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プロローグ

「ねぇ、貴方はNHOって知ってる?」


「NewHistoryOnlineの事?知ってるけど」


 生徒会の書類を整理している最中に、長い黒のロングヘアを翻して生徒会長が話しかけてくる。

彼女の名前は椿つばき 小代こしろ。私の幼馴染だ。

別段私が生徒会の役員という事もなく、ただの帰宅部所属の一般高校生なのだが、幼馴染という関係のために、私は書類整理に駆り出されていた。


 他の役員はどうしたのか聞けば、やる気がなく既に帰っていると返事が来た。そして、これに限った事でなく生徒会の面々はやる気のある人物がおらず、生徒会の仕事は殆ど椿一人で回しているらしい。


 そんな椿からNHOの話を振られた時、私はとても驚いた。椿がゲームの話題を振ってくること――いや、それは度々あったけど、VRゲームの話題を振ってくる事は今まで一度もなかったからだ。


「NHOが気になってるの?なら絶対買った方がいいと思うよ」


「いえ、そうではなくて。最近学校をサボる生徒が増えているのはそれのせいと耳にしましたから」


 なるほど。それなら合点が行く。

そして、NHOの為に学校をサボる人間が増えているとの事にも。

NHOは全宇宙で初の所謂フルダイブ型VR技術、専用の機器を使用し五感までもゲーム世界に持っていけるものだ。


 私も手に入れた時どれだけ学校を支障が出ない程度にサボれるか、そんな概算をしてしまう程の物である。実際手に入れた人間からしては学校に行く時間すら惜しいと感じるのだろう。


「まあ、おもしろそうだからね……」


「えぇ、面白いですよ」


「面白い……ってえぇ!?椿ってNHOやってるの!?」


 普段はゲームの話題を一切出さず、そういう事に興味を持っていないと思っていた為に、その言葉は私にとってかなりの衝撃だった。そのあまりの驚きに持っていた書類を全て落とし、体が指示を受け付けなくなる。

そして何よりも、結構なゲーマーである私にとっては――VRという新体験を、先に越されてしまったという事の方が、何よりもショックであった。



―――――――――――



 それから数日後、通っている高校の私の教室で私は仲の良い友人と話し込んでいた。話題は勿論NHOについてだ。


「いいよね栄水は。NHOが遊べるんだからさ」


「おいおい、そう僻むなよ。こっちだって相当苦労してるんだぞ?」


 彼の名前は栄水。私の親友であり(恋愛対象ではない)、NHOを先に入手した第二の憎むべき人間である。第一は椿だけど。


 NHOはその人気からか、毎日抽選を行っている。そして当たった人間にのみ、ゲームに接続できるという抽選式の方法を取っていた。多分、サーバーの問題とかそういう事からだろう。当然私も応募したけれど、βテスト、第一回、第二回……。とにかく今に至るまで全て落選。第一回抽選で当たり、先に遊んでいる栄水を妬む日々が続いていた。


「というか聞いてくれよ清沙しんしゃ、この前適当にでっち上げた俺の宗教系ギルドが滅茶苦茶人気になったのにさ、運営俺んとこの神を追加してくれねぇんだぜ?」


「それは当たり前でしょ……」


 こうして私はNHOのことを栄水の話以外でしか知ることができない(Wikiや攻略サイトは縛っていて、閲覧するのを許しているのは幾つかの雑談系掲示板のみと決めている)、もどかしい時間ばかりが過ぎてくのであった。



――そう、今日までは。


「っっっし!!!来た!!!!!」


「うっせぇ、どうした清沙」


 昼休み、私は無意識にガッツポーズを取っていた。

先ほどまで一緒に駄弁っていた栄水が心配しているが、構わず咆哮をあげる。

そう、それほどまでに嬉しい連絡が私に来ていたのだ。


「栄水!!!!分かんないの!!?アレ!!!来たのついに!!!」


「アレってなんだよ……いや、もしかしてアレか……!?」


 栄水も感づいたようだ。先ほど現れたウィンドウを共有モードに変更し、それを二人で覗き込む。

そこには、“メール”とタイトルバーに書かれた画面に、新着と表示された『第八回NHO配布抽選当選のお知らせ』という件名が写っていた。


「やった!これで私もVRの仲間入り……!!待ってろNHO!」


「えぇそうですね。ですがその前にこれ、手伝ってもらえます?」


 喜ぶ私に横槍を刺すかの様に仕事を入れてくる生徒会長。その華麗とも言える入り込み方につい栄水と二人で「げっ、生徒会長」と声を出してしまう。


「げっとはなんですかげっとは。全く、NHOができて嬉しいのは良いですが、学業は疎かにしないこと。いいですね?」


 そう釘を刺してくる椿。元より学業はあんまり疎かにしないつもりだったので良いが、何故椿がNHOに当選したことを知っているのか、それが疑問だった。


「そりゃああれだけの大声で喜んでいたんですもの。貴方がそこまで喜ぶことといったらそれしかないでしょう?」


 え、私そんなに大声で叫んでたっけ。そう思い周りを見渡してみると、怪訝そうに私達を見つめ、ヒソヒソとこちらをチラチラ見ながら話しているクラスメイトがあった。……すっごい恥ずかしい。

別にいいさ。NHOこそが私の生きる意味だし。関係ないし。



――――



 悲しいことに、結局注文から到着まで二日掛かってしまった。お急ぎ便使ったのにこれだけかかるって、どうなの配送会社さん。


 ちなみに、お急ぎ便を使ったからといってブルジョワではない。有料会員を体験できる無料期間を利用したのだ。

こんな事に折角の無料体験を使うのはとも思ったけれど、私は刹那的な人間だ。そんなの関係ない。


 でも幸か不幸か、そのおかげで今はもう金曜日の放課時間。つまり今から二日間遊びたい放題という訳だ!


 早速セッティングに取り掛かる。私は実家暮らしだけど、両親が自室に絶対入ってこないように頼んであるし、姉は今はいない。即ち邪魔する者は存在しないという訳だ。

胸が高まってくる。


 早速届いた包装を開いてみると、そこには小ぶりなマントとヘッドディスプレイが入っていた。

NHOは触感マントとヘッドディスプレイの二つを使用するVR製品だ。これまでその二つを利用したVRゲームは幾つかあったが、NHOの何より優れている点は、夢のメカニズムを利用したVR体験であり、それはこれまでのVR機器のどれよりもリアルな経験を与えてくれるらしい。


 また、夢としてもそれは現実である。そこに“いる”という感情を味わう為の最適解が夢を利用する事であり、明晰夢のような形の夢であるため移動が制限される(走っても上手く走れない)といった事もなく遊ぶ事が可能だそうだ。


 勿論医学的にも危険がない事は証明されていて、なにかトラブルが起こったという報告は一切ない。それに夢だからデスゲーム化する心配もないし。

ヘッドディスプレイを被り、触感マントを羽織る。そしてスイッチを入れる事で、ヘッドディスプレイに搭載してある睡眠導入剤(使用量分しか入らないためとても安全)が注入され、次第に私は意識を失っていった。


〈アップデートの確認中……〉


〈アップデートはありませんでした〉


〈身体情報を検査中……〉


〈身体情報を検査中……〉


〈身体情報を検査中……〉


〈終了しました〉


〈基本情報を記入ください〉


〈ありがとうございました。それでは、NHOの世界をお楽しみください!〉


〈こんばんは。NHO《New History Online》にようこそ!〉

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