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ふと、呼吸の仕方を忘れた気がした。

作者: 色敷 童

ふと思いついたことを書いてみました。

ふと、呼吸の仕方を忘れた気がした。しかし、僕がそれを忘れたところで、呼吸が止まるわけでもなかった。なぜなら、僕の身体が、身体自身が、身に染みてそれをやめようとはしないからである。身体は僕が生き続ける限り、永遠にその助けをしてくれた。呼吸だってその一部だ。しかし生きたがりでもない僕にとって、それは別に喜ばしいことではなかった。

次の日になると、僕は呼吸の仕方を思い出していた。口から吸って吐いたり鼻から吸って吐いたり。意識してみると面白い。僕の身体全体が、僕に生きろと叫んでいるようだった。僕はその期待に応えるべく呼吸を否定したりせず、全部を受け入れることにした。

ある日のことだ。祖父の家で飼っていた犬が死んだ時のこと。なぜ今になってもう一度思い出してしまうのだろう。しかし、一度頭を過ったそれはしばらく離れてくれることはなく、「おい、たまには思い出してくれよ」と死んだあの犬がどこかから僕に語り掛けてくるようだった。せっかくだから思い出してみる。犬は僕ら家族が看取る前で息絶えた。犬なんていつも無表情で、何も考えていやしていないと思っていたのだが、その時の犬は違った。そのとき彼は苦しそうだった。早くなってゆく呼吸についていくようにして、彼はきっと必死に生きたいと思っていたのだろう。動物だって、生きたがりだったんだ。動物は自分が生きているということをしっかりと認識しているのだろうか。とにかく彼は死ぬ前に限っては、例え生きているということを認識できていなかったにせよ、必死に生きたいと願いながら、呼吸を続けていたはずだ。

犬は息絶えた。安らかな死に顔だった。

僕はあの時泣いていたのだろうか。愛していた命がふと光を失ったとき、幼かった僕はどんな心境にあったのだろう。それだけはどうしても思い出せないのだ。何故思い出せないかわからない。

思い出が徐々に頭を過ぎ去っていく。次に思い出してしまうのはいつだろう。もしかしたら明日、いや数分後かもしれない。

なんにせよ今でも僕は呼吸を続けている。僕が望んでいやしなくたって、呼吸は続いてくれる。

そういうものだろう。

僕が生きたくなくなったって、死にたくなったって、呼吸だけはしっかりと続く。

どうせ身体が僕を殺してやくれないんなら、長いこと付き合ってきた仲なんだ、彼が満足するまで、生きてみようじゃないか。

そうやって僕は自分に言い聞かせる。生きる希望を失ったって、死にたくなったって、僕は身体と呼吸のために生きるのをやめなかった。

そうやって日々を繋げていくんだ。

そして次の日、ふと、呼吸の仕方を忘れた気がした。

もう一度思い出せる気がするまで、何も考えずに生きてみようかな。

いかがでしたでしょうか。

私からのちょっとした生きることに対するメッセージでした。

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