補習とレベル上げと掲示板
昼食を食べ終えた後、『オプス・パラミルム』を調べるためにNHOにインしようとした所、唐突にオグロから私に電話がかかってきた。
『お前、補習忘れてねぇか?』
『へ?』
……そんなのあったっけ?
……いや、あった。そういえば2時からあるんだった。
ちょっと待って。今の時間が1時50分だから……やばい、完全に遅刻した。
まずいまずいまずい!流石にこれで留年とかはないだろうけど、補習に遅刻するのはマジでヤバい!
くっ、『オプス・パラミルム』……研究したかった……!
そう悔やみながら、私は荷物をまとめ、服を着替えて学校へ出発したのだった。
――――
「お前さぁ、なんでそんなに数学できねぇの?」
「だってやる意味ないじゃん……勉強する気起きないよ」
結局私は20分遅刻。担当の教師からたっぷりお灸を据えられた。
流石に錬金術に熱中しすぎた。反省反省。
ちなみに、栄水はどうしてここにいるかだけど、勿論栄水も補習があったのだ。
うん、これを言うのはアレだけど、私達二人とも学力は結構微妙……というか一点特化型だ。いや、私は数学がダメなだけだけどね?
そして私と同じく栄水も数学ができない。そのため、委員長の生徒会長としての仕事を手伝う代わりに勉強を教えてもらう、といった事象が多発している。
「お前どうする?俺はもう帰るけど」
「ここで課題やってく……」
なんと、酷いことに教師から課題を渡された。当然期限に見合った量なのだけど、私は家に帰ったら速攻でNHOにインしてしまうであろうため全く期限に見合ってない。
そのため、ここでもう課題を終わらせようという結論に至った訳だ。
「お前自制心ないしなぁ」
「うっさい」
そう軽く言い合って栄水とは別れる。私は栄水を見送ると、急いで学校の図書室へと向かった。
「うげっ、結構人いるなぁ……」
私の通う学校にある図書室は、至って普通のよくある図書室だ。普段は全く人がいないけれど、きっと私と同じように考えたのだろう。そこは生徒達で埋め尽くされていた。
相席をしないと空いている席に座ることは不可能なレベルに人がいる。しょうがない、相席するか。
「すいません。横良いですか?」
「構いません……」
先客は目を見ることができない程に前髪を伸ばした女性だった。ここにいる生徒達の中では珍しく本を読んでいる。
軽くお辞儀をして、私は隣に座り課題を広げた。
――――
「ありがとう委員長……ホント助かった……」
「じゃあ――明日、私の仕事手伝ってくれますよね?」
私は力なく頷いた。しょうがない、必要経費だ。
どうやら委員長は会議があって学校に来ていたらしい。運良く会議から帰る委員長を図書室のドア越しに見なかったら、私はこの課題の内5割は解けていなかっただろう。
とはいえ、どうであろうと私はこの課題を解ききった。私の勝ちだ。
課題をリュックにしまい、私は帰宅の準備を始める。
先客の女性はまだ本を読んでいた。……なんで本を読むだけなのに学校の図書室に来てるんだろう。普通に図書館に行った方がいいんじゃないかな……?
ま、他の人のことについて考えている場合じゃない。今から私が考えるべきは錬金術だ。
「さ、帰りましょうか」
――――
「そういえば、あの時もこんな時でしたね」
「……あの時の話を出すのは禁止」
“あの時”とは、まああまり話題には出したくないのだけれど……簡単に言うなら、委員長がこの学校の不良グループのリーダーである女番長と仲良くなり、裏ボスとも呼ばれるようになった理由。
それは、委員長の何にでも首を突っ込む性格のために起こった事件だ。
委員長本人は「これのおかげで不良グループの実態も知れましたから」と肯定的に捉えているが……。
私としては、もう二度と起きてほしくない事だ。
「まだあの時の事が苦手なんですか?」
「……いいから。帰るよ」
――――
「あっづー……」
「我慢してください」
今、私達は学校からの帰り道にいる。委員長とは幼馴染だけあり、家は結構近い位置にあるのだ。
……委員長の持ってる携帯扇風機が欲しい。
体感温度を科学の進歩で下げる事ができるようになったといえども、最高気温45度は流石にきつい。砂漠か。
「ほら、あとちょっとで家ですから。頑張ってください」
頑張りたくない。
全く。どうしてこんな猛暑の中出てこいと教師は言うのだろうか。意味が分からない。
…………ふぅ。多分3分くらいはなんとか歩いたぞ。そろそろ家でしょ。
「家もう着いた?」
「後100mです」
「遠い!」
夏以外なら近いと余裕を持って言えるのに……夏は辛い……。本当、夏休みがあって良かったよ……。
――――――
「っし!錬金術するぞおお!」
そんな風に叫んだら、「うるさい」と下の階にいる家族から注意された。いいでしょ、別に。うるさくても。
今日は快適にプレイできるように、冷房の設定を27度にした。布陣は完璧だ。
「レッツNHO!」
『レベル上げしましょう!』
『はい?』
NHOにログインした私を待っていたのは、突然のメルクからの提案だった。
『え、どういう……』
『いいですかアリスさん。リーフさんから聞きましたが、このゲームはいくら強力なアイテムがあろうと、レベル差は絶対なんですよ』
確かにそれは分かる。レベル差があるという事は、それだけステータスに差があるという事だ。
当然ステータスに差があればそれだけ戦闘も不利になる。
『あの、オプス・パラミルムまだ読んでなくて……』
『え、まだ読んでないんですか?じゃあ読んでおいてくださいね、すぐそちらへ行きますか――』
また途中でボイスチャットが切られた。
……。
もしかして、メルクも委員長から「イベントで活躍すれば錬金術が大人気になる」って旨の話を聞いたんだろうか……。
いや、仮にメルクがレベル上がって強くなったとしても、あの戦い方は錬金術と全く関係ないよね……?
……あ、またボイスチャット申請が来てる。
『現在地を聞いていませんでした。どこですか?』
『練兵場です……』
その言葉をメルクが聞き取った瞬間、ドタドタと足音が聞こえてボイスチャットは切れた。
こ、これは……どう説得しようとマジでレベル上げが始まりそうだ……。
……今のうちに『オプス・パラミルム』を読んでおこう。
『この書では、四大元素や四大性質に次いで重要な三原質について記させてもらう。
前置きなどは特にない。早速本題に入らせてもらおう。
この世に存在する〈形相〉を持つことができる物質、これらは第一質料と性質によって構成されている。
ではその性質は何によって構成されているかだ。
これは『硫黄』、『水銀』、『塩』の三つによって構成されている。
この三つを三原質と呼ぶが、実際は塩をその中間的な物質としたもので――』
「到着しました」
「うわっ!?」
ちょっ、本当にビビった。メルク、結構こう……人の死角に飛び込むのうまいよね。私全然気付かなかったし――いや、これは死角に飛び込む能力と関係ないか……?
「脅かしてしまってすみません。『オプス・パラミルム』、読み終えました?」
「いや、まだです……」
「分かりました。読み終えたら早速、レベル上げにいきましょう!」
……今日のメルク、何かテンションおかしくない?
――――――
NHO晒しスレ その12
1 名無しの探索者
ここはNHOの害プレイヤー・ギルドを晒すスレです。
NHOについて語りたい場合は別スレへ
前スレ
https//chamomile.nch.net/test/read.cgi/net/123532414/
次スレは>>970が宣言して立てること。
過去ログ
Wiki参照
2 名無しの探索者
7月版害ギルド一覧表
S
「永遠の騎士団」-外部SNS晒し・自演・トレインMPK・敏捷全下げ拘束
「flowers」-全チャ煽り・初心者狩り→外部SNS晒し・出待ち
「いつものやつ」-横狩り・敏捷全下げ拘束・釣り妨害・NiG在住
A
「CCC」-セクハラ・全チャ煽り
「看板団」-狩場独占・敏捷全下げ拘束・集団全チャ煽り
B
「G-B」-ガキ・全チャ煽り
576 名無しの探索者
【プレイヤー名】アイナ
【所属ギルド】なし
【罪状】 寄生・低プレイヤースキル
【罪状詳細】錬金術師でパーティに参加、何度も死んで迷惑
もうPSない錬金術師は全員やめろ
577 名無しの叙述者
>>576
は錬
578 名無しの料理人
>>576
錬金術師はもういいよ
飽きた
579 名無しの剣士
錬金術師晒し禁止ってテンプレに載せといたら?
580 名無しの探索者
>>579
んな無意味なもん載せる必要ある?
だって錬金術師害プレイヤーじゃん
581 名無しの剣士
>>580
阿呆かお前?
害プレイヤーなの確定してっから載せんだよ頭沸いてんのか?
582 名無しの料理人
まーた看板団なんか全チャで吠えてる
583 名無しの剣士
アリスとメルクがクソザコって話ね
いや錬金術師って時点で知ってますがwwwwwww
584 名無しの料理人
ログアウトして逃げた臆病者とか言ってるけどさ
敏捷全下げはそれが正解なんだよなぁ…
585 名無しの探索者
あいつら身内だけでやってるっぽいしな
今回アリスとメルクなんも悪くないでしょ
586 名無しの錬金術師
というかあいつらもっと情報公開しないの?
こっちはそのせいで弱いとか散々凄い文句言われてんだけど
587 名無しの探求者
>>586
おは錬カス
死んで
588 名無しの探索者
年表載った奴が情報公開しないのなんて当たり前じゃんwwww
自分で探せや
589 名無しの剣士
まあ公開した所で……って感じだけどな錬金術師の弱さは
流石に運営が頭おかC
――――――――
【大規模】イベントについて語るスレ【長期間】
1 名無しの探索者
ここは今週末に行われるイベントについて語るスレです。
次スレは>>950が宣言して立ててください。
36 名無しの探求者
イベント内容の更新来たので載せておきますね
イベント場所:海
イベント期間:一週間
また期間中ならいつでもイベントに参加可能
しかし一回行ったら特定の場所で専用アイテムを使うことでしか戻れず、戻った場合もうイベントに参加する事はできない
以上かな?
37 名無しの探索者
なるほど、結構厳しいなそれ
このゲームに空腹度って概念がなくて助かった
38 名無しの剣士
>>37
確かに
あったら生産職必須だし
39 名無しの探索者
>>38
いや、生産職は必須じゃね?
武器とか修復どうすんの
40 名無しの剣士
>>39
あー、確かにそうか
ウチのギルド鍛冶師いないんだけど
41 名無しの探索者
>>40
自分も同じだ Σb( `・ω・´)グッ
42 名無しの料理人
料理人としては空腹度あって欲しかったなー
俺いらねぇじゃん
43 名無しの魔術師
>>42
でも料理人いないと結構キツくね?だって食事バフかかんねぇじゃん
というか街ないんだから……あれ?料理人いないとこも詰みじゃない?
44 名無しの叙述者
結構全体的に生産職必要になってくるね
やべーわ、うちのギルド全然生産職いねぇ
45 名無しの錬金術師
僕は必要ですか……?
46 名無しの料理人
>>45
帰って、どうぞ
47 名無しの探索者
>>45
いらねぇ
48 名無しの剣士
>>45
(´・ω・`)出荷よー
49 名無しの錬金術師
>>46-48
(´・ω・`)そんなー
――――――
そして時は飛び、今日の深夜。
私はまだメルクと狩りを続けていた。
『オプス・パラミルム』は狩りの合間合間になんとか読む事ができたが、中々に難解な内容だった。
多分、これについて考察していたらイベント開始までの準備ができないだろう、という結論が二人で協議した結果出たため、イベントが終わってからこの辺りは調べる、という事になった。
やっぱり、メルクが狩りの途中に言っていた様に、イベント期間中はイベントに、特に襲ってくるであろう相手に大立ち回りをして錬金術の立場を上げる事に尽力した方がいいだろう。
ちなみに、狩りの途中に変なギルドやプレイヤーに絡まれたりもしたけれど、なんとかこの時間まで狩り続けられている。
大概のプレイヤーは「オプティマス理想協会」の名を出しただけで逃げていくし、最悪ログアウト脱出戦法でどうにでもなるからだ。
……オプティマス理想協会、なんでそんな扱いなの?
「お、レベル上がりました」
メルクさんがモンスターにとどめを刺してそう言う。
確かに、このレベル上げのおかげで私達のレベルは10に到達した。
……ここからレベル上げが辛くなると言われているが。――まあ、どうにかそんな場所へは到達できたのだろう。
ちなみに、スキルはまだ何に振るかは考えていない。ステータスも同じだ。
スキルポイントは1レベルごとに2、ステータスに振れるポイントは3もらえる。
このゲームはステータスは装備やバフで補うため、素のステータスはまあまあ重要という程度だが、それでもないよりはマシだ。
それに何より、ステータスよりスキルが大事である。どんなスキルを取るかによって、取れる戦法も違ってくるし。
……まあ、私達はそのスキルじゃなくて錬金術だけで戦う予定なんだけどね。
「私のワガママに付き合っていただき、ありがとうございます。私はこの辺りで落ちようかと思います」
「いやいや、こっちこそ。お疲れ様。私もそろそろ落ちるね」
そうして、貴重な休日である水曜日は補習とレベル上げで終わっていったのだった。
そして明日。私とメルクとシエルの三人で、『ヘルメスの書』の進捗を報告する定例会議を予定していた。
――この時はまさか、あんなことになるなんて思いもしなかった。
ゲーム内の『オプス・パラミルム』において、三原質とは性質を構成するもの、とされています。
ですが、実際にはこの理論が錬金術に導入された当時金属を構成するものとされ、そしてその後三原質理論が拡張されて全ての物質の基本とされました。




