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錬金術の基礎

「……あれ、何か光ってる」


「どうしました?」


 通知ボタンが何やら物凄い勢いで点滅している事に気づいた。いつから光ってたのかは分からない。

もし重要な通知とかだったらどうしよう。そう恐る恐るその通知を開いてみると……。


〈「エメラルド・タブレットの第三段階を開放」偉業を成し遂げました。年表に記載しますか?〉


「ええええぇぇ!?」


「どうしました!?」


 腰が抜け、メルクさんが慌てて駆け寄ってくる。でも驚きで口が回らない。

どうして私が年表に……。普通、委員長とかレベルの人が載るものじゃないのこれって?なんで私が……。


「ね、ねんぴょう……年表に載るかも、私……」


「な……な……っ!?年表と言うと、あの!?」


 またメルクさんが襟首を掴んでぶんぶんしてくる。おぉう、ちょっと痛いからストップストップ。

私が苦しそうな顔をしていた事に気づいたメルクさんは、うろたえながらも手を離してくれた。


「そ、それで……どうしたんですか?もう載せました?」


「あ、えっと……まだ載せてない。だって、載せるとこうなるんでしょ?」


 “こう”という所で上の方に手を向ける。

指さした先には今、〈ギルド「ホロスコープ」が魔の森(グリードフォレスト)を開放しました〉という文字列が流れてきている。

こういう風に大々的に触れ回られるというのは流石に恥ずかしいし。

……もしかしたら他に何かあるかもしれないから、こういうのはオグロと委員長に聞いてからにしたい。


「ごめん、とりあえず保留って事でいい?」


「同じ錬金術師の方々の為に載せたい所ですが……。アリスさんがそういうなら。私は発見者に任せます」


「ありがとう」


「……所で、アリスさんは基礎的な錬金術の方法や理論って、知っているのでしょうか?」


 おおう唐突な質問。

うん、そういえば最初失敗してから全然錬金術をしていなかった。まあ特に知ったかぶる必要も無いだろうし、包み隠さず正直に答えることにする。


「全然知らない。まずどこに行けば分かるかすら分からないね」


「……。何故そんな状態であれを解放できたんですか……?」


 そんなこと私でも分かんないよ。殆ど鑑定のおかげだし、正直運が良かったから以外ないだろうし。


「んんっ。とりあえず、私が錬金術の基礎についてお話しますね」


「ありがとう」


 すると、メルクは軽くステップを踏み、今いる場所から少し左にズレる。その直後、後ろに何らかのウィンドウが表示された。


「【ポインター】」


 いつの間にかメルクが持っていた杖から光が放たれる。それは何かのウィンドウに当たり、まるでレーザーポインターのように……いやレーザーポインターだねこれ。

なんでゲームにそんなものが……というかそれスキルかい。


「愚問だけど、それの使い道は……?」


「何故私はこんなスキルを取ったんでしょうね」


 魔法帽で顔は見えないが、遠い目をしているのだろうなという事は何となく分かる。

メルクさんがこほん、と咳払いをして私の方を向く。ウィンドウには文字が表示されていて、そこには「錬金術について」と大きな文字で書かれていた。


「では錬金術について、現在分かっている情報をお伝えしますね」


 そう言うと、ウィンドウの表示が別のものに変わる。

杖から出たポインターは私に読んでもらいたい部分を指している。

……うん、これはどう見てもパワーポ――いや、わざわざ触れる事ではないだろう。


「まず最初に、現在錬金術関連の主要クエストは三つが発見されています。

まず一つ、先程一つ進めたエメラルド・タブレットのもの、「賢者の記憶」

次に、エルフの森の街『シルワ』で受けられるクエスト、「小妖精の秘術(ヘクセアレイ)

そして誰もが受けるであろう、「錬金術の修学」

これらの三つです」


「そしてその中の「錬金術の修学」で錬金術に関しての基礎を学ぶ事ができます。ここまで良いでしょうか」


 以外と本格的な講義が始まってしまった。後ろのウィンドウはメルクの言葉に合わせ次々と変化していっているが、こんなものいつ作ったのだろうか。もしかしたらメルクさんも、委員長程ではないが結構アレな人なのかもしれない。


「余談ですが、「錬金術の修学」以外は今のところクリアされていません。よって選択肢はこれ以外残されていない、という事になります」


「では詳しく見ていきますね。

まずこれについてですが、スロウス学院錬金棟の教室から進めることができます。これは私が確認したので間違いありません。

そしてそこから錬金術の基礎の基礎のみを学ぶ事ができます」


「以上の事から、錬金術を学ぶ際は独学よりも「錬金術の修学」を面倒だろうとこなした方が良い、との結論を出しました。

何か質問はありますか?」


 私に向かってメルクが顔を向けてくる。どうやらこの講義は終了したようだ。

エルフの森で受けられるクエストについて気になることはあったけど、しかしそれについて質問をするのはいささか早計だろうと思う。

因みに、それ以外に特に質問したい事は無かった。


「ないです」


「分かりました。では、以上で錬金術に関するクエストについての話を終わります。

……そうです、良ければ錬金棟の教室まで一緒に行きませんか?」


 それは非常に有難い申し出だった。

私一人では迷う可能性が非常に高い。結局どこが錬金棟か分からず出てきてしまったために、次に行ったとしても教室を探し出せる気がしないのだ。

そのため勿論私は――。


「うん、是非お願い!」


――


「お邪魔します」


 メルクが大きな音を立てつつ、扉をダイナミックに押し開ける。その唐突さに教室にいた殆どの生徒がこちらを向いた。

その中の一人、黒髪のナチュラルボブをしている、上の部分が正方形の形をした帽子(俗に言うモルタルボード)にモノクルをかけた、いかにもできる人間という感じを仄めかす女性が応対する。この人がリーダーなのかな?


「あれ?メルクちゃん?どうしたの、何か情報?」


「いいえ。新しい錬金術師を志望する方を連れてきたので、その方にチュートリアルを行って貰いたいのです」


 怪訝そうな顔をしていたその女性だったけど、新人が来るという事を聞いた瞬間に、一気に顔が明るくなる。そして、私を見つけるとすぐさま詰め寄ってきた。

すっごい目がキラキラしてる。その光り具合は何故か見ている私に恐怖を沸き立たせるほどだ。


「君が新人クンかな?」


「えっ?あ、そうですけど……」


 あまりに機敏すぎる動きに少し狼狽えてしまった。だけど、向こうはそんな私におかまいなしに話をどんどんと進めていく。


「ふむ……。その面構え、どうやらそこまで錬金術に興味がないという顔をしているね。よし、この子は私が担当する。異論は?」


 彼女が辺りを見回す。どうやら彼女はこの部屋内において最高の権力を持っているようだった。

不服そうな顔をしている人もちらほらいたけど、結局反対意見が飛んでくる事はないみたいだ。


「うんうん、ここ最近めっきり錬金を志す人が少なくなってね~。昔は溢れるくらい学生がいたのに――っと、ごめんごめん。たとえそこまでやる気がなくとも、私、いや私達が「錬金術師で良かった!」って思えるよう全力でサポートするからさ!」


 結構な早口でまくし立てられ、いくらか聞き取れない部分があったけれど、概ね友好的に接されているようで――というかここにいる全員は……何というか、新入部員が全然入ってこなかった部活の先輩みたいなものだろう。多分よほどの事をしない限り悪く思われる事はないと思う。

とりあえず、私は挨拶だけ返しておくことにした。


「私はアリスです。貴方は?」


「よし決まりね。私は錬金術のチュートリアル担当のシエル。よろしくね新人クン」


 そうしてお互いガッチリと握手する。握手した際、シエルさんが少しだけ不思議そうな顔をした。


「この手の滑らかさと柔らかさ……キミ、もしかして女の子?」


「え、そうですけど……?」


 どういう事だろう。私は女性だけど。それが何かしたのだろうか。

何故かシエルさんがまじまじと私を見つめてくる。いや、流石に近すぎない?


「あー!やっぱり女の子だ!ぜんっぜん気づかなかった!」


 え、もしかして私を女性だと思ってなかった?いや、確かに現実だとそういう事は多々あったけど。この人、NPCの人だよね?どうしてそんな高度な判断ができるんだろう。不思議だ。


「ねね、やっぱりモテたりする?私、キミみたいな子に憧れてて――」


――


「こほん。ではシエルさん、是非錬金術について教えてあげてください!」


 会話が一段落ついたのを察したメルクが、シエルさんに私に錬金術を早く教えるよう急かす。その言葉を受けて、シエルさんははっとして、私を部屋の中央に大きく陣取る釜の前まで向かわせた。


「さて、じゃあ早速錬金術について説明するね。まず錬金術に使う釜から。

これはね、中になんでも溶かしちゃう超すごい酸――超すごい酸だから私達は“超酸”って呼んでるの。これ、一応覚えといてね」


 超酸と言う言葉には現実で聞き覚えがあるけど、その名前の由来が非常にアバウトだった事から、現実のそれとよく似たそれっぽい物質という事だろう。

そこに首を突っ込んだりはせず、とりあえず話の続きを聞くことにしよう。

私がそう考えている間に、シエルさんは近くの棚からガラスの瓶を持ってきていた。


「はい注目。これ、元のガラス瓶ね。これ大事だから目に焼き付けといてね」


 そうしてシエルさんはガラス瓶を自分の目の前(鼻先に当たるほど)まで近づけて、その後ガラス瓶を雑に釜の中に放り込んだ。


「さて、これでガラス瓶という物体は、釜の中で大元、根源の状態にまで分解されます。じゃあ早速釜を混ぜてみよっか。

はいこれ、混ぜ棒ね」


 シエルさんが、これまた雑に混ぜ棒を投げ渡してきた。私は慌ててそれをどうにかキャッチし、釜の中に突き立てる。

自分がおっかなびっくりそれをぐるぐる回しているのを見て、またシエルさんが声をかけてきた。


「混ぜるのは適当で大丈夫大丈夫。どっちかって言うと火加減の方が大事らしいからさ」


「そんな雑でいいんですか……?」


「勿論さ。じゃあそろそろ釜から上げよっか。この上げ鋏使ってね」


 そう言って再度“上げ鋏”と呼ばれているモノを投げ渡してくる。それは最初に錬金した時に使った、あの付属品と同じような見た目だった。

現実にあるものに例えるなら所謂炭トングだろうか。

落ち着いて私はそれをキャッチし、混ぜ棒を取り出した釜の中央に入れる。


「入れたら何か感触があると思うけど、焦って上げ鋏を持ち上げない事ね。落ち着いて作りたいモノのイメージをする事。ここすごい大事だからね、忘れないこと」


 なるほど。最初の私はこれが抜けていたから、よく分からないガラスのようなものになってしまった、という事なのだろうか。


 そして同時に、オグロの言っていた“芸術家向け”という言葉の意味が分かった。

つまり、今の所錬金術はほぼこの“同じものに装飾を施して作り変える”という事でしか成り立たない職業という事だろう。逆に言えば、想像力がなければ何もできないという事だ。


 私は無難に最初提示された瓶とは違う、フラスコ型のガラス瓶を想像しながら釜から引き上げる。するとそこには、おおむね想像したとおりのガラス瓶が上げ鋏に挟まれていた。


〈「錬金術の修学」をクリアしました〉


〈150expを入手しました〉


「うんうん、これだけできれば上出来上出来。さて、基礎は教えた訳だけど、この後どうするの?やっぱり解読に行く?」


「えっと……」


 ――さて、個人的にはここからが本題だ。

そう、「賢者の記憶Ⅲ」によって解放されたエメラルド・タブレット。あれを話すべきか否かの問いに、私は答えを出さねばならない。


「…………いえ、特に決めていません。シエルさんは?」


 悩んだ末、「賢者の記憶Ⅲ」の事は話さないことにした。そもそもこの事はメルクと話し合って決めるべきだと思ったし、仮にシエルさんは話して良い、信用できる人物だったとしても、他の学院生が信用に足る人物かが分からなかったからだ。


「ん、私も特にないね。……あ、メルクちゃん、ちょっといい?」


「はい、どうしましたか?」


 シエルさんが不敵に笑う。彼女はメルクさんを自分の元まで呼び寄せ、メルクさんにとある本を見せた。それは私のいる所から覗き見ることはできなかったけれど、シエルさんは「ま、メルクちゃんの連れ添いなら大丈夫かな」と言って、私も本の見える場所まで移動するよう言う。


 その中身はいくつかの図と文字の羅列でできていた。分厚い本のように見えたが、書き込んであるのは最初の数ページのみで、残りのページは全て空白である。


「なんですか……これ?」


「――ふふ、それはね……私達が独自に編み出した、錬金棟秘伝の錬金術のレシピさ」

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