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一限。職業

『いなりブレードを二刀流してケチャップをかけることによって投擲武器にした。ランキング戦でケチャップいなりを使い木橋の上で委員長を倒して順調に勝ち進んだ』。


「いや何に勝ち進んだの」


 私は日記を見直し、その支離滅裂な内容に突っ込む。

さて、何故私はこんな日記を付けることになったのか。それは昨日連行されてからの、ある出来事が原因である。


――――


「お、お邪魔します……」


 私はなんかとりあえずお辞儀した。

オグロも私に釣られてお辞儀する。


 私は黒服達に連行テレポートされて《オラトリオ》にある委員長達「ホロスコープ」のギルドハウスへ来ていた。

そこは石造りの城っぽい見た目をしている、いかにもザ・トップギルドと言わんばかりの風貌だった。


 内装も豪華絢爛だ。シャンデリア、赤いカーペット、凄い高級そうな家具等々。

凄い、これがトップギルドか。


 そう感動していたところ、オグロが私に耳打ちしてくる。


「おい、あの家具“市場”で10万ゴルドくらいで売られてた奴だぞ」


「それ本当!?」


 わお。10万ゴルドってあれじゃん。私の装備合わせて1万ゴルドだから……とりあえず私ら一般プレイヤーからしたら死ぬほど高級な家具ってことだよね。なんでそんな所にこんなゴルド使えるの?これがトップギルドの余裕って奴か……。


 そんなことを話していると、階段の上から凄い強そうな装備を身にまとった屈強な男が降りてきた。

多分あの人が『あたりめ』というプレイヤーだろう。すいませーん!


「あたりめさん!リーフさんからの私達への師事の頼み、受けてもらって本当にありがとうございます!」


「ん、俺はあたりめじゃないが。あたりめ氏だったら上にいるぞ」


 人違いだった……。


――――


 ホロスコープ。それはオープンβテストの頃に、ラスボスとなったクサリクというレイドボス相手にMVPを取ったとして一躍有名になったギルドだ。

現在でもその強さは衰えることがなく、何個かあるトップギルドの内の一つとして君臨している。


 βテストの頃から常に十二人のギルドメンバーで構成されていて、その名前からそれぞれのメンバーが星座の名前で呼ばれていたりいなかったりするらしい。


 その中でも、あたりめ氏はホロスコープ設立に大いに貢献したと言われている。

強さ的にはホロスコープ内でも三番手の位置に居るらしいが、メンバーの育成等はこの人が担当しているそうだ。

ちなみに二番手は予算等ギルドの維持を、一番手は何をしているか一切が謎らしい。


 まあとにかく、あたりめさんはβテストの頃から人材育成に励んできたすごい人、という訳だ。委員長もその人に素質が認められてホロスコープ入りしたらしい。


 ……うん、コネって凄いね。というかトップギルドの人材育成係に素質を認められるって委員長どんな才能があったんだよ。


 私は階段を降りてきた大男の人に聞いて、あたりめさんの場所を教えてもらった。そして教わった通りにホロスコープのギルドハウス内にある訓練場っぽい所へ出向く。


「アリスです。よろしくお願いします」


「オグロです。よろしくお願いします」


 ドアを開けてとりあえず挨拶した。……オグロがこんなに恐縮してるのって初めて見るな。珍しい。というか敬語使えたんだオグロ。

目の前にはあたりめさんらしきプレイヤーの影がある。


「おぉ、お前らがアリスとオグロか。まあとりあえず座れよ」


 訓練場っぽい所にあたりめさんらしき人の声が響いた。

……意外とフランクだった。もっと堅苦しい感じの人をイメージしてたんだけど……。

あたりめさんらしき人は天井に手を翳して何かを唱え、訓練場っぽい場所の明かりを付けた。


「俺があたりめだ。よろしくな」


 あたりめさんはいかにも好青年といった格好をしていた。

全体的にスラっとしていて、私が事前に想像していた肩幅の広い大男、みたいなイメージとは掛け離れた――というより真逆の見た目だ。


「よ、よろしくお願いします」


「あー、そう堅っ苦しくしなくていいぜ?俺がこんなんだからな」


 私達はあたりめさんの向かい側にある席に着く。

あたりめさんは堅苦しくしないでいい、と言っているが……向こうはトップギルドの中でもトップクラスのプレイヤー、私はよくいる一般プレイヤーだ。流石にフランクに接するのは無理がある。


 私達は縮こまっていた。それを見てあたりめさんは「ま、流石に会って早々肩肘張るなっつても無理があるか」と言って笑い、本題に入る。


「んじゃ、早速訓練始めっか。委員長からお前らのことは聞いてるから自己紹介とかは必要ないぜ?」


「え、委員長……?」


 どういうことだ。なんであたりめさんはリーフのあだ名を知っている?

委員長が自分からそのあだ名で呼ぶように言った?――いや、それはないだろう。委員長はオンラインゲームで個人情報に繋がるような言動は取らない人だ。

まさか……ホロスコープは既に委員長のことを特定している……?


「ん?あぁ、委員長はリーフのあだ名だ。ホロスコープん中で委員長みたいなことやってるからな。ウチのギルドマスターよりギルドを纏め上げてるからそう呼ばれてる」


 ……それが事実なら安心なんだけど。でもだからといってリアルのあだ名と奇跡的に被るなんてあり得るのか……?


「そ、そうなんですか……。ちなみに“委員長”っていうのはNHOの中でも知れ渡ってるあだ名なんですか?」


「ん、そうだが。俺らが委員長委員長呼ぶもんだから、掲示板でもそう呼ばれてるな」


「あぁー……」


 あたりめさんは何故委員長のあだ名の話に食いついてきたのかが分からない、って顔をしていたが……。これで分かった。

委員長、あえて委員長ってあだ名広めたな。ギルド内でだけならまだしも、NHO中で広まってるなら委員長のことだ、確実に火消しに走る。


 火消ししないってことは、きっと委員長は何らかの意図があってそのあだ名を広めたんだろう。そもそもギルド内で呼ばれているだけでNHO中に広まるなんてことはありえないし。多分委員長が掲示板とかで自演でもしたんだろうな。


 ……あ、そっか。ってことはNHO内でも委員長ってあだ名が使えるのか。時々私委員長って言いかけるときあったから、それがなくなるのは結構嬉しい。


「んじゃ、そろそろ本題に入るか。つっても今日は座学で終了だけどな。――あ、オグロは訓練するが」


 え、NHOで座学?私もっとこうビシバシ訓練されるのを覚悟してここに来たんだけど。


「意外って顔してるな。委員長もそうだったぜ」


 ……そういえば、よく見れば訓練場のあたりめさんが立ってる側の奥の壁には黒板が置いてある。

そしてこれまたよく見れば、あたりめさんの座ってる席は普通の机というより……教壇だ。


「じゃ、早速講義始めっぞ。まずはNHOにおける職業とそのビルドの種類だ。これを覚えなきゃPVPは話になんねぇ」


 有無を言わせずあたりめさんの講義が始まった。

そして今日の一限目が始まったのである。


――――


 一限目が終了した。

一限目の内容は戦闘職の内訳と特徴的なビルド、そしてそれぞれへの対策メタだ。

正直、教えられてこんな沢山の戦いかたがあるのかと驚いた。せいぜいアタッカー、タンク、デバッファーくらいの種類しかないと思ってたからだ。


「じゃあ軽いテストだ。WZのゴキダッシュ毒霧バラ撒き型へのお前らが取れる効率的なメタとやってはいけないことは?」


「『霧』は別の『霧』で上書きが可能です。なので『シュポルト』を撒き続けられるだけ撒いて【ガードフォール】をかけ、知らぬ間に蓄積していたDoTで蒸し殺すのが一番のメタです。逆に【スピードフォール】は当然の様に100%耐性を持っているので悪手です」


「上出来だ。にしても、一回の講義じゃ覚えられないと思ったが……よくアリスは覚えられるな。委員長並だぞ」


「暗記は得意だから!」


「……こいつ、丸暗記マスターだからな……暗記の能力はマジで底が見えないぞ」


 オグロが呻く。

オグロはどうやら近接職のビルドを覚えるので精一杯らしかった。というか途中から寝ては起こされの連続だった。


「よし。じゃあ訓練に入るか。委員長レポートによると……まずアリスはアイテムに頼りすぎ、そして二人共立ち回りが弱い、ね……」


 あたりめさんは委員長が渡してきたレポートを流し読みする。

そして少しの間を置いて、まずは私に語りかけてきた。


「あー、アリス。委員長から突飛なアイテムに頼ってるって言われたと思うが、それは気にしなくていい。というか錬金術師はそれにしか頼れない」


「えっと……どういうことですか?」


「“特異なアイテムを作って戦える”。これが錬金術師の一番のメリットだ。アイテムに頼らないでいるんじゃなくて、もっとアイテムに頼れ。

正直な、アリス。お前はここで訓練を受けるよりも、その時間でもっと色んなアイテムを作った方が良い。意味不明なアイテムで相手を出し抜け。訓練するよりもな、自分しか知らない、どんな効果か想像も付かない。そんなアイテムを大量に作って相手の度肝を抜くんだ」


 ……確かに、あたりめさんの言うとおりな気がする。

錬金術師は事前準備が全てだ。正直、私の持ってるアイテム以外の攻撃手段なんて【ファイアボール】と【ウィンドカッター】くらいだ。確かに牽制くらいなら使えるかもしれないが、逆に言えば使えてそれだけだ。


「ま、オグロは普通に訓練した方がいいがな。あー後、アリス。アイテムに頼れとは言ったが、極論このゲームは当たらなきゃダメージは受けない。反射神経くらいは鍛えといた方がいいかもな」


「分かった。でも……どうやったら反射神経って鍛えられるの?」


「あ、そうか。そこ教えてなかったわ」


 あたりめさんは黒板に向き直る。そして黒板に『このゲームにおける反射神経の鍛え方』と大きく書いた。


「ま、鍛え方っても簡単だ。このゲームとの親和性を上げることが一番だ」


「ゲームとの親和性を……上げる?」


 どういうことだろう。

親和性って確か、どれだけ結合できるかとか相性のよさって意味だよね。

NHOにそんなのあるの?


「いいか?よく掲示板とかでこのゲームの廃人は人間やめてるとか揶揄されてるが、それにはこのことが一番影響している」


 廃人は普通人間やめてるもんだけど、もしかしてPVPに強くなるためにはマジで人間やめないといけないのかな……。なんかあたりめさんの口ぶりからしてそうとしか取れないんだけど……。


「このゲームの舞台は夢だ。俺達の夢の中で、半分明晰夢みたいな形でゲームは動いている。少しだけ思考がボケているのに気づいたか?それはここが夢だからだ。そして反射神経を強化するためにはこの思考のボケを無くさなければならない」


「は、はぁ……?」


「少しだけこのゲームのメカニズムを解説する。今の所判明している部分だけだがな」


 あたりめさんはこのゲームの仕組みを解説し始める。

そして、その話の内容は驚くべきものだった。


――――


「つまり思考のボケを解消するためには夢の中で脳を覚醒させることが必要だ。そしてその為に俺達は練習を行うことが必要不可欠、ここまでは分かるな?」


「は、はい……」


 オグロは寝ている。

正直、このゲームの仕組みを解説されたはいいが全く分からなかった。つまりどういうことだってばよ状態である。


「そして夢の中でしっかりと覚醒するために必要なことの第一歩が――」


 あたりめさんは黒板に『夢日記』と大きく書く。


「夢日記だ。もし本気で武闘大会の上位入賞を目指すならこれは必須といっても過言じゃねぇ」


 わお。マジですか。

夢日記ってあれでしょ?なんか気が狂うとかでやばいの。


「本当は明晰夢を目指すべきだが、その下準備としてこれが要る」


「な、なるほど……」


 私は恐れおののいた。トップのプレイヤーは皆こんな現実を捨ててまでゲームをやってるのか。

……というかもしかして委員長もこういうことしてるの?


「じゃ、そういう訳で講義は終わりだ。おいオグロ、起きろ。訓練するぞ」


「やっとか――。寝るのも楽じゃなかったぜ……」


 オグロはチョークを額に投げつけられた。オグロはまた机の上に倒れた。


――――


 特に私が訓練を行う、ということはなかったがトップギルドがどんな訓練をするのか気になったので見学させてもらうことにした。


「よし、じゃあまずは基本からだな。まずお前らがどれだけスキルの段階を解放しているかからだ」


「段階解放?」


 オグロは首をかしげる。私も首をかしげた。

段階って何?


「……あ、もしかしてお前ら、スキルに段階があるって知らない?」


「知らねぇ」


「知らなかった」


 あたりめさんはあちゃーという顔をする。


「掲示板で散々騒がれてたから知ってるもんだと思ってたぜ。分かった、段階の話をしよう」


 私達はまた黒板の所に戻り、席に着く。

あたりめさんは黒板に大きく『第一段階』、『第二段階』、『第三段階』と書いた。


「お前らの扱える【スキル】には段階がある」

 夢日記は非常に危険な行為です。この小説を読んでその存在を知り、そしてそれを行ったことで不利益を得たとしても、当方は一切の責任を負いません。


 また、PVPにおいて頂点を目指すのならこういうことをすべき、とされていますが本筋のMMO部においてはこういった行為をしなくても問題なく頂点に立てます。かけた時間が全てですから。

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