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錬金術の始動

「新情報……ですか?」


「まず一つ目ね。なんと……この街に錬金術のアイテムを売る商人がやってきたという情報を手に入れたのだ!」


「おぉー」


  パチパチパチと拍手の音が教室内に響き渡る。

 多分、こうした“新情報”とやらが手に入ったのは、私達がエメラルド・タブレットを解放したからだろう。

となればその錬金術のアイテムを売る商人とやらにも会わねば、錬金術は進まないだろうという事も容易に推測できる。

……ボイスチャットに応答するのと商人に会いにいくの、どっちが優先順位高いかな。


「あれ?ならその錬金術師の人を講師にしたら良いんじゃないですか?」


 そもそも他所の街の錬金術が進んでいるなら、そこから錬金術の情報を取り入れれば良い事だろう。だとしたらエメラルド・タブレットも必要ないんじゃないの?


「ザッツライト!そうなんだけど、リーダーの人が錬金棟を作って以来、色んな場所で“デキる”錬金術師の人を探し回ってたけど全然見つからなくてね……。その商人さんにも「講師になってくれないか」って頼んだんだけどね、いくらお金積んでも来てくれなかったって訳さ」


 うーん、世知辛い世の中である。……それにしても、どうしてその商人さんは講師になってくれなかったんだろう。私だったらなるけど。


「そしてもう一つ……ま、これは後でいいかな」


「後でいい……とは?」


「ん?だって、キミ達凄いその商人に会いたいって顔してたし」


――


「シエルさん、貴方はそんな簡単に外出して良い人なんですか……?」


「大丈夫大丈夫。今はトップの人の代わりを勤めてるだけだから。トップの人より無能だからねー私は」


 結局、その商人のところまでシエルさんが付いてきてくれる事になった。シエルさんは一体何者なんだろうか。


 シエルさんが言うには、その商人のところまではアリアのとあるモニュメントから出て6分(ゲーム内時間)歩けば着けるらしい。

他の人達にそれは知られているのか、と聞いてみた所、そもそも「アリア自体深く知られていないから知ってる人なんていない」と返された。


「ここここ。アデプトさん、お邪魔しまーす」


 シエルさんは、路地裏のパッと見ただの民家の様な家のドアを開けた。

よく見れば、表札にかすれた文字で『SHOP』とだけ書かれている。確かに、これは人に頼らず見つけるのは難しそうだ。


 ドアベルの音が店内に鳴り響く。

店内は小ぢんまりとしていた。だが、至る所にテーブルや小棚とその上に置かれたよく分からない形をした器具らしきものがある。

その所々にはこれまた謎の液体が入っていて、いかにも怪しい雰囲気を匂わせていた。

少し経つと、ドアベルの音を聞きつけてか、カウンターの奥の方から店主らしき人物が現れた。


「君たちがシエル君の言っていた錬金術師かい?私はアデプトだ。よろしく」


「よ、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 慌てて私達はお辞儀をする。アデプトと呼ばれている人物は、白髪の似合う老年の男性だった。杖とシルクハットを身につけた、いかにも紳士といった風貌だ。

生気がありすぎて一瞬分からなかったけど、この人もNPCだろう。だって、NPCじゃなかったらこうしてひっそりと店を構える意味がないし。普通もっと宣伝するでしょ。


「それで、何かご入用かな?……あぁ、錬金棟の講師にはならないよ。すまないね」


「その話ではなくて……とりあえず、商品を見せて欲しいです」


「おお、そうか、すまない。こちらだよ」


 アデプトさんはそう言って私達の画面にウィンドウを表示させる。そこには結構な種類のアイテムが表示されていた。すぐ右にある“購入”ボタンで購入する事ができる。

このゲームでは、ショップにアクセスする際はこうしてウィンドウが表示されるのだ。

唐突に出てくるゲーム的な要素にしばしば驚かされるが、まあそういうものと私は納得している。


「半分くらいは私の使う器具だから、気にしないでくれ。君達にはまだ早い」


「まだ早い……とは?」


「その時が来れば分かるさ。……っと、この回復薬はどうかい?モンスターが落とすものより効果が高い」


 アデプトさんが思いっきり話を濁し、その代わりにと言わんばかりに回復薬を見せてきた。

フラスコに緑っぽい液体が詰まった、よくファンタジーの回復薬と聞いて思い浮かべるそれと同じ外見をしている。

だが、驚いたことに値段はなんと2000ゴルド。同じ値段のもので例えるなら武器二つくらいの値段がする。


「ど、どうして回復薬はこんなにお高いんですか……」


「【調合】でできるアイテムや、職業「僧侶」の回復スキルではHPは持続的にしか回復しないんだ。だけど、回復薬ならば即時回復が可能だ。だからだよ」


「なるほど……」


 これは後でオグロや委員長から聞いた事だが、なんと1500ゴルドでも安い方らしい。基本的には回復薬はモンスターしか落とさず、しかもそこまで落とす確率は高くない。

そのため、市場では物凄い値段で出回っているそうだ。


「ですが、このお店にそれがあるという事は――回復薬が錬金術で作れる、という事ですよね?」


 核心を付く質問をするメルク。

それが本当ならば、錬金術師は簡単に莫大な稼ぎができる、という事にはなるけれど。


「その通り。だが、回復薬を作るのは大変な道のりだ。

しかし……良い錬金術師が誕生するのを願って。これを渡そう」


 そう言って、アデプトさんは柔和な笑みを浮かべて回復薬を渡してくれた。


「えっ、いいんですか!?」


 渡されたものは正真正銘、先ほど私達に見せてくれていた回復薬だ。

本当にこんなお高いものを良いのか、そうアデプトさんに問い詰めるが。アデプトさんはこう言ってさらりと躱す。


「そうだね、一つだけ条件がある。――君達がこれを錬金術の為に使ってくれるか、だ」


 おぉう、中々良いこと言ってくれるじゃないですか……。

その言葉を受けて、私達の探究心に火が付いた。絶対回復薬の作り方、解明してやる。


「ありがとうございましたー!」


 そんなこんなでアデプトさんのお店から私達は出た。

回復薬の他にも気になる物は色々とあったけれど、まずは回復薬を研究しなければならない。一体どんな構造なのか……ワクワクしてきた。


 あ、別に錬金術にハマってるって訳ではないよ。確かに回復薬が気になるというのもあるけれど、何より売っていた商品を買うためのお金がなかったのだ。

そうして帰路についている(実際には錬金棟に向かっている)訳だけど。


「ところで、そこへ向かうという事は勿論――」


「勿論そう!結局できてないままだった『黒曜石』の調合!」


 ……じゃあ早速、錬金タイムとしゃれこもうじゃないか!


――


「という訳で特別企画、『黒曜石を作ってみよう』のコーナー開始!いぇーい!」


「いぇー!」


「い、いぇーい……」


 錬金釜の前に立つ私とメルク。

謎のコーナー開始宣言と共に、錬金釜の下部にあるバーナー部に火が付いた。


 黒曜石のレシピは『伝導石』と『石炭』と『蒸留水』だ。

詳しい工程もシエルさんから聞いた。失敗する事はない。筈だ。


 まず、火加減は常に弱火。

最初に石炭を入れて、次に蒸留水を入れ、すぐさま強めに錬金釜をかき混ぜる。そして伝導石を入れ、上げ鋏で引き上げれば――。


「できた!」


「おぉ……」


 そして出てきた『黒曜石』を見せびらかそうと持ち上げた瞬間。


「は?」


 『黒曜石』が弾け飛んだ(・・・・・)


「あ、言い忘れてた。そのレシピさ、あんまり使えないから」


 ……あ、そうですか。

まあ弾けとんだ理由は分かる。


 吹き飛んだ塵を集めて【鑑定】を行うと、そこには元ヘクトビッグスライムの核だった塵と同じような説明文が現れたからだ。

そして、今回使った材料である石炭には〈易燃性〉〈鉱石〉、伝導石には〈伝導〉〈岩石〉、蒸留水には〈清潔〉〈水〉と、合わせて六つの形相がある。


 多分(これは私の予想にしかすぎないが)錬金術で制作したアイテムには〈形相〉が遺伝するのだろう。もし仮に六つ全ての形相が遺伝するのであれば……。形相が三つでも不安定なのだ。六つ付いたらそれこそ爆発してもおかしくないだろう。


 という訳でその旨をシエルさんに伝えてみた。

すると――。


「ならちょうどいいね。これは伝えようと思っていた新情報その2!なんと、我々の独自研究の結果、〈形相〉を“消す”調合が可能になったのさ!」


 それは驚いた。

中々都合が良いという事で驚いたのもあったけれど、何より〈形相〉を消し去る事ができるというのは物凄い事……の様な気がする。

だって、例えば〈清潔〉と〈水〉の形相を持つ蒸留水があるけれど、そこから〈水〉の形相を消すことができれば――。


 中々面白い事になるだろう。

……あれ?でもこれ、面白い事になるってだけなんじゃ……?


「……コホン。メルク、やってみる?」


「観察で忙しいので!是非アリスさんお願いします!」


 錬金作業を譲ろうかと思ったけれど、断られてしまった。メルクさん、どこからかメモ帳と羽ペンを取り出してメモっていらっしゃる。

うーん、あの研究熱心さ、見習いたいものだ。


「じゃあやり方を説明するね。〈形相〉をなくなれって念じるだけ。以上!」


「はい?」


 え、本当にそんなアバウトな方法でいいの?

何か今まで結構硬派な感じだったけど、急に雑になった気が……。


「いいからいいから。ほらやってみて?」


「りょ、了解です」


 前回と同じく、常時弱火で石炭、伝導石、蒸留水を放り込む。

そして引き上げる前に〈形相〉をなくせ!と念じると――。


 ……!?え、何これ!?

凄い、錬金釜の中の様子が手に取るように分かる!

何て言えばいいんだろう。釜の断面図をこう……見ていると言うか。

つまるところそんな感じだ。今、釜の中がどうなっているか、それが手に取るように分かる。例えば、今釜の中に入っている〈形相〉の名前が分かったりする。凄い。


 とりあえずこの謎現象を私は《集中》と名付ける事にした。

で、集中をしている時は何と、釜の中にある〈形相〉が操れるのだ!

今、釜の中にあるのは少し前に挙げた〈易燃性〉〈鉱石〉〈伝導〉〈岩石〉〈清潔〉〈水〉の六つの形相だ。


 そしてシエルさんに言われた通り、形相をなくせともう一度念じてみる。

すると、断面図の中央部に寄っていた形相が、全て外側の方へと広がっていった。

多分、この状態で上げ鋏を使って引き上げれば、形相の何もない『黒曜石』が誕生するのだろう。


 とはいえ、形相が何もないというのもそれはそれで少し怖い。

と、いう訳で適当に……〈易燃性〉と〈鉱石〉の二つを中央部に寄せ(これも念じればできた)、引き上げてみた。


「よし完成!ごめん、ちょっとこれ燃やしてみてくれない?」


 今度は弾け飛ばなかった。良かった。

早速、近くにあった暖炉にお手製黒曜石を入れて貰うと――。


「おぉ、これは……物凄い勢いで火が……」


 黒曜石が燃えた……!

……やっぱりそうだ。錬金すると、錬金元のアイテムから〈形相〉を受け継ぐ事ができる。更に、受け継ぐ形相も選べる。

うんうん、錬金術にどんどん日の目が当たってきた。良いことだ。


 まあ、錬金レシピが分かんない以上使い道はあんまりないんだけどね……。


――


 あれから中々実りのある討論をシエル、メルクと繰り広げ、数十分が経過した。

流石にこれ以上レム睡眠を維持したままでは体に悪い気がした為、そろそろ落ちる事にする。

それに、特定されかけているっていうのも怖いし。しかも何か変な視線とかも感じる……気がするし。


「あ、落ちるなら最後に、『回復薬』の鑑定お願いしていいですか?」


 ……そういえばそれを貰っていた事を完全に忘れていた。

後でスクショ送るね、と言ってから私は回復薬に鑑定を行う。すると――。


――――

HP回復薬ポーション++』▽

〈水〉〈ガラス〉〈耐???〉

 アデプトお手製のポーション。

 他のポーションよりも「第五精髄」の含有量が多く、その為回復量も高い。

 だが、その味の悪さは変わることはなかった。

 またこれに限った事ではないが、効果は上から順に適応される。

 まずさで死なないよう注意をするべきだろう。

 効果▽

  まずい(HP-30)

  HP即時回復(HP+700)

――――


「色々と気になるところがあるけど……」


「えぇ。分かっています。『第五精髄』ですよね?」


 鑑定結果において一番気になるキーワードは「第五精髄」以外ない。いや、〈耐???〉っていう謎の形相も気になるけど。

でもきっと、もし私達が『回復薬ポーション』を作ろうと思うのならば、第五精髄について知ることが必要になるのだろう。

こうして、また一つ錬金術の謎は深まったのであった。

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