を開く。


「げ、アリス。お前こそ何やってんだここで……」


 あ、というかさっき叫んだ女の人ってあの人じゃん。闘技大会の時に団長とコンビ組んでた人。

どうやらその女の人もこちらを正しく認識してくれたみたいで、すぐさま安堵の表情を浮かべた。


「あ、アリスさんでしたか!あぁ良かった……」


 とりあえず私は後ろで隠れている三人に“話がややこしくなるから出てくるな”のハンドジェスチャーを送り、団長が何故女性プレイヤーを侍らせてここにいるのかを問いただすことにした。


「団長、誘拐はダメだよ?」


「いや誘拐じゃねぇよ。バーチャルアイドルやってるだけだ」


「はぁ?団長がバーチャルアイドルぅ?」


 私は『爆弾ヘルツ』を構える。

絶対それっぽい嘘付いて私を殺しに来てるでしょ団長。私は“やばくなったら出てきて”のハンドジェスチャーを後ろに送った。


「いや本当だ。とりあえず爆弾ヘルツを構えるのをやめろ。経緯は説明する」


――――


「はぁ、つまりなんだかんだで大手企業のバーチャルアイドル二期生の一人になったってことね」


「あぁ、それで合ってる」


 というか経緯を聞く限り闘技大会で団長と一緒にコンビを組んでた女の子に無理矢理させられたって感じがするけど。


「だからって女の子二人を侍らせるのは良くないと思うよ」


「うっせぇ。こいつらは同業者だ」


 あ、そうなんだ。

ついバーチャルアイドルって肩書きを使って色々危ないことでもしてるのかと……。

私は“もう出てきてもいいよ”のハンドジェスチャーを後ろに送る。

すぐさまイグニスさんを先頭に三人がぞろぞろと出てきた。


「うわっ、イグニスも居るのかよ」


「居て悪いか?」


 ……何か微妙に空気があれだけど。まあ大丈夫でしょ。


「まあまあ二人共~そこまでにして、ね?」


 とらんぱさんが仲裁に入った。


「だが……」


「まあまあまあ。ほら、一緒に行くよ~」


 渋るイグニスさんと団長だが、とらんぱさんは強引にそのまま前の方へ歩いていく。

私とアイナさんは慌ててとらんぱさんについて行く。後からイグニスさんと団長、そして二人の女性も付いてきた。

……あれ?これもしかして一緒に行く流れ?


――――


 それから歩いて5分ほど。一向にモニュメントは見つからない。というか街すら見つからないんだけど。

とりあえずどの方向に歩けば良いか分からなかったので、私達はとりあえず空の中央に浮かぶ月っぽい星の元を目指して歩いていた。


「……あれ、何なのかな?」


 そして月っぽい星の近くまで来て分かったことだが、この地に大量にそびえ立っている十字架の中でも異様に大きいものが丁度月っぽい星の真下に立っている。

遠くから見たときにどうしてそれが分からなかったのかは正直謎だが、まあその辺は割とブラックボックスの多いこのゲームのことだし。きっと何か妙なゲームシステムでも組まれているんだろう。


「……ねえ、あそこに向かってもいいかな」


「いいんじゃないっスか?」


「面白そうだしな」


 私の提案はアイナさんと団長の両方から受け入れられた。正直団長が許可した理由とか付いてきた理由は分からないが、どうやら今現在もこのマップを放送中っぽいから何かしらの撮れ高が欲しかったんだろう。多分。


 私達は異様に強くなってきたモンスター達を避けつつ(大体レベル35くらい)、月っぽい星の真下にそびえ立つ多分一番巨大であろう墓の元まで向かった。


 ……というかずっとイグニスさんが無言なんだけど。どうしたんだろう。


「イグニスさん、大丈夫?」


「……あぁ、大丈夫だ」


 なんだろ。嫌な未来でも見たとかかな。


――――


「やっと着いた……」


 道中、何故か物凄いモンスターが固まっている場所があってそこを突破するのに滅茶苦茶苦戦させられたけども、バーチャルアイドル達の妙に高いレベル(28レベルくらいあった)と未来を予測できるイグニスさんの組み合わせが物凄い強かったが為になんとかなった。


 危なかった……。もし団長達と出会えてなかったらどうなったことやら。

だが、持ってきた回復薬ポーションは既に底を突きかけていたし、アイテムも援護や陽動、挑発の為に結構使ってしまった。


 まあどうであれ、たどり着けたんだからオールオッケー。私達はすぐ目の前にある、ビル20階建てくらいの巨大さを誇る十字架へと一歩踏み出した。

外からでも分かったことだが、その巨大すぎる十字架を中心として半径50mくらいは十字架が一本も建っていない。かなり重要そうな場所に思えるが、果たしてどんな情報が手に入るんだろうか。


「……っ、なんだここ」


 先導していた団長が狼狽える。

一体何があったんだろう。私は後ろから内部の少しだけ開けた空間を覗き込んだ。


「わっ……」


 私は息を呑んだ。

十字架の建っていない空間には、十字架の代わりに規則正しく“安全地帯”に屹立している水晶っぽいものと同じものが立ち並んでいた。

大量の水晶が月光を受けて巨大な十字架の周りで煌めいている。

その光景はとても美しかった。


「これは……凄いな」


 続々とその空間に入ってきた皆がその景色に魅了されていく。


「……これは。安全地帯にある水晶と全く同じっスね。ということはここはそれほどまでに大事なところ……?いや、そうじゃないっス。少なくとも水晶がこんなに規則正しく並ぶなんてことは……」


 ……若干一名景色よりも別なことを考えている人がいるけど。


「……アリスさん。この墓、誰のものなのかって分かるっスか?」


「ちょっと待ってね。調べてみる」


 私は十字架の周りを回る。

十字架が巨大すぎて見逃しかけたが、私はどうにか墓に眠る人物の名前が刻まれた場所を見つけ出すことに成功した。


「えっと――『偉大なるヘルメス、この地に眠る』……!?」


 その墓に刻み込まれていた名前は、私のよく知ったものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ