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形相継承

「形相が消えた……?」


 目の前に転がっているのは、まるで光を全て吸収しているかのような黒さの爆弾が三つ。

どれも鑑定結果に形相は表示されず、錬金で付けたはずの形相は消えていた。


「この手触り……謎ですね」


「ちょ、メルク!?」


 気づけばメルクが明らかに危険そうなそれに近づき、更には触っていた。

大丈夫なのかな……?


「一切触っている、という感覚がありません……ですが持てるんですよね」


 恐る恐る私もその真っ暗な物体に触ってみる。

確かに、感触がメルクの言う通り一切ない。……いや、これは感触がないというより……感触がフィードバックされてないのでは?


「……もう一回作ってみる?」


「そうですね……」


 材料はもうカツカツだが、まあそれはそれだ。なんとか市場機能でもなんでも使って素材をひねり出そう。


 そうして錬金を始めとした私達だったが、〈MPが足りません〉という、奇妙な通知が私達の目の前に現れた。


「え、MP?なんで?」


 錬金術にMPなんて使ったっけ?

一応確認してみたところ、確かに私のMPが3にまで減っていた。……あ、1増えた。


「……とりあえず、自然回復したらもう一度作ってみますか」


 その結果、平和な街に再度爆発音が轟いたのだった。


――――


「フリップさん、フロップさんいますか?」


 結局、私達は何故念じていないのに爆発するのか、何故作ったアイテムの形相が消えるのかを知ることが出来ずじまいに終わった。


 そこで、妖精の錬金術師二人が「困ったら聞いてね」的なことを言っていたのを思い出し、教えを乞うことにしたのだ。


「それで、どこまでできたの?」


「それを教えて」


 あれ、今回はこう――私達がどれだけ進んでるかを見透かしてきたりはしないのか。

前回は初対面のアイナさんの名前を呼んでたのに。

……ま、いいか。


「えっと、〈水〉と〈火〉と〈植物〉の形相を付けられるレシピは考えたんですが」


「それはどういうレシピなの?」


「私達に教えて。それによって教えるか教えないかが変わるから」


「えっと、『爆弾ヘルツ』と『火』と『フランメ』を使って、『爆弾ヘルツ』を作るレシピです」


 そう言うと、二人の内片方(髪がピンクの方。フリップさんだね)が家の中に入っていき、妖精にとってはとても巨大な――人間からしてみれば普通サイズ、の本を持ってきた。


 フリップさんはそれをパラパラとめくると、何やら怪訝な顔をしてフロップさんに耳打ちをする。


「ごめんなさい、『フランメ』の比率を教えて頂戴」


「これは私達の知らないアイテム。よく見つけたね」


 ……。

イベントのマップで見つけてきました、なんて言ったら怒られそうだなぁ……。


「熱-10:19-乾です。ちなみに形相に〈植物〉が着いてます」


「……なるほど。それならできるね」


「――じゃあ教えてあげる。どうしてその錬金が上手くいかないのか」


 二人はそう言うと再度家の中に戻り、何かよく分からない石の様なものを持ってきた。

「これを持って」と言われたのでとりあえず私がそれを持ってみた所、その石はゆっくりと内側から砕け散った。


「あっ……す、すみません!」


「大丈夫。これはこうなる為に作られたモノ」


「“押さえ込む”力が足りない人が持ったらこうなるの」


 そう言って二人は私の手の上に残った欠片を払う。


「形相は3個以上付けようとすると反発して崩壊・爆発する――この石のように。それは知ってるよね?」


「実はこの現象、たとえ形相が2個だったとしても起こり得る事なの」


「あまりに矛盾する形相同士は強く反発する。例えば、〈水〉と〈火〉のように」


「そして反発の度合いが強すぎると、爆発すらせずに形相だけが質量から逃げていく。そう、その錬金の結果みたいにね」


 確かに、今回の爆弾ヘルツ錬金の時は昔した、形相過多で爆発した黒曜石の時とは違ってアイテムを中心とした衝撃波を放っていた(・・・・・・・・・)

つまり、爆弾が崩壊するのではなく形相だけが物凄い勢いで外に出た――そう考えるのなら辻褄が合う。


「……じゃあ、どうすればいいんですか?」


 ここまでの説明を聞く限りでは、〈水〉と〈火〉と〈植物〉なんていう矛盾した形相をアイテムに付ける事は不可能だというようにしか聞こえない。

一体どうすればこの課題を達成できるんだろう……?


「一つは、形相の反発を押し込める(・・・・・)力を鍛える事」


「二つは、形相を継承させる事」


「形相を“付ける”事が私達の条件。付いてさえいればどんな物であれ構わない」


「そしてあなた達はそのどちらの方法も分かっている筈」


「頑張ってね」


 それだけ言って、フリップさんとフロップさんは家の中へと戻っていってしまった。

……。ヒント、少なっ。

分かっている筈、って言われても全然分からないんだけど……。


「アリスさん、分かりました?」


「うーん……。あ、でも“押し込める力”っていうのは何となく分かるかも」


 これはもう少し情報のサンプルを手に入れない事にはただの憶測に過ぎないが、さっきの説明とこれまで得てきた情報で、“押し込める力”とは何なのかは理解する事ができた。

まあ――その考えには問題が沢山あるんだけど。


「本当ですか!?」


「うん。……私達には絶対無理な気がするけど」


 私は最初に形相過多という言葉や、形相に関するアイテムを見つけた時、少しだけ気になっていた事がある。

それは『核心の粉末』を鑑定した時の鑑定文にある。


『核心の粉末』▽

〈粉末〉

 『ヘクトビッグスライムの核』が圧力不足により内部から崩れた残りカス。

 形相過多の危うさを教えてくれる存在でもある。

 使用用途は全く存在しない。

 生成条件▽

  所有者の最大MPがあるしきい値以下


 これがその鑑定文なのだが、“生成条件”という所に「所有者の最大MPがある閾値以下」という文章がある。

また、その時同じく『スライムの核』というアイテムも鑑定していたのだが、そこにもこれと似たような文があるのだ。


『スライムの核』▽

〈魔法〉〈核心コア〉〈宝石〉

 スライム族をスライムたらしめる核。

 これがなければスライムの形になることができない。

 精製法は小さい宝石を中央に周りを何かしらの素材で覆い、魔法陣を描くこと。

 これにより液体がまとまり、意識を持ち、動く基礎となる。

 アイテム変化▽

  所有者の最大MPがあるしきい値を下回る


 そう、アイテム変化という欄に「所有者の最大MPがある閾値を下回る」とある。

そしてこのスライムの核は形相が三つ付いている。つまり、『ヘクトビッグスライムの核』と同じく形相過多で崩壊する可能性がある、という事だ。

私の考えるところでは、形相過多による崩壊こそが"アイテム変化"なのであり、その条件は――。


「だから、これってつまり――最大MPが形相を押し込める力、ってことなんじゃない?」


「なるほど……」


 多分、この考えはほぼ正解に近いだろう。

だが問題が幾つかある。


「……ですが、どうして最大MPが形相を押し込めるんでしょうか」


「……分からない」


 その問題が一つ。原理が一切不明であること。

なんで最大MPが高ければ形相の反発を押し込められるのか分かんないし、というかじゃあMPとか形相ってなんなの?って話になる。


 そして二つ目の問題。


「ですが、あの時錬金したのはアリスさんですよね?それで爆発するならもう……」


 そう、私がステータスポイントを半分くらい――振った時のMP上昇が一番大きいらしい知力に振っていることだ。


 要するに、それだけの量ポイントをMPが上がる知力に振っていても駄目なのである。

しかもそれだけMPがあってもあれほどまでに派手に吹っ飛ぶのだ。どう考えても押し込めている感じがしない。


 ……つまり、この方法で攻略するのは不可能ってことになる。


 ……まあ、もう一つの方法を使うしかないよね。


「“継承させる”、って言ってましたね……。一体どういうことなんでしょうか」


「うーん、分かんない……」


 こればかりは本当に謎だ。

だけど、あの二人が言うには私達にとってその方法は「既に分かっている」ものらしいけど……。

うん、分かんない。とりあえず他のことを進めてみよう。


――――


「よし、錬金術始めよう!」


「いえええぇぇぇええ!」


「シエルさん、何か一段とテンション高いですね……」


「いやいや、久々の錬金だからね!」


 じゃあ早速始めよっか、そう言ってシエルさんは錬金棟の奥にある錬金釜の所まで案内してくれた。

さて、わざわざ私達が錬金棟に来た理由は三つある。


 一つ、先程の謎を解くため。三人寄れば文殊の知恵とも言うし。

二つ、バハムートに対抗できる錬金術のアイテムを色々と作るため。

三つ、錬金術師の事を相談するため。


 まず、個人的には錬金術師の事について相談したい。うん、錬金ムードになっている中申し訳ないけれど。


「シエルって、前にこの辺りに錬金術師はいないって言ってたよね?アデプトさん以外に誰か見つかった?」


「いいや、全然。最近行けるようになった《魔の森》とかには行ってるんだけどねー」


「そっか……じゃあさ、フリップさんとフロップさんって知ってる?」


 そう、相談したい錬金術師の事というのはその二人の事だ。

きっと何かしら理由があって《アリア》に来れないというのは分かっているが、それでも錬金棟、ひいては錬金術の為に諦める訳にはいかない。


 向こうから来れないのならこちらから行けば良いのだ。

仮に錬金術を教えてもらえるのであれば、錬金棟シルワ支部的なものを作れば向こうがこちらに来れないとしても問題はない。


「知らない。……あ、もしかしてその二人って錬金術師なの?」


「流石シエル、察しパワー高いね。エルフの街の《シルワ》って所にいるんだけど――」


「さっすがアリスちゃん!で、そのシルワってどうやって行くの!?」


 いや、近い近い。

あ、でもメルクみたく首をブンブンされないだけマシかな……?


「モ、モニュメントワープを使えばすぐ行けるから……」


「……モニュメントワープ?何それ?」


 ……あれ?モニュメントでワープできることって常識だよね?

もしかして知らないとか?


「え、シエルってモニュメントでワープするのって知らないの?」


「いや、知らないも何も初耳だけど……」


 ……。

まあいいや。モニュメントでワープする以外の道を教えればいいし……あれ?

エルフ種族の初期街《シルワ》って、モニュメント使う以外にどうやって行くんだろう?


――――


「おかしいなぁ……なんか前に一緒にどこか、《真なる原風景(インサイドザイン)》辺りに行った気がするけど……」


「アリスさん、その時はパラケルススさんしか同行していませんでした」


「え、そうだった?」


 ダメだ。記憶が残ってない。

ちなみに、あの後錬金棟にいる皆(パラケルススさんは用事でいなかった)に聞いてみたのだけれど、皆“モニュメントでワープができる”ということを知っていなかった。

多分このことから、NPCはモニュメントからワープができることを知らないのだろう。


 いや、知らないどころかできない(・・・・)可能性も高い。シエルにやり方を教えてみたのだが、一向にシエルが消えることはなかった。だけどパラケルススさんは《真なる原風景(インサイドザイン)》に行けた辺り、モニュメントワープはプレイヤーと一部のNPCにのみ与えられた特権というわけか。


 ……いや、パラケルススさんモニュメントでワープしてたっけ?

なんか別の方法で来てた気がするような気がするけど……。


 まあつまり、《シルワ》にいるフリップさん、フロップさんに会いにいく事も不可能というわけだ。

なるほどね、あの二人が「行けない」って言ってた理由はそういう事か。

多分、「ヘルメスなら行ける」というのもモニュメントワープが可能なNPCだからだろう。


「まあここから《シルワ》までの道が見つかるまで待つしかないよね」


「ですね。……それじゃあ錬金、始めますか」


 メルクが『ヘルメスの書』をパラパラとめくる。

メルクも「幾つか作りたいアイテムがある」と言っていたけれど、それは私も同じだ。

色々と手持ちの素材で何かできないか考えてみた結果、幾つかバハムートに対抗できそうなアイデアは編み出せたし。


「よし、じゃあ私から行くね。形相〈無重力〉を付与した『グロースシルト』なんてどう?」


「……えっと、どう使うんですか?」


「足場!」


 『グロースシルト』と同じ土の性質を持つものの中には、イベントで採取した『中空結晶』という〈無重力〉が付いているアイテムがある。

そして、その結合比率は11:15。同じく採取した『緑紋石』が9:5のため、10:10のグロースシルトを作ることができる。


 グロースシルトは展開したとき結構広がる。そのため、〈無重力〉の形相を付ければ空中に浮遊する足場を作ることができる筈だ。

そしてそれで私が高い所から『爆弾ヘルツ』を投げられるようにすることで、バハムートの頭にも爆弾ヘルツを投げられる、という魂胆だ。


「できた!」


 火加減や混ぜ方はまたローラーでなんとかした。嬉しいことに、強火で強く混ぜるという正解を一発で当てられた。


「で、これ……何?」


 シエルさんがそう聞いてくる。うん、私にも分からん。

何か見ようと思えば見えるもや……みたいなのが指輪の形をしたものだ。

なにこれ?


「とりあえず……『足場』、展開して」


 名前は足場にした。わかりやすさ重視だ。

さて、展開してみたところもやもやが一気に広がり、そのもやは私の足を包み込む。


 ……!?なんか……やばい!気持ち悪っ!

足元だけすごいふわふわしてバランスが……取れない!


「大丈夫ですか!?」


 咄嗟にメルクが私を支えてくれる。

うん、ありがたい。ありがたいけど――メルクも足がもやの中に……。


「ひいっ!?」


 結局私達は二人共バランスを崩して倒れた。


――――


「〈無重力〉だけじゃダメかぁ……」


「だけど、かといって形相を二つつけたらよく分からないことになるしねぇ」


 〈岩石〉と〈無重力〉を二つ付けてみたところ、今回はちゃんと物体となった。なったのだが――展開した時、もやのようなものが広がる場合とちゃんと広がる場合の二パターンがランダムで起こる。

だけどちゃんと広がった場合は〈無重力〉を付けているのに何故か宙に浮かないし(しかも滅茶苦茶重い)、もやが広がった場合はさっきと同じだ。


「……どうしてこうなるんだろう」


「うーん……」


「なんとかして形相をまとめられたらいいんだけどねー」


「……ん?形相をまとめる……?」


 ……そうか、そういう事か!

分かった。形相の継承のやり方が!

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