魔法と錬金術
「それで、これが問題のアレっスね……」
アイナさんが取り出したのは二枚の紙切れ。それぞれに走り書きが一文だけ大きくあった。
それはこの大図書館に眠っていた最後の情報であり、私にとって一番気になった情報だ。
「『真なる原風景を近付けるな』、『迷妄機関を呼び戻せ』……?」
「これ。意味分かるっスか?」
「いや全然」
うん。全く意味が分からない。
というか、何で『真なる原風景』と『迷妄機関』だけしか書かれてないのこれ?
……もしかして、私達が『真なる原風景』で『迷妄機関』を見つけたの知ってて運営がこの情報置いたとか?
「一応、私らの方で仮説は立ててみたんスが……言っちゃっていいっスかね」
「ん、全然大丈夫」
「なら良かったっス。じゃあ言うんスけど、私らは今の所これと似たような紙が全ワールド分、世界のどこか――もしくは『逆転湖』のどこかに隠されていると踏んだっス」
「なるほど」
「まあ今の所判断材料が少なすぎてよく分かってないんスけどね。まあそんな訳で、私達ヒストリアは“この類の紙”探しに全力を出すっス。だからイベントには参加できないんス……。と、いう訳でアリスさん!」
私はアイナさんに手をガシっと掴まれる。
そのまま手元に何かアイテムを滑り込まされた。
「これ!換金アイテムっス!闘技大会の屋台で見かけた美味しそうなもの、買ってきて欲しいんス!」
「あっ、はい……」
……アイナさん、意外とグルメな人なのかな?
――――
あれから三日後。結局『回復薬』作成に繋がる手がかりは何も掴めず、時間だけが過ぎていった。だが……一つ、問題というか……何か。ちょっと困ったことがあった。
「こんにちはー」
私はあたりめさんの待つ訓練場に入る。
そしてそこでは――。
「あ、そういえばヴィーラちゃんの新曲聴いた!?」
「聴いたっすよ!あれマジやばかったわ、エモエモのエモ」
「分かる~」
「…………」
うん。あたりめさんとオグロの二人がこんな調子なのだ。
事の発端は二日前。
何時も通り訓練が終わり、解散となった時。あたりめさんがキーホルダー的な何かを落とした。
そしてその落としたキーホルダー的な何かが問題だった。……そう、そのキーホルダーはこのゲームと公式にタイアップしているバーチャルアイドルの『ヴィーラ』と呼ばれる人物(?)のものだったのだ。
そしてオグロは割とサブカル分野に詳しく、ヴィーラのファンである。そしてそのタイアップ商品であるキーホルダーを購入しているということは、あたりめさんもオグロと同じくしてファンだった。まあとどのつまり――。
「ヴィーアールマジてぇてぇなぁ……」
「は?アールヴィーだろ」
「あ?」
こうして仲が良く……良いのか?
……まあオグロとあたりめさんがこんな風な関係になってしまった。正直怖い。というか怖いのもあるけど外野感が凄い強い。帰りたい。
「帰りたいなぁ……」
「ん?何か言ったか?」
「いやなんでもないです……」
しかし、私がどう嘆こうと授業は始まる。
正直もうあたりめさんとオグロで組んで欲しい感もなくはないが、錬金術師を一躍人気職に押し上げる為だ。こんなことでへこたれている訳にはいかない。
今日も訓練、頑張るぞ。
――――
『アリスさん。私、少し仮説を立ててみたんですよ』
その日の訓練終わり。突然メルクからボイスチャットが飛んできたのだ。
当然私はすぐさまそれに答えた。
『仮説って?』
『とりあえずアデプトさんのお店に集合でお願いします。詳しい話はそこでしますから』
『分かった』
ということで私は今アデプトさんのお店にいる。
しばしゆったりとしていたところ、ドアベルの音を鳴らして見覚えのあるシルエットが現れた。目深にかぶった魔女の帽子のロングヘア。メルクだ。
「お久しぶり――と言う程でもないですが。久しぶりです、アリスさん」
「ん、久しぶり」
「会って早速で悪いんですけど、NHOの魔法職の掲示板を見てください」
掲示板か。私、ネタバレが怖くてあんまりそういうところ見たくないんだけど――まあメルクの言うことだ。きっと何か錬金術に関係したことが書いてあるんだろう。
「気は進まないけど――分かった、見てみるね」
――――
133 名無しの魔術師
えっ何これは…
https://i.moviesheare.com/K01g6ka.mp4
134 名無しの魔術師
>>133
なんかデカい時計が出ただけだよね
何これ?
135 名無しの魔術師
>>134
なんかそれが出てきて終わった
136 名無しの魔術師
>>135
意味なさすぎて草ァ!
137 名無しの魔術師
今北産業
138 名無しの魔術師
>>137
魔法
属性
いっぱい
139 名無しの魔術師
>>137
魔法の属性が他に沢山見つかる
詠唱を変えると属性変更できることに前スレの>>232が気づく
祭り
140 名無しの魔術師
今んとこ見つかってる属性ってどれくらい?
141 名無しの魔術師
>>140
ちょっと待ってろ
142 名無しの魔術師
にしてもこれマジで魔法職最強説あるんじゃねぇの?
もう武闘大会勝ちじゃん
143 名無しの魔術師
(武闘大会が八割魔法職になる未来が)見える見える…
144 名無しの魔術師
割とマジでこれ錬金術のアイテムばりにバリエーション増えるよね
自由度高くなりすぎて初心者離れないかこれ
145 名無しの魔術師
>>144
最初の方は詠唱のできない魔法しか覚えらんないからその辺は大丈夫だと思う
146 名無しの魔術師
うおおおおおお
ブラックホールみたいなことできた!!!!!!!!!
https://i.moviesheare.com/Z10rim15.mp4
147 名無しの魔術師
>>146
うるせぇ
148 名無しの魔術師
>>146
既出
149 名無しの魔術師
>>1446
もう名付けられてるぞその属性
150 名無しの魔術師
>>149
ちょwwwwww
安価ミスwwwwwww
151 名無しの魔術師
>>149
一体あいつは何に喋りかけてるんだ…
152 名無しの魔術師
よっしゃ爆速でまとめてきた
前バージョンは前スレの>>953参照
炎・氷・風・地・光・闇:初期属性
毒属性:相手に毒の状態異常
聖属性:多分アンデッドに特攻
精神属性:MPダメージ?
水属性:まんま
木属性:魔法が触手っぽい植物の尾を引くものになる。キショい
酸属性:なんか色々デバフかける
宝石属性:地属性の魔法よりもなんかもっとキラキラしたものを出す
宇宙属性:魔法に当たった相手を酸欠の状態異常にする
ブラックホール属性:モンスターを何体か集めて固定する(もしかしたらただの魔法の一つかも)
衛星属性:指定した魔法を放つファンネルを召喚できる。かっこいい
死属性:†死を与える†(なお確率)
洗浄属性:魔法に当たった相手のデバフを取り除く
謎属性:魔法に当たった相手に何も与えないしダメージもない。何これ?
時属性:名前かっこいいけど今のところ謎の時計出すだけだからやめとけ
153 名無しの魔術師
>>152
多っ
使いこなさせる気なさすぎでしょ
――――
「えっと……これが、何か錬金術に繋がるの?」
「はい。魔法使いの基礎は知ってますよね?」
魔法使い。
それは自身のマナを対価として様々な魔法を発動するもののことだ。
ものによっては詠唱を必要としない魔法も存在するが、基本的には詠唱を必要とする。
それで、この掲示板で騒がれていたこと――つまり属性の拡大。それは世界魂と詠唱が強く関係している、と。
実は前々から世界魂に関係する情報は割とあったらしく、今回私達が解放した《ケニス大図書館》の地下エリアにあった情報でパズルのピースが完全に出揃ったらしい。
魔法には基礎と属性という二つの分類がある。
基礎には四つの種類があり、属性は炎・氷・風・地・光・闇の六つが確認されているそうだ。基礎は四つ。その為そのことを四大基盤、六つある属性を六大属性と呼ぶ。
正直斜め読みしてたからよく分からないが、確か《ケニス大図書館》の地下から出てきたって本にそういうことが書いてあったと思う。
そして、ここで世界魂が登場する。世界魂とは属性全てを統括する存在だそうで、その概念の登場に合わせて六大属性以外の属性が確認されたらしい。
それがさっき掲示板で見たものだ。
なんかまあ……とりあえず物凄い量発見されてる。
……うん。武闘大会を前にしてさ、全体的に周りが滅茶苦茶強くなってるんだけど。
……。
まあいいや、そしてその基礎と属性を合わせる為に必要なのが『詠唱』だ。
それは基礎に属性を合わせるために必要なものらしい。
「……で、これが一体どう錬金術に繋がるの?」
私にはわざわざ私を呼び出してまで、この話をした意味がよく分からなかった。
普通に魔法の談義だよね、これ。
設定解説しただけじゃないの?
「アリスさん。これと似たようなもの……どこかで見たことありませんか?」
「え?見たことなんて…………。いや、まさか」
……。
もしかして、そういうこと?
メルクはニヤリと笑う。どうやらメルクの考えはそういうことで間違いないようだ。
「その通りです、アリスさん。これまではよく分かりませんでしたが、この一件で分かりました。基礎は四大元素もしくは四大性質、属性は形相――つまり魔法は錬金術に対応しているんです!」
「えぇ……」
これは……どうなんだろう。
なんかそれっぽくも聞こえるし、暴論にも聞こえなくもない……。
そう考え込んでいる途中、メルクが私の考えを遮るかのように話し出した。
「とはいえこの仮説は重要ではありません。このことから導き出せる次の仮説が重要なんです!」
「次の仮説……?」
メルクが席を立ち、自慢気に胸を張る。
そしてプロジェクター的な何かとそれを映し出す板がどこからともなく現れ――いや、ここ店内だよ!?大丈夫なの!?
「大丈夫です!」
ね、とメルクはアデプトさんにアイコンタクトを送る。
アデプトさんは困った感じの顔をした。
「では!」
「いや許可得られてなかったよね」
メルクは私の言葉を無視する。
「基礎は四大元素もしくは四大性質、属性は形相。では足りないものは?」
「……第一質料?」
「その通りです!」
プロジェクター的な何かによって映し出されていたスライドが次に進む。
こうしてパワーポなんとかみたいなことをしてくる時のメルクは、大抵その問いに対する答えを持っている。
正直、この時までは今回の情報が何かの役に立つことはないような気がするなーと高をくくっていたのだが――。
「ここで、私は基礎を四大性質と仮定します。そうなると、形相を性質に付与することはできませんよね?ではどうすれば良いでしょうか」
「えっと……質料にすればいいんだよね。だから……第一質料と結合させる?」
「そうです!そして第一質料、それはどこから出てきたと思いますか?」
「どこから出たって、そりゃぁ……んん?どこから出てきたのこれ?」
メルクが笑みを浮かべている。私が悩むのが楽しいんだろう。
……えっと、魔法に関係する要素で――世界魂は形相の元締めだから関係ないよね。
となると詠唱?いやこれは形相を質料に乗せる為に必要な作業ってだけだし――そうなると。
「もしかして……MP?」
メルクが大きく頷く。そして「流石アリスさんです」と前置きをして口を開いた。
「私はMPこそが第一質料、そう考えました。そしてそれはつまり純粋な第一質料が取り出せる、ということです」
「ってことは……『回復薬』が作れる、ってこと?」
「その通りです!早速調合しましょう!」
私達はアデプトさんのお店の調合ルームに駆け込んだ。
第一質料しか入っていない錬金釜の中に『塩』を加え、そしてその液体を汲み取ればそれは『回復薬』になる。
これが前回の『回復薬』作りにおいて分かったことだ。
どうやって第一質料のみを錬金釜の中に入れるのか、というところが一番のネックだったが――もし仮に、メルクの言うとおりMPが第一質料だというのなら、その部分も解決される。
つまり『回復薬』が作れる!
「空き瓶!」
「あります!」
「錬金釜!」
「あります!」
「『塩』!」
「あります!」
「よし、じゃあ錬金術始めるよ、メルク!」
「はい!」
「……あれ?これどうやったらMPって取り出せるの?」
「あっ」
……。
…………。
どうしよう、この空気。多分メルクもその理論を考えついた時点で狂喜乱舞してて忘れてたんだろうね。私も忘れてたし。
……とりあえず、適当にあれこれやってみるか。
「念じてみるとかどうだろ」
私は錬金釜に手をかざし、MPよ入れー!と念じてみた。
……。
いやまあ、普通何も起きないよね。
というか何か起きたらそれはそれでおかしいでしょ。
「……あの、アリスさん」
「ん?何?」
「あの……もしかしたらそれでMPを込める方法、合ってるかもしれません」
「……へ?」
いや、特に何も変わってる感じしないんだけど……。
いや、どうしてメルクは私を何かやばい人を見るような目で見てくるの……?
とりあえず、私は今自分がどうなっているのかを確認するために部屋にあった鏡を見た。
するとそこには、私の心臓辺りから錬金釜の中心に向かって青い光線が伸びている、奇妙な光景が映っていた。
〈アンロック:錬金中に「MP注入」が可能になりました〉




