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第二節と四形質説

「ど、どうしよう……」


「どうしようも何も……もう見るしかないのでは……」


「はは、そうだよね……」


 まさか二段階目のエメラルド・タブレットを解放してしまうなんて夢にも思わなかった。まだ『ヘルメスの書』すらろくに研究できていないのに……。

この事を他の二人にも話したところ、「また何かしてる……」と言わんばかりの視線を送られたけど、他二人が警戒を担当すると言ってくれた。ありがたい。


――


「よし、早速読もう……!」

 

 エメラルド・タブレットの前に立つと、よく聞いた機械音と共に私に通知が訪れる。


〈「賢者の記憶Ⅱ」を受注しました〉


〈エメラルド・タブレットが一部読めるようになります〉


 あれ、今回はエメラルド・タブレットを解放したのに偉業に登録されないのか。……偉業の判定、結構謎だ。

あ、そういえば……いくつか年表に記載していない偉業も溜まってきた気がする。この辺りをどうするかも相談しないといけない。


「いや、偉業が溜まってるのっておかしいですからね?」


 今までと同じく、文字が爆ぜて日本語へと置き換わる。これでエメラルド・タブレットに書かれている文字は半分くらいが日本語になった。中々壮観だ。


『「太陽」はその父、「月」はその母。

「風」は子宮にそを孕み、「大地」は乳にてそを育む。

偉大なる受容の力を調べん時、汝、かの力倆りきりょうを得るであろう』


「これは……どういう意味なんでしょうか……」


「……多分分かる人が居る方がおかしいと思う」


 今回の内容は本当に意味が分からない。読めない漢字もあるし。

多分、これが発生する前に考えていた“熱”と“乾”という物が大事になってくるんだろうけど……。


「とりあえず、『ヘルメスの書』を優先した方が――」


「ごめん!錬金棟の方から緊急連絡が……」


 突然シエルさんが私の言葉を遮った。シエルさんは少し離れたところに行って、相手の声を聞きつつ軽く頷いている。どうやらNPC間でもボイスチャットは可能なようだった。……どうなってるんだろ、このゲーム。


 少し経つと、ボイスチャットが終わったのかメルクさんが満面の笑みを浮かべて近づいてくる。


「錬金術、進んだよ」


――

「錬金術の修学Ⅱ」受注条件▽

 「賢者の記憶Ⅱ」を受注する

――


 私達が錬金棟へ着いたとき、錬金棟内の騒ぎは非常に大きな物となっていた。

普段は大人しい錬金棟の学徒達があちこちでハイタッチしたりハグしたり――とにかく、喜びを全力で表現している。


 いつもは乱雑に固めて置いてあるテーブルは綺麗に並べられ、更に垂れ幕もいくつも垂れ下がっていた。さながらパーティ会場だ。

何があったのか、適当な学徒に聞いてみると。


「大発見ですよ大発見!これでなんでも物が作れる(・・・・・・・・・)様になったんですよ!」


「どういう事?」


 なんでも物が作れる、という事はどういう事なのだろうか。

……というか、それができたらもう錬金術は完全な物になるんじゃ……?


「そろそろ発見者のパラケルススさんが来ますから!適当な場所で座っていてください!」


「パラケルスス……?」


 その言葉を聞いた瞬間、これまで楽しそうに、いつも以上にはしゃいでいたシエルさんの動きがぴたりと止まる。

シエルさんの異変はそれだけじゃなかった。目からは涙がいくつか零れ落ちて来ている。


「だ、大丈夫ですか……」


「うぅ、苦節何年……錬金棟をまとめ続けてきた甲斐があったよ……」


「えぇ……?」


「アリスさん」


 メルクが私の肩に手を置いて、“そっとしておけ”と言わんばかりに首を振る。

きっとシエルさんにも色々あったのだろう。

とりあえずもっと情報収集をしないと。



「パラケルスス先輩は凄いんですよ!この錬金棟を作ったのもパラケルスス先輩なんです!」


 ――三年生の錬金棟学徒。


「パラケルススさんはこの地に眠る歴史から錬金術を発見した優秀な女子生徒だと……そう聞き及んでいます」


 ――二年生の錬金等学徒。


「パラケルススぅ……ううっ、やっと……やっと帰ってきてくれた……嬉しい……」


 ――錬金棟、副リーダー。


「パラケルススさんは凄い人ですよ!噂ではエメラルド・タブレットを全て解読できているとか……」


 ――二年生の錬金棟学徒。


「何か変な情報ありません?」


「さあ……」


 だけど、これで“パラケルスス”という名前の人物がどんな人なのかは分かった。

錬金術を発見・技術を確立し、更にはここの錬金棟までも立ち上げたという人物らしい。軽く聞いただけでも中々の業績である。


「すみませんアリスさん、リーフさん。そろそろパラケルススさんが来ると伝えられました。私達もどこかへ着席した方が良いのでは」


「ありがとうメルク。ここでいい?」


 軽く頷くメルク。私達は奥の方の小ぢんまりとした席に座り、パラケルススという人物を待つことにした。

……あれ?今思ったけど、委員長……凄い場違いなんじゃ。覆面もまだ外してないし。


 そんな事を考えている時、不意に錬金棟の扉(私達から見て遠い側にある)が開けられる。そこから現れたのは、いかにもデキる人間という事が伺える女性だった。

長い灰色のロングヘア、穿った見方のできそうな少し釣った目、しっかり引き締められた口。長身ですらっとしていて、歩き方も優雅――と言うより、“場慣れしている”と表現した方が正しいかもしれない。


「パラケルススちゃん!おかえり!」


 そう言って教室中央へ歩いているパラケルススと思われる生徒に飛びついたのはシエルさんだ。

突然抱きついてきたシエルさんに満更でもなさげな顔をしつつも、なんとか引き剥がそうとしているのが見て取れる。


 数秒後。ようやく暫定パラケルススからシエルさんは離れる。シエルさんの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。というか、すすり泣く音が聞こえると思ったら他の生徒も結構泣いてる人がいる……。

教室内の中央へ着いたパラケルススらしき人物は、中央に置いてあった一際大きい机の前に立って、演説(言葉の意味としては違うと思うが、私は聞いていて演説としか思えなかった)を始めた。


「皆。突然旅に出てしまい、本当に申し訳なかった。特にシエル。本当にすまない。よく錬金棟をまとめ上げてくれた。だが……私は帰ってきた!」


 うおお、と歓声に包まれる教室。――これ、他のところの迷惑にならない?大丈夫?


「事前に連絡した通り、エメラルド・タブレットの第二節の意味が分かった。そして、ヘルメスが伝える業を扱いこなす方法も!」


 その一言で教室が更に沸いた。

こっそりと委員長が「これ私いる必要あります?」と私に耳打ちしてくる。ごめん委員長。今の私達の中でまともに戦える――つまり警戒ができるのは委員長だけなの。ごめん。


「これで錬金術は更なる進歩を遂げるだろう!それもこれまでとは比べ物にならないほどに!」


「さあ、錬金術の夜明けは今だ!」


 その言葉をパラケルススさんが言い終わると同時に、私の画面に派手なファンファーレと共に通知が流れてきた。


〈新クエスト「錬金術の修学Ⅱ」が受注できるようになりました。スロウス学院内の錬金棟から受注可能です〉


――


「新クエスト、受けたいんだけど……」


「ええ……。あの宴が終わるまでは受注できないでしょうね」


 私達(シエルさん除く)はこっそりと錬金棟から退出し、外へと出てきていた。

教室内は本当に凄いお祭りムードになっていて、部外者の私達には耐えられる物ではなかったからだ。特に委員長が。

それと、クエストを受けられる雰囲気でなかった事もある。


「とりあえず、暇な今のうちに『ヘルメスの書』を読み解いた方が良いと思います。イベント開始までに時間もありませんし」


「それがいいね。リーフ、警戒よろしく」


「私を物みたいに扱わないで欲しいんですが……」


 そう言いながらも渋々周囲の警戒にあたってくれる委員長。……うん、次の学校の時は、生徒会の仕事をいつもより多めに手伝おう。


 今一番気になっているのは、勿論前回現れた『爆弾ヘルツ』と書かれたアイコンだ。『金属変性』も気になるには気になるけれど、それより武力である。

恐る恐る触ってみると、今回も3D映画のような演出はなく、そのまま『ヘルメスの書』にできた新しいページに移動した。


――

爆弾ヘルツ』▽

 爆弾ヘルツとは、       の爆発物です。

 ですがそれは、通常の“爆弾”ではありません。

 『火薬』による爆発ではなく、        による爆発を行います。

 その為、爆発時に生じる温寒を操る事も可能です。

 注意点は

 なので、「賢者の記憶Ⅳ」を解放していない場合は何もしないでください。


 レシピ ▽

  必要条件 ▽

         を  に使用する


  典型例 ▽

   『黒曜石』・『湖水』+『鉄インゴット』 = 『爆弾ヘルツ


   手順 ▽

    『湖水』→『鉄インゴット』→『黒曜石』と投入する。

    その後加熱し、強くかき混ぜる。


   生成物 ▽

    『爆弾ヘルツ

    〈水〉[〈ガラス〉〈鉱石〉]


 典型例の通り作った場合、「爆発しろ」と念じる事で爆発します。

 そして、爆発の際に鋭く切れ味のある水を撒き散らします。

――


〈課題「『爆弾ヘルツ』を一つ作成する」を受注しました〉


 読み終わってページを宇宙の場所へ戻すと、そんな通知が私に訪れた。

爆弾ヘルツ』のアイコンは他のものとは違って点滅し続けている。この受けた課題を達成する事で“クリアした”扱いとなって、また新しい項目が出来るのだろうという事は容易に想像できた。


「アリスさん、どうでした?」


「あー、なんとなくは分かった」


 本当に『爆弾ヘルツ』についてはなんとなくしか分かっていないけれど。

早速このレシピにある「典型例」とやらを試してみたかったが、『鉄インゴット』にはアテがあるけれど、残念なことに必要なアイテム『湖水』は持っていない。

幸いな事に、この付近で取れるアイテムだから助かったけれど……問題が一つだけあった。


「『湖水』を取りに行きたいんだけど、絶対……私の事狙ってくる人、いるよね」


 そう、PK……というより私の持つ“新ワールドへの道”の情報を狙ってくるであろうプレイヤーだ。

委員長が言っていた事が確かならば、確実に街の外に出た瞬間、周囲の人々が刃を見せて襲ってくるだろう。


「リーフ、メルク。どうした方がいいと思う?」


「爆弾の素材なんでしょう?私は素材を取りに行っても良いと思いますけどね。最悪ログアウトすればなんとかなりますから」


「好奇心に身を委ねてみてはいかがでしょうか……!」


 ……よし、不安な気持ちはまだあるけれど、今の所全会一致だ。取りに行こう。

現実ではまだ午後の6時。まだまだログインできる余裕はある。

そうして『湖水』を取りに行こうと意気込んだ時、私達は不意に後ろから声を掛けられた。


「君達が噂の錬金術師かい?話がある」


「何者!?」


 物凄い反応速度で委員長が弓を取り出しその人物に狙いを付ける。

しかし、その声を掛けてきた人物の姿を確認するなり、すぐさま弓を下ろした。


「申し遅れてすまない。私はパラケルススだ。――君達と話がしたい」

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