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『霊園リュミエール』その1

「情報料は4000万ゴルドですね~」


「はい」


 私はダッシュで情報屋に赴き、即金で4000万ゴルドをポンと出した。

正直、この新ワールド発見の報は私にとって物凄くありがたかった。

それはゴルドをそれっぽい理由を付けて減らせるからだ。


 実はこれまで、私はPKの危険にずっと晒されていた。

PKされると所持金の半分がPKに渡る。NHOはそういうシステムのゲームで、基本的に富豪以外をPKする意味はない。


 が、私は回復薬ポーション騒動でかなりの額を稼いでしまった。そのことは当然大手のPKプレイヤーにも伝わっているだろう。私はただの生産職だ。プレイヤーキラーから見れば鴨がネギしょって歩いている以上においしいはずだ。

ゴルドを預けられる銀行もあるといえばあるのだが、そこはプレイヤーのレベルによって預けられる金額の上限が決まっている。今の私だと100万くらいしか預けられなかった。


 だけど正直言って、ゴルドなんて100万もあればこのゲームで十分慎ましく暮らせる。銀行に100万ある以上もうお金を持つ必要はない。

しかし手元には6000万くらいのどう扱えば良いかも分からない大金が転がっている。装備を整えたりなんだかんだして5000万程度には減らせたが、後は全く使い道が浮かばなかった。


 そんな時に転がってきたのが新ワールドの情報だ。これは金の減らし方としてはかなりおいしい。

私が情報を買って一文無しになった、そう認知させることができればプレイヤーキラーも旨味の少なくなった私を狙うことは減るだろう。

後、新ワールドにさえ到達できればプレイヤーキラーの手も及ばないしね。


 という訳で、私は情報を買って早速『霊園リュミエール』に出向くことにした。

ちなみに、『霊園リュミエール』の情報を買ったのは私が最初らしい。


 さて。私が情報を買い終えて商談を行った部屋から退出しようとした時だ。

私は情報の交渉を行っていたプレイヤーから呼び止められた。


「あらあらあら?どこかで見た覚えのある方だと思ったら、アリスさんですか~。今思い出しました」


 情報の売買を担当していたのは赤髪でロングヘアの長身な女性だ。何か嫌な予感がするが、折角話しかけてくれたんだし。そう思って私は話してみることにする。


「……私のこと知ってるんですか?」


「勿論。アリスさんの事は知ってますよー、何から何まで」


「は、はぁ……」


 うーん……何か不思議な雰囲気のある人だ。

なんというかつかみどころがないというか……自分が丸裸にされそうというか。


「私は情報屋のマスター、チャプです。どうぞ宜しく~」


「えっ?」


 私は会ってすぐなのに何故かチャプさんからフレンド申請を貰った。


「『霊園リュミエール』の情報をお買い上げいただいた時点で、アリスさんは既にこの店のVIPなんですよ。何か良い情報があったら一足早く流しますので~」


「は、はぁ……」


 ……まあ、情報を司ってるところと仲良くなれる、っていうのは良い事なのかな?

それにフレンドが増えるのは嬉しいしね。私はフレンド申請を承諾した。


「ありがとうございました。今後もご贔屓に~」


 そして、そのまま手をひらひらと振ってチャプさんは部屋から出ていった。

……いやそっちが出てくんですか。


――――


「お初にお目にかかります。アイナと申すっス」


「いや、そこまで固くならなくても……」


「柔らかくでいいよ?私だって柔らかいし~」


 結局『霊園リュミエール』の探索を決行するのはその次の日になった。

アイナさんは死ぬほど行きたがっていたが、チャプさんからおまけとして「複数人の探索を推奨するよ~」との情報をいただいたので、急遽都合のつく人らを集めようということになったのだ。

その結果次の日になった。


 ちなみに、集まった面子は私、アイナさん、イグニスさん、とらんぱ七号さんの四人だ。

見事に生産職しかいねぇ。


 ちなみに、情報を買った……といってもいちいち案内して「ここが入口ですよ」、なんてしては情報がダダ漏れになる。その為実際には情報を買った――というよりかはワールドに入る権利を買った、といった方が近いかもしれない。

チャプさん率いる情報屋のギルドは暫定錬金術アイテムである『転移石』の存在を知っていたようで、まず最初にチャプさんが『霊園リュミエール』に入り、その後私が『転移石』を使ってチャプさんの元にワープする、という手筈らしい。海底調査の時にも(使ったのは私じゃなくてパラケルススさんとシエルさんだが)使ったアイテムだ。


『お待たせしました~』


 チャプさんからのダイレクトメッセージが来た。

どうやら準備が完了したらしい。私は『転移石』を使った。

周りに円とその直径になる線が2本、半径になる線が1本ある謎のマークが私を包む。


「じゃ、行ってくるね!」


「行ってらっしゃいっスー!」


「達者でな」


「てら~」


――――


 そして私は気が付けば『霊園リュミエール』の中に居た。

移動によるロード等は一切ない。流石だ。


「どうも~」


「あ、どうもチャプさん」


 私は転移した先で早速チャプさんに話しかけられた。

何かあったのだろうか。新情報とか?


「どうです?綺麗でしょう」


「まあ……確かにそうですね」


 ただの世間話だった。

だが、確かにチャプさんの言うとおりこの場所は綺麗だ。

前にフリップさんとフロップさんから色々教わった場所、『大樹海』や『渡津海島ブルーホール』に匹敵するくらいの美しさだ。

まあこっちは何か退廃的な美しさなんだけども。


 現在のゲーム内時刻は昼。にも関わらず、『霊園リュミエール』は上空に巨大な月っぽい星を浮かべ、更に大量の煌く星々も浮かべながらも辺り一帯を闇に包んでいた。

それに加え、傘の骨のような線が空から地面に向かって走っている。その線と空の間には、所々ピンク色の何かがあるように見えた。


 しかし、そんな不穏な空模様を消し飛ばすのが地上の景色だ。

地面は限りなく平坦な更地だったが、そこに何本も何本も大小さまざまな趣向を凝らした十字架が建っているのだ。大きい十字架にもなると確実に10階建てのビルほどの高さはある。


 ……これ、不意に当たったら倒れたりとかしないよね?


 いつの間にやら『転移石』でやってきていたアイナさんらパーティメンバーと一緒に情景に感動しながらスクショを何枚か撮っていたところ、チャプさんから私達――というより私に声をかけられた。


「……あぁ、そうですアリスさん。探索を始めるなら今のうちですよ~?」


「?」


 どういうことだろう。

別に探索なんていつやっても良いような気がするんだけど……?


「アリスさん、結構色んな厄ネタ抱えてますよね?この後も続々とここに来ますよ~、トップのギルドが」


「あっ」


 まずい。トップギルドか。「ホロスコープ」とかその辺が来るなら問題はないけど、「セブンクライム」が来た場合結構まずい。というかかなりやばい。特にロンリさんとかいうやべー人が来ちゃった時は。


「と、とりあえず行くよ皆!目指すはモニュメント開通で!」


「おー!」


 私は逃げるようにその場を去った。


――――


「それで、何か他にこの場所についての情報はないですか?例えば人型のモンスターが多い、とか」


「そうですね~、あ、アリスさん来てますよ?」


「……それ、本当?」


「おいロンリ、チャプの言うことは間違いない。確実に『居る』ぞ」


「なるほど。――面白いですね。行きますよ皆――お礼参りです」


――――


「チャプ。アリスとロンリの場所を教えて」


「教えられませんね~」


「ホロスコープのギルマスからの指令なんだ。頼む」


「ダメです。自分で探してくださいね」


「貴方は“洞察”のギフトでしょう?分からないなんてことは無い筈ですが」


「私が教えたくないんですよ~」


「……チッ。こいつはこういう時マジで教えねぇからな。おい委員長、急いでアリスを探すぞ。あいつが危ない」


――――


「しっかしまさかフォルシェン、お前がこんな場所見つけるとはな」


「……オグロ様のおかげです」


「おやおや。フォルシェンさん?口外するのは禁止としていましたが~」


「……オグロ様は特別なお方です。口外することはありません」


「本当ですか~?全く。今回だけですよ?」


「……すみません」


「ま、折角の新ワールドだ!行こうぜ皆、アリスにも自慢してやらねぇとな」


――――


「団長~、私こういう怖い所苦手なんですけど……」


「うっせぇ。バーチャルアイドルたるもんその程度やって見せろ、配信に人来なくなるぞ。つーかこっちだってなんとか金見繕ってここの情報買ったんだ。お前が逃げたら赤字じゃ済まんぞ」


「そんなぁ……」


「団長の言うとおりです、シムラクルム。貴方にはトップスタァになろうという意気が足りません」


「そんなことないです!私だって頑張ってますし!」


「いいえ。貴方は頑張りが足りません」


「ここでの喧嘩はやめてくださいね~。次の方が控えてますので~」


――――


「…………」


「アデプト師、ついにあの場所が……」


「何も言うな、パラケルスス」


――――


「皆!右だ!」


「はい!」


 私達は全員で右に移動する。

次の瞬間、巨大なグールの攻撃が先程までいた位置の地面を抉った。


「『バインドトラップ』かんりょ~」


「流石っスとらんぱさん!アリスさん、行くっスよ!」


「オッケー!」


 私達は動きを一瞬止めた巨大なグールに〈植物〉の『銃弾ティル』を放った。

そのまま植物の軌跡を二人で登り、グールの額に『流星メテオール』のシールを取り付ける。


「Wメテオ!」


 私達二人の声が重なる。

私達は華麗にグールを飛び越えて着地し、空中からグール目掛けて降ってくる巨大な機械の塊を背にして決めポーズを取った。

次の瞬間、機械の塊がグールに直撃して派手な音と共にグールが四角いポリゴンになって消える。


「おお~」


「そんなのどこで練習したんだ……」


「ちょっとね」


 私達は巨大なグールのドロップアイテムを確認した後、更なる敵と街を求めて歩き出した。

ちなみにドロップに美味しいものは全く無かった。まあしょうがないかな。


「――ちょっと待て。伏せろ」


 歩き出してすぐ、私達は急にイグニスさんからそう止められた。

どういうこと?そう呟いた声はだんだんと聞こえてきた地響きの音によってかき消される。


 常に辺りに霧が若干立ち込めているせいで何が起こっているのかは分からないが、巨大な何かがこちらに近づいてきている――それだけは分かる。


「うっ……そ」


 唯一上を見ていたアイナさんが驚愕の声を上げる。そしてすぐさまアイナさんは口をつぐんだ。

何事か。私は上を見上げる。そこには――。


「――っ」


 巨人が居た。

サイズはこのワールドにある巨大な墓と同じほど――つまり10階建てのビルくらい。

『霊園リュミエール』が全体的に平坦な土地になったのはこいつらが踏み固めたからじゃないか――そう思える程だ。

しかも、巨人は一体だけではなかった。何体も列を作って並んで歩いている。


 どうやら私とアイナさんが目にしたのは一番先頭の巨人のようで、巨人用の超巨大な松明を持って巨人達を先導していた。

その巨人の後続を見れば、5体の十字架を持っている巨人や花を持っている巨人など、バラエティに富んだ種類の巨人が居る。


 呆然とする私にイグニスさんが耳打ちをしてきた。


「……多分、あれはこのワールドのレイドボスだ。私達が下手に戦いを挑んで勝てる敵じゃない。【識別】したが――レベル50オーバー、【識別】のレベルが足りないと出た」


「嘘ぉ……」


 巨人の行進は運良く私達が居た場所を通らなかった為に、踏み潰されてそのまま死亡なんてことにはならなかった。が、こんな化物がいるワールド、どうやって攻略しろと……。


「……大丈夫だ。私が付いてる」


「さっすがイグニスちゃんかっこいい~」


 こんな異常事態が差し迫っている、というのにとらんぱさんは陽気だった。その性格見習いたい。


――――


「そういえば、イグニスさんって、完全に地響き聞こえる前から巨人がこっち来るの察してたっスよね?なんで分かったんスか?」


「……あぁ、それは……」


 巨人の行進が終わってすぐ。アイナさんがそんな気になることを言った。

何やらイグニスさんはその問いに答えることを渋っている。


「イグニスちゃん、言っちゃったら?この人たちは悪い人じゃない……ってとらんぱアイにも出てるしさ~」


「……そうか?だが――」


「……?」


 アイナさんがその会話に困惑している。

まあ十中八九あのことだろうなとは予測が付くが、まあ本人にとって知られたくないことなんだろう。


「ま、人には色々あるってことだから。アイナさん、この話題は変えよ?」


 私は強引に流れを変えようとする。だが、その流れを再度元に戻したのは――紛れもないイグニスさんだった。


「……いや、見えた(・・・)。言おう」


「いや、何か嫌なことなら言わなくても……」


「いや、言う。何と言われようと――アイナには教えなくてはいけなくなったからな」


「えぇ……?」


 アイナさんが首をかしげて頭上にクエスチョンマークを浮かべる。私も浮かべた。

教えなくちゃいけないってどういうこと?

だが、私がそのことに頭を捻っている間に話はどんどん進んでいく。


「アイナ、アリス。聞いてくれ、私はデザイナーベビーだ」


「知ってた」


 私は即座に返事した。


「えっ……えぇ?」


 イグニスさんが困惑する。

いやまあさ、うん。だろうなとは思ったよ。

闘技大会の時からなんとなく察しは付いてたし。


「デザイナーベビー……あぁ、そういうことっスか」


 アイナさんも何やら察したような表情を浮かべる。


「よし、じゃあ進むっスか」


「いやいや待ってくれ。もうちょっと話を聞いてくれないか?」


「あっはい」


 他所へ行こうとしていた私達の服の裾が引っ張られる。あそっか、言葉は見た目が幼いから服を引っ張ることくらいしかできないのか。……かわいい。


 私達は再度イグニスさんの目の前に引き戻され、話を続けられる。


「私は――“未来推量”のギフトを持っている」

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