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ヘルメスの書

イベント開始日を今週の日曜日→今週の土曜日へ変更しました。

「委員長、エメラルド・タブレットに行くから!」


「ちょっ、何……何ですか急に!?」


 全力のダッシュでエメラルド・タブレットへと向かおうとする私達。だが委員長はその意味を分かっていない様で、一人あたふたとしている。


「ホントありがとリーフ!リーフのおかげだから!」


「あ、ちょっと、待っ――」


「後でお礼するからー!」


 正直、今は委員長の相手をしている余裕がある時ではない。

急いでエメラルド・タブレットへ向かわなければ。


 エメラルド・タブレットの最初の文はこうだ。


『上なるものは下なるものの如し。そして、下なるものは上なるものの如し。唯一なるものの驚異を実現す。万物は唯一なるものの意志により来たるがゆえ、かくして森羅万象は唯一絶対のものより力を受けうまれ出ず。総体より精妙を分離し、この地に示せ』


 これまで行っていた議論において、この文の意味が「唯一なるもの、即ち万物の元となるもの。それを持って来い」という指令である事までは分かっていたのだけれど、じゃあ万物の元になるものって何?となるとそれは全く分からなかった。


 しかし、委員長は「第五精髄」とは全ての元素の元である「第五元素」と同じである、そんなアドバイスを私達にもたらしてくれた。

そのアドバイスはアドバイスどころではない。私達にとってそれは完全に答えである。


「つまり――回復薬ポーションを見せればいい!」


 エメラルド・タブレットに走り寄り、その面前に回復薬をかざす。

それによりゲーム内にファンファーレが鳴り響き――。


〈賢者の記憶Ⅰをクリアしました〉


〈エメラルド・タブレットが一部読めるようになりました〉


〈10000expと、『ヘルメスの書』を入手しました〉


〈偉業を達成しました。年表に記載しますか?〉


 クエスト達成報酬として莫大な経験値を獲得し、レベルが二つ上がる。

だが、そんなところで喜んでいる場合ではない。何より新しく読めるようになったエメラルド・タブレットの一節が一番の問題だ。

貰ったアイテムも気になるけど。


「よし、読むよ……いい?」


「勿論さ」


 メルクさんも無言でOKマークを作ってくれていた。

よし、読むよ――。


『よくぞ示した、知恵ある者よ。かくして汝は栄光を得て、不確実なる物は消え去るであろう。汝、もし真なる賢者を志すならばこれを授けん。努努ゆめゆめ力行せし様』


 なるほど……なるほど?

うん、多分クエストを達成した後に読める様になる文章には、あんまり重要な事が書かれていないみたいだ。

でも、『これ』って何だ……?


「『これ』って……“これ”の事でしょうか」


 そう言ってメルクが取り出したのは、先ほどクエスト達成の報酬として貰った『ヘルメスの書』だ。

他に何か手に入れた物もないため、早速開いてみると――。


「こ、これは……?」


 『ヘルメスの書』は始め、一ページしか開くことができなかった。しかし――その中には“宇宙”が広がっていた。

しかも、この宇宙は私達のよく知る宇宙ではない。地球のような惑星が平らで、その周りを惑星がグルグルと回っている――地球平面説と天動説を合わせた宇宙だった。


「こ、これ!タッチパネルみたいな操作ができます!」


「え、本当!?」


 ちなみに、一緒にクエストをクリアしたからだろうか、どうやらNPCであるシエルさんも『ヘルメスの書』を手に入れている様だった。


 そのためシエルさん含めた私達三人で、新しいおもちゃを与えられた子供の様に『ヘルメスの書』を弄りまわしていた。

しかし、そんな楽しい空気に委員長からメスが入れられる。


「それ、あなた達が初めて見つけたアイテムでしょう?

ここ、結構錬金術師の他プレイヤーが来るんでしたよね。もう少し安全なところで読んだ方がいいんじゃないでしょうか」


「た、確かに……」


 エメラルド・タブレットをクリアできた、そんなテンションの中にいなかったからだろうか。委員長、意外に冷静だった。


――


「こちら、錬金棟となっておりまーす」


 本来入れる筈のないスロウス学院だったが、シエルさんの力でなんとか入れるようにしてもらった。……シエルさん、一体何者なの?

まあ多分、錬金棟は今の時間帯ならNPCの手助けがないと入る事ができない場所だ。これ以上に安全な場所はないだろう。今の所は。


「さ、早速調査開始と洒落こもうじゃないか。今夜はオールだよ?」


「もうそろそろ朝ですけど」


  現時刻はゲーム内時間で大体朝の6時だ。先ほど今の所は安全と書いたのは、そろそろスロウス学院が開校となるためである。

ま、それまでは現実時間で20分くらい猶予あるし。なんとか調査は済むでしょう。


 いつもどおりどこからともなくメルクが出してきた机と椅子に座り、調査を始める。いつもと違うのはこれが“議論”ではなく“調査”という事だ。

ちなみに、シエルさん特製ドリンクも出てきた。精製水だった。


 とりあえずわかった事は二つ。(多分この世界の)“宇宙”を模した画面はタッチパネルの様に指でスライドさせたり、拡大縮小ができるという事。

そしてもう一つ。拡大していくと、次第に何か四角いアイコンが現れるという事だ。


 その四角いアイコンは丁度画面の中心にあって、上の方へ四本の線が伸びている。

その先にもそれと似たようなアイコンはあるが、中央のアイコンの方が白く、いかにも未開放のものですよと言わんばかりのものだ。


 ……とりあえず、適当に触ってみるか。えいっ。

――!?

本のページが真っ白になったかと思ったら、急に文字が飛び出してきた。端的に言うと3D映画(古い言葉だから伝わらないかも)みたいだ。

その文字にはこう記されていた。


『真の錬金術師を目指すものよ、よくぞここまで辿り着いた。

この書は“現実には存在しえない”物質を作り出すための手法・技法書である。

真の錬金術師を目指すものよ、この書を紐解くことによって大いなる業(マグヌム・オプス)へたどり着けるだろう。

以下に錬金術の基礎を示す』


 あっ、右下の方にバツマークがある。これを押すと消えるのかな。

……うん、無事消えた。どうやら今私が読んでいるのは“宇宙”のページではない、この本の他のページの様だった。多分、あの四角いアイコンを触ったからこうしてページが増えたんだろうと推測できる。


 そこには以下のように書いてあった。


――

この書について ▽

 かの偉大なる王、    が創り出した錬金術師の為の書物です。

 入門レベル~達人レベルまで様々な事柄が記載されています。

 一つの“課題クエスト”をクリアする事で、更なる課題や情報が解放されます。

 また、この書は全てのアイテムの製法を記すものでもあります。

 新たなレシピブックを見つけた時、それはすぐさまこの書に統合されるでしょう。


 また、いくつか隠された機能も存在するでしょう。是非、研究してみてください。

 読むことができない部分は未だ未開放の部分です。

 課題を攻略していく内、次第に読めるようになるでしょう。


錬金術とは ▽

 錬金術とは、     によって      “人間”が金を創り出す業の事です。

 『金』を作り出す為には『賢者の石』を錬成する必要があります。


錬金術のヒント ▽

 貴方が行った様に、よく考え、よく観察して行動する事。

 それで自ずと道は開けるでしょう。


課題の進め方 ▽

 破壊・変性を望むなら火を。

 生命・浄化を望むなら水を。

 活動・洗浄を望むなら空気を。

 沈黙・洗浄を望むなら地を。

――


〈『ヘルメスの書』の項目、合計四つが解放されました〉


「アリスさん、シエルさん!あれを!」


「へ?あれ?」


「あれですよあれ!あの……錬金棟特製のレシピです!」


 一瞬どうしてそれを必要としたかを理解する事ができなかったけれど、すぐその意味を了知する事ができた。

先ほどの文章の中に、「新たなレシピブックを見つけた時、それはすぐさまこの書に統合されるでしょう」とあったからだ。

つまりメルクさんは、あのトンデモレシピ本が統合されるのでは、そう考えているのだろうけれど。


「いやーまさか。流石にこの錬金棟特製総当りトンデモレシピブックとかも融合しちゃったりはしないでしょ」


「私もないと思うけど……」


 例の黒曜石のレシピが載っていた本をパタパタと手でもてあそぶシエルさん。

明らかに素人が作ったのが丸分かりな本だ。本だって統合する本を選ぶ権利はある。まあ統合しないだろうなと思って無視し、調査を再開しようとした時――。


「うわっ!?本当に統合しちゃった!?」


 そんな驚愕の声に惹きつけられ、私は目線を上にやる。すると、『ヘルメスの書』が錬金棟の作った本と“融合している”ところを確かめる事ができた。


「えぇ……」


「凄いね、これ。私の方、“オリジナルレシピ”って頁、増えちゃったみたい」


 あー、そういう事か。多分この本、レシピに反応して自動的に融合・取り込みを行って、全てのレシピをこの本一冊にまとめられるようになっているんだろう。しかも、プレイヤーが各自で編み出したレシピもオリジナルレシピとして融合させることができると。


 だからシエルら錬金棟の生徒が作った総当りレシピブックは、NPCの作ったオリジナルレシピとして融合したんだろう。


「これは研究しがいがあるね~。アリスちゃんはどうだい?」


 シエルさんが私の本を覗き込んでくる。

残念な事に、私は特に何か発見できたものはなかった。

その旨を伝えると、シエルさんは驚いた表情になる。


「あらら。あのアリスちゃんが成果ナシなんて言うとは。珍しいね、今日曇りそう」


「たいして珍しくない……」


 ツッコミを入れつつも、私は見落としがないか思考を巡らせる。

あ、そういえばさっき来た通知を忘れていた。確か、四つの項目が解放されたとかなんとかだっけ。


 宇宙のページを開き直すと、中央の四角と繋がっていた若干薄暗かった四つの四角いアイコンが、薄暗くなくなっている。

どうやらそれぞれが火・水・空気・地の四つのエリアに分けられているらしく、多分これが前のページに書いてあった『課題の進め方』とやらに関係してくるのだろう。


 とりあえず、私の一番の目標は強くなる、というか戦えるようになる事だ。選ぶのは勿論――破壊・変性の火だ。


 前回と同じようにそこを触る。

すると、今度は3D映画のような演出は起こらず、ただ新しいページが作られた。

そこにはこう載っている。


――

『火の元素』とは ▽

 火とは四大元素の内の一つで、“熱”:“乾”の性質から成り立っています。

 破壊・変性を司っていて、一番最初に誕生した元素とも言われています。

 また一番元素の揮発性が高く、四大元素の中で一番上位に立つ存在でもあります。

――


 ……今回は意外と短かった。

まあ、短ければ短いほど謎は増えないし、これでいいかも。


 そのページを閉じ、宇宙のページに戻るとまた通知が私に訪れた。


〈『ヘルメスの書』の項目、合計三つが解放されました〉


 先ほど触った四角アイコンから、更に三つの線が伸びていく。

一つは『爆弾ヘルツ』という項目に、一つは『金属変性』という項目に、そしてもう一つは……???と表示されるだけで何もわからない。

???には『賢者の記憶Ⅳの受注が必要です』とだけ表示されている。


 爆弾ヘルツがどんな物かは分からなかったけれど、きっと爆弾って名前なんだから爆弾なんだろう。

とりあえず錬金術で戦闘できそうな物が見つかった事に私は胸をなで下ろした。


「あったあった!戦えそうな物!」


「おぉ、良かったです。そしてですね……私は「水」の欄を見ていたんですが、中々使えそうなもの、発見しましたよ」


 メルクがそう言う。それを待ってましたとばかりに、シエルさんも机から身を乗り出してわざとらしくこう言った。


「んん?メルクちゃんも?そっかぁー。実は私も、「空気」の欄を見てたんだけどね。……中々有用そうなものを見つけちゃったのだよ」


「ふふ。皆お揃いですね」


 三人で「いぇーい」とハイタッチをかまし、その後三人で笑いあった。錬金術の研究、すっごい楽しい。


 ――あれ?何か、変な視線が……。まさか敵!?


「………………」


 あ、委員長。ごめん、忘れてた。


――


「そういえば、『ヘルメスの書』で気になるところがあったんだけど」


「奇遇ですね、私もです」


 完全に読んでいる時はスルーしていたけど、一つだけ引っかかる部分があった。

それは『火』の項目に書いてあった、“熱”:“乾”の性質から成り立っている――という部分だ。

読んでる時はどうして疑問に思わなかったんだろうか。「また変な固有名詞出てきたよ」くらいに思っていたのだろうか。


「奇遇ですね、私も同じような所が気になりました」


 だけど、その性質って何なんだろうか。

熱と乾……なら多分、その逆で冷たい性質と湿ってる性質があるんだろう。だから何だ、という話になるんだけど。


「よし、緊急議論しよう。今回は委員長もお願い」


「分かりました」


 早速議論開始だ。四人であーでもないこーでもないと色々話し合う。

そんな事を始めて数分。いつぞやかの聞き覚えあるファンファーレ音と共に、私にゲームからの通知が訪れた。


〈「賢者の記憶Ⅱ」の発生条件を満たしました〉


〈エメラルド・タブレット前にて受注可能です〉


「ね、ねぇ……私、エメラルド・タブレット解放しちゃったんだけど……」


「き、奇遇ですね……。私もです……」

どうしてクエストがクリアできたかは後々。

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