カウントダウン
そういえば、何か大事な事を忘れてる気がする。
……あっ。
「ボイスチャット忘れてた。……ごめんメルク、ちょっと話せなくなる」
「了解です」
完全にボイスチャット申請がぽこじゃか飛んできているのを忘れていた。
その旨だけメルクに伝え、私は申請を許可する。
すると、結構時間が空いていたのにも関わらず、速攻でオグロの声が聞こえてきた。
『待ちぼうけ食らいすぎて一周回ってこっちが冷静になってきたわ。今時間あるか?誰かに捕まってねぇか?』
『ん、別に捕まってないけど。で、何か用?』
『いや何か用じゃねーよアホか。年表に二回以上載ったプレイヤーなんてそうそういないんだぞ?』
『……あっ』
『えぇ……。いいか?お節介かもしれんけど、一応言っておく。お前ら時の人だからな?ホント気をつけて、マジで』
『了解。出歩く時は気をつけるね』
『あぁそうだ、後委員長には気をつけろよ?いいな?』
『へ?どういう――』
何やら意味深な事を言い残してボイスチャットはブチッっと切れた。
委員長に気をつけろ――ね。ま、元々結構ヤバい人だし……普段通り接していれば大丈夫でしょ。
まあそれは置いておいて、オグロの言う時の人、というものが気になった。
……もしかしてもう特定されてるとか?いやいやまさか。
こんな初めて数日のキャラを特定できる方がおかしいよね。よね……?
――
あれから後。私はシエルさんとメルクの三人で錬金術に関する討論を行い、私は疲れてきたので一足先に落ちる事にした。
一時間二時間なら問題ないが、三時間くらい寝続ける(それも昼寝で)というのは流石に体にかかる負担が大きいだろう。NHOには似合わない人種かもなーと思いながらも、私は現実に帰ることにしたのだった。
「よっ……と」
私は現実に戻ると、まずかぶっていたバイザーを取り、マントを脱ぐ。時刻は午後四時を回っていた。
今日のNHOは中々エキサイティングな体験ができた。
今日あった出来事を思い返しながら夕食の準備をする。今日は家族がいないため、適当なカップ麺と冷凍食品で済ませるつもりだ。料理はうまくないし。
お湯を沸かしている間に、視界に映るウィンドウを操作してネットサーフィンをする。
何故こんな事ができるかだが、脳に超小型集積回路を埋め込む事で視覚や聴覚に関する様々な情報をキャッチ・改竄しているからだ。
じゃあなんでNHOは夢に頼っているかだけれど、それは何かこう……色々と難しい理由があるかららしい。例えば、運動を全て電子的な空間内で行わせようとすると体内活動全てが止まるからとか。
そうして、カップ麺をすすりながら脳波でウィンドウを弄りまわしていた私は、不意に委員長から電話が掛かってきている事に気づいた。
『もしもし委員長?』
『ごめんなさい急に。貴方――いえ、“アリス”の身に危険が迫っているの』
『えっ?』
どういう……事?
『気をつけて、アリス。大手ギルドは掲示板や一介のプレイヤーなんかとは比べ物にならない情報網を張り巡らせているの。だから貴方は既に特定されている』
そんな馬鹿な。そんな兆候なんてなかったし、特定されてるんだったらすぐさま私達に何か接触してくるはず。どうして……?
『それは勿論、街中なんかで接触する意味がないでしょう。フィールド――いえ、PK可能エリアと言った方が分かりやすいかしら。そこに出るまでに下手な事してあなたに警戒される訳にはいけないでしょうし』
『嘘……』
という事は、一歩でも街の外へ出ていたらその時点で私は終わっていたという事か。
――そういえば、確かに街にいたとき若干だけれど、怪しい視線を感じた事がある。……まさか、私が街から出るまで尾行してた……なんて事はないよね?
『PKされるだけなら良いのですが、このゲームには面倒な状態異常や「スピードフォール」といった呪文がありまして……いえ、その事を話すのは後にしましょう。
……いいですか?アリス。もしもの時は私達「ホロスコープ」やオグロのギルド「オプティマス理想協会」に頼ること、いいですね?』
それは中々ありがたい申し出だ。オグロのギルドはまあ置いておいて、少なくとも委員長のギルド「ホロスコープ」はNHOトップクラスのギルドだ。太刀打ちできるギルドは少ないだろう。
……というか、オグロが教祖やってるギルドの名前始めて聞いたけど、酷い名前……。
『でもさ、それならこっそり街を出ればいいんじゃないの?襲われてもすぐログアウトすればいいだけだし』
『貴方は公式サイトで「今週末に初めての大規模イベントを開催します」という予告があったのを覚えていますか?』
『え、そんなのあったの』
そう言うと、通話の向こう側で委員長が大きなため息をついたのが聞こえた。
いや、だって私そういうの見ない主義だから……。下手にネタバレとか食らっちゃったら興が削がれちゃうし。
『そのイベントの詳細は分かりませんが、とにかく新ワールドに行く、という事だけは確定しています』
『それのどこが問題なの?』
『運営から「街は存在しません」と明言されているところです。また、「一度行ったら戻れないので、しっかりと準備を整えて臨んでください」と告知されているところもです。
街がないという事は安全地帯がない、という事。そしてあなたを狙っているギルドにとって、これ以上にあなたを襲いやすいタイミングはないでしょう』
確かに、街の中ではPKや戦闘行為は禁止だ。だからそれがないため襲いやすい、という委員長の言う事は一理ある。
……だけど、その対策方法思いついちゃったんだけど。
『それ、私とメルクとイグニスさんがイベントに参加しなかったらいいだけじゃないの?』
『じゃああなたはこのイベントに参加したくないんですか?』
うっ。それを言われると弱い。
新ワールドでしょ?めっちゃ参加したいよ私。すっごいワクワクするもん。
『しかもこの機会……危険ですが、錬金術の立場を向上させるには丁度良いんですよ』
『どういう事?』
『運営から、「参加できなかったプレイヤーの為にイベント状況を中継、また後日配信する」、そう通知されています。
錬金術師のプレイヤーは減る一方です。ですかもし、もしNHOを始めてまだ少しのアリスが、襲ってきた大手ギルドに大立ち回りしたらどう?運営はそんな珍事、配信しない訳にはいかないでしょう。そしたら……錬金術師の評価、一気に好転するんじゃない?』
『…………』
私が答えに窮したのには理由があった。
最近、錬金術以外の生産職がだんだんと成長してきて、“楽しく遊べる”レベルにまで来ているのだ。
しかし、錬金術師は私がエメラルド・タブレットを解放しただけで、他に何も進展していない。
そんな何もできない職業をありがたがる人がいるだろうか?
これはメルクから聞いた事だけど、近頃錬金術師の扱いが本当に酷くなってきているらしい。パーティに入ろうとすれば文句を言われ、錬金釜を街中で広げているだけで笑われる。錬金術師の人口は減る一方だそうだ。
『あえて罠にかかってみませんか?――錬金術のために』
『くっ……』
そこを突かれると弱い。
別に錬金術を救いたいという気持ちがある訳では決してないけれど、それでも錬金術が酷い扱いを受けているのはどうにかしたい。いやほんと、錬金術を救いたいって気持ちはないよ?
だけど確かに、委員長が言っているような事ができれば錬金術師の評価はうなぎ登りだろう。
『でも、私……そんな事できないけど』
『まだイベント開始までに猶予はあります。今日が火曜日で、イベント開始が土曜日。大体五日程度はあります。
それまでに錬金術でどうにか戦える様になっておいてください』
うーん、そうしたいのは山々だけれど、戦えるようになれと言われても。正直困る。
だって、今の所錬金術はお先真っ暗だ。何すればいいのかも分からないし。
……だけど、頑張るしかないんだろうな。――錬金術の為に。
『……あ、そうそう。あなたが錬金術で戦える様になる為、私達「ホロスコープ」も人払いやレベル上げ等、手を貸しますから。……条件付きですが』
『条件って?』
『もちろん新ワールドへの行き方、いやせめて行き方とはいかないまでもヒントくらい教えてくださいお願いしますすごい気になっているんですよ分かります?迷妄機関、それも機関ですよ機関何が眠っているか分からないじゃないですか!古代のロマン、いえ未来?ああ、なんとしても我慢なりません早く教えてくださいおねが――』
私は無言で通話を終了した。なるほど、オグロの言ってた「委員長に気をつけろ」という言葉の意味はこういう事だったんだろう。
まあ、軽いヒントくらいは教えよう……。それで錬金術師の立場上げに協力してくれるならありがたいし……。
……あれ?そういえば……どうして委員長、私が「錬金術の立場を上げたい」って思ってたのに気づいたんだろ。それを思い始めたのって割と最近なんだけど――。
―――――――
【神出】アリスとメルクを探すスレ【鬼没】
323 名無しの叙述者
アリスとメルク見せたろか
324 名無しの探索者
>>323
見せて
325 名無しの叙述者
ここにはない
326 名無しの探索者
>>325
は?
327 名無しの探求者
>>325
は?
328 名無しの料理人
>>325
はーつっかえ!
329 名無しの叙述者
いやマジでアリスとメルクいねーわ
330 名無しの探求者
というか特定できてんの?
331 名無しの叙述者
>>330
ある程度絞り込めてる
まず候補は二つ
結構前のスレに出てきてた、エメラルド・タブレットの未開放部分を覗き込んでたイケメンと魔女
んで次にイグニスのフレンドにそれっぽい奴が何人か
332 名無しの剣士
>>331
個人的には前者な気がするけどなぁ
でもイケメンがメルクなんて可愛らしい名前使うか?
333 名無しの叙述者
>>332
それよね
334 名無しの弓術士
実はイケメンがアリスって名前だぞ
335 名無しの探索者
ねぇわwwwwww
336 名無しの弓術士
実はアリスは女だぞ
337 名無しの探索者
>>336
何言ってんだこいつwwwwwんな訳ねぇだろwwwww
―――――――
【速報】錬金術、一歩前進【速報】
1 名無しの探求者
エメラルド・タブレットのクエスト三つ目の開放キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!
2 名無しの錬金術師
マジ!?
3 名無しの探索者
>>2
マジやぞ
例のアリスとメルクがやったぽ
4 名無しの錬金術師
あいつら錬金術師かよwwww
なのになんで新ワールド発見してんねんwwww
5 名無しの探求者
おおちおちおちおちつけ
まだ慌てるような時間じゃない
6 名無しの錬金術師
というか二つ目飛ばして三つ目か
段階踏むもんじゃないみたいやね
7 名無しの錬金術師
>>6
何かしたら解放って形なんじゃない?
それかただ年表に載せてないだけか
8 名無しの錬金術師
年表見たけどヒントとか一切なかったわ
やっぱ本人に聞くしかないんかー
9 名無しの探求者
>>8
本人に聞くってもね
誰か分かんねぇし…
10 名無しの錬金術師
ちょwwwww
錬金棟言ったらシエルさんいなかったんだけどwwwww
11 名無しの探索者
>>10
は?ナンデ?
12 名無しの探求者
>>11
>>11
わっかんねぇ
他の生徒に聞いたらアリスとメルクと一緒に外出してるって
13 名無しの錬金術師
ちょっと待て
って事はアリスとメルク、アリアに居んの?それ大発見じゃね?
14 名無しの錬金術師
>>13
あっ
そうじゃん
15 名無しの探求者
>>14 有能 天才 軍師 達人 聖人 かっこいい イケメン
16 名無しの錬金術師
探してくるはwwwwwwww
会ったらタブレットについて聞いてくるwwwwww
17 名無しの探求者
>>16
コミュ障にそれできんの?
18 名無しの錬金術師
>>17
やめて!
19 名無しの探求者
俺も行こ
20 名無しの錬金術師
俺も
21 名無しの錬金術師
僕も
22 名無しの錬金術師
乗るしかない
このビックウェーブに
―――――――――
【神出】アリスとメルクを探すスレ【鬼没】
542 名無しの剣士
くっそ、俺のイケメン拉致作戦が…
543 名無しの探求者
>>542
なんだよその作戦wwww
544 名無しの錬金術師
速報!!!!!!!
アリスとメルクはアリアにいるらしいぞ!!!!!!!!!
545 名無しの探求者
>>544
もちつけ
ソース
546 名無しの錬金術師
錬金術師スレの方でNPCからそういう情報聞き出した奴がいる
NPCソースなんでほぼ確実
547 名無しの叙述者
盛 り 上 が っ て ま い り ま し た
548 名無しの弓術士
実はフレンドだから言うけどもうオフラインだぞ
549 名無しの料理人
>>548
ほんとぉ?
550 名無しの弓術士
実はフレンドだから言えるけど今日はもうインしないぞ
551 名無しの探索者
>>550
マジ?
552 名無しの料理人
>>551
マジな訳ねーだろハゲ
553 名無しの探求者
流石にそれはなぁ…
釣るにしてももう少し考えた方がいいんじゃないの名無しの弓術士さん?
―――――――
『そういう訳でメルク、イグニスさん、協力して欲しいの』
現実世界で夕方の5時辺りになってからNHOに入り直した所、メルクとイグニスさんが二人ともオンラインだった。
なので、グループボイスチャットを使用し私は二人と話している。
『何かと思いましたが、そういう事でしたか。分かりました』
『フレンドの頼みとあれば断れない。できる事はしよう』
『ありがとう……!』
ふう。今私が頼れるプレイヤーはこれで全員が味方してくれるようになった筈だ。
……とりあえず、私は錬金術師として強くならなくてはいけない。
その為には、「賢者の記憶」クエストを進めるしかない……と思う。
多分、「賢者の記憶」を進める、もしくは解放する鍵となるのはポーションにもあった「第五精髄」という言葉だろう。
しかし、得られたヒントはそれだけだ。他に何も頼れるものがない。
『何度もボイスチャット申請してごめん、メルク。今から会える?』
『はい、アリアの街にいましたので。集合場所は錬金棟でいいですか?』
『うん、大丈夫』
とりあえずいつものメンバーである私、メルク、シエルの三人で討論をしよう。
そうすればきっと何か思いつく筈だ。三人寄れば文殊の知恵とも言うし。うん。
今のゲーム内時刻は朝の2、3時だ。太陽は未だ上がらず、アリアの街はまだまだ暗い。
とりあえず錬金棟へと向かおうとした時、不意に私は声を掛けられた。
「君、アリスだよね?」
「なんですか」
私の名前なんてフレンドにしか教えている人はいない。
それなのに私に声を掛けてくるとはつまり――そういう事なのだろう。
この辺りには街灯の光しか明かりはない。何かしようとするならばきっと“丁度良い”空間だ。何をされてもおかしくない。
「ちょっとこっちへ……」
手首をガシッっと強い力で掴まれる。しまった、セクシャルガードをオンにするのを忘れていた。
セクシャルガードとは異性や同性から体に触れる事を禁止する事ができる機能なのだが、設定するのを完全に忘れてしまっていた。
というかこういうの、攻撃的な行為って見なされないの……?街の中だとそういう事禁止なんだけど……。
いやいや、呑気に考えている場合じゃない。そうこうしている内に、抵抗はしているものの体はグイグイと相手の望む方向へと引っ張られてしまっている。
相手が私を持っていこうとするのは街灯すらない、完全に真っ暗闇の方向へだ。
これは真面目にまずい。一旦ログアウトしようと思ったその時――。
「そこまでです!」
私と相手のすぐ近くの床に、何者かが放った矢が突き立った。
いや、これも攻撃的な行為行為とみなされないんですか。ちょっとザル……な気がするんだけど。
「あなたは……誰!?」
矢を放った人間(?)は、顔がぐるぐる巻きの包帯(しかも所々に血のシミがある)で巻かれて見えない人間だった。
これ、普通にホラーだよね。私に味方してくれているみたいで助かったけど。
「もしアリスに手を出すようであれば、「オプティマス理想協会」が敵になる――そうあなたの雇い主へ伝えておいてください」
それを聞いた瞬間、私の手首を掴んでいた男の手がパッと離れた。
オプティマス理想協会が怖いのか、ただ単に敵を増やしたくないのかは分からなかったけれど、助かったのは確かだ。
というか、この人の声聞き覚えが……。
「ありがとう……。というか、何やってるのいい……リーフ。その覆面は?」
委員長の名前、本当久々に呼んだ気がする。
ハンドルネームならまだしも、本名も本格的に忘れてきた……っと、そんなくだらない事を考えている場合ではない。
「特殊装備です。かっこいいでしょう?」
いや、かっこよくない。
ヒーローごっこでもしたかったんだろうか、この委員長は。
「……ところでどうして「ホロスコープ」が敵になるって言わなかったの?」
「ホロスコープはNHO最強格のギルドです。その存在は切り札ですからね。最後の最後まで隠しおかないといけません」
言われてみれば確かにそうだ。
もし私にホロスコープがついているとバレれば、それだけ相手も強くなるし、相手の人数も多くなるという事だ。それでは一介の錬金術師である私が太刀打ちできなくなる。
「では行きましょうか、錬金棟に用事があるのでしょう?」
そう言って軽く微笑みを浮かべる委員長。
一体何処から私のボイスチャットを聞いていたんだ、委員長は……。
――
「おはようございます、アリスさん。……そちらの方は?」
「こっちはリーフ。ほら、覆面外して」
「えー」
いや「えー」じゃないから。メルクかなり引いてるから。
ほら、外して!外して!
結局委員長は観念して覆面の装備を外した。その瞬間、メルクの顔が驚愕のものへと変わる。
「その見た目……まさかホロスコープの!?」
「え、知ってるのメルク」
「…………まさか、こんな人脈をお持ちだとは。毎回、アリスさんには驚かされますね……」
後で聞いたところでは、どうやらリーフはNHO内ではかなり有名なプレイヤーらしく、店売りの本の表紙を飾った事もある……らしい。
そんな有名なプレイヤーだとは知らなかった。委員長なのに……。
「では。私は傍観者として警戒を行っていますので。何かありましたらよろしくお願いします」
そう言って委員長はまた覆面を付けた。
委員長に何故付けるのか、と聞いたら「私がリーフだとバレないようにするためです。逆に人が集まりそうなので」と帰ってきた。なんかイラっとする。
確かに、覆面をつけた委員長は私ですら声を聞かなかったら委員長だとは分からないけど。
「よ、よろしくお願いします……」
どことなく、メルクが緊張している様にも見える。
そんなに緊張しなくてもいいのにな。委員長だし。
「はい只今とうちゃーく!お、新しい人もいるね~。よろしくー」
そうそう。なんと、驚いた事に早朝すぎて学院は閉まっていた。しかしシエルさんと連絡を取ることができた(なんとNPCにも連絡先さえ知っていればボイスチャット申請は送れた!ちなみに連絡先はその辺を歩いていた学生から無理やり聞き出した)ため、急遽予定を変更してエメラルド・タブレット付近で集まる事にしたのである。
「じゃ、議題は前回の続きで合ってるよね?第五精髄について」
「はい。その通りです」
早速議論が始まった。
私達の議論は基本的にメルクを中心として行われている。
まず始まったらどこからか人数分のテーブルと椅子が現れ、次にメルクからメモ帳と羽ペンが配られる。
普段ならそうして始まった議論はどんどん白熱していき、誰も手出しできなくなるのだが――。
「第五精髄、そういえば私も聞いた事があります」
今回は手出しできる人間がいた。委員長だ。
彼女は中々に首を突っ込む事が得意な人間である。そのせいで過去、結構面倒な事になったのだけれど。
――少なくとも今回は、それが良い方向に作用したのは確かである。
「第五精髄について知ってるの!?」
「ええ。確か――第五精髄とは、全ての元素を司る第五元素が濃縮されたもの、とあったのを記憶していますね」
どこからそんな情報手に入れたんだ、そう突っ込みたくなるけれど、相手は委員長だ。何から情報を仕入れているか分からない。
……しかし、全ての元素を司る……ね。どこかで聞いた覚えがある。そう、どこかで――。
「エメラルド・タブレット!」
「エメラルド・タブレットでは!?」
「エメラルド・タブレットだね!」
三人の声がシンクロする。私は椅子を思い切り引いて立ち上がったが、他の二人も全く同じように立ち上がっていた。
三人で「それだ!」と言わんばかりに指を指し合って笑い合う。
そうか、こんな簡単な問題だったんだ。エメラルド・タブレットの最初の問いは。