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終戦2

ワイカレスの巣穴の中をゆっくりゆっくり降下していたレンドローブは、ある程度まで降りた所でその動きを突然止めた。


『レーシェル、我はこれ以上降りる事は出来ないようだ。ここでこの娘を放るから受け取ってやってくれ。お前の魔法ならできるであろう?』

『それはまあ、できると思いますけど。でも、どうして…』

確かに、レーシェルの重力魔法なら、ヨンフリーの躰をゆっくり下ろすくらいの事は楽にできる。だが、わざわざそんな事をしなくてもレンドローブが連れてきてくればいいだけの事だ。


『いや、我がそこまで降りるとなれば、そこここに見受けられる岩棚を壊してしまう事になりかねない。だから、我は外で待っている事にする』

言われてみれば、今回の一件で随分と破壊されてしまっているとはいえ、まだ幾つか岩棚は残っている。レンドローブがこのまま下りてくれば、その岩棚を決定的に破壊してしまう事になりかねない。その事を考慮して、レンドローブは降りるのを止めたらしい。


『わかりました。ヨンフリーさんを放してください。私の方でゆっくり降ろすようにしますから』

『おう、頼む』

レンドローブはそう言うと、掴んでいたヨンフリーの身体を優しく離し、自らは反転、上昇を開始した。


レーシェルはそのヨンフリーの身体を魔法で受け、ゆっくりと瓦礫の上に降ろすと、その場に横たえた。

近づいてみると、確かにヨンフリーは目を開けている。


「大丈夫ですか、ヨンフリーさん」

言いながら覗き込むレーシェルの後に続いて雛鳥達も身を乗り出してくる。


「…ああ、…そっちも、…無事…そうで、良かった…な」

ヨンフリーは何とかそう応じると、無理やり小さく微笑んだ。


強がっているつもりなのかもしれないが、指一本動かす事が出来ないのでは、格好を付けても意味がない。

レーシェルにしてみればヨンフリーのおかげで助かった事も確かなので、何とかしてあげたいという気持ちはあるのだが…。


「回復魔法が使えればよかったのですが、あいにく私は使う事が出来ませんので…」

「い…いや、…普通の…回復魔法…では、この…状態は、戻せない。…だが、…心配しなくて…いい。…一日寝れば、…自然に、回復する」


ヨンフリーは目の動きで大丈夫な事を主張している。動けない上に声まで碌に出ないのでは心配にもなるが、ヨンフリーの表情は決して暗いモノではない。少々弱々しいものの、笑みもしっかり浮かべている。


と、その時、上からレンドローブの声が降ってきた。

『もうこの辺りに危ない気配は感じないようだ。とりあえずは一件落着と考えてもよさそうだな。おっ、コルドの奴も無事に戻って来たみたいだぞ』

「っていう事は、これで海竜は全滅したと考えて良いという事ですか?」

『ああ、この辺りに悪しき気配はもう感じない。もしかしたら一匹くらいは逃げたヤツもいたかもしれないが、仮にそんなヤツがいたとしても、もう襲って来る事はないだろう』

「そうですか」


確かに子海竜の一匹程度では、仮に残っていたとしてもあまり脅威にはならないに違いない。充分返り討ちにする事が出来るだろうからだ。

と、今度は雛鳥達が上を見つめ、ピーピーと甲高い声で騒ぎ始めた。直後、レンドローブよりも一回り小さい翼が穴の上を通り過ぎる。


『赤の大竜、それにその仲間達よ、来てくれて助かった。雛鳥達が助かったのはあなた方のおかげだ』

この声は、雛鳥達の親鳥、コルドだ。

コルドは、巣穴の上を通過して、真っ直ぐレンドローブの元へと向かった様だった。


『ふん、我はただ我が主の指示に従ったまでだ。礼ならレーシェルに言ってやれ』

『何? お前の主はトキトではなかったのか? 確か、そう聞いていたはずだぞ』

『その主殿の命で、今は一時的にレーシェルが我が主なのだ』


レンドローブはコルドの質問に面倒くさそうにそう答えた。

その説明で、コルドがどの程度わかったのかはわからないが、コルドはそれ以上そこに突っ込んだりはしなかった。


『…そうか。いや、しかしそれでもあの赤の大竜が、よく人間に従ったものよ』

『あの娘を侮ってはいかんぞ。あれはあれでなかなか大した奴だ。ここへ来る前に一緒に戦ったから良くわかる』

『なるほど…な。儂も助けられたのはこれで二度目という事になる訳だしな』


コルドは納得したのか、その流れのまま今度はレーシェルに向けて声を掛けてくる。

『レーシェル殿、助けに来てくれてありがとう。本当に助かった』

「いえ、私一人では対応しきれませんでした、無事だったのはヨンフリーさんが助けてくれたおかげです」

『おお、赤の大竜とは別に、海で海竜を迎え撃ってくれていたヤツがいたのは見えていたが、それがそのヨンフリーという人間だという事か?』

「そうです」


『正確に言えば、人間ではないようだがな』

レンドローブが小さく茶々を入れると、その茶々にヨンフリーが反応した。


「随分と…酷い言い様…だな」

『お前の腕のその腕輪も人間が作ったものではないはずだ。尤も、それが無ければ、お前の魔力が枯渇する事もなかったのだろうがな』


揉め始める二人を諌める様にコルドが割って入ってくる。

『まあまあ、ヨンフリーとやらが人間かどうかなど、さして大きな問題ではない。そんな事より、儂にとっては助けに来てくれた事の方が重要だ』


すると、レンドローブは攻撃の矛先をコルドに移した。

『ふん、大体お前が一番予想外だったのだ。小さい海竜相手にあれだけ時間がかかるとは、お主、だいぶ老いたのではないのか』


コルドは素直に謝った。

『面目ない。島で戦うのにはリスクが高いと思っていたから、行くしかない状況だったとはいえ、やはり海に出たのは失敗だった。海の中に引き込まれてしまい、苦労したのだ』


『まんまと相手の策略にはまりおって。我等が来なければ、完全に奴らにやられていた所だぞ』

『それを言われてしまっては言葉がない。お主達に対しては感謝の言葉しかないと言うのも本当の所だ。だが、言わせてもらえば、赤の大竜、お主の姿を見た時にはもっと楽に襲撃者どもを撃退できると思ったものだぞ』


『なんだ、我が手を抜いたとでも言いたいのか?』

『いや、そういう訳ではないのだが…』


レンドローブは恨めしそうにレンドローブを見るコルドから視線を逸らした。

『まあ、ちょっと遊び過ぎてしまった事は認めるが、だがそれも、レーシェルとヨンフリーがいる事がわかっていたからだ。現に、雛たちが無事だったのだから問題なかろう。なあ、主殿の代行者殿よ』


「…なるほどね」

レンドローブとコルドのやり取りを聞き、レーシェルは、そう小さく呟いた。


いくら一番大きな海竜が相手だったとしても、レンドローブなら海竜相手にそこまでの時間がかかるはずがなかったのだ。レンドローブは恐らく何かを試しながら戦っていたのだろう。そんな事をしたのは、レーシェルの事を信頼していたからだ。任せられると思ったからこそ、そんな行動を取ったのだ。


と、突然雛鳥達がまた騒ぎ出した。見上げると、上空には大きく翼を広げたコルドがいる。

コルドは岩棚を避けるようにしてゆっくり降りてくると、レーシェルのすぐ目の前に降り立った。


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