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隠しエリア

 まず【ファイアボール】をメルクを襲っていない方の瀕死の蠍にぶつける。

それが当たったかどうかには目もくれず、私はステータス欄を開きながらメルクと蠍の方へ駆け出した。


〈レベルアップしました。スキルポイントを2、ステータス振り分けポイントを3獲得しました〉


 その通知を待っていた。ステータス振り分けメニューを走りながら開いて、今まで振っていなかったポイントも含めて『魔力』と『知力』のステータスを適当に、可能な限り底上げする。

続いてスキル取得欄を開き、《風魔法》を急いで取得。次いで新たに現れた【ウィンドカッター】を取得、そしてそのまま――。


「喰らえぇぇ!【ウィンドカッター】!」


 杖から飛んでいった風の刃は、今まさに振り下ろさんとされていた蠍の尾を容易く切り裂いた。

尾と離れた尻尾は重力に従って蠍の頭に落ちる。そして切れた尾はそのまま落下し、蠍の頭に突き刺さった。


 突然のダメージに蠍は苦しみ悶える。少し経ってから、一連の流れを正しく理解した蠍は、その原因である私へ向かってターゲットを変更、やぶれかぶれに突撃してきた。


 私へ迫る巨体。やっば、作戦が成功した後にどうするか全く考えてなかった。

ワンテンポ遅れて回避しようとしたのも虚しく、突進をあえなく受ける――そう思った瞬間、蠍は突如仰け反った。


「ナイスだアリス!後は任せてほしい!」


 イグニスさんのリロードが完了していたのだ。続けざまに放たれる銃撃で蠍は倒れこむ。

慌てて私もダメ押しのために【ウィンドカッター】の詠唱を始める。

すぐさま詠唱が完了し、その事を示すかのように杖の先が緑色に光り輝く。


「【ウィンドカッター】!」


 風の刃が再度蠍の甲殻で守られていない、肉質が露出している部分を襲う。当然、その一撃で蠍は斃れた。


 蠍を倒したのを確認した後、メルクの元へ急いで駆け寄り、手を差し伸べる。

久々に全力疾走をしたためか、スタミナが付き、肩で息をしながらだがメルクに話しかける。

メルクもスタンが解けたようで、少しフラつきながらも私の前で立っていた。


「メルク、大丈夫?」


「――ふふっ、そういうアリスさんこそ」


 そういうメルクの表情は、心なしか笑っているように見えた。――相変わらず、帽子で顔は見えないけれど。


――――


「お疲れ様。メルクさん、アリスさん」


 銃を肩に担ぎながらイグニスさんが私たちをねぎらってくる。

相変わらず少女の言動じゃないな。そう思いながらも、私たちはありがとうと感謝を述べる。


「それと、もう敬称は必要ないと思いますよ。私達、窮地を助けてもらった仲ですから」


「というかちょくちょく敬称外れてなかった……?」


 確かにそうだったかも。と首に手をやりながら言うイグニスさん。


「はは、敬称をつけないのは勿論だが、フレンドになってもらっても良いか?あの手に汗握る攻防、君達といれば楽しくいられそうな気がするからね」


「ええ、勿論!よろしくお願いします、イグニスさん!」


 そうして、私のフレンドリストには更に一つの名前が刻まれる事になった。


――


「ところで、私はあの先に何かがあるんじゃないか――そう思っているんだけど、君達はどうかな?」


「確かに、普段よく動くはずのモンスターが動かずにその場にいる、というのは何か怪しい気がするよね」


 あれから少し後、イグニスさんが気になる事を話してきた。

確かに、戦闘の前に彼女が【識別】をした時から同じような事を言っていた気がする。

それが本当ならば、きっと怪しげな何かがあると思うんだけれど……。


 蠍達が塞いでいた道の先は、若干地面から突き出している骨の密度が高い事と、採取ポイントが普段より多いこと。その程度しか変わった部分がなかった。


「でもそのくらいでも、採取ポイントが固まってるのは良い事ですよね」


「そうだね。ポイント探して右往左往は辛いし」


 ここに固まっているのは鉱石型のポイントが多い。別に隠された何か――とかがなくても、それだけで蠍と戦った価値のあるものだった。


「一応マーキングしておきますか、また来るかもしれないですから」


 NHOにはマーキングという機能がある。メルクが言っているのはそれの事だ。

このゲームでは、探索に応じてマップが更新されていくのだが、既に探索した地点ならばマップ上にマークを付けてその場所をわかりやすくできるものである。また、そこへ行きたい時はナビゲーションも行われ、結構便利な物だ。


「そういえば、イグニスさんの武器ってどういうものなの?変わった戦い方だったけど」


 不意にそれが気になった。

別にどうでもいいことかもしれないけれど、少し暇にもなってきた(私は採取が終わったが、メルクが血眼になって他の採取ポイントを探しているため)から、せっかくなのでここで聞いておくことにする。


「あぁ、これか?これは魔導器って呼ばれてる武器。属性の付いた『カートリッジ』って呼ばれてる弾を込めて戦う武器さ」


 イグニスさんはそう言い、魔導器を目の前で実践してくれるようだ。


「【排出】で空になったカートリッジを外へ出し、【装填】でカートリッジを入れる――というよりリロードだな。そして【発射】で属性の付いた弾を射出する」


 銃の上部についた箱のようなものをイグニスさんが弄る。多分、あそこにカートリッジなどを挿入し弾として扱うのだろう。

些かドワーフ族が使うには大きすぎる気がするが、その辺はスキルが補助してくれたりとかがあるのだろうか?


「一回撃ってみるぞ。【発射】」


 そうして撃たれた弾は、緑色をその全身に纏い銃身から放出される。それはその勢いのまま銃の前方に突き出ていた骨柱群の内の一つに当たり、コーンと小気味良い音を響かせた。


「リロードは長いけど、その分威力は強力。自信を持ってオススメできる装備だ」


 確かに、必要なのはAIM力程度だろうし。……意外と強そうだな、この武器。まあ、先ほどの戦いで知力と魔力にステータスを全力で振ってしまった以上、もう戦い方を変更する事はできないだろう。


 そう話を聞いている間にメルクもポイント探しを終えたようで、こちらへと戻ってきた。そのまま帰ろうと話を振る事に――いや、ちょっと待って。

何か……何かがおかしい気がする。微妙な点だったけれど、何か引っかかるものが……。


「どうしたんだ?体調でも悪いか?」


「いや、別にそういう訳では……何かが変なんですよ、どこか違和感を感じるというか」


「そうか。だがおかしいところはどこにもなさげだが、うーん?」


 見た感じここにおかしなモノや事象は一切起こっていない。何か引っかかった気がするだけれど、ただの気のせいだったか……?


「アリスさん、イグニスさん、見てください!先ほど採取した時みつけたこの石、レアアイテムみたいですよ。何かの鉱石らしくて――」


「石…………!?そうだ、それだ!」


「「えっ?」」


――


「音ですよ音!気を引こうと石を投げた時、間違って骨に当たった時の音と、さっき魔導器の弾が当たった時の音、全然別物だったじゃないですか!」


 そうだ。音だ。前に石を投げたとき。あの時はゴンという鈍い、中がしっかりと詰まっているものとしての音が響いていた。だが先ほど弾を撃ってもらった時はどうだったか?そう、コーンという音が響いている。試しに別の骨に弾を当ててもらったが、石の時と同じくゴンに近い、何かが詰まった音が響いただけだった。


 そして何より、コーンという音が響く(それもあの骨だけ!)という事は、即ち中に何もない、空洞という事実が導き出せる。


「しかもここ、結構凹んでるし!」


 私が指さした場所は、イグニスさんの銃弾にあたって大きく凹んでいる。

それを覗き込むイグニスさん。その顔は少しだけだけど、ワクワクしているように見えた。


「ふむ……だがこれは、私の武器のエフェクトかもしれない。別の骨に撃ってみてもいいか?」


 大丈夫ですよ、とだけ言って撃ってもらった。

再度撃たれた弾は骨柱に当たり、先ほどとは全く別の固く篭った音を立てた。

そして、その着弾点を見ても骨柱が凹んだ跡は一切ない。やっぱりだ。間違いない。

この骨の中には何かある。


 それに、骨が凹んでいるという事は、きっとこのオブジェクトは破壊できるという事を意味しているはずだ。だって、そうじゃないなら凹むようにしている意味が分からないし。


「イグニスさん、何かこれを破壊できそうなものは?」


「ツルハシならあるな」


「ならそれで。お願いします」


 少女の手には大きすぎるツルハシを抱えながら、イグニスさんはおっかなびっくりそれを振り下ろした。すると――。


「やった!壊れたぞアリス!」


「いぇーい!」


 ……自然な流れでハイタッチをかましたけど、今イグニスさん物凄いジャンプしなかった?

いや、それは置いておいて。

骨の柱に大穴が開いたのは良いけれど、何故か真っ暗なままだった。その穴の向こう側は全く見えない。


「こ、これは……一体……?」


――

『ツルハシ』▽

 〈鉄〉〈木〉

 パッシブ効果▽

  鉱石シンボルからのアイテム数向上

  鉱石シンボルからのレア度向上

  (重複不可)

――


「確かにいかにも何かありそうな骨の柱でしたが、こんな物があるとは……」


「いかにもってどういう事?」


 メルクが骨柱を見上げてそう言っているけど、その言葉の意味が全然分からない。どうして何かありそう、って分かるんだろう?


「え、この骨の柱……この場所の中央にありますし。それに、他のより一際大きいですよ?」


 え、そうなの?

いやいやまさか。そんな事に気づかないなんて事――。

……。

メルクの言うとおりでした。というか、こんな事にすら気づけなかったのか私は。いかにも何かありますよって言わんばかりの柱なのに。


「分かったぞ。あの蠍はこれを守っていたという訳か」


「あー!そういう事!」


「…………あの、もしかしてそれすら分からずに開けたんですか?」


――


「行くぞ。せーので踏み出す。いいな?」


「了解」


「了解です」


 あの後協議した結果、「とりあえず入ってみよう」という事になった。仮に即死トラップやボス直行便だったとしても、それはそれ。甘んじて死を受け入れる。


「せーのっ!」


 私達が踏み出した一歩は、無事地面に着地した。

しかし、入った先は光の入ってこない真っ暗なただの狭い空間だった。見えるものは入ってきた入口くらいしかない。


 いや、きっと何かあるはず。そう思い、何かないか手探りで探そうとしたその時。

私達のいる空間が、突然蒼い光に包まれた。



 ……ホワイトアウトは終わったかな?だけど、相変わらず私は真っ暗な空間にいる。

しかし、何かがおかしい。まず入ってきた入口が見当たらない。そして次に、空気も違った。

今まで私達がいた場所は高山だ。空気は乾燥していたのに、何故か今私はとても潤った空気を吸っている。


「皆!大丈夫か!?」


「大丈夫。アリスさんは?」


「うん、私も大丈夫。だけど……どこだろ、ここ」


「……アリスも、やっぱり別の場所だと思うか?」


「うん、……うわっ!」


「大丈夫ですかアリスさん!?」


「問題ないよ。ちょっと転んだだけ。……?何これ……変な感じ。手すり?」


「どうやらどこか別の場所に飛ばされてしまったようだな……アリス、立てるか?」


メルクさんとイグニスさんの手にひかれて立ち上がる。真っ暗だけれど、手の感触で二人がそこにいるのだという事はすぐ分かった。


「とりあえず進むしかないみたい……だね。皆、気をつけて」


「了解。一応手は繋いでおくか」


「分かった。じゃあ進も――ん?」


 カチッ、っと。機械的な音がこの空間に大きく響く。その瞬間。


 パッとこの暗闇に、蒼い明かりが付いた。

それはどんどん奥の方へと広がっていき――。


「ここは……何……?」


 私の視界の先では、物々しい量の配管がそこかしこをうねり、機械がエネルギーを受けて脈動していた。透明なチューブが何かの機械部品を運び込み、それを元手に機械がそれぞれの役割を果たしている。


 直線だけで構成されたそれらは無機質さを醸し出し、その幾つかは現実の世界に見られない、より高度なもので、見るものに“未来”を感じさせる。

そんな工場が、私達の目の前に広がっていた。


〈アリス・メルク・イグニスらのパーティが「迷妄機関ビジョン・ダヴァーニ」を発見しました〉


〈「真なる原風景(インサイドザイン)迷妄機関ビジョン・ダヴァーニ 間の隠しルートを発見」偉業を達成しました。年表に記載しますか?〉

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