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VSエリアボス

「錬金術師専用のダンジョン……?何ですかそれ」


「その名の通り錬金術師しか入れないダンジョンの事っス。《王都グランシャリオ》の《ケニス大図書館》地下にあるんスよ」


「いや……それどこ……?」


 本当にどこかよく分からない。というか聞いた覚えすらないんだけど。


「あ、もしかしてまだ次のエリア、『逆転湖ルラックホール』に行ってないっスかね……?」


「うん、行ったことない」


「あぁ……って事はエリアボス、倒す必要があるんスか……」


 アイナさんは神妙な顔をした後、「や、倒す必要があるって言ってもレベルが15もあれば余裕っスから!」とフォローしてきた。うん、フォローしてくれたのはありがたいんだけど……。

……私達、まだレベル10とちょっとなんだよね。


「エリアボス程度、今の私達には問題ありません。むしろその専用ダンジョンとやらを攻略する試金石に丁度良いですよ」


「や、強気なのはありがたいんスけど……多分、ダンジョンよりエリアボスの方が難しいっス……」


「……どういう事?」


――――


 説明よりも一回戦った方が早い、という話になったので、私とメルクは一度イベントで失った錬金術アイテム幾つか作り直す事にした。

アイナさんはアデプトさんのお店を知っているらしかったので、とりあえずアデプトさんのお店で錬金する事にした。一応アイナさんには錬金中の工程は見ないようにお願いしてある。


「そういえば、なんでアイナさんはイベントに参加してないんですか?」


「あー、これ言うとちょっとアレなんスけど……言っていいっスかね?」


 少しだけアイナさんの声色に不穏なものが混じる。

あまり聞かれたくない、というよりはあまり聞かせたくない、という感じだ。


「大丈夫。別になんとも思わないから」


「本当っスか?なら言うっスけど……あの、アリスさん達がイベント中戦ってたじゃないっスか。あの時最初に不意打ちされてたと思うんスけど……その時、巻き込まれて死んじゃったんス」


 そう言ってアイナさんは「あはは、不運っス」と笑った。

あー、そういう事か。

前に看板団とか諸々のギルドと戦った時、最初に一般プレイヤーごと大規模な魔法を連射されて攻撃されたのだが、あそこで巻き込まれたプレイヤーの中にアイナさんがいたらしい。

なんか……申し訳ないなぁ……。いや、悪いのは私じゃなくて魔法撃った方なんだけど……。


 ……あ、もしかして運営が死んだプレイヤーを再参加可能にしたのって、こういうプレイヤーがいたからとか?

……まあいいや。とりあえず、エリアボスとやらに挑むための準備をしないと。


――――


「はい、もう目を開けても大丈夫ですよ」


 まあどうせ勝てないだろうし、作ったアイテムはそれほど多くない。

というか、前回の素材集めの時に余ったものだけしか使っていない。

爆弾ヘルツを10個くらい、他は5個くらいだ。全く勝つ気が感じられない。


 と、いう訳でとりあえずアイテムを作ったので《アリア》を出て『原初の平原』に行き、そこからエリアボスと戦える場所まで走る事にしたのだが。


「……これが10代のスタミナっスか……流石っスね……」


「アイナさん!?」


 走り初めて早々アイナさんがバテた。

どうやら、夢の世界であれある程度は現実の体力等も反映されるみたいで……アイナさんはあまり体力がない人間だったらしい。


「くっ……申し訳ないっス、アリスさん、メルクさん。椅子に座ってばかりの私にはキツいみたいっス……」


「いや、まだ10分も走ってないですよ?」


「10分も、っス……」


 アイナさんが結構ヤバそうなので、一旦私達は歩いてボスエリアまで向かう事にした。……アイナさん、割と運動できそうな見た目してるのに、不思議だ。

まあ、この歩く時間でアイナさんからボスの情報は色々聞けるし……別に歩いてもいいか。


――――


「……つまり、錬金術師で戦うのは難しい、って事っス」


「いや、多分勝てる」


「えっ」


 さて、アイナさんから得た情報はこうだ。

まずボスの名前は「バハムート」、結構な大きさの魚らしい。

バハムートをドラゴンにしない辺りよく分かっている。……というか何でバハムート=ドラゴンって風潮ができてしまったんだろうか。


 それで、アイナさんが問題と考えていたのは、バハムートが洞窟の中(ここがボスと戦うエリア)にある結構な大きさの湖の中から動かないという事。

歩ける陸地からちょっと離れた所にいるせいで、近接攻撃は当てづらいし、かといって魔法を使っても魔法耐性が高くてダメージが通りにくい。


 錬金術師的な問題として、私達の一番の火力である『爆弾ヘルツ』を投げても水に落ちて使えないのでは?とアイナさんに思われていたようだが……。


 うん、爆弾ヘルツは別に念じれば好きなタイミングで爆破できるしね。その点は問題なかった。

それに、爆弾ヘルツは尖った水っぽい何かを飛ばすもので、魔法攻撃でもない。しかも、バハムートはなんと動かないのだ。つまり私達の格好の的である。


 そして第二の問題らしき部分。


 バハムートはある一定のHPを下回るとかなりの高威力の水のレーザー、通称水レーザーをエリア全体に撃ってくるらしい。まず初見の人は唐突なその攻撃で命を落とし、分かっていてもそれを避けるのは難しいそうだ。

そして、アイナさんは私達にそれを避けるスキルがないのでは?と思われたらしいが。


 うん、盾になる『グロースシルト』あるし、それ何個でも使えるからね。

あるだけ全部並べてその後ろに隠れてれば問題ないでしょ。

一瞬どうしてその存在にアイナさんが気付かなかったんだろうかと思ったが、よく考えたら私、あの戦闘で『グロースシルト』を盾じゃなくて道を塞ぐ壁としか使ってなかった。


 ……つまるところ、割と勝てそう、という訳である。その旨を説明すると、アイナさんも「なら勝てそうっスね!」と強気な言葉を見せた。


「ところで、アイナさんは戦えるんですか?」


 そう唐突に聞いたのはメルクだ。確かに私もそれは気になってはいた。

若干地雷な気はしたけれど……。


「私っスか?いや~無理っスね!見事に生産系のスキルしか取ってないっス!」


 見た目はなんともバリバリに戦えそうな雰囲気を醸し出しているが、どうやらやっぱり戦えないらしい。

……まあ、錬金術師で戦えるプレイヤーなんて今のところ私達以外に見たことないしね。


「あ、でも肉壁にはなれるっスよ?一応耐久にはかなり振ってますし、これでもヒストリアのメイン盾っス」


 ちなみに、後々何のステータスに振っているのか聞いたら「知力と耐久の二極っス」と返ってきた。どうやら、戦う――というより戦おうとする気は全くないらしい。……それでメイン盾になれるヒストリアのギルドって、どうなんだろう。


「じゃあ行くっスか!いざ、バハムートっス!」


〈パーティーリーダーがボスエリアに侵入しました。5秒後に移動します〉


 との通知が表示され、パーティーリーダー以外のプレイヤーもボスのエリアに侵入可能になる。私とメルクはすぐさまボスへの入口である、目の前にある真っ暗な洞窟へ入っていった。


――――


「ヘイトはなるべく私が稼ぐっス!ターゲットが移っちゃったら……頑張ってください!」


 そんなアイナさんの声が聞こえる。

エリアチェンジのロード画面から舞い戻った私達の目前に佇むは、優に私三人分の背丈を越す巨大な生き物だった。


 確かに魚っぽくも見えない事もないが、それは首から下だけを見た時の話。頭は魚のものではなく、ドラゴンのような見た目をしている。

……うん、やっぱりバハムートはドラゴンっぽくなってしまう運命なのか。


「ホーミング水弾来るっス!引きつけて避けて!」


「了解!」


「了解」


 顔が急に上を向いたかと思えば、口から数十発水の弾が発射された。

それは私達の頭数に等しく分かれ、プレイヤーの真上までふわふわと動いたかと思うと、一気に重力に従って落ちてくる。


 私はそれをなんとかすれすれで避け、お返しとばかりに爆弾ヘルツを投げつけた。それは丁度バハムートの腹の辺りで炸裂し、HPゲージを一回の攻撃にしてはかなり多めに削る。


「わお、相当な威力っスね」


 アイナさんには『七色の丸薬(ファベルカメート)』を飲んでもらってバハムートの目の前でブレスとか普通の水弾とかの攻撃を受けてもらっている。

HPがゴリゴリ削れていっているけど、大丈夫かな……?


「駄目ですアリスさん、あいつに【ポインター】は効きませんし、短刀はこういう大きいの相手には効き辛いです」


 何かよく分からないスキルを使ってバハムートの周りを飛び回り、上下左右からバハムートを切り刻み続けていたメルクが私の所へ戻ってきた。

メルクの言った通り、相当な回数短剣で切りつけていたにも関わらず、バハムートのHPはそこまで減っていない。5%くらいだろうか。


「よし。じゃあメルク、アイナさん。爆弾ヘルツ使って!」


 錬金術で作ったアイテムの良いところは、こうしてどんな職業のプレイヤーでも作ったアイテムを使ってもらえるという事だ。そこが多分錬金術師の一番有用なところだろう。


 そうして、皆に渡した爆弾ヘルツをあるだけ全員で投げまくる。

だが、HPゲージが35%ほどを切った時、バハムートに異変が起きた。唐突に頭を持ち上げ、口の上に水を束ね始めた。それは大きな球体となり、いかにも今から物凄い攻撃をするであろう事が分かる。


「水レーザー!来るっス!」


「了解!『グロースシルト』、展開して!」


 私はそれを何回も繰り返し、『グロースシルト』を4個ほど展開させる。

流石に4つのグロースシルトを支えるのはキツかったが、それも水レーザーをやり過ごすまで少しの辛抱だ。


 そしてバハムートの口から放たれた水のレーザーはエリア全てを薙ぎ払い、私の展開したグロースシルトを――。


「……アリスさん。あの、グロースシルト……」


「……うん、溶けたね(・・・・)


 どれだけ高威力なのか分からないけど、あのレーザーは私が展開したグロースシルトを4枚ともコンマ数秒で溶かした。

当然、後ろに隠れていた私達も即死、ボスのエリアから外へ放り出された。


「いや、あれ無理じゃない?どうやって避けるの」


 アイナさんが言うには、水レーザーは戦闘エリアの全範囲に届くらしく、障害物もエリアにないため避ける事は不可能らしい。

いや、それ初見殺しにも程があるでしょ。


「えっと……じゃあまず遠距離職の対応方法を言うっスね。水レーザーを発射する前、予備動作があるんスけど……その時頭か水球を攻撃すれば水レーザーをキャンセルさせて次の形態に突入できるっス」


「近接職はどうするんですか?頭に攻撃が届かないと思うんですけど」


「近接職は何かしら瞬間移動や無敵化するスキルがあるのでそれで避けてくださいって感じっス」


「えぇ……」


 なんて対処方法だ、とは思ったけど、メルクの使う《短刀術》には【一陣の風(ヴィンドボルト)】とか割と頑張れば避けられそうなスキルは意外とあった。

きっと、他の武器でも色々とあるんだろう。うん。


「……でも、それどっちも無理だよね」


「……っスね」


 そう、錬金術師ではそのどちらの対処法も不可能なのである。

まず、遠距離職用の対処法、「頭か水球を殴る」だが――悲しい事に、爆弾ヘルツを全力で投げても頭の位置まで届かないのだ。


 割と届きそうな高さではあるのだが、爆弾ヘルツが半分水の様なアイテムなので死ぬほど投げにくい。とりあえず、今の私では確実に届かないという事は確定している。だって、全力で真上に投げてもお腹の辺りまでしか届かないし……。


 次に近接職用の対処法だが、これはまあ無理だろう。

《錬金術》にそんなスキルはない。


「……そういえば、アイナさんはどうやって倒したの?」


「ヒストリアの皆さんに寄生させてもらったっス……」


「あぁ……」


 うん、まあそうだよね……。

一瞬私達も寄生すれば倒せるんじゃないかと思ったけど、それはできない。

今はイベント中で頼れるプレイヤー(特に委員長)は皆イベントに出向いているという問題があるし、あんまりそういう行為はしたくないというのもある。


「というか、生産職の皆はどうやってエリアボス倒してるの?全員寄生するしかないんじゃない?」


 ふとその事が気になった。

至極どうでも良い事ではあるが、ゲームバランス的にどうなの?と思ったのだ。

明らかに戦闘職しか生き残れない世界のような気がしていたけれど――。


「あぁ、それなら簡単っスよ。生産職はクエストを進めたりNPCと仲良くなったりすれば、エリアボスを倒さなくても連れてってもらったりして、別のエリアに行けるんス」


 なるほど、そうやって生産職でも問題ないようにしているのか。

……あれ、でも錬金術師やっててそんな事一度もなかったけど。


「錬金術師でその情報は?」


「無いっス……」


 沈黙が辺りを覆う。くっ、「賢者の記憶Ⅳ」の情報は凄い欲しいけど、どうしようもないのかな……。

……いや、まだある。バハムートを突破する方法は。


「……良い方法思いついた。水レーザーが撃たれる前に倒せばいいんじゃない?」


「おお、なるほど。っスけど、私達三人がかりで爆弾ヘルツを投げまくっても厳しいっスよね……」


「そうなんだよね……」


 爆弾ヘルツ一発のダメージは結構大きいが、それでも結構大きいというだけだ。水レーザーの予備動作から発射するまでの間に削りきれる火力はない。


 うむむ、と座り込んで悩む私とアイナさん。

そんな中、メルクが「とりあえず」と前置きをして意見の総まとめをしてくれた。


「であれば、私達がここを抜ける為の方法は三つですね。『グロースシルト』を水レーザーに耐えられるくらいに硬くするか、水レーザーを撃たれるまでにバハムートのHPを削りきれる火力を手に入れるか、錬金術師の職業の別エリアに行けるイベントを見つけるか」


 多分、これ以上考えてももう意見は出ないだろう。寄生ができるのは一週間後だし、それは最終手段だ。と、なればこの三つの内どの策を取るか考えないとダメだ。

そして、私が出した答えは――。


「……よし、分かった。全部並行してやろう」

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