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ダンジョンアタック その2

錬金レシピ▽


 湖水・黒曜石+鉄インゴット = 爆弾(〈水〉〈鉱石〉〈ガラス〉)


 爆弾・フランメ・炎+鉄インゴット = 爆弾(〈易燃性〉〈植物〉〈水〉〈炎〉〈鉱石〉〈ガラス〉)


※()内は付けられる形相を表す。

 あれから五日後。私達はシエルさんと一緒に錬金術師専用のダンジョンを攻略していた。

NPCはここに入れない可能性があるんじゃないかと危惧していたけど、シエルさんは普通にここに入れた。良かった。


 そうそう。夏の海底探査イベントだけど、勿論軽く参加してみた。

……うん、あれは中々の地獄絵図だった。

本題は海底都市に残された最後の街を守る、というものなのだが――。


 敵の数が多い。多すぎる。いや、当然こちらの数も多いのだが……。

その結果、向こうの攻撃とこちらの攻撃で出るエフェクトが重なり合って、非常に目に悪いものとなっていた。

うん、多分次回のイベントで運営は確実にこれを修正するだろう。酷いとき前見えなかったし。


 そんなこんなでイベントが終わり、私達はダンジョンに挑んでいるのだ。


「『ファイアヘルツ』、爆発しろ!」


 私はダンジョンアタック用に新たに作ってきた『爆弾ヘルツ』を投げる。これは形相が〈炎〉[〈植物〉]のものだ。

ファイアヘルツ(命名:私)は私の掛け声と同時に炎の触手を全方位に伸ばし、本ゴーレムを貫く。


 植物の形相が付いている場合、爆弾ヘルツは爆発させた時に爆発するのではなく触手を四方八方に大量に伸ばす。植物単体の形相で実験してみた時は、なんかツタや木の枝が全方位に伸びたので、それを継承させたことでそのツタや木の枝が炎になったのだろう。

……すごい触手みたいな見た目してて気持ち悪いけど。


「よし、一体撃破!」


 ここのモンスターは基本的に脆い。さっきのファイアヘルツ一発で倒せるくらいだ。

まあそうでもないと流石にアイテムの消費がバカにならないけど。


「こっちの爆弾ヘルツは効きにくいですけどね……」


 メルクの言う爆弾ヘルツとは、これまでずっと使ってきた〈水〉[〈岩石〉〈ガラス〉]の形相のものだ。


 これを使っても、本ゴーレムには本に刺さるだけでダメージを与えられているようには見えない。この形相では本ゴーレムにダメージが通りにくいんだろう。


 多分、ここは上手にアイテムの形相を操って相手の弱点を付け、ということが求められるダンジョンなのだろう。その証拠に、ここに出てくる雑魚敵は全てパッと見で何に弱いかが分かるようになっている。


 また錬金がこのダンジョン内部でもできるように、敵が入ってこれない安全地帯のようなエリアが複数設けられている。意外と親切設計だった。


「そっちキャンドル行ったよ!」


 キャンドルとはここに現れるもう一つの雑魚敵のことだ。これまた本ゴーレムと同じように、空から降ってきた小人がこの世界を照らすロウソクの中に入り込んで敵となる。


 これも本ゴーレムほどではないが厄介な敵だ。単体ではただホーミングしてくるゆっくりとした火球を放つだけしか行動しないので簡単に倒せるのだが、他の敵と組んで出てきた場合は死ぬほど厄介な敵と化す。

問題はこの火球の発射速度がかなり速いことだ。


 例えば本ゴーレムと組んで現れた場合、本ゴーレムはキャンドルを死守する。

守られたキャンドルは大量にゆっくりホーミングする火球を放つ。後はもう地獄絵図が広がるだけだ。

……今のところ一匹しか出てきてないからいいが、もし何匹も現れたとなると……身震いがする。


「『シャワーヘルツ』、爆発しろ!」


 とはいえ、倒し方はとても簡単だ。

昔作った相手を〈濡れ〉の状態異常にする爆弾ヘルツ(これを私はシャワーヘルツと命名した)でキャンドルの火を消せば、相手は即死扱いとなり戦場から退場する。HP自体は減らしてないが、そういうギミックなのだろう。


 シャワーヘルツから飛び出した水はキャンドルの炎を消し、すぐさまキャンドルを昇天させた。


 問題はこの『シャワーヘルツ』はこういう敵がいる、と知って急場で作った9個程しか持っていないということだ。もし尽きた場合、なんとか他のアイテムで倒す必要が出てくる。


「でも所詮は雑魚!蹴散らすよ!」


――――

『ロウソク』〈易燃性〉{熱-17:16-湿}◁

 備考:アイナ

 キャンドルの炎を消して倒すと確実に手に入るアイテムっス。

 普通にロウソクとして使えるっスね。

――――


「お疲れー、皆ちょっと休憩する?」


 シエルの提案で、私は軽く休憩していくことにした。

まだまだ道のりは長そうだし、体力はしっかり回復させる必要がある。

何かいいレシピがないか考え込んでいるとき、アイナさんが私に声をかけてきた。


「ところでそのファイアヘルツとかいう奴、一体なんなんスか?掲示板とかWikiでも見たことがないんスけど」


「ん、これ?これはね……とあるクエストをクリアしたら作れるようになったの」


 そうか。まだアイナさんは「小妖精の秘術(ヘクセアレイ)」をクリアしてないんだった。

というか掲示板とかに出てきてないってことは、まだそれをクリアしたプレイヤーは私達以外にいないってことか。


 とはいえ、アイナさんや他の錬金術師達はそろそろ「小妖精の秘術(ヘクセアレイ)」をクリアするだろう。だって私達がクリアできたんだし。

今のところ私達以外の錬金術師の皆は「賢者の記憶Ⅰ」~「賢者の記憶Ⅲ」までは解放している。まだⅡとⅢはクリアしていないらしいが。


「多分アイナさんもすぐ作れるようになると思うよ」


 流石に「賢者の記憶Ⅰ」以外のクエストの答えを教えることはできない。ヒントくらいなら全然いいんだけどね。


「つまり今は無理ってことっスね。……よし、じゃあ早速進むっスか!」


「いぇーい!」


 ちなみに、シエルとアイナさんの二人は会ってすぐさま意気投合していた。

うん、良かった。


――――


「これがボス部屋っスかね……?」


 特に何か仕掛けがあるということもなく、私達は迷路をなんとか抜けてボス部屋の入口にたどり着いた。これまで本棚しかなかったこの世界だが、ここに限っては本棚と同サイズの装飾の入った両扉がある。

まあ、どう考えてもこの先がボス部屋だろう。


 ご丁寧に、扉の前は「ここで錬金してください」と言わんばかりに小さなスペースが設けられている。多分敵もここでは襲ってこないだろう。


「ここで何か錬金していきます?」


「じゃあそうしよっか。シエル、何か素材ある?」


 相手がどんなボスなのか分からない以上、持てるだけのアイテムを持ち込んで戦う必要がある。作れるアイテムは作っておこう。


「はいはーい。いっぱい持ってきたからね、多分一回くらいならなんでも作れると思うよ」


 そう言ってシエルは持ってきた素材の一覧を私達に見せた。

当然だが『鉄インゴット』は大量に持ってきていて、メジャーな素材から果ては『黒粒花』や『鉄鉱石』等たくさんのアイテムを持ってきていた。


「……なんでこんな素材持ってきたの?」


「んー?それはね、出発する前に「素材を持っていけ」って感じの電波をキャッチしたからさ!」


 シエルはキメ顔でそう言い放った。

いや、どういうこと……?


「……あれ?ジョーク不発?」


「……それジョークだったんですね」


 ……なんか微妙な空気になってしまった。

なんかシエルならマジで電波受け取ってそうな雰囲気があるんだよね、なんでだろう。


「…………あ、この黒い花綺麗っスね。貰っていいっスか?」


「あ、うん。いいよー」


 こうして私達は微妙な空気のままボス戦に挑んだのだった。


――――


 ギイィ……と重たい扉を開け、私達はボスの待つであろう部屋へ入る。

その部屋は変わらず本棚に囲まれてできている部屋だった。大きさだけはこのダンジョンのどんな場所よりも広かったけれど。


 その部屋の一番奥。ぽつんと人のような何かが座り込んでいた。

よく見ればその人のようなものは本を読んでいるようで、私達が部屋に入り込んだことを感知すると顔を上げる。


 その顔はしわまみれの、骨と皮だけで出来ていると言っても過言ではないほどのものだった。よく見れば、体も同じようにやせ細っている。常人なら確実に栄養失調か何かで死んでいるレベルだ。


「やあ。ようこそ、私の世界へ。何用かな?」


 その老人は動かない。どうやら、会ってすぐさま戦闘ということにはならないようだ。


「あ、えっと……地下の図書館に行きたくて」


「そうか……。君達には純粋な知的好奇心が見受けられる。本当ならば通してあげたい所だが」


 老人はここで少し間を取る。

……何か凄いドキドキする。


「駄目だ。君達を此処から先に通すことは出来ない。

……だが君達は“歴史を知るもの”だ。あの世界の真実を知る権利を君達は持っている」


 歴史を知るもの……?一体なんだろうそれは。

だが老人は私に考える時間を与えず、更なる言葉を投げかけてきた。


「だから……私を倒せたら、此処を通そう」


 よくある展開だ!

……よし、地下階の情報を知るため――ひいては「賢者の記憶IV」の情報を知るため、あの老人を絶対倒す!


「皆行くよ!出し惜しみはなし!」


「了解です」


「了解っス!」


「おうともさ!」


 老人は大きく手を広げた。次の瞬間、上空から多数の小人が現れてキャンドルや本ゴーレムとなる。


 ……いやあの、キャンドル五体くらいいるんだけど。


「皆!キャンドルから狙って!」


 老人が動く気配はない。

どうやらボス自体は動かず、配下を大量に呼び出すタイプのボスみたいだ。

老人がどう動くかは分からない。もしかしたら動かないかもしれないし、何かしてくるかもしれない。


 ……なのだが、戦闘開始後数十秒でもう老人を警戒できる余力はなくなっていた。


「アイナさん!なるべくキャンドルの注意を引いて『グロースシルト』お願いします!」


 キャンドルの放つ弾幕が大変なことになってきたのだ。

3D弾幕ゲームか、というくらいの火球の量である。今のところ走り回ってなんとか避けているけれど、スタミナが尽きればすぐさま焼き付くされるだろう。


 ――だが、これを想定して来なかった訳ではない。対キャンドル用の兵器はしっかり開発してきてある。


「『ウォーターテンタクル』、爆発しろ!」


 私は〈水〉[〈植物〉]の形相の爆弾ヘルツを投げる。それは全方面に水の触手を伸ばし、キャンドルの炎を絡め取って消化する。


 しかし悲しいかな、私はそれを念のためとして少ししか持ってきていないのだ。

具体的に言うと三個。


「キャンドル後二体!ゴーレムは!?」


「今倒しました!」


「こっちも終わるよー!」


 多分残りの敵もシエルとメルクが倒してくれるだろう。

つまり少しだけ隙ができたという訳だ。――よし、試しに老人に攻撃してみるか。


銃弾ティル、加速しろ!」


 私は『ヘルメスの書』の風の欄を読んで新たに作ったアイテムを使う。

これは銃弾ティル。普段は黒っぽい球体の見た目をしているが、「加速しろ」と念じる事でそれが物凄い速度で飛んでいくアイテムだ。


 私の手から弾き飛んだ石は一直線に老人に向かい――。

すり抜けた(・・・・・)


「おや、それを使うということは……ヘルメス流の錬金術師か」


 ヘルメス流の錬金術師……?

……いや、今はそれを考えている時間ではない。この戦いに集中しないと。


「アリスちゃん危ない!」


 っと。

私は近づいてきた本ゴーレムの攻撃をかわし、反撃の銃弾ティルで本ゴーレムを吹き飛ばした。

……この戦いはどうすれば終わるんだ?


「あぁ、私を倒せと言ったがあれは嘘だ。正確には――私に現実を見せろ、という方が近いか」


 くっ。小人たちがまた降ってきた。

今度はキャンドルは三体程度しか現れなかったが、問題は本ゴーレムの方にある。

これまでは『ファイアヘルツ』一発で葬ることが可能だったが、今回はそうは行かなかった。


 なんと本ゴーレム同士が合体したのだ。――いや、正確には小人達が合体した、と言えばいいのだろうか。ゴーレムの喉元の方に集まり、融合して中々の大きさの小人と化した。

どうにかして合体を妨害しようとしたけれど、残念なことにそれは失敗した。

大きさは私の四倍くらいの大きさになった。……いやいや、流石に大きすぎない?


「ここは理想の世界だ。現実に存在する世界ではない」


 あーもう!話に全然集中できない!

なんか絶対これ凄い大事なこと言ってるよね!?


「……なんか変な穴ができてるっス!皆気を付けて!」


「うわ本当だ!」


 見れば、この空間の色々なところに黒い穴が現れていた。

明らかにこの世界には異質なもので、まあ……少なくとも、私だったらこれに手を入れてみようとは思わないだろう。


「理想の世界という物は人々の夢で成り立つ」


「ダメです!『ファイアヘルツ』が効きません!」


 メルクが叫ぶ。

やはり、これまで通りの対処法では倒せないのだろう。どうにかして別の倒し方を見つけないと……。


「……!小人ホムンクルスがいる場所がある!そこを狙って!」


 そうか。本ゴーレム自体はただの飾りにすぎない。本体はそれを操ってる小人だ。

確か……私の記憶が正しければ、小人達は喉元の方にいるはずだ。


「分かったシエル!皆援護して!」


 となれば――“あれ”さえ至近距離で叩き込めれば、確実にこれを倒せる。

問題はそれを叩き込める距離まで近づけられるかどうかだ。

ここから“あれ”を使ったのでは確実に射程外だ。


「つまり私の世界を成り立たせている小人達を倒せば、この世界は崩壊する」


 ――よし、直接乗り込む。私は形相が〈岩石〉[〈無重力〉]のグロースシルトこと『アイテム一号(命名:アイナさん)』を連続で展開し、一気に高所へと上がっていく。


「しまっ……!?」


 ここで予想外の出来事が起きた。

合体したと思っていた本ゴーレムが分離した(・・・・)。それは私の乗っているアイテム一号に飛び乗ると、私に向かって拳を振り抜こうとする。


 まずい。この狭い足場だとたとえこれを回避できても床に落ちる。床に落ちればスタン状態になって(高いところから落下するとそうなる仕様だ)、そのままこの巨大本ゴーレムに倒されるだろう。

――どうすればいい、どうすれば……。


「アリスさん、後は頼みました!」


 どうするか考えていた私の目の前にメルクが現れ、本ゴーレムに体当たりをかます。メルクはそのまま本ゴーレムと一緒に床に落ちると、スタン状態になり本ゴーレムの踏み潰しを喰らう。耐久1のメルクはその一撃であえなく斃れた。


 ありがとうメルク。そしてごめん。

私は軽くメルクに感謝と謝罪をして、小人のいる喉元へ“あれ”を叩きつけ――!?


「なっ……!?」


 小人が突然巨大本ゴーレムの外へ飛び出て咆哮した(・・・・)。それは衝撃波となり、今まさに飛びかからんとしていた私を吹き飛ばす。


 吹き飛ばされた私は床に打ち付けられ、スタンの状態異常になる。

……くっ、油断した。もっと丁寧に行動していれば。


 巨大本ゴーレムの拳が目前に迫る。これは流石にどうしようもない。

――後は任せます、シエル、アイナさん。

私は申し訳なく思いながらも目を閉じた。



…………あれ?

銃弾{熱-10:10-湿}▽


 典型例▽

  鉄鉱石{4:5}・黒曜石{16:15}+鉄インゴット = 銃弾{10:10}〈岩石〉[〈ガラス〉]

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