錬金術師への道
壮大な音楽と共に、私はどことも分からない、中世ファンタジー風の風景を見ていた。そのシーンに合わせてタイトル、“NewHistoryOnline”のロゴと“GAME START”の文字がフェードインしてくる。
視点を動かそうと思えば動かすことができる。ロゴは視界の中央に常に居座っているが、風景を見渡すことは容易にできた。
パッパッパッと次々に変わっていく景色。風情のある都、無限に広がる平原、入り組んだ森、カラフルな水晶の入り乱れる洞窟。
私はそんな風景に見惚れていた。今まで空想や文字から思い起こす事しかできなかった世界を、実際に遊び、見て回れるという事が伝わってくる。読書家、それも特にファンタジーが好きな人間なら興奮しない訳がない。
OPを満喫した後、私はそそくさとキャラクタークリエイト画面へと入っていくのだった。
――
「職業かぁ……」
NHOはキャラクタークリエイトが少し珍しい形だ。
メインである“職業”、そしてスキルポイントを使用して手に入れる“スキル”の二つがある。職業とスキルが別れている部分が特徴的で、あくまで職業にはレベルが上がることでそれに合った”職業ボーナス”というパッシブスキルが追加されるという効果しかない。
例えば、戦士なら攻撃力やHPアップ、魔術師ならMPや魔法ダメージアップ、といった具合にだ。
そして、スキルはなんと“どんなスキルも自由に”取ることができるのである。そのため、魔術師が戦士のスキルを使用するという事も可能らしい。勿論、職業ボーナスが乗らない為そんな事をする意味はあまりないけれど。
「んー、何か職業でいいのはないかな……」
“職業”をタップし、現れたウィンドウを指でスクロールする。そこには様々な職業が載っていたが、ピンと来るものは一向に無かった。
個人的には栄水が戦士系の職業で遊んでいる、と聞いたため魔法系の職業で遊びたいのだが、魔術師や精霊使いといった職業では遊びたくない。
その理由は、誰かに話したら鼻で笑われそうなものだけど、正直私にとっては深刻なものである。
そう、詠唱をしたくない事。
何故か。それは私が中学二年生の頃――いや、ここまで話せばどういう事か分かると思う。私は私で傷を抉るような趣向のある人間じゃない。
とにかく、VRMMOでの魔法職といえばかっこいい詠唱――どんな小説でもそうと相場が決まっていた。このNHOも当然魔法使いをするならそれが必要になってくるだろう。だからパスする。
「でも魔法的なモノで遊びたい……どうすれば」
そう言いながらうんうん唸る私。だがその時、最良の選択肢がゲーム画面に写りこんだ。
「錬金術師……?」
―――――
「よし、こんなものでいいかな」
名前:
性別:女
種族:人間
職業:錬金術師
職業ボーナス▽
《錬金術》思考補正+3%
ステータス▽
HP:50
MP:200
筋力:1
耐久:1
魔力:6
知力:15
精神:3
器用:5
敏捷:5
ざっくりとだけど、ステータスを設定できた。
なんと、ステータスもポイントを振って設定できるようだ。なんという自由度の高さ……。
それと大事な事が一つ。ステータスの一つである“敏捷”にはポイントは振れず、装備やスキルで増減するらしい。まあ確かに振れたら難易度が激減しそうだし、仕方ないよね。
大事な職業をあんな雑に決めていいのかと若干迷ったけれど、まあそれはそれ。
もし駄目だったらキャラデリして作り直せばいいしね。
ちなみに、種族は人間にした。他にも色々とあったけど、人間にした理由は一番錬金術に適してそうだったからだ。
そして、肝心のスキルは以下の通りに。
スキル▽
《錬金術》2/? ▽
【大いなる叡智】1/1
《鑑定》1/5 ▽
【植物学】1/3
【生物学】1/3
【鉱物学】1/3
《魔術》 1/?▽
《風魔法》0/?
《水魔法》0/?
《土魔法》0/?
《火魔法》1/?▽
【ファイア】1/5
最初に手に入る10SPで、錬金術を基本としてその他必要そうな物を適当に取った形である。
NHOではスキルに大元となるスキル(親スキルと呼ばれる)が存在し、それを取ることでそのスキルに関連したもの(子スキルと呼ばれる)を取ることができるらしい。
更に、親スキルのレベルを上げる以外にも、子スキルのレベルを上げても新しいものが出てくる、といった話も聞いた事がある。
例えば《魔術》スキルとかが分かりやすいと思う。
《魔術》親スキルの一つだけれど、それを取ることで出てくる四属性の魔法を習得するためには、使いたい一つの属性にポイントを振る必要がある。
子スキルとなる《火魔法》に1ポイントを振れば、今私が取っている【ファイアボール】(なんて言ったらいいんだろ。孫スキル?)が、他に水なら【ウォーターショット】、風なら【ウィンドカッター】が習得できる。
そうそう、キャラクターは特にキャラクリをする事はせず、身体スキャンで読み込まれた情報をそのまま使っている。現実の体のままで行くことにしたのだ。
栄水や椿が言うには、私は「初対面の時は男かと思ったぞ」という程の中性的な外見らしい。そういえば、身体スキャンに物凄い時間がかかっていたが、もしかするとその事が原因なのかもしれないのかな……?
閑話休題。一度見直して設定漏れがないかを確認する。特に問題が無かったのを確認した後、これから始まる世界に思いを馳せながら完了ボタンを押した。一体どんな世界が待っているのだろうか。
目新しいファンタジーな食事に、体に吹き付ける爽やかな草原の風。想像するだけで待ちきれない。できることなら、楽しく遊べると良いんだけど――。
〈名前が設定されていません〉
あ、すいません。
――
名前はアリストテレスから取って、アリスにした。うん、非常にアレな名前だけどそれ以外に思いつかなかった。仕方ない。
今度こそ設定漏れがないのをチェックしてから、再度完了ボタンを押す。
〈キャラクター設定が完了しました〉
〈良い旅を、アリスさん!〉
そのメッセージを見ると同時に、視界が白く染まっていった。
《錬金術》▽
スキル【錬金術】を使用可能になる。
レベルを上げる事で新スキル取得可能+パッシブ効果
現在レベル3/?
効果▽
錬金術思考矯正+5%
【大いなる叡智】▽
真理を目指す錬金術師が最初に辿り着く知識。
アイテムの〈形相〉を知る事が出来る。
《鑑定》▽
スキル【鑑定】を使用可能になる。
対象とするアイテムの知識を手に入れる事が出来る。
ただし、そのアイテムの種類の知識を持っていないと鑑定不可能。
レベルを上げることで成功率アップ+詳細さ上昇
現在レベル1/5
効果▽
鑑定成功確率+20%
ある程度のアイテムの情報が分かる
《魔術》▽
魔法を扱えるようになる。
レベルを上げる事でパッシブ効果+新スキル
現在レベル1/?
効果▽
〈魔法〉スキルによるダメージ+10
詠唱成功確率+3%